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5 初体験、初遭遇、初会話
 通信を切ると、今度はファイヤーエイダーも現場へ向かうべくエンジンを動かそうとした。その時、消防署の出動ベルが響き渡り、消防士達の慌ただしい足音が聞こえ始めた。
 一人の消防士がファイヤーエイダーの運転席側のドアを開け、手際よくシートベルトを締めて計器をチェックする。


 「全くデカい虫が街を襲ってるなんて冗談もほどほどにしてほしいわ!」


 消防服の上からでは性別が判断できなかったが、声から女性ということが推測できた。彼女は助手席に同僚らしき人物が搭乗するのを待たずしてシフトレバーをドライブにすると、ぐっとアクセルを踏み込んで交通量の少ない道路に突っ込んだ。ハンドルを勢いよく回してカーブすると、遠心力で車体が傾く。カーブを曲がりきるまで片側ウィリー走行し、ガタンと跳ねて四輪走行に戻る。
 いくら緊急事態で道路の交通量も少ないからと言って、時速100km近くのスピードで走行する消防車がどこにいるだろうか? さすがのファイヤーエイダーも一瞬何をされているのかが理解できず、運転をこの女性消防士に丸投げしていた。

 「その運転は危険だ」
 「何、最近のカーナビはそんなことまで言うようになったの? 緊急事態なんだから我慢しなさいよ!」

 ガンガンとハンドルを叩かれるも、痛みはないので素知らぬ顔。それよりもこの時点で三度の信号無視とスピード違反をしていることの方が気掛かりだった。人間社会のルールは面倒にも程がある、と思わず口をこぼしたくなるが、今はそれどころではない。

 「運転はこちらに任せてもらう」
 「ちっちょっと何するつもりよ!?」

 あろうことかシートベルトが座席に固定するように引かれると、シフトレバーにハンドル、アクセル、ブレーキ、運転に必要な全てが勝手に動き出した。
 現場に向かうことに気を取られていて全く気にしていなかったが、液晶パネルに見知らぬ顔――それも、ロボットの顔が映っている。いつもと同じ車のはずなのに、何故か今日に限っておかしなことばかり起きる。一瞬頭が白くなったが、彼女も数々の現場をこなしてきたプロである。この程度で怖じ気付いてはいけないと自らを奮い立たせた。

 「あたしの仕事勝手に取ってんじゃないわよ! 最近のロボットは人間の仕事にまで口挟むっての!? だいたいあんた何なのよ!!」
 「俺はファイヤーエイダー、任務は救助することだ。現場に着いたら指示を頼む」
 「当ったり前よ! ロボットだったら安全運転でブッ飛ばしなさい!!」
 「了解した」


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あきゅろす。
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