[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue final



時刻はすでに夜の11時を回り、満月が不気味に夜の王宮を照らす。



中央都市が賑やかにクリスマスを祝う中、
王宮は静まり返っていた。





バルドは片手に大きな筒を抱え、早足で王宮内を歩く。


兵隊たちはバルドが通り過ぎる度に敬礼をする。


王宮は三階建てだが、横に広く、二階の中央には大きな扉があり、扉の前には四人の兵隊が立っている。


バルドが来ると、四人は道をさっとあけ、敬礼をする。


バルドは扉を押し開け、中にいる人物に深々と頭を下げた。


「陛下、ローズ・ソウルの保管が完了した。」


「そうか。どうだ?守りきれそうか?」


バルドは持っていた筒から城内の地図を広げる。


「ローズ・ソウルをこのまま宝物庫に保管するのは危険だ。だからあえて三階の西の右から二番目の客間に置いた。封印魔法を三重にかけているから大丈夫だろう。」


その話を聞き、王はまだ幼さの残る顔に笑顔を浮かべた。


「ご苦労だった。バルド。今日はクリスマスだ。ゆっくり休め。」


「ありがたい。そうさせてもらおう。」


そう言ってバルドは部屋を後にする。


バルドの部屋は一階の東。
何かあったらすぐにでられるようにと兵隊達は皆一階の部屋で休んでいる。


バルドは部屋に入り、窓から月を眺めた。


「今日は満月か・・・。」


なんだかそれが妙に不安で。


バルドは再び部屋を出て、
目の前にいる兵隊に声をかける。


「おい。隊長に伝えてくれ。」


「はっ!!!何でしょうか!」


「今日は兵隊の数を増やしとけってな。」


「と・・・・・いいますと?」


「なんだか今日はイヤな感じがしてな。何もなきゃいいんだが起きてからじゃ遅いからな。念には念を・・・だ。じゃあ頼んだぞ〜」


そう言って部屋に戻り、ベッドに寝ころぶ。


そして部屋に飾ってある双子の写真を横目で見た。


「良い子にしてろよ?なんてったって今日はクリスマスなんだからよぉ。」

















その頃、
リオナとウィキは稼いだお金で中央都市に入り、騒がしい街を通り抜けて、王宮の門の前にいた。


門の前には二人の衛兵。


「さて、最初が肝心だな。」


「どうする?すぐに起きたら困るから眠々魔法でもやっとく?」


「いや・・・眠々魔法は魔力を使いすぎだ。なるべく温存していかないと、中で捕まっておしまいだ。」


「じゃあ気絶の魔法がいいかも。一瞬気が飛ぶときに門を突破だね。」


「オッケイ」


二人はトランプを一枚ずつ取り出し、呪文を唱えて衛兵に向けて投げる。


すると衛兵たちはふらりと地面に倒れ込んだ。


そのすきに二人は門をよじ登り、城に向けて庭を駆ける。


庭には見回りが三人いるだけで、体の小さな二人は難なくすり抜けることができた。


城の玄関には三人の兵が立っていて、恐らく中にも兵がいると考えて、二人は城の裏へ回る。


城の西の端の窓から中を覗いていき、誰もいない部屋を探す。


部屋に誰もいないのを確認すると、リオナが窓を静かに割った。


しかし結界呪文により、割ったガラスはすぐに元に戻てしまった。


だが二人にとって、こんな結界を解くのは朝飯前。

それもこれもバルドのおかげ(せい)だ。





部屋に侵入すると、ドアを少し開けて外の様子をうかがう。


「どうする?この部屋は階段の近くみたいだけど。二手に分かれるか。」


「オッケイ!じゃあ〜僕は一階から見ていくから、リオナは三階から見ていって。それで二階であおう!」


「おう!」


二人はそっと部屋を出て、ウィキは左に、リオナは上に駆けていく。


城の中は思った以上に兵隊が多く、すり抜けるのにひと苦労だ。


特に一階なんて兵隊が溢れかえっていて、ウィキは像の後ろに隠れながら、ため息をつく。


―これじゃあ部屋さえみれないヨォ〜・・・・


すると隊長らしき人物が声を上げて呼びかける。


「一階はいいから二階の王の間を守れ!」


その呼びかけに、数人の兵隊たちが動き出す。


―・・・王の間か。もしかしたら・・・


ウィキは一階にはお宝はないと見て、兵隊が移動する前に二階へ上がっていった。










リオナはその頃三階に到達した。


三階だから兵隊も少ないと考えていたが、案外兵隊が多い。


とりあえず東の方から部屋を一つずつ確認していく。


どの部屋も客間ばかりで、あるのはベッドと机だけ。


―もしかしたら地下にも部屋があるのかも・・・・。あ〜あ失敗


そんなことを思いながらも部屋を確認し続ける。


東側だけを確認するのにどれくらいかかっただろうか。


リオナは続けて西側の確認を始める。


しかしそのとき、兵隊と危うく鉢合わせそうになった。


リオナは急いで廊下に並んでいる像の後ろに回り、そのまま西の奥まで走り抜けた。


しかも西側はなぜだか東側よりも兵隊が多く、なかなか部屋をのぞけそうにない。


―どうするかな・・・・


すると一番奥の部屋から兵隊が出てきて、
端に立っていた兵隊に何かを告げている。


その隙に、一番奥の部屋を確認し、そのまま二番目の部屋に入り、鍵をかける。


リオナはホッとため息をつき、床に座り込んだ。


窓からは月光が差し込み、
暗い部屋を不気味に照らしている。


「・・・・月は嫌いなんだって」


小さくボヤきながら
リオナは辺りを見回す。


部屋内はやはりベッドと机だけ。


しかし机のあたりが何かおかしい。


―・・・?空間がゆがんで見える・・・。

リオナは机に近づき、ゆがんでいる空間に手を近づけた。


その瞬間
手に電流が走り痛みを感じる。


―!!!結界魔法だ・・・!しかも三重・・・・

明らかに怪しいと見て、リオナは結界を解き始めた。


一つ目は難なく解くことができた。
だが二つ目はなかなか手ごわい。


―う〜・・・・!なんだっけなぁ〜・・・バルドが前にいってたやつなんだけど・・・


リオナは焦りながらも必死に考える。


時間だけが刻々と進み、
やっとのことで三つめの結界を解き終えた。


すると目の前が真っ白になるくらいまばゆい光を放ち始めた。


―!?!?


そして光は段々と小さくなっていき、手のひらサイズの一つの玉になった。


リオナはそれを手に取り、透かしてみたり、手でくるんでみたりする。

その玉は真っ赤に燃え盛るように輝きを放っている。

―ただの玉かよ

だが結界をかけるほどだからと思い、
一応ポケットにしまい込んだ。


そしてドアをそっとあけ、
再び廊下にでる。

しかし先ほどと様子がおかしい。

さっきまで沢山いたハズの兵隊は全く見えない。


―・・・・?就寝時間か?


そんなことを思いながら、元きた道を戻っていく。


すると突然リオナは足を止めて、後ずさる。

「・・な・・・なんだよこれ・・・!!」


目の前には、先ほどまで立っていた兵隊たちが、血まみれで倒れている。

呼吸はなく

すでに死んでいる。


死体はてんてんと東の方へと続いていた。


リオナははっと我に返り、急いで階段を駆け下りる。


―ウィキ・・!!


階段にも兵隊たちの死体が散らばり、壁は血に染められている。


何が起こったのか分からず、とにかくウィキの元へ急ぐ。



二階に到着すると、
すぐに兵隊の悲鳴が耳に入った。


慌てて物陰に隠れ、様子をうかがう。


すると廊下には白いコートを羽織った人々が数人・・・


光が放たれたかと思うと、
兵隊たちが血しぶきをあげて次々に倒れていく。


―な・・・・!なんだあれ・・・!


恐怖で息が上がる。


すると白いコートを羽織った人々は、一人だけを残して一瞬にして消えていった。


残った一人は、
たんたんと歩みを進め、中央にある大きな扉を押し開け、中へ入っていった。


―ウィキ!!!


恐怖が募る一方、
リオナは精一杯足を動かし、白コートの後を追う。


リオナも続いて部屋にはいると、目の前には白コートと、さらに奥に、王と思われる人がいた。


そしてウィキは王に庇われるように床に座り込んでいる。


「ウィキ・・!!」


ウィキはリオナの呼びかけに気づき、
涙でいっぱいの目をリオナにむけた。


「リオナっ!!」


すると白いコートを羽織った者はそっとフードをとり、髪をかきあげる。


黒髪に紫の目をした、まだ18、9歳くらいの少年だった。


「大魔帝国の王。お会いできて光栄です。」


少年は深々と頭を下げると先ほどとは打って変わって王に鋭い目を向ける。


「早速ですが、ローズ・ソウルを渡していただきたい。」


王は顔をしかめて、腰につけた剣に手をやる。


「やはり時天大帝国の事件もあなた方、光妖大帝国の仕業だったのか・・・!」


少年はフッと笑い、一歩ずつ王へ近づいていく。


「だったら話は早い。大人しくローズ・ソウルを渡せば国は助けて差し上げよう。しかし渡さないなら時天大帝国と同じ道を歩んでいただきます。」


「・・・・っ!!」


「さぁどうします?」


「・・・・・約束は・・・必ず守るか・・・?」


「はい。」


少年は不気味に笑う。


王は少しだけ引き抜いていた剣を鞘に収めた。


「・・・・三階の・・・・西の奥から二番目の部屋だ。」


そう言うと少年は再びフッと笑い、王に向かって深くお辞儀をする。


「ご協力感謝いたします。」


すると紫色の目を怪しく輝かし、手が光を放ち始める。


「・・・・あなたの役目はここで終わりです・・・。安らかに眠れ・・・・」


そう言って、
右手を王に向けて、光を放った。


光は王を貫き、一面を赤い血で染め上げる。


「ぐっ・・・・わぁ・・・!」


王はそのまま倒れ込み、
白目を向いて体を痙攣させた。


やがて動きが止まり、目の当たりにしたウィキは恐怖でガタガタ震える。


リオナも立っているのが精一杯で、
白いコートの少年を見ることしかできなかった。


少年は再びフードをかぶると、何事も無かったかのように部屋を出ようとする。


―・・・・・・早くいなくなってくれ!!!


リオナはドクドクと脈打つ心臓を抑える。


だが願いは打ち砕かれた。


少年はすぐに足を止めて振り返って、ウィキの元へ歩き出した。


そして細い腕一本でウィキの首をつかみ、そのまま持ち上げる。


「・・・・・やっぱり・・・・殺しとこうかな・・・」


少年の口が不気味に引きつった。


ウィキはその言葉に目から涙をこぼし
震える唇を開いた。


「い・・・・ゃ・・・・・・リォ・・・・う゛っ・・!!」


少年の手に力がこもる。


「・・・・ウィキッ!」





―動け・・・・・・動け動け動け動け動け動け!!!







リオナは重い足を引きずりながら、少年に向かって走りだす。


「ウィキをはなせっ!」


「ったく・・・・うるさいなぁ・・・」


少年はもう片方の手でリオナを吹き飛ばした。


「う゛ぁ・・・・!!・・・・ウィキ・・・!」


手を伸ばしても届かない。


「リ゙オ゙ナ゙ァ・・・・・・」


届くのはウィキの苦痛の叫び。


「慌てないで。リオナ。君もすぐに逝かせてあげるから」


「リ゙オ゙ナ゙・・・・・!リ゙オ゙ナ゙・・・・!!!」


ウィキの苦しそうな声が耳に入る度に、リオナの足が重くなっていく。


ウィキは苦しみのあまり、顔を涙で濡らし、意識を手放していく。


しかしそれでもリオナの名前を呼び続ける。


「フフっ・・・・・ハハハ!最高だね。大丈夫だよ・・・君の大好きなリオナも君の後すぐに逝かせてあげるからさ・・・」


そう言って再び手を光らせて、大きく振りかぶった。









時が一瞬とまった








ウィキが自分を見つめているのがわかる









泣きながら俺を見つめてる









俺の名前を呼んでる











俺は・・・俺はどうしたらいい・・・?








わからないんだ・・・・怖いんだ・・・









動いたら・・・・すべてが消えてしまいそうで











時は再び動き出す。









目の前が真っ赤に染まる。










顔や頭に生暖かさを感じる。


リオナは自分の手を見つめた。



―・・・・・血だ ・・・・




ウィキはそのままリオナの方に投げ捨てられた。


リオナは全身を震わせながら目の前に横たわる赤く染められた物体に目を向けた。


―・・・・・違う・・・目の前にいるのはウィキじゃない・・・・俺の知ってるウィキは・・・こんなんじゃない・・・・


リオナは胸から腹までザックリ切られたウィキを見て、恐怖で後ずさる。


しかしすぐに少年の白い手に捕まり、引き寄せられた。


紫色の瞳に捕まり、
力が入らず、目すらそらすことができない。


そのまま首を捕まれ
しめられる。


「リオナ・・・・泣かないで・・・・?あは・・その顔いいね・・・・ほら・・・・だんだん楽になっていくでしょ?」


首をつかむ力が強くなるにつれて、視界が曇っていく。


「う゛・・・・・あぁ・・・・」



―・・・・ウィキも・・・・苦しかったのかな・・・・




視界が真っ暗になろうとした。







しかしその瞬間、誰かがリオナの首から少年の手を引き離した。



その姿にリオナは溜めていた涙をこらえきれずに流し出す。


「・・・・・!!バル゙ド・・・!!」


バルドは驚いた表情をしながらリオナを抱き寄せた。


「大丈夫か!?」


リオナは喉を鳴らしながら
必死にバルドの服を掴む。


「ヴィギが・・・・!!ヴィギ!!!」


バルドはリオナをウィキの元におろし、
そっとウィキの頭をなでる。


―・・・・かろうじて息はしているが・・・・




「イタタタタ・・・・ひどいねアンタ・・・双子を離ればなれにするなんて・・・」


すると少年は立ち上がり、
服の汚れを払い始めた。


「リオナ!今のうちにウィキを抱えて逃げろ!」


バルドは少年の方へ進み出て、
自分と少年の周りに結界を張り始める。


「ちょっ・・・バルド!!やだよ!!死んじゃうよ!そいつ強いんだよ!!」


リオナは結界の向こうにいるバルドに必死に呼びかける。


・・もう嫌だ・・・見たくないんだ


大切な人が傷つくのは・・


「やめてよ!もうイヤだよ!バルド!一緒に逃げ・・」


「泣くな!」


「・・・!!」


バルドに怒鳴られ
リオナは体をびくつかせた。


「男なら泣くな!!俺を誰だと思ってる!俺は世界一のバルド様だぞ!!」


バルドの背中はいつになく大きく、強いものだった。


「バルド・・・!!」


その言葉にリオナは涙をグイッと拭い、力強く立ち上がり、ウィキを背負う。


バルドはだんだん結界で見えなくなっていくリオナとウィキを横目で見つめ、
いつもみたいに笑いかける。


「そうだ。それこそ真の男だ。・・・ほら早く行け!」


リオナは小さくうなずいてバルドに背を向け、
力いっぱい叫んだ。


「バルド!!俺!!!待ってるから!!また魔法おしえてくれよ!!・・・・・・・・・・・大好きだからなっ!!!!」


そう言って走り出す。


「ああ・・・・また教えてやるよ・・!!これが終わったらまたラグに戻るからよぉ!いい子にしてろよガキンチョども・・・!」


―・・・しっかり大きくなれよ・・・






少年は大きな欠伸をし、腕を伸ばしたりしている。


「ねぇ・・・もういい?俺あきちゃったんだけど。」


バルドはにっと笑い、少年と真っすぐに向き合う。


「俺もちょうど刺激が欲しくてなぁ〜、ちょうどいい相手だ。」


「フフッ。さぁていつまで時間稼ぎができるんだろうね。」


「・・・・さぁな!!!」


お互いが中央に向かってぶつかり合う


強い光を放ちながら





















リオナはウィキを落とさないように、できるだけ早く走り
王宮を後にする。


すると王宮がものすごい音を立てて崩れ始めた。


「・・・!!バルド・・・!!」


そして城が崩れる中、見覚えのある姿が空を駆けていくのが目に入った。


白いコートに黒い髪・・・・


「・・・・・!!」


叫びたかった。


だけどこれはバルドとの最後の約束だから。


リオナは必死に涙をこらえ、唇をかみしめ走り出す。




中央都市は、すでに跡形もなく崩れ去っていて、人の悲鳴さえ聞こえない。


先日
家族四人でみたクリスマスツリーも、
炎に包まれ、崩れ去ろうとしている。



「・・・リ・・・オナ・・・・・」


すると背中から、今にも消えてしまいそうな声がした。


「・・・ウィキ!!!」


リオナはあふれそうな涙を堪え
崩れ落ちた家の隅にウィキをおろした。


「・・リオナ・・・・・」


消え入りそうな小さな声を放つウィキに
リオナは耳を近付ける。


「何・・」


「・・・・おとーさんと・・・・・おかーさんに・・・・会いたい・・・・」


ウィキの目から一筋の涙がこぼれる。


「・・・会って・・・・・・謝らなくちゃ・・・・・・ゴメンねって・・・・」


ボロボロと零れ落ちる涙は止まることはない。


「・・・・うん!!今・・・今すぐ家に帰ろう・・・!!」


リオナは目頭が熱くなるのを感じるが
再びウィキを背負って歩き出す。


周りは火の海と化していて、
溶けてしまいそうなほど暑い。


「ねぇ・・・・リオナ・・・・」


「・・・・ん・・?」


「昔・・・・バルドが言ってたよね・・・・世界には・・・・沢山のお菓子が・・・・あるって・・・」


「・・・・うん・・言ってたね・・・」


「・・・・今度さ・・・・リオナと・・・サラと・・・・・みんなで・・・お腹いっぱい食べたいな・・・・・・・おとーさんと・・・おかーさん・・・・・・怒るかな・・・・」


「ううん・・・・二人は優しいから・・・・・」


「そっか・・・・・・あと・・・・バルドも・・・・呼びたいな・・・。」



「・・・・うん・・・・呼ぼうな・・・」


リオナは振り返ることなく
前だけ向いて歩き続ける。


そしてたまに気を紛らわせるために
昔のことを話したりする。


昔、家族全員でピクニックに行ったこと。


バルドと初めて出会った時の話。


どれも楽しい思い出。


だけど・・・


「俺たちは・・どこで間違ったのかな」


願っていたのは普通の生活。


ただ笑ってられるだけでよかったんだ。


なのに・・・





「ねぇ・・・・リオナ・・・・?」


「・・・・・?」


すると今まで微かに笑っていたウィキの体が小刻みに震えているのがわかる。


「ぼ・・・・く・・・・まだ死にたくない・・よ・・・・・」


思わず歩みを止める。


"死にたくない"


胸になにかが突き刺さる。


しかしリオナは空を見上げ、ははっと笑って再び歩き出す。


「バカ・・・・お菓子屋になるんだろ?・・・こんなとこで死んでどうすんだよ・・・」


「ははっ・・・・・だよね・・・・・」


沈黙が続く中、リオナはラグの町が目に入り、歩みを早めた。


ウィキの傷口から流れ出す血がリオナの背中に染み込み、冷たさを残す。






やっとのことで辿り着いたラグの町も、すでに崩れ去り、火が燃え上がっている。


リオナは急いで家に向かった。


しかし崩れ落ちた我が家を目の当たりにして、呆然と立ち尽くす。


だが、それでも自分の家は自分の家だ。


ウィキを背中からおろし、
呼びかける。


「ウィキ!家についたよ!!ウィキ!!」


リオナはウィキの肩を必死に揺する。


「なぁウィキ!寝るなって!!起きろよ?・・・・なぁ・・・・ウィキ・・・?」


そっとウィキの頬に触れる。


真っ白い肌は、いつになく冷たい。


肩をいくら揺すっても、
何度呼びかけても、



ウィキは目を覚まさない。



「・・・なぁ?ウィキ?冗談はやめよう・・!なぁ!」


目に何かがこみあげて
ウィキを映す視界が曇っていく。


「見て・・よ!!家だよ!!父さんと母さんに会いにいこう・・!!ねぇウィキ!!」


目からこぼれる熱い雫がウィキの冷たい頬を濡らす。


「うっ・・・・・・ウィキ・・・・!!!うぁあ・・・・・ウィキぃぃぃ!!!・・・・起きろよぉ!!!起ぎろっでばぁ!!まだやりだいごどいっばいあるだろ!?なぁ!!!頼むから起ぎでよ!!いづもみたいにわらっでよ!!!!!ヴィギ・・・・!!!」


声はむなしく鳴り響く。


「・・俺を・・1人にじないでぇぇぇ・・!!!!」


「・・・・リオナか・・・・??」


するとどこからか声が聞こえる。


「・・・・!?」


リオナは声のしたところを探す。

「・・・リオナ・・・・・・ここだ」


「・・・・・・!おどーざん・・・!!!!」


リオナはがれきの下敷きになっているダンを見つけ、小さな隙間から覗き込む。


「おどーざん・・・・!!!ゴメ゙ン゙!!!オ゙レ゙・・・・・・」


泣きじゃくるリオナに対し
ダンはいつもみたいにやさしく笑いかけてくる。


「・・・・・いいから・・・・俺も怒鳴って悪かったな・・・・でも・・・お前らだけでも助かっててよかった・・・・ウィキはどうした・・・・・?」


ウィキという言葉に再び涙が溢れ出す。


「うっ・・・・・・!!・・・・ウィキは・・・全然動かないんだ・・・!!何度よんでも・・・動がないんだぁ・・・・!」


ダンは一瞬顔を歪ませる。


だがすぐに顔を伏せた。


「・・・・そうか・・・・・」


「・・・・!!おどーさんまっでで!!今出しであげるがら・・!!」


リオナは立ち上がり、ダンの上に乗っかる板の山をどけようとする。


しかし板にはすでに火が移ってしまい、
どうすることもできない。


「・・・・リオナ・・・・いいから・・・お前は早く逃げろ・・・・」


「イ゙ヤ゙ダ・・・!!おかーざんは!!!?」


「・・・・モナなら・・・俺がちゃんと抱きしめてるよ・・・。今は・・・・今は寝てるけどな・・・・」


「イ゙ヤ゙ダよ・・・!!オ゙レ゙もみんなどいっじょにいる・・・・・!!!・・・・ヴィギを・・・・ヴィギをひどりにでぎないよぉ!!!」


「・・・リオナ・・・・ウィキなら大丈夫だ・・・・俺が・・・俺とモナが一緒にいるから・・・・。・・なぁ・・ウィキをこっちに連れてきてくれないか・・・・」


そういわれ
リオナは冷たくなったウィキを抱え、ダンの元へつれてくる。


ダンはがれきの隙間から精一杯手を伸ばし、ウィキの手を握りしめた。


「・・・・ウィキ・・・大丈夫だぞ・・・父さんも母さんもいるからな・・・・。」


がれきはどんどん燃えていく。


「おどー・・ざんッ・・・」


「・・どう・・した・・?」


リオナはダンの手を自分の胸に押しあてる。


「俺のっ・・ごど・・・!!ギライ・・!?」


「バカ・・・愛してるにきまっ・・てるだろ・・・」


「うぅっ・・・!!!ゴメンナザイ・・!!ゴメ・・ナ・・・ザイ!!!」


ただひたすら謝り続けるリオナに
ダンは優しく笑いかける。


「・・リオ・・ナ・・あのな・・・」
「おい!!!まさかお前生き残りか!?」


すると後ろから突如声がして、リオナは急いで身構える。


「だっ・・・だれだ・・・!!近づくな!!!」


リオナはウィキとダンを庇うように立ち上がる。


声の主は真っ黒なマントを羽織り、リオナの声を無視して近づいてくる。


すると黒マントを羽織った男は、リオナの肩をつかみ
じっとみつめてきた。


「・・お前・・・・あのじいさんちにいた双子の・・・・」


「あ・・・・・あんたは・・・・!!」


そう、前にバルドの部屋に押し入ってきた男だ。


「とにかく早く逃げるぞ!このまま焼け死にたいのか!?」


男はリオナの腕をつかみ
強く引っ張る。


「で・・・でもおとーざんとおがーさんどヴィギがっ・・・・!!」


男はリオナの指さすがれきの山を見つめながら顔をゆがめる。


火はすでに大火となり
おさえることはできない。


すると
かすかにだが
瓦礫の下からダンが力を振り絞って声を出した。


「・・な・・なぁ・・・そこの黒マントのおにーさん・・・」


さっきよりもかすれた声でダンが呼びかける。


男は顔を歪ませたまま体を向け
名を名乗る。


「・・・!・・・マーシャだ・・・」


「マーシャ・・・?はは・・・・・昔そんなやつがいたな・・・・・・・・・なぁ・・・・マーシャ・・・・俺の息子を連れてってくれ・・・・」


まさかのことに
リオナは目を見開く。


「・・・・!!おとーざん・・・!!」


けれどダンはやめない。


「・・コイツ・・・いっつも素っ気なくて・・・冷たくて・・・弟が大好きで・・・・・どうしようもないやつだけど・・・・・」


ダンは目に涙をためながら
ニカッと笑う。


「・・・ホントは・・・優しい子なんだ・・・・・」


いやだ・・・


「・・おとーざん・・・!」


そんなこと・・いわないで



お別れみたいに言わないで・・!!



「・・・だから頼む・・・・・大事な息子なんだ・・・・こいつだけでもつれてってくれ・・・・」


瓦礫が音を立てて崩れていく。


時間が無い。


マーシャは頭をかきながら、片手でリオナを持ち上げた。


「俺はガキというものが嫌いなんだがな・・・・・これが最初で最後だからな・・・・」


その言葉を聞いて安心したのか
ダンはいつもみたいにニカッと笑う。


「・・ははっ!・・・たのんだぞ・・・」


マーシャはリオナを抱え、ダンに背を向けて、走り出す。


「・・・いやだ!!!放せ!!!!」


だがリオナは最後まで暴れ続ける。


「嫌だよぉ・・・!!!!おどーざん!!!!」


家がだんだん遠ざかる。


皆で暮らしたあの家が
見えなくなる。




「オドーザン・・・!!おがーさん!!ヴィキ・・・!!!」



"愛してる"




まだ言ってないんだ・・・




"ありがとう"





これもまだ言えてない







"さよなら"なんて言いたくない








言いたかったのは
"ずっと一緒にいて"




俺・・・素直じゃないから・・・








愛してるんだ・・・









まだ話したいこと









いっぱいあるんだ・・・・








言わせて・・・・お願い・・・









大好きだって
また笑ってよ・・・!!





「どーざん!!!!かーざんッ!!!!」




苦しいよ・・・・





「・・・・ヴィギィィィィィィ!!!!」









一人は嫌だよ



怖いんだ



ねぇ



誰か助けて







いくら叫んでも

いくら願っても


神サマは耳を傾けない
















なぁ・・・・・














どこにいったら













いつになったら











何度願えば










どれだけ声を枯らせば
























俺の願いを聞いてくれるのかな・・・・





・・・・Plorogue End

[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!