11 こっそりと、素直じゃないな、ってみんなで笑う
「どおぉぉぉうりゃああああああ―――――っ!!」
顔面を殴り飛ばして現れたのはバーンテイラーだった。
「アッ、お上に逆らう利かん坊はお天道様が許してもこのバーンテイラー様が許しゃあしねぇ! サァサァ大人しくお縄に付きやがれってんでェ!」
腰の鞘からムラマサソードを抜き、キカンダーを真っ正面に見据えて構える。
「おい姐さん、アイツの弱点探してくんねィ!」
「オーケー隊長、終わるまで時間を稼いでちょうだい!」
レスキューエイダーに向かって言うと彼はスカウターを降ろしてサーチを始めた。その様子をみたバーンテイラーは振り返ると指を指して、
「バッキャロウ、そういうもんは先に調べるんだよ! てめぇらはあのスケロクがいねーと話になんねぇな!!」
「隊長、後ろッ!!」
「ウスラトンカチが命令すんじゃうぉおっ!!?」
ガードエイダーに言われて振り向けば、キカンダーが突進してきていた。彼は咄嗟にその手を掴み取っ組み合いとなった。
力が互角なためか、膠着状態となり、手を組み合ったまま動かない。
しびれを切らしたバーンテイラーが後方に控えたままのファイヤーエイダーに叫んだ。
「のっぺり! 今ならコイツは隙だらけだ、アッ蜂の巣にしちめぇえ!!」
「了解」
彼はあえてその呼び名につっこまなかった。もともと無神経なきらいがあるためか、『のっぺり』という呼称にふさわしい無表情でためらいなく命令を実行に移す。
肩にラダーライフルを据え置きながら、レスキューエイダーに訊ねた。
「レスキューエイダー、キカンダーのウィークポイントを」
「ボイラー正面のレバー、奥の方にコアらしき反応! しっかり狙ってね、ファイヤーちゃん!」
「了解した」
スカウターを覗きポイントに照準を合わせる。
「バ―――――ストシュ―――――――トッ!!」
バシュンッ!
赤い閃光がキカンダーの顔の中心を貫いた!
バーンテイラーはピタリと動きを止めたキカンダーから離れ、距離を置く。
全身を真っ赤に発熱させて甲高く汽笛の音を響かせた。
「ヤマアリタニアリ、テッキョウアリィイイイイイ―――――ッ!!?」
ドォオォォォオオォオォォンッ!!!
キカンダーが完全に沈黙したのを確認したファイヤーエイダーが、ラダーライフルを背負い直した。
もとの公園付近に戻っていく景色を見回しながら、ぽつりと呟く。
「任務完了」
「まァ、たまにゃあ席を譲るってのも悪かァねぇーよなぁ!」
バーンテイラーは大きく一つ頷いて、合体を解いた。
デインローダーは何処へか走り去り、ロボットモードのバンテラーはベンチに座っているマサカズ達を見た。子ども達は彼らの姿を確認して安心したのか、沈んでいた表情から一転し、笑顔で駆け寄ってきた。
「バンテラー!」
「だ、大丈夫……?」
「すっごいすっごい心配したんだからね!」
その元気の良さに目を細めたが、気付かれないように直ぐに険しい表情で覆い隠した。それに気付いたガードエイダーは素直じゃないんだから、と苦笑いしたが、後が怖いので口に出さなかった。
「貴方達に心配されても露程も嬉しくありません。これに懲りたら、私達に関わるのはもうおよしなさい」
子ども達の顔から笑顔が消え、悲しみと怒りがふつふつと沸き上がる。マサカズが口を開く前に、ガードエイダーが彼の肩を掴んだ。
「隊長、それはいくら隊長でも言い過ぎだと思います! 現に彼らは被害者で、しかもまだ子どもですよ!? 心配してくれているのに貴方は……!!」
更に言葉を続けようとする彼を、バンテラーは冷やかな目で見据えた。
「だからですよ」
「えっ?」
ガードエイダーが続きを訪ねる前に、彼は微かに音が聞こえる方に顔を向けてしまったので、それは憚られてしまった。近づいてくる姿はパワーショベルとクレーン車、レッシングとダージングだ。
「遅れちまってすまねーYO! って、なっ、何かあったのかYO……?」
レッシングの問いかけにファイヤーエイダーが何の反応も示さないので、代わりにレスキューエイダーが首を振って答えた。
「ちょっとタイミングが悪かったかもね」
「すみません、場所がかなり離れていたので。……エイダーチームはいつこちらに?」
「ええっと、ふた月くらい前かしら?」
なかなかみんなが見つからなかったの、ごめんなさいね、とレスキューエイダーがはにかみ笑いで続けた。
「丁度良いところに来ましたね、貴方達はここを片付けてからお帰りなさい。それから少年にはこれを」
「あっ、ありがと」
「了解!」
さも当たり前のようにさらりと言われ、思わず返事をしてしまったダージングをレッシングが小突いた。
「バカ!」
「えっ、あっ!? だってあんまりにも自然だったから……」
隊長! と呼ぶ頃にはその姿は見えなくなっており、2人はすっかり肩を落とした。
「通信、入れてみます?」
「どうせリペアシステムの許可降りねーから無駄だYO。世知辛いZE……」
また肩を落とした彼らを見て、ダイチが一つ提案した。
「ね、ねぇレッシング、ボクたちも手伝うよ。ねっ、マサ、アマネちゃん!」
「おう!」
「女の子に働かせるのは感心しないけど、仕方ないから手伝ってあげるわよ」
ね、と笑ったダイチに、レッシングとダージングは顔を見合わせた。
「俺たちを忘れてもらっては困る」
「そうですよ、仲間なんですから!」
「この子達ばっかりいい格好はさせられないわよねェ」
サンキュー、と帽子のツバを弾いて軽く礼を述べ、全員が作業に取り掛かろうとしたときだ。
『リペアシステムの申請を受理しました。30秒後にリペア作業を開始します』
空から聞こえた声に全員が顔をあげた。
倒れていた木々や、抉れた地面が巻き戻すように元通りになっていく。不思議な光景を目の当たりにした子ども達はその目を輝かせて辺りを見た。
「何コレ、すっげぇすっげぇすっげぇ―――っ!!」
興奮を隠せないマサカズが手足をじたばたさせながらはしゃいだ。
「非戦闘地域において被害が出た場合、物的被害のみ修復が許されている。但し申請は隊長の裁量で自己申告、修復の対象は地球で歴史的価値のあるもの、生活上必要不可欠な」
つらつらとファイヤーエイダーが説明を始めたが、子ども達は目を点にしてさっぱり頭に入っていないようだった。途中でそれを察した彼はガードエイダーに「分かるように説明し直してくれ」と視線で訴えた。
「つまり、隊長が壊しましたって偉い人に言うと、壊れた物を直してくれる仕組みですよ」
なるほど、と納得してマサカズは「やっぱりバンテラーは素直じゃないんだな」と、にんまり笑う。
「さ、アタシ達も早く帰りましょ! 早く寝ないとお肌に悪いんだから」
「それが良さそうだ」
「マサ坊達は俺らが送ってくYO」
「やった! ありがとレッシング、ダージング!」
以前バンテラーに歩いて帰れと宣告されるという酷い目に遭ったので、この提案には喜んで賛成した。
「ところでマサ、さっき何貰ったの?」
「あっ、まあ、………ナイショ!」
「えーっ、ずるーい!!」
すっかり日が暮れた中にマサカズの笑い声が響いた。
誰もいなくなった公園。リペアシステムで修復されたSLの上、ダイペインは小さく息を吐くと踵を返した。
「やはり先負だったか」
「フン、そんなこと分かりきっていただろう?」
「帰るぞ、潮時だ」
彼の撤退宣言にイルリッツは目を丸くしたが、理由を問う前に彼はいなくなった。
「全く勝手な年寄りだ!!」
イルリッツも後に続いてマントを翻し、姿を消した。
マサカズはレッシングに自宅まで送り届けられたあと、部屋に行きバンテラーが去り際に渡した物を見た。彼の胸にある飾りと同じデザインのリストウォッチ。
「ありがとな、バンテラー!」
にっと笑って、きっと何処かでくしゃみをしているに違いないひねくれ者の勇者にお礼を言った。
→To be continued!
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