2 君が出来るのに、私が出来ないのは腑に落ちない
「エイダーズのプログラムは完璧なはずだ。プロセスにも問題はない。理論上合体が失敗する確率は限りなくゼロに等しい」
ファイヤーライフルを整備していた手を止めて、隣でエレキギターのコードを調整していたレッシングを見た。
「隊長も、お前達も、合体出来るだろう」
同じ合体なのに、どうして自分達だけ失敗するのだろうか。そんな意味も含まれた視線を受けて、どう答えるか迷ったレッシングはサングラスの下のカメラアイを泳がせた。
まあなんつーか、と言葉を濁しながら言葉を探す。感じている感覚を適切な言葉に当てはめて伝えることほど難しい作業はない。
「お互い任せるっつったらちょっと違うけどSa、コイツとなら絶対大丈夫って信じてるって感じかNa」
ファイヤーエイダーは抽象的な表現を理解するのは得意ではないらしい。「そうか」とだけ答え、視線を下げれば、ライフルの曲面に映った顔が不満そうに口元をへの字に曲げていた。
合体失敗のファクターはプログラムではない。恐らくは感情。ロボットには不要とされる感情がある理屈に反する存在。堂々巡りを繰り返す思考に、彼は頭を振る。考えても分かるはずがなかった。
「ま、世の中理屈じゃ片付かないこともあるって納得しちまえば、少しは楽だYo」
へらりと笑う口元に一瞬ない腸が煮えくり返りそうになったが、成る程、そういう考え方もあるか、と妙に納得した。
「そうか」
計算の合わない式にしがみついていても先には進めないのだから、一旦離れようか。
丁度消防署の休憩時間も終わる頃合いだったので、ファイヤーエイダーは通常業務へ戻ることにした。地球に来てからというもの、彼は立乃山消防署の消防車として活動している。今のところ、地球外生命体ということは誰も知らない。
「そろそろ戻る」とレッシングに短く伝え、彼は武器をしまって立ち上がる。
「先輩にアドバイスできるくらいデキた部下がここにいると思っちゃいけねぇYo?」
だから深く考えすぎるな、というニュアンスを伝えたい言葉に、にやりと口の端をつり上げた。
「最初から期待していなかった」
ビークルモードにチェンジすると、エンジン音を響かせて倉庫を出ていった。
「ちょっとは期待してたと思ったのにSa」と口を尖らせて、本日休業中のレッシングは腕を頭の後ろに回して昼寝と洒落込んだ。
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