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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story62 恨みを強さに


別れは突然やってくるとは言うが
それは本当に突然やってくるもので。





だから人は"さよなら"ではなくて"またね"という。




また会おうと"約束"をこめて。










リオナ達を見送り
ルナとクロードはリビングのソファーに座っていた。


しかしクロードはやはり元気がなく
さっきからうずくまっている。


「・・・クロード・・・・・・ココア飲もっか・・・・・?」


「・・・・いらない。」


ルナは心配して何度もクロードに話し掛けるが
あまり効果はないようだ。


「・・・ハァ・・・・・」


・・・私って役たたず・・・・・・


こういう時にマーシャがいたら・・・・


"なーに落ち込んでんだよ。ハゲッぞ?"


・・・とか言って・・・そしたらリオナが"お前がな"とか突っ込んで・・・


ムジカがなぜか落ち込んじゃったり・・・・・・


でもジークは"そんなマーシャが好きだっ!"とか言っちゃって・・・・・・・B.B.が暴れ回る。


・・・・はぁ・・・・・私って何もできな・・・


「お姉ちゃん・・」


すると今まで黙っていたクロードがルナの腕をひっぱった。


ルナ自身もびっくりしたようで
あたふたした。


「・・・・・・・・?」


「あのね・・・僕を1人にしないでね・・・・」


少し悲しげに見つめてくるクロードがあまりにも切なくて。


ルナはそんな彼をギュッと抱き寄せた。


「・・大丈夫よ・・・・・みんなの帰りを一緒に待ちましょうね・・」


「・・・うん」


・・・・・・・・・そうよ・・・


私にだってできることがあるわ・・・


ルナは心の中でガッツポーズをとった。


するとその時。


ピンポーン・・・・・・


家中に呼び鈴が鳴り響いた。


ルナとクロードは思わず顔を見合わせる。


「・・・誰かしら・・・・・・」


・・・嫌な予感がする・・・


ルナの顔は自然と歪む。


が、逆にクロードの表情は一気に明るくなった。


「・・・お兄ちゃんかも!!!」


「・・ぇ・・・・・あ・・・ちょっ・・・・クロード・・・・・!?!」


ルナの制止も聞かず
クロードは玄関へ走っていってしまった。


・・・・・・違う・・・・・



・・・・リオナたちじゃない・・・・・・・



「・・・まって・・・・・クロード・・・・・・!!」


ルナも追い掛けようとした
その瞬間。



ガシッ・・・・・・・・・


「・・・・・!?」


ルナとクロードしかいないはずの家。


しかもクロードは今この部屋にはいない。


でもなぜか腕を捕まれている。


誰かの手で。


「・・・・・・っ・・・・!」


鼓動が早まる・・・


振り返りたくない・・・


・・・怖い


ルナが体を震わせる。


するとそれに気が付いたのか
腕が解放される。


しかし次の瞬間
身体中が暖かいものに包まれた。


気がつけば何者かに後ろから抱き締められている。


「・・・!?!?」


ルナはそっと目を下に向けた。


自分を抱いているのは腕からして男のようだ。


だがその腕から逃れようとしても逃れられない。


「・・・は・・・・離して・・・!!!!」


必死に声を絞りだす。


「・・お金ですか・・!?・・・お金なら・・」
「ひどいなぁ。もしかして忘れちゃったのかい?まぁ確かに何十年も会ってなかったけどね。」
「・・・・・!!!」


ルナは振りほどこうとするのをやめた。


こ・・・・この声は・・・・


「ねぇ・・・ルナ?」


「・・ま・・・さか・・・・」


「やっと思い出してくれた。」


この声は・・・・・・


「・・・・更・・・・・夜・・・・」

















「くそ・・・!!!!どこにいやがる!!!」


曇天の下を
マーシャは1人走り続けていた。


"カイ"と呼ばれる者をただひたすら探す。


だが頭の隅には色々な不安が蓄積していた。


リオナとムジカは大丈夫なのだろうか。


あの元・友人たちに何か言われていないだろうか。


また傷ついていたりしないだろうか。


特にあの二人は心に闇を抱えている。


だからこれ以上2人を傷つけたくない。


だがそんな危ない状況を見捨ててきたのは自分であって。


何度も何度も戻ろうと考えたのだが
どうしても体がいうことを聞かない。


恐らくそれは
まだ自分を許せていないから。


"彼女"を"奴ら"から守れなかった自分が憎いから。


・・・恨みを忘れるな・・・・



・・強くなれ・・・・



この言葉は"奴"が俺に残した言葉。


"彼女"を殺したルナをかばいながら
放った言葉。


俺もそう思った。


だから俺自身何度も何度も言い聞かせてきた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


するとマーシャは今まで動かしていた足を突然止める。


静まり返る学園内に流れるのは1つのゆっくりとした足音。


その足音は確実にマーシャに近づいてきている。


「やっとかよ・・・」


マーシャは体を震わせた。


恐怖からではない。


それは何年も積み重ねてきた思い、そして"興奮"。


マーシャの口元が不気味に引きつる。


そしてゆっくり振り返った。


「待ってたぜ・・・カイ!」


マーシャの目の前に立つカイと呼ばれた男。


長身に少し長めの白髪をなびかせ
鋭い眼光でこちらをじっと見つめていた。


「・・やはりお前か。マーシャ。」


カイは無表情のままマーシャに近寄ってくる。


「元気にしていたか・・?まぁその様子じゃ力が有り余っているほど元気そうだがな・・。」


「そりゃそうさ。何十年も俺はアンタを倒すことだけを考えてきたからな。」


「知っている。どうやらダーク・ホームの四天王だったらしいじゃないか・・。」


「四天王?んなこたぁどうでもいい。なぁさっさとヤろうぜ?俺もうゾクゾクしてんだ。」


マーシャはペロッと自分の唇を舐めると
瞬時に悪魔をひきだし瞳を真っ赤に染めた。


「まぁそう焦るな・・・。久々に会ったんだ・・・ゆっくり話がしたい。」


「俺は嫌だね。お前なんかに話すことなし。」


そう言うと
マーシャは身体中から取り出した大量のナイフを一瞬で鎌に換え振り回す。


その様子をカイは無表情にただじっと見つめていた。


「まったく・・・お前のせっかちはかわらないな。」


「せっかちじゃなくて積極的なんだ。」


カイが腰から長剣を取り出したその瞬間
カイとマーシャは打ち合いを始めた。


金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。


しかしそのスピードは尋常ではなく、金属音が鳴り止むことはない。


「ほう・・・腕を上げたな」


「はっ!当たり前だ。恨みを忘れるな、強くなれっつったのはアンタだろーがッ」


再びマーシャは瞬時にナイフに戻し
リズムが崩れたカイに一瞬でナイフが飛んでいく。


・・・ガン・・・!!!!


だが刺さったのは地面のコンクリート。


カイも瞬時に移動したようだ。


「さすがだ・・・マーシャ。」


「・・・・・・・!?どこだ!」


声は聞こえるが姿が見えない。


「だが・・・・・お前はまだ弱い。」


「はぁ!?何言って・・・・ッグ・・!!!!!!!」


気がついたときにはすでにマーシャの後ろに現れたカイの長剣が腹を貫いていた。


「ガ・・・・・・・・・ハァッ・・・」


「痛いだろう?マーシャ・・。これはただの剣じゃないんだ。俺が何十年もかけて作ったもう1人の"俺"だ。」


「はぁ・・・?アホか・・」


「この剣は俺の力を固めたもの。だから刺しただけで肉に焼き付くような痛みが走るのだ。」


そう言って目の前で苦しそうに横たわるマーシャの腹から思い切り剣を抜くと
マーシャは小さな悲鳴を上げてもがいた。



・・・・なん・・・で



苦しみにもがく中
マーシャの頭に記憶が駆け巡る。


まるで走馬灯のように。


「・・・な・・・・・ん・・・・・で・・!!!!!」


「・・・・。」


「・・お・・・れは・・・変わ・・・って・・・・・・ない・・!!!!!!」


ずっと・・・頑張ってきた・・・


自分を押し殺して・・・ただ強くなろうと・・・・


・・・なのに・・・なんで・・・・


「今日のお前は・・・・なんだかお前らしくなかった。」


「・・・・・・!?」


カイは地面に這いつくばったマーシャの背中をそっと撫でた。


「何か重たいものでも背負っているような・・・・まぁ簡単に言えば戸惑い・・だな。」


「俺・・は・・戸惑いなん・・て!!!」


「あるだろ?沢山。例えば・・リオナ=ヴァンズマンだ。」


「な・・・・!!!!」


「やはり図星か・・・」


「て・・・めぇら・・・・なんで・・リオナを!!!」


「知らないとでも思ったか・・。リオナ=ヴァンズマンがローズ・ソウルを持っていることを。だから彼がダーク・ホームに入った時から見ていた。」


・・・やっぱ・・・・そうだったのか・・・・・!!!!


マーシャは強く拳を握り締める。


「だがリオナを監視していたのはローズ・ソウルを持っていた事だけじゃない。」


「・・・!?」


「・・・俺の弟がリオナ自身を欲しがっているんだ。」


「どー・・・いう・・・事だ!?」 


「・・弟の性癖は少し変わっていて、奴は人が苦しむ顔が好きなんだ。だがある日からリオナの苦しむ顔でしか快感を得られなくなったらしい・・。」


「・・・・・・。」


・・・・・・・ただの変態か。


マーシャは呆れてため息をこぼす。


「まぁ今日はリオナには手を出さない・・。弟からの命令でな。だが・・・少しくらいは遊んでやってもかまわないが・・・」


不気味に笑うカイに対し
マーシャは自分でも驚くほど力を振り絞ってカイの首をつかんだ。


「リオ・・ナ・・に・・・・近づく・・・・・な!!!!!!」


その目は今までに見たことが無いような鋭さで
カイは鳥肌が立った。


「・・リオナ・・・に・・・何かしたら・・・・全員皆殺しにしてやる・・・!!!!!」


「ほう・・。そんなにまでリオナが愛しいか・・。なら余計リオナを壊したくなる。」


「てめぇ・・・・グッァァ!!!!」


首をつかむ手に力を入れようとした瞬間
マーシャの腹から血が吹きだした。


マーシャは痛みに悶えながら傷口を押さえる。


「哀れだな・・マーシャ。」


カイは目の前で苦しむ青年の額を撫で上げる。


「マーシャ・・早く気づけ。お前はリオナに惑わされている。」


「は・・・ぁ・・?な・・・に言って・・・・」

「お前が変わっていないのは・・・リオナに心を持っていかれているからだ・・・」


朦朧とする意識の中
マーシャはうつろう目をカイに向ける。


「・・・心・・・だと・・・・・?」


「そうだ・・。何をするにしてもまず第一にリオナを心配してしまう。リオナは大丈夫か・・リオナになにかあったら・・・ってな。」


「・・・・・・・・・」


心当りがなくもない。


だから返す言葉も見つからない。


「お前がリオナに執着する限り・・お前は俺を倒せないだろう。」


そう言ってカイは立ち上がり
背中を向ける。


「今日はお前を殺しに来たわけではない・・。俺は仕事に戻っ・・」
「待てよ・・・・」


足を前に出そうとした瞬間、
マーシャに脚を掴まれた。


仕方なくカイは振り替えると
地面の下で必死に食いかかろうとしているマーシャの姿があった。


「これ以上戦おうとでも?」


「違う・・・・・・」


小さくつぶやくと
マーシャの手に力がこもる。


「どうすれば・・・・お前を倒せる・・・・・・・・・?」


まさかそんな事を聞かれるとは、
カイも予想外だったようで。


カイは驚きの表情を見せながらも
すぐに不気味な笑みを浮かべた。


「お前のそういうところが好きだ・・・」


そう言ってカイは膝を付き
マーシャの顎をつかんでグイっと上げて
自分の顔を近付けた。


「俺を倒したいなら・・俺だけをみろ。」


「・・・・・・・・?」


「リオナなど放っておいて・・俺だけを思い続け・・・・見続けろ。殺してやるって恨みに満ちたその目で。」

「・・・・・・・・」


「ククッ・・・信じられないか?ならお前には少しだけ種をやろう・・。」


そう言ってカイはマーシャの耳に唇を近付ける。


「お前が愛した女の家族を殺したのは・・・この俺だ。」


「・・・なっ・・・・!!!!!!!」


一瞬で頭が真っ白になった。


マーシャの頭の中で、
"カイ"という男は"ルナを殺そうとした時に邪魔してきた奴で、
そしてルナの共犯者"というものであった。


だがまさか"彼女"のみならずその家族まで殺していたなんて・・・・



「て・・・めぇ!!!!!!!」


「その目だ・・・マーシャ。」


カイは小さく笑うと
再び立ち上がり
背を向けて歩きだした。


「また会おう・・マーシャ。次は"本当のお前"を待っている。」


そう言い残すとカイは姿を消した。


残されたマーシャは
先程までいた男の場所をただじっと見つめていた。


・・・・リオナを・・・捨てろ・・・・


「ふざけんな・・・・!!!」


・・・・リオナは絶対手放さない。


だってリオナは・・・・・・


「俺の・・・生きる糧なんだよ・・・・・!!!」


マーシャは力強く呟き
体を起こそうと手を地面につく。


が、その時。





ダァァァァァァァン・・・・・!!!!!!!



地鳴りが鳴り響いた。


そしてにわかに熱風が肌を掠める。


「なっ・・・・!!!」


音のした方を見れば
空には黒い煙が立ち上ぼり
空は真っ赤に染まっている。


爆発が始まったのだ。


「ヤバイ・・・・・・・・!!!」


マーシャは痛む傷を気にもせず
走りだした。












「ジーク!!!!」


マーシャは急いでジークのいる車に駆け付ける。


中ではジークが必死にパソコンをいじっていた。


「マーシャか・・・」


「ジーク状況は!?」


「最悪に近い・・・。」


ジークは顔をずっとパソコンに向けたまま
せわしくキーボードを打っている。


「さっき爆発が起きたのは知っているだろう?」


「ああ。派手にいってたな。間に合わなかったのか?」


「いいや。間に合ってたさ・・・」


「じゃあなん・・・」


マーシャは言い掛けて途中でやめる。


「まさか」


「そのまさかだ・・・!昨日止めたはずの爆弾がすべてリセットされてタイマーがついている・・!!」


ジークはクソッと小さく呟きながら
パソコンを閉じてしまう。


「おいジーク!?何して・・」
「逃げるぞ!!」
「はぁ!?」
「もう間に合わない!!」
「な!!!」


ジークは全ての機器を投げ捨て始めた。


「もうこの国は終わりだ!!すべての爆弾のタイマーが動きだしている!!」


まさかの言葉にマーシャは愕然とする。


「じゃ・・・じゃあ国民達はどうなる!?」


「安心しろ。国民は全員政府の手で国外に避難したようだ。」


「じゃあこの国に残ったのは俺たちだけかよ!!!」


「そう言うことだ・・。というかお前その腹の傷・・!大丈夫なのか!?」


腹に伸びてきたジークの手をマーシャはさっと振り払った。


「これくらい平気だ。日常茶飯事。」


ニッと笑うと
ジークは呆れたようにため息を吐いた。


「野蛮な奴らだな・・」


「お前に言われたくないよジーク。」


するとジークはマーシャに一枚の紙切れを渡した。


「なんだこれ?」


その小さな紙切れには地図のようなものが書かれていた。


「それは地下シェルターに繋がる地図だ。」


「地下シェルター!?そんなものがあるのか!」


「悪魔狩りがいざというときのために造っておいたものだ。私は今からルナとクロードを連れてくる。万が一俺がここに戻ってこなかったら先に行ってると思って少年達を連れてここに行け。」


「わかった。でもお前絶対戻ってこいよ!!」


「ああ。時間が無い!急げ!」


そう言ってジークは車のエンジンをかける。


その時
マーシャはふと動きを止めた。


遠くから小さな人影がこちらに向かってきているのが見えた。


「ちょっ・・ちょっと待て!!ジーク!!!」


今にも出発しそうだった車を必死に止める。


「なんだ!」


「あれ見ろ!!人がいる!!!」


「なに!?」


2人はその人影をじっと見る。


その人影はまだ幼く
必死に走っているのがわかる。


「まてよ?あれは・・・」


「クロード!?」


よく見れば人影の正体はクロードだった。


2人は慌ててクロードに駆け寄る。


「クロード!?お前どうして!!」


「・・・・お姉ちゃんが・・・・」


「クロード・・・もっと大きな声で言ってくれ。」


クロードは涙を浮かべながら
マーシャに抱きついた。


「お姉ちゃんが・・いなくなっちゃったぁ・・!!!!」


その言葉にマーシャとジークは顔を見合わせた。


「ルナが!?どうして!」


「・・連れて・・・・かれちゃった!!!!!」


ただただワンワンと泣き続けるクロードをマーシャは宥めるように抱き締めてやる。


・・・連れてかれた・・・・・・?


まさか・・・・・カイ・・・・


・・・いや・・・奴はそんなこと・・・・


「・・・・とにかく、今は逃げるしかないな。ルナは誰かに連れ出されたから・・・・恐らく無事だろう。」



ジークの発した言葉にマーシャも無言でうなずく。


・・・・ルナ・・・・


マーシャは踏ん切りを付けたように立ち上がる。


「どうやらジーク自慢の地下シェルターに行く必要は無くなったな。」


「残念すぎる。」


そしてマーシャはかがみ
クロードの目を見た。


「クロード、走れるか?」


「うん・・・」


「よし。」


そういうと
クロードの頭を撫でてやり
幼稚園に体を向ける。


が、マーシャはもう一度だけ振り返り
逆方向を見つめた。


自分たちが住んでいた方を。


・・・ルナ・・・・・・・


「死んだら・・・・・・・俺がぶっ殺すからな。」


そう小さく呟くと
マーシャ達はリオナ達を迎えに幼稚園に向かって走りだした。











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