6 「優しい」お兄さんと「不思議な」お兄さん
「えっ、わ、私がダージングの兄弟に!?」
立之山町消防署の車庫で待機していたガードエイダーが、ビークルモードのまま驚いた。ヘッドライトをちかちかと光らせながら、どうしたものかと困っているようだ。
「だってガードエイダー優しそうだし、レッシングは優しい兄弟がほしいって言ってるし、ちょうどいいじゃん! なっ!」
「1日だけでもいいんです! よろしくお願いします、ガード兄さん!」
「ううっ……。」
兄さんという響きに思わず詰まってしまう。エイダーチームは1つのチームであって兄弟ではないことから、その響きがくすぐったく感じた。しかし、仮にエイダーチームを兄弟と見立てるならばガードエイダーは末の弟、といった具合で、自分が上の立場になれることが何とはなしに魅力的に思えたのだ。
にこにこと子ども特有の屈託のない笑顔を見せるマサカズと、ビークルモードのままでも目を輝かせているの感じさせるダージングの視線がひしひしと刺さってくる。
嫌なら断ってしまえばいいのだが、断ったら悲しむのではないかと心配してしまい、彼は諦めて1日だけならば、ということで承諾した。
次の日、学校帰りのマサカズがダイチたちと通学路を歩いていると、はしご車の後ろをクレーン車が走っているのが見えた。
「あれ、ダージングかな?」
「そーみたいだな! 今日1日ガードエイダーが兄さんなんだぜ!」
「えっ、レッシングがお兄さんじゃないの?」
「まだ仲直りしてねーんだってさ。」
だからって変えなくても、とダイチが苦笑いしていると、ダージングの後ろから更にもう一台はしご車が走ってきた。
「だ、ダージングさん! 私はこっちです!!」
「あ、ガードエイダー。」
「じゃあさっきのはしご車は?」
「ふつうのはしご車……だったんじゃないかなあ……。」
「確かに似てるけど、ロボットも間違えんのかぁ……。」
何となく今日の先行きが不安になる小学生だった。
結局この日のダージングは、普通のはしご車をガードエイダーと間違え、火災現場でクレーンを伸ばし救助を行おうとし、兄と同じ仕事を懸命にこなそうとしたのだが、最終的に気になって仕事が手に付かないという理由で返されてしまった。
それでもめげないダージングは、次にファイヤーエイダーの所に頼みに行った。彼はいつもの場所にいたので、マサカズとダイチは物陰から見ていたのだが、ダージングとファイヤーエイダーが並んでいるのは似合わないような気がした。
「何してるのかなぁ……。」
「お坊さんがしてるやつみてーだな。」
「ああ、ざぜん……。」
ファイヤーエイダーは正座したまま海の方を見ており、ダージングもそれに習って座っていたが、数分で挫折した。沈黙に耐えられなかったことと、どうも脚がしびれたらしく、暫く立てずにいた。
「ふ、ファイヤー、兄さん、これ、厳しいです……。」
「そうか。」
「いつも、こんなこと、してる…んですか……。」
「今日は天気が良いからだ。」
理由になってないですファイヤーエイダー! とダージングは言いたかったが、仮にも今現在この時兄である彼にそう言うことははばかられたので、ダージングはその場で項垂れることしかできなかった。
兄の楽しみに付き合うのも一苦労であるということを学んだ。これならレッシングの方がましである。
結局ファイヤーエイダーの座禅会は日が沈むまで続き、今回はダージングが先に折れた。とぼとぼと古倉庫から出てきたダージングに、マサカズとダイチが声を掛けた。
「お、おつかれさま、ダージング。」
「やっぱりレッシングと仲直りしたほうがいいんじゃねーの?」
言い出しっぺのマサカズも、さすがに申し訳なさがでてきたのかレッシングとの和解を進めた。しかし、真面目なダージングはそう易々と考えるつもりはないらしい。背筋を伸ばすと、夕焼けの海をきっと睨んだ。
「いいえ、こうなればもう意地です、私は諦めません!」
「でもガードエイダーもダメで、ファイヤーエイダーもダメだったんでしょ? この調子で行くと残ってるのは……。」
「ヤな予感しかしねーなぁー。」
このあと、小学生二人組の予感は見事的中することとなった。
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