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1 どうしようもないのは大人の事情です
 「いつもの場所」の中は異様にどんよりとしていた。


 もちろん締め切った倉庫は暗く蒸し暑かったのだが、それ以上に身の丈5mを越すであろう巨人達のかもし出している雰囲気が、どん底のように暗い空気を生み出していた。

 バンテラーは当然のように苛立っていて、ファイヤーエイダーは腕を組んだままじっと壁を睨んでいる。レスキューエイダーは素知らぬ顔で彼を修理しており、ガードエイダーはびくびくしながら彼の手伝いで動作チェックを行い、レッシングとダージングはどうしていいか分からずに困っているようだった。

 最も、一番困っていたのは、その中に放り込まれたマサカズら3人だったのだが。

 バタン!
 レスキューエイダーがファイヤーエイダーの胸のハッチを閉めたのを合図に、ガードエイダーは手元のコンピューターの画面に集中した。



 「あの…」



 恐る恐る手を挙げてか細い声を出した。全員の視線が彼に集中する。その威圧感に一瞬怯んだが、声を絞り出して。

 「ど、動作チェック終了しました…。全員、いっ…異常、ありません…」

 前回の戦いで大敗を喫してしまった彼らは、勿論無傷というわけにはいかなかった。そのため、比較的損傷の少なかったガードエイダー、レスキューエイダーが彼らの修理に当たっていたということだ。
 彼らには自動修復機能が搭載されているが、修復にも限度がある。限度を超えてしまえば、人間のように治療行為をせざるを得なくなる。

 そして少なくとも、これは地球に来てから初めての敗北であり、プライドの高いバンテラーからしてみれば、この上ない屈辱であった。加えて部下の訓練不足――合体の失敗による敗北は、責任転嫁というか、怒りのぶつけどころにはもってこいの理由であった。


 「全員そこに直りなさい」


 バンテラーの声はいつもと変わらず落ち着いたトーンを保っていたが、マサカズ達にも分かるほど明らかに苛立ちが含まれていた。
 横並び前列はエイダーズ、後列にレッシングとダージングが並んだ。全員がこれから飛んでくるであろう罵倒を覚悟して項垂れている。そんな彼らを尻目に、バンテラーはしばらく黙ったまま目を瞑っていた。

 とても長い沈黙――実際はたった数分の間だというのに、時間の流れがやけにゆっくりしているように感じる。


 「決めました」


 ガタン、と貨物箱から降りると、バンテラーは仁王立ちをして部下の前に立ちはだかった。




 「本日現時刻をもち、エイダーズに解散命令を下します」




 その瞬間、誰もが言葉を失った。

 バンテラーは説明不要とばかりにその場から立ち去り、残された彼らはただただぽかんと口を開けたまま微動だにしなかった。



 「あ、あの、みんな…」



 ダイチが声を出した瞬間、わあっとガードエイダーが泣き出した。
 それに釣られたのか、ファイヤーエイダーは悔しそうに唇を噛み締め、きつく握りこぶしを作る。レスキューエイダーは興味無さそうに、それでも納得いかないような表情で指先を弄っていた。
 難しい大人の問題に直面してしまった子供達は、どうしてよいか分からず顔を付き合わせた。

 「ど、どうしよう…」
 「とりあえず、ガードエイダーなぐさめるとか…」
 「バンテラーに言いましょうよ、こんなのひどすぎるわ!」

 アマネの言葉に男子2人は頷いたが、この状況を放っておくのも忍びないと思い、ずるずると気持ちが引きずられていく。
 暗い顔を合わせて溜め息を吐くと、上から暗い影が落ちた。ふと見上げると、レッシングとダージングが少し屈んでマサカズ達を見下ろしていた。

 「レッシング!」
 「マサ坊、こっちは任しとけYo」
 「我々の方が、幾分か年は上ですから」
 「隊長は俺達の話なんか聞いちゃくれねえだろうからNa」

 こっちは任せろ、という意味を込めて、レッシングは軽く右手を振ってみせ、ダージングは笑ってブイサインをしてみせた。
 普段は何となく頼りないように思える2人も、この時ばかりは一人前の大人のように思えて、ほっと安心することが出来た。

 「ありがとう、2人とも!」

 早くバンテラーに何とかしてもらわなくては。原因を作った張本人に何とかしろと言っても聞く耳持たずかもしれないが、とにかく言ってみないことには始まらない。 子供達は無駄にした時間を巻き返そうと、その短すぎる足で片意地を張るのが得意な隊長の後を追い掛けた。


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