8 スクランブル合体、エイダーズ!
シャトー・トレイルズを包んでいるサナギの殻に命中したが、高出力のエネルギー弾を食らってもびくともしていない。それどころか、必殺技のプラズマバーンは硬い殻の前に雲散霧消してしまった。
「そんな、プラズマバーンが…!?」
「これじゃあ手も足も出せませんよぉ隊長…」
「アッそりゃあ向こうも同じでェ! 斬ってダメ撃ってダメならタコ殴りだ、行くぞォてめぇらァア!!」
バーンテイラーの声を合図に、後方で援護していたエイダーズは思わず顔を見合わせた。
到底正義の味方の口から出たとは思えない台詞に不安を隠せなかったのだが、黙って手をこまねいている場合ではない。ファイヤーエイダーが頷くと、腹をくくった3体もシャトー・トレイルズに向かって駆け出した!
「どぉおおりゃあぁぁああああああああッ!!!」
―――ガンッ!ガンッ!ガンッ!!
鋼の拳を何度ぶつけようとも、頑強な殻はびくともしない。それでも、これでとどめと渾身の力を込めて拳を打ち込んだその時、ビシリと一線のひびが入った!
ひびというよりも、地割れのような音を立てながら、殻に黒い口がばっくりと開いていく。
拳を止めて静止したままの彼は、その暗い空間を凝視した。深い暗闇をたたえる割れ目……その奥で2つの赤い光が灯る!
「シャト―――――ンッ!!」
殻を内側から砕き、その巨体を露にしたシャトー・トレイルズ。空へ向けて広がるのは鋼鉄で出来た4枚の羽。鮮やかな青に黒い模様をあしらったそれは、鱗粉のように幾重にもなる鉄板状の物体で作られている。
その圧倒的な存在感の前に、5体はぐうの音も出せないまま見上げるしかなかった。
「ハーッハッハッハ! 見るがいい、これがシャトー・トレイルズの真の姿よ!! もはや貴様らには手も足も出せまい!!」
高らかに響くイルリッツの声に反論する術を持たない彼らは、ただ睨むことしか出来なかった。それでさえ、ささやかな抵抗にしかならないと知っていながら。
―――敗北。
誰もが感じたその空気に過敏に反応したのはガードエイダーだった。元々青いボディだというのに、顔までざっと青ざめると今にも泣きそうな声を出した。
「もっ、もうダメですよ隊長…」
「まだ負けちゃァいねぇ。てめぇも2本の足で立ってる男なら、根性見せやがれェ!」
バーンテイラーは威勢良く叫び、鞘に納めたムラマサソードを抜き、空で羽ばたくシャトー・トレイルズにその切っ先を向けた。
「はああぁぁあぁぁぁ……」
刀を構え、視線の先には羽を羽ばたかせ空中で静止しているシャトー・トレイルズ。
バーンテイラーの瞳に赤い光が瞬くと、一直線に走り出し助走を付け、天高く飛び上がった!
「大ィ文字斬りィィイイイイイッ――――――!!!」
ムラマサソードが振り下ろされようとした、その時である!
「オ――テンチュ――イ―――ッ!!」
「ぬぁあああぁ――ッ!!?」
一際大きく羽ばたくと、その風圧でバーンテイラーは体勢を崩した。真正面から突風を受けた彼は弧を描いて吹き飛ばされた。
「危ないッ!!」
受け止めようと身構えたライジングだったが、あまりの勢いでぶつかられた上に風圧で足元を掬われ、2体揃って傍聴席の木椅子を巻き込みながら後方へ吹っ飛んでしまった。
「ぐっ…、だ、大丈夫か、バーンテイラー…」
「ったりめぇよぉ……。あの蟲野郎、羽生やしたくらいでいい気になりやがってェエ…!」
ギシギシと軋む身体を起こしながら、2体は悠々と空で構えているシャトー・トレイルズを忌々しげに睨む。羽ばたく際、暴風と共に鱗粉のような小さな破片も飛ばしていたため、2人のボディには無数の金属片が深く突き刺さり、掠り傷が付いていた。
強大なパワーの前に、もう勝ち目はないのかと、諦めて折れそうな膝を必死に支える。
その姿をただ見ていることしか出来ない自分に、ファイヤーエイダーはラダーライフルのグリップをぎりりと握りしめた。もし力があったなら―――いや、本当は持っているのだ。ただ、今は使いこなすことが出来ない。理由は分からないままだったが。
しかし今は、寸分の可能性があるのなら賭けなければならない。彼は2人に向き直ると、一つ頷いて言った。
「一か八かだ。レスキューエイダー、ガードエイダー、やるぞ!」
「は、はいっ!」
「そうこなくっちゃ!」
今なら、出来るかもしれない。
僅かな希望を胸に、ファイヤーエイダーは息を吸い込み、大きく叫んだ。
「エイダーチーム、スクランブル!!」
「「了解ッ!!」」
今度は何をするつもりだ、とイルリッツは高く飛び上がった彼らを訝しげに見た。
しかし、今さら何が起ころうとも、この状況を転覆させることはできまい。勝利への絶対的な自信が腹の底から込み上げてくるのを押さえながら、彼は目を細めた。
ファイヤーエイダーの胸のプレートが外れ、頭部がボディに収納され、腕が折り畳まれる。
ビークルモードに変形したレスキューエイダーは、中央から2つに割れ、腕部を形成した。
ガードエイダーもビークルモードになると、車体後部が中央から分かれ、脚部を構成する。
腕が、脚が、軸であるボディとドッキングしようとしたその時――。
「しまった!」
ガコンッ! ガンッ!
僅かに結合部位がずれたため、その手足は無情にも弾かれてしまった!
その結果、エイダーチームはバランスを崩して落下し、床に叩きつけられてしまった。その姿を見、イルリッツはついに笑いを堪え切れなくなった。
マントを翻してシャトー・トレイルズの上に移動すると、その頭上から地べたに這いつくばっている勇者の面々を見下ろした。
「不様だ、あまりにも不様ではないか! 赤っ恥をかいたな不粋なロボット共、所詮貴様らには女神の嘲笑がお似合いということだ! ハァーッハッハッハ!!」
さあ行け、と巨大な僕に命令するなり彼は姿を消し、残った僕は上空に向けて大きく羽ばたいていく。
「今日のところは披露宴ということにしておいてやろう。次に会うときまで、少しはチームワークを磨いておくことだ! ハァーッハッハッハッハッハッ!!」
何処からか響くイルリッツの声を残し、シャトー・トレイルズはそのまま天井を貫いて、青空の向こうへと飛び去ってしまった―――。
それから、アレストフィールドはガラスが砕けるように消え、広く閑散とした道路には5体のロボットが置き去りにされた。
バーンテイラーは合体を解除し、転がるように地面に投げ出された。ライジングも同様で、2人は疲労の色を隠せないのか、背中合わせになったまま座り込んで項垂れている。
「バンテラー!」
駆け寄ってきたマサカズに、彼は僅かに顔を向けた。そのまま何も言わずに、よろよろと身体を起こすと、疲労困憊の仲間達に向かって右手を挙げた。
彼らはそれを見て黙したまま頷くと、ビークルモードに変形して、ガタガタと嫌な音を立てながら走っていく。
全員が去ったことを見届けてから、最後まで残っていたバンテラーはマサカズに背を向けたまま、ポツリと零した。その表情は、少年から窺うことは出来なかったが。
「……不様ですね…」
きっと、心底悔しいのだろう。どう言葉を掛けていいか考えているうちに――本当は掛ける言葉も思い付かなかったのだが――彼もまた、ビークルモードに変形して走り去ってしまった。
初めての敗北に、少年も勇者も戸惑いを隠せなかった――。
to be continued...
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