4 もっと自信と、友情を!
一般道路の車に配慮して、海沿いの高速道路をひた走るクレーン車が一台。レッシングの弟、ダージングだ。
安全第一をモットーに、建設車両としてはやけにキレのいい走りを見せる。
「あっ」
そんな彼が見付けたのは、背中を丸め身を縮めて、海に向かって項垂れているガードエイダーの姿だった。
ある程度もの回復すら見せない落ち込みようはもはやある種の特技なんじゃないか、などと邪推してしまう。気の優しい弟は見て見ぬ振りをするという真似は出来ず、ついガードレールの側までよって声を掛けてしまった。
顔を上げた彼は、少しだけ笑って見せた。
「やあ、ダージング」
「あの、ガードエイダーさん、その…何て言ったらいいか分からないんですが……」
「大丈夫、分かってますよ」
そう言ってまた俯き、遠くに聞こえる波の音を聞いていた。太陽は少し落ちてきていたが、空はまだ青い。
後輩の前で情けない格好をしてはいけない。そう思って、膝の上で合わせた両手を強く組む。
「そろそろ、…パトロールに戻らないと」
言いはしたものの、なかなか身体が動かない。ビークルモードになって、この道路を走るだけのことなのに、それすらも億劫に感じる。
ようやく足を動かした彼を、「ガードエイダーさん」とビークルモードのダージングが呼び止めた。
「エイダーズなら、きっと合体できます。もっと自信を持ってください! ……えっと、月並みなことしか言えませんが…」
ヘッドライトを申し訳なさそうに下げる姿に、一つ頷きを返してガードエイダーは閑静な高速道路をビークルモードで走っていった。
とりあえず何とかなるかもしれない。ホッと胸を撫で下ろすような気持ちで、ダージングもエンジンをスタートさせる。
「あの人には少し自信が足りないんだ。あとはエイダーズがまとまってくれるといいんだけど…」
ふと時計を意識すれば、時間は刻々と差し迫っており、彼は遅刻してはいけないとスピードを上げた。
都会の喧騒から少し離れたところにあるパーキングエリアで、あら、とつまらなそうに声を出した救急車はエイダーズの一人、レスキューエイダーだった。
今日は回る先にもイイ男は見付からない、渋滞に足止めされる、トラックには排気ガスを掛けられると朝からついてない。おまけに今隣に駐車してきたのは、昼間頭ごなしに叱りつけてきた黒い車だった。
「どぉしたんですか隊長、またお小言かしら?」
「駐車しようと思ったら適当なところがここだっただけです」
「あらそう」
気まずい沈黙。
レスキューエイダーからすれば女の意地、バンテラーからすれば隊長の意地、つまりお互いに意地の張り合いだった。謝るのはどうにも癪に障るし、かといって話し掛けるのもはばかられる。
彼女が口を開こうとしたとき、それより早く隊長が声を掛けた。
「アナタは分かっているのでしょう、今何をしなければならないか」
「だからって、あんな言い方も愛のうち? 冗談じゃないわ」
「そっちこそ冗談はお止めなさい。 だいたいこんなところに救急車が止まっている方が可笑しいでしょう」
「手頃な所がなかっただけよ…あっ」
同じような返事をしてしまったことに気付くと同時に、どちらともなく笑いが込み上げてきた。
あの特に仲の悪い二人を仲裁して、エイダーズをまとめるように持っていかなければならないのは他でもなくレスキューエイダーの役目である。それというのもレッシングとダージングの建築兄弟では呑気すぎるし、バンテラーでは厳しすぎる。一番近くにいて、どちらにもつかないような者を選んでいけば、自ずと彼女が残ってしまうのだった。
「私には出来ないのですから、頼みましたよ」
ひとしきり笑ってからそれだけ言うと、バンテラーはするりと駐車スペースから抜けて、もと来た方向に走っていった。
「そういうところが狡いのよね、隊長ったら……」
惚れ直しちゃうかもなどと一人ごちに呟いて、ヘッドライトを下げた。
しばらくうっとりしていたのだが、敵の襲撃を告げる警報で現実に引き戻される。いい気分に浸ったと思った矢先、途端不機嫌が先立った。
「ンもぅ、イヤんなっちゃう! 何よ何よ、いっつもいいときに来るんだからァ!」
サイレンを鳴らし、ライトを点灯。エンジンを加速させると、低い垣根を飛び越えて道路を駆け抜ける。
位置データを受信するとともに通信チャネルをオンにすると、内部のモニターにファイヤーエイダーが映った。
『レスキューエイダー、ポイントB13に襲撃。人間にも被害が及んでいる。エイダーズは人命救助が最優先だ』
「分かってるわよ、ファイヤーちゃん!」
『お前はガードエイダーと救助活動を頼む』
「了解!」
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