1 猛省、ダイペイン
暗い玉座の間、中央にそびえる白は犯罪者集団ダ・アークを率いるテイオルド。
その巨躯はライトを浴びて闇の中にはっきりと浮かび、その威厳と存在感を一層強くした。
その手前、ダイペインはただただ平伏し、うすら寒い空気の中表を上げる様子はない。
三度に渡る失態を晒し、敵である銀河系警備隊のバンテラーとエイダーチームの合流を許した罪が重いことを、いたく理解していたからである。
「ダイペイン」
低い声が部屋の中で反響した。は、と震える声で返事をし、額の角飾りを床に擦り付けんばかりに頭を下げる。
まるで冷や汗が滝のように流れてくる感覚。テイオルドの赤いカメラアイが細く閉じられ、次の言葉を紡ごうと彼は思考を巡らせる。その間にも、平服したままのダイペインは微動だにせず次の言葉を待った。
「お前の話を聞こう」
「話すことなどありませぬ、俺様は彼奴等を倒すことが出来ませんでした。そして今おめおめとこの醜態をテイオルド様の御前に晒している次第に候……」
「……もう顔を上げろ。話とは、相手の顔を見てするものだろう。それに、話すことがないとは、あまりにも失礼ではないのか」
その言葉に、彼は表情を窺うようにゆっくりと顔を上げた。
分厚いフェイスカバーは相変わらず無表情のまま見つめ、僅かに動きを見せるのは鋭い眼光を湛えた、隻眼のカメラアイ。
「お前は律儀な男だ」
彼はそう言うと、また暫く黙った。不思議そうに目をしばたかせるダイペインを見て、またカメラアイを細め、少し首を傾げた。
「失態を認め、罰を受けることを当然とする心意気は評価する。しかし、お前は罰を受ける前に、私に詫びの言葉を述べるべきではないのか」
は、と言葉の意味を呑み込めない彼は、そのまま固まったようにテイオルドを見つめた。笑みも怒りも浮かべないその顔から、心を読み取ることは難しい。
「も……、申し訳ありません!!」
ダイペインはばっと頭を下げ、動揺しぐらりと回る思考を必死に巡らした。ひしひしと伝わるのは、威圧と張り詰めた空気の冷たさ。
――これ以上非礼を重ねてはならない―― 今はそれだけが彼を動かしている。
「彼奴等を誘い出し一網打尽にしようと試みましたが、予想に反して彼奴等は卑怯にも援軍を三体、一対六の人海戦術に押し負けた次第! 途中巻き返しましたが惜しくもその力量の差に負け、この失態にございます! このダイペイン、腹かっさばいて御詫び申し上げます!!」
びりびりと震えた空気が、しんと静まり返った。反応を待つダイペインに返ってきたのはたった一言。
「そうか」
「てっ、テイオルド様……?」
「お前を罰するより、これからどうするかを考える方が有意義だろう」
肘掛けに据えた腕を上げ、頬杖を付く。
「多人数を倒すには、外から仕掛けるより、他の手を考えた方が、得策だろうか……」
寝言のようにうつらうつらと言うと、テイオルドのカメラアイはゆっくりと光を失った。スリープモードに入ったのか、微動だにしない彼を見、ダイペインは静かにその前から去った。
「見放されたか、青大将?」
出入口の壁にもたれていたイルリッツがにやりと目を細めた。
よく手入れをされているのか、鏡のような銀色にさえ腹が立つ。わざと傷を付けるように押し退け、ダイペインは言う。
「黙れ小童! それより次の作戦を考えねばなるまい……彼奴等に煮え湯を飲まされた礼だ、熨斗を付けて返してやる」
押された痕を手で払い、イルリッツは怒りを顕にして彼を睨んだ。
「私に名案がある」
「何だと?」
「馬鹿な貴様の事だ、どうせまたごり押しの醜い策でも考えていたのだろう? 謝るとは名ばかりだな、その場をしのげれば良いと考えている――反省を生かすという頭はないと見える。大した将軍だな」
考えを見透かされたようでぐうの音も出ない。目の前を通り過ぎる銀を、憎悪の念を込めて見る。
「ならば貴様の名案とやらを言ってみろ」
低く低く押さえた声で、去る背を呼び止めた。振り返ったイルリッツは掛かったとばかりのしたり顔。
「テイオルド様のお話は聞いたな? 『外から仕掛けるより、他の手を考えた方が得策だ』と。つまり内側から仕掛ければいいのだ」
「仲違いでもさせろというのか?」
あくまでも正攻法にこだわろうとするダイペインに、彼はつかつかと歩み寄り、その胸に指を突き立てた。
「時は進んでいるのだぞ青大将、策は布陣だけとは限らん、争いとは情報をも利用してこそ美しくなるものだ。いつまでも清く正しく正々堂々の一騎討ちが通じる世ではない。……特に、あの黒いロボットにはな!」
暫しの沈黙。
無言のままイルリッツは彼に背を向けると、マントを翻して薄暗がりの中に姿を消した。
「貴様の策、そう単純にはいかんぞ。小童め!」
ダイペインもまた煙に巻かれるようにして消え、行動を開始した。
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