【連載中】Lord’s SoulーAnother Storyー
story3 再会の宴
あの後、マーシャとシキ、キッドの3人で飲み直していた。
やはり大人組で話したいこともあるだろうと、リオナたちもラビンを送った後に気を利かせて別のところに行ったようだ。
シキとマーシャはすでにワイン4本も開けている。
とんでもない酒豪だと、キッドはハラハラしていた。
「お前たちはいつラストリアに合流したんだ?」
「俺たちも2年くらい前に戻ったばかりで。」
「ああ。正直、復興の道はなかなか大変だった。」
シキとキッドの表情はあまり明るいものではなかった。
想像はしていたが、やはり復興は茨の道だったようだ。
「でも今は民主主義国家として立派に歩んでるじゃないか。さすがダーク・ホームとフェイターのブレーンだな。」
「いや俺は何もしてないですよ。シュナくんとシキさんがいなかったら恐らく復興は叶わなかった。」
「へぇ、キッドお前って謙虚なんだな。」
ニヤリと笑みを浮かべるマーシャに、キッドは苦笑を浮かべる。
「マーシャ、あまりキッドをいじめないでくれよ。」
「いじめてないよー。」
あははと笑うマーシャをキッドは不思議そうに見つめる。
これが、マーシャという人物かと。
ダーク・ホーム最強と呼ばれていたから、勝手に筋肉マッチョのおじさんかと思っていた。
実際は端正な顔立ちをした気のいい若い青年で、戦ってる姿が想像できない。
そんなキッドの視線に気がついたマーシャが再びニヤリと笑ってキッドに顔を近づけた。
「んー、そんなに見つめて惚れちゃったの?」
その言葉にキッドは顔を真っ赤にさせて首をブンブンと横に振る。
「いやいや違うよ!いや確かにかっこいいなと思うけど・・・・こうやってマーシャくんと話せる日が来るとは思ってなかったから・・・・」
「まぁ、俺も元フェイターとこうやって話すときが来るとは思わなかったな。・・・・って今のは嫌味じゃねーぞ?」
「ははっ、ありがとう。マーシャくんはフェイターにとって一番の脅威だったから。ダーク・ホームの心臓とも言われるくらい。」
「マーシャは変なあだ名ばかりだな。ダーク・ホームでは死神って呼ばれてたもんな。」
クスクス笑うシキにマーシャはギロリと睨みをきかす。
「はぁ。こんなに紳士なのに。」
「自分で言うな。だってお前、戦場から返り血で真っ赤に染まって楽しそうに帰ってくるんだぞ?」
「それは・・・・死神だね」
「なにが死神だ。いいもん俺にはちゃんと分かってくれるリオナがいるから!」
グッと一気飲みし、シキがどんどん注いでいく。
「でも、今じゃ俺なんかよりリオナの方が強いよ。」
「ほう、お前も引退か?」
「あはは、そうねー引退だねー。」
「旅の途中で何かしたの?」
「いや、特には。元々リオナには俺の戦術を全部叩き込んではいたけど、リオナもようやく自由に戦えるようになったんだろうなぁ。」
「確かにダーク・ホームにいた頃のリオナは身体に爆弾を抱えていたようなもんだったから、知識や能力はあっても発揮できなかったんだろうな。」
「一度手合わせをしてもらいたいな」
「やめとけやめとけ。リオナの頭には魔法大全集全巻に禁忌魔術書全巻、あとは自分で研究して編み出した魔術が1000以上詰まってる。恐らく知らない魔術は殆どないはず。今じゃ世界一の魔術師だ。」
「そんなに!?」
「生まれ持った純血に近い魔力と、本人のとんでもない好奇心、才能ももちろんあるが、どちらかと言えば努力の賜物だな。」
マーシャはあははと笑いながらグラスをゆらゆらと揺らす。
「なぁマーシャ」
だいぶ酔いが回ってきたシキが、頭をゆらゆらさせながら呟いた。
「いま、幸せか?」
急にそんなことを聞かれたものだから、
マーシャも少し驚いていて。
でもすぐにあははと笑って答えた。
「すごい幸せだよ。」
その言葉に、シキもキッドも安堵の表情を浮かべる。
「皆には意外だって思われるかもしれないけど、ずっと夢見てたんだ。こう、なんていうかなぁ。穏やかで、平凡な、争いのない日々をさ、愛する人と一緒に過ごすってのを。」
頬杖をつきながら話すマーシャは、本当に幸せそうな顔をしていて。
ダーク・ホームにいた頃からは想像できない。
「普通の人間の当たり前が、当たり前じゃなかった俺たちにとって、いまは毎日が新鮮なんだ。この気持ちをずっと忘れたくない。・・・・ってなんでシキ泣いてんの?」
「い、いや・・・・お前の口からこんな言葉を聞ける日がくるなんて・・・・」
戦闘しか興味がなかったマーシャが、この中で今一番、戦闘から遠ざかっていて。
親友としての嬉しさで気持ちが溢れてしまう。
「リオナくんとマーシャくんが平凡な日々を送ってるって、本当に新鮮だよね☆想像できないなぁ〜」
「まぁそうだろうなぁ。俺たちも変な感じだもん。燃やせるゴミは何曜日だとか、今日は卵が安いだとか、なんか本当普通なことばっかりしてるよ。」
「まるで新婚だな。」
「俺のお嫁チャンは宇宙イチ可愛いんだなぁ〜」
「どっちが何をするんだ?」
「え、俺がリオナをアンアン鳴かせる方」
「ちがう!!!!そうじゃなくて!!!!仕事の分担だよ!家事とか・・・・もろもろの」
相変わらずシキはそーゆー手の話に弱い。
顔を真っ赤にさせているが、逆にキッドは全く気にしてなさそうだった。
「家事は交代でしてる。仕事バラバラの時もあるから。金は俺が管理してる。リオナはお小遣い制。」
「へぇ!リオナくんの方が管理できそうなのに・・・・」
「キッドお前、俺のことディスったな。」
「あ・・・・ごめん☆」
「リオナは理系の頭してるから頭の回転は良いんだが、どうもおっちょこちょいなとこがあってなぁ。この前なんてお釣り貰い忘れたり、あーそうそう財布をゴミに捨てたりしてさ。夜中にゴミ捨て場でゴミ漁ってよー。」
「ははっ。リオナらしいな。」
「リオナくんにもそんな一面があるなんて、可愛いな☆」
「隙あらばイタズラばっかするし、本当大変なんだぞ?」
「でもそういうところも好きなんだろ?」
「そうなんだよなぁ〜、惚気って言われるけど、やっぱり可愛いんだよなぁ。」
「仕事バラバラって言ってたけど、一緒に行かないの?」
「大体一緒に行くけど、内容によっては別で動くから一緒じゃない時もある。」
「まぁ2人が揃ったら最強すぎるからな。」
「そうだね☆ウィキは・・・・」
するとキッドは何かを言いかけ、はっとして口を閉ざした。
だがマーシャとシキはニヤリと笑い、キッドの肩を掴む。
「ウィキは?」
「さぁ言ってごらん?」
「ふ、2人とも怖い・・・・!」
「ウィキはどうなのさ。」
まるで脅すような2人の笑みに冷や汗をかく。
「ウィキは・・・どうなのかなって、思っただけだよ。」
「じゃあそれを早く確認しに行かないとな。」
シキの言葉に、キッドは少し嬉しそうにうなずく。
「なぁちょっと意地悪な質問していい?」
「え、こわいなぁ・・・・」
「ウィキに会った後、どうするつもりだ?」
率直なマーシャからの質問に、キッドはフリーズしてしまった。
確かに考えていなかった。
会った後、どうするのか。
「・・・・ウィキは、どうしたいんだろう。」
今、何をしてるかな。
どんな夢を持っているのかな。
今のウィキがわからないから、答えも出ない。
「ウィキの気持ちも大切だが、キッドがどうしたいかっていう意思も大事だと思うけどな。」
酔っ払いとは思えないまともな回答を繰り出すシキに、思わず感心してしまう。
「シキ良いこと言うねぇ〜」
「どっかの誰かさんたちのせいで何度も考えさせられたからな。」
誰のことかねぇ〜。
と、マーシャは他人事のように顔を背ける。
「ま、ウィキを連れ出すのはなかなか骨がいるとは思うがな。」
「なぜだ?」
「キッドはよーくわかってるだろ?」
その言葉に、キッドは苦笑を浮かべる。
「そうだね。ウィキは頑固だから・・・・」
「ふむ、やはりリオナと兄弟なんだな。」
「実は俺たちもこの2年間、国に戻るたびに何度も誘ったんだ。一緒に会いに行こうって。それでもウィキは”いまは会えない”って俺たち何度もフラれちゃってさぁ。」
「会えない理由があるのか?」
「ウィキは、キッドのことをすごい褒めてた。世界のために頑張ってるってな。一方で自分には何かを成し遂げた事がないからと自信がなさそうだった。同時にリオナと比べてしまっているんだろうな。」
「リオナくんと・・・・?」
「ウィキはリオナの魔術の才だったり思い立ったら実行する行動力に憧れてる。だがウィキはリオナにはない人を治癒する能力に長けている。治癒魔法はやろうと思ってできるものではないからな。リオナもウィキを自慢の弟だってすげー褒めてるよ。あとはウィキの素直さが羨ましいっていつも言ってる。」
「リオナがウィキにそれを伝えれば良いじゃないか。」
「バカだなシキは。リオナは世界一のブラコンお兄ちゃんだぞ?何度もウィキに伝えてるに決まってんだろーが。俺には言わないくせにあいつウィキにはすげー甘いし素直だし・・・・くそ、やけてきた。」
噂には聞いていたが、リオナのブラコンぶりは相当らしい。
「まぁ、キッドが大魔帝国に住むならアッサリ行くだろうけどな。」
「え、俺が?」
「それはダメだ!キッドはラストリアのブレーンだぞ?俺たちが困る。」
マーシャとシキが睨み合う。
そんな2人をキッドは苦笑しながら止めた。
「とりあえず・・・・まずはウィキに会って話さないと、ね☆」
「キッド気を付けろよ?リオナに少しでも触れたらマーシャに殺されるから。」
「そんな物騒な!」
「当たり前だろ?俺のリオナに触れるなんてシキでも許さねーよ。」
「まいったなぁ〜☆」
ゆったりとした、楽しい時間が過ぎてゆく。
大人たちの夜はまだまだこれからだった。
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