[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
第零章 story0-2 マーシャ





「ここか・・・?」


マーシャは"メイリン"と書かれた表札の家に入っていく。


中は電気もなく真っ暗で
マーシャはドタバタと色々なものにぶつかりながら進んでいく。


『あ・・・アンタ誰だ!?』


「・・・!」


するとマーシャの後ろから見知らぬ少年が姿を現した。


恐らくこの家の者だろう。


「お前危ないからこっちにくるな!」


『まさか・・・・アンタ俺の弟を奪いに・・・』


「・・・は?」


わけのわからないことを呟かれながら
ただでさえ早くダッドの元に行きたい焦燥感にさいなまれいるのに
マーシャはイライラがつのっていく。


「とにかくお前危ないから・・」


『弟は渡さないからな!!!』


「あっ!!おい待て!!!」


二階に駆け出す少年をマーシャはため息を漏らしながら追い掛ける。


しかし、
途中でふと不安が募る。



・・・弟・・・・?

渡さないって・・・・



「まさか・・・!!!!」


マーシャは全力で少年を追う。


・・・弟が・・・化神なんだ・・・!!!


さらに焦燥感をつのらせる。


しかし少年の足は思った以上に速く
ある部屋に入っていってしまう。



「・・・ダメだ!!!・・・・・ダッド!!!」


鼓動が高鳴る。


自分の足が重くなり
まわりの空気が止まって見える。


「ダッドォ!!!!!武器をおろせぇ!!!!!!!!!!!」





時が 一瞬止まった。



体全体に黒々した血が飛び付いた。



マーシャが部屋に入ったとき

すでにダッドはムチを振り下ろしていた。


部屋にいた化神はうめきながら姿を消しつつある。


しかし、化神であった弟の後ろには
呆然とたたずむ兄がいた。


『ぅ・・・・・・・ぁぁ・・・・・・・・・・・・・』

少年の右腕はダッドのムチにより化神ごと斬られ床に落ち
血だまりをつくっている。


「・・・な・・・なんて・・ことを・・・」


小さく唇を震わすダッドは
今にも発狂しだすのではというほど震えていた。


・・・・・間に合わなかった・・・・・・・


マーシャはただただ目の前の現実を受け入れたくないように
目を瞑り首を横にふりつづける。


・・・関係のない人間を・・・・・傷つけてしまった・・・・・・・



「は・・・・早く手当て!」


マーシャは少年を抱えようとする。


『さ・・・・ゎる・・・・・んじ・・・ゃ・・・・・・ねぇ・・・・ょ・・・・悪魔・・!!!!』


「・・・・!」


少年は痛みと憎しみに目を真っ赤に染めながら
部屋から出ていってしまった。


「・・・・・・・・・」


・・・・・ドサ・・・・・・・・・


その時
嫌な音が鳴り響いた。


何かが倒れる音。


「・・・・・・・ダッド!!!!!」


マーシャは急いで駆け寄る。


「ダッド!!!!おいダッド起きろよ!!!!」


何度たたいても返事がない。


「ダッドォ・・・・・!!!!」
















・・・・あれから彼の名前を何度呼んだだろうか・・・



・・・この声はあと何度届くのだろうか・・・



あと何度彼は反応してくれただろうか・・・・・・・












あの任務から一週間が経った。


マーシャが抱えてダークホームにつれて帰ってから
ダッドはずっと医務室で寝たきりで、
面会謝絶となっていた。



マーシャは毎日のように会いに行ったが
少しも会わせてくれない。



しかしマーシャはあきらめず
時間が空けば医務室にいき
会わせろと抗議を続けた。



今日もまた
マーシャは朝早くから医務室に行こうとしていた。


「・・・・マーシャ?」


部屋を出ようとすると眠そうに起きてきたシキの姿があった。


「悪い。起こしたか?」


「いや・・それよりまた行くのか・・・?」


「ああ。」


「・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・何が言いたい。」


シキがじっと睨み付けるため
マーシャはため息を吐きながら一旦その場に座る。


「言いたいことがあるならはっきり言えよ。」


「・・・じゃあ言わせてもらうが・・・お前寝てないだろ。」


「寝てるよ。」


「うそつけ・・。昨日も夜中抜け出して医務室に忍び込んだだろ?Dr.デヴィスに捕まって仕方なく部屋に戻ってきてさ・・・」


「寝ようと努力したけど眠れなかったからプラーと散歩してたらデヴィスに捕まって部屋に戻されたのぉ。」


明らかに適当な話にシキは怪訝そうな顔をする。


「はぁ・・・・あのなマーシャ。」


「・・・・・・」


「・・・・・・・・責任感じることないんだぞ?」


シキは真剣にマーシャの目を見つめる。


しかしマーシャは一切表情を変えず
むしろシキから目をそらしてしまった。


「マーシャ聞いてるか・・・!?俺はおまえの体が心配で・・・!!!」


「責任なんて感じてない。無理もしてない。むしろ部屋にこもってじっとしてろっていうほうが無理だ。」


「マーシャ・・・」


「俺が今欲しいのは安息でも飯でも睡眠でも慰めの言葉でもない。」


マーシャはスッと立ち上がり
扉に手を掛ける。


「今俺が一番欲しいのはダッドの笑顔だ。」


そう言ってマーシャは部屋を出ていった。



階段を一気に降りていく。


通り過ぎる人々はマーシャを見るなりヒソヒソと何かを呟く。


"・・・結局こうなるんだよな"


"ダッドには無理だったんだ・・"


"まぁこれでわかったんじゃないの?"


マーシャのこぶしが小さく震えるが
そのまま静かに押さえ込んだ。


「マーシャ」


すると後ろから突然声をかけられ
マーシャは後ろを振りかえる。


「デヴィス・・?今から行こうと思って・・」


デヴィスはマーシャの口に手をあて
しーっと言うと
ついてこいという合図を出した。


マーシャは首を傾げながらしぶしぶ後に続く。


デヴィスは医務室に行くと思っていたが、
すーっと医務室を通り過ぎてしまった。


そのまま奥へ行き、
離れの方にむかっていく。


最奥までくると
デヴィスは立ち止まり
最奥の部屋の扉に手を掛ける。


「入りな。」


デヴィスに促され
マーシャはそっと部屋に入る。


部屋に入ると
マーシャはまず目を細めた。


部屋全体がガラス張りで
太陽の光がさんさんと降り注いでいる。


ダークホームにもこんな部屋があったとは。


マーシャは驚きと感動で目を輝かせた。


「マーシャ・・・?」


「・・・・・!!!?」


一体どこから呼ばれたのだろうか。


マーシャはキョロキョロと辺りを見渡す。


すると一番眩しい場所に1つぽつんとベッドがおかれ
そこには待ち望んだ彼の姿があった。


「・・・ダッド!!!」


マーシャは駆け出し
ダッドのベッドにのりあがる。


「バカヤロー!!!心配したんだぞ!?」


マーシャは顔を歪め
今にも泣きだしそうな顔をする。


「ごめんなさい・・・心配かけてしまって・・・」


「もう大丈夫なのか?」


マーシャは心配そうに顔を近付ける。


もう一度・・・笑ってほしかった・・・・あははって・・・


「あはは。もう大丈夫ですよ。僕は元気です。」


そう言ってダッドは笑った。


「・・・・・・・・・・」



・・・・確かに・・・


ダッドは・・・・笑った・・・


俺が・・・望んだように・・・


・・・でも


・・・・どうしてだろう


俺のなかで・・・・・何かが割れる音がした・・・・




マーシャはしばらくしてからダッドにまたくると告げ
部屋を出た。


すると部屋の出口にはデヴィスが腕を組んで立っていた。


「あんだけ望んだ再会だぜ?もっといい顔しろよ。」


「・・・・・違う。」


「え?」


「あんなの・・・ダッドじゃない。」


マーシャはボツリと呟くと
呆然として歩きだす。


そんなマーシャを見て
デヴィスは深くため息を吐いた。


「神侵病だよ。」


「・・・・?」


マーシャは歩みを止め
デヴィスを見る。


「ダッドは昔から神侵病だった。軽めのな。だけど今回ので悪化しちまった。」


「神侵病?」


「まぁ一種の精神病だ。化神から強い神のエネルギーを受けすぎたり化神がらみで何か衝撃的なことがあった奴に起こる病気だ。」


初めて聞くダッドの病気にマーシャは頭が混乱する。


「その病気治るよな?悪化したって言ったけど体したことないんだよな?」


マーシャは願うようにデヴィスの胸ぐらをつかむ。


「・・・この病気は未だ治療法がない。」


「はぁ!?お前ダッドの病気を治すために医者になったんだろ!?なんで治療法がないなんて・・」


「俺だって努力してる・・!!!」


デヴィスはマーシャを突き飛ばす。


「ダッドは思ってた以上に状態が悪くなってたんだ!お前も話してみてわかったろ!?あいつにはもう心がないんだ!!!!!!」


一気に言い捲りたてられ
マーシャは少し動揺するが、

何よりも最後の言葉が胸にざっくり突き刺さった。


・・心・・が・・・・・・・ない


マーシャは一歩後ずさると
震える声で小さく呟いた。


「・・ダッドは・・・・・・どうなるんだ・・・・?」


答えは聞かずともわかっていた。


だって心を失ったものが辿る運命は・・・・・



必ずしも決まっているのだから・・・・













「マーシャ、進級おめでとう。まさか最短でスペシャルマスターになるなんてな。」


シキから祝福の言葉をもらい
マーシャは少し照れながら頭を掻く。



あの忌まわしの任務からすでに2年がたった。


マーシャもすっかり20歳の大人となり
初めてダークホームにきたころのことが遠い昔のように感じた。


「ほら、今日はまだ行ってないんだろ?早く行けよ。」


シキに促され
マーシャはニッと笑ってかけていく。


まずは医務室を覗き
デヴィスに声をかける。


「よっ。鍵かして。」


「あ?ほらよ。」


いつものようにデヴィスから鍵を受け取る。


「待てマーシャ。」


「ん?」


マーシャが再び顔を向けると
デヴィスはビシッと親指をたてた。


「昇進おめでとう。まさかお前がなるとは思ってもいなかったよ。」


「だろーな。」


「でもここ数年で一番いいニュースだ。ありがとよ。」


「ははっ。こちらこそ。」


マーシャはニッと笑い走って部屋を出ていく。


毎日通っている道だが
今日はなぜかドキドキする。


恐らく
まだ信じられない気持ちでいっぱいだからだろう。


マーシャは口元をゆるませながら最奥の部屋に向かう。


そして扉の鍵をあけ
扉を押す。


キィッと音を立てて開いた扉は
眩しい世界へとマーシャを導いた。


マーシャは一目散に部屋の隅にあるベットにむかう。


「ダッド聞いてくれ!俺スペシャルマスターになったんだぜ!?すごいだろ!」


「・・・・・・・・・・」


ダッドはただ微笑んでいるだけで何も反応しない。


しかしこれは2年前からずっとで、
でもマーシャは諦めず毎日毎日話し掛けている。


「俺やっと・・・ダッドに近付けたかな。なぁダッド?」


「・・・・・・・・」


「強くなる。もっともっと強くなるから・・・」


もしダッドを抜かしたその時は・・・


「すごいですよってメチャ誉めろよな。」


マーシャはそう言って笑いかけ
背中を向けて扉にむかう。


"・・・・・・・マーシャ・・・・・・"


「・・・・・・?」


一瞬名前を呼ばれた気がして振り返る。


しかしダッドはただただ微笑んでいるだけ。


「・・・・・・・気のせいか。」


マーシャはそのまま部屋を出ていく。


ダッドの目から一筋の涙が零れたことも知らずに。











"マーシャ・・覚えてますか?"


"何を?"


"ほら、初めて会った時のことですよ。"


"あー、ダッド変な奴だったなぁって事くらいしか覚えてない。"


"僕はこれでもまともだと思って生きてきたんですが・・・。"


"じゃあ俺の第一印象は?"


"そうですね、頭がボサボサの・・"

"・・・もういい。"


"あはは。冗談ですよ冗談。マーシャははじめから見て分かりました。"


"なんて???"


"優しいなって。"







スペシャルマスターになってからさらに2年がたち、22歳になったある日。

久々にダッドの夢を見た。


夢の中のダッドは昔みたいに笑っていた。


どうせならずっと夢の中にいたい。


そしたらずっと・・・


「マーシャ・・・・・起きろ!!大変だ!!」


「・・・・・・!?」


突然シキに起こされ
マーシャはビックリして体を起こす。


時刻はまだ夜中の3時21分


モーニングコールには早すぎる。


「一体何が・・」


するとマーシャの耳に
微かに何かが聞こえてきた。


ダークホーム内に広がる悲鳴。


「・・・・何があった?!」


するとシキは暗い表情を上げ
ゆっくり口を開く。


「・・ダッドが・・・・・・・・・・」


「・・・・まさか・・・」


「・・・化神になった・・・・・・」


マーシャはただ目をあけたまま
シキを見つめる。


「・・・・場所は?」


「・・一階の・・玄関ロビーだ・・」


そう言われ
マーシャはゆっくり立ち上がる。


そしてゆっくりと部屋を出ていった。



・・・覚悟はしていた・・


いずれはこうなるって・・・


ただ・・


・・・現実を受けとめられない自分がいたんだ・・・





マーシャが一階の玄関ロビーに着いた時にはダッド・・・いや化神はすでに多くのエージェントに囲まれていた。


そのエージェントをかき分け、
マーシャはゆっくり化神に近づく。


「どいてくれ。」


その言葉にエージェント達は戸惑いながらもマーシャの後ろに退いていく。


マーシャは足を止め
化神と化したダッドと向かい合う。


『フシュゥウゥゥ・・・・』


すでにダッドの面影などない。


あの笑顔も・・



「なぁダッド・・・」


マーシャはいつもの様に話しだす。


「前にダッドが俺に"初めて出会ったときのことを覚えてるか"って聞いただろ?」


『・・・・・ギィィイィィイ・・・・・・』


「俺あの時覚えてないって言ったけど・・・本当はハッキリ覚えてる。あの時ダッドが言った言葉・・・」


"約束してください。その恨みを晴らすのではなく、心に刻んで・・今度こそ、大切な人を守ることを。"


「ダッドが初めてだったんだぜ?俺の気持ち分かってくれたの・・・。」


・・・アンタは・・俺を変えたんだ・・・


「また・・・ずっとアンタのそばで・・・笑顔を見てたかった・・。ははっ・・・甘いかな?でもな・・・だから・・・」


マーシャは身体中からナイフを取り出し
悪魔の力で鎌に変形させる。


そしてダッドに向けてかまえた。


「最期に・・最高の笑顔見せてくれよ。」




・・・・・涙はもうとっくの昔に捨てた・・・・



ダッドと約束したあの日に・・・・




ダッド・・・・




俺は・・・・・・・




どんなに周りからけなされても・・・・・







周りが何といおうと・・・・












・・・・ダッドを誇りに思うよ










マーシャが振り下ろした鎌は化神を見事に切り裂いた。


化神はものすごいスピードで小さくなっていく。


まるで心残りがないように。


「・・・ダッド・・・」


デヴィスはただただダッドが消えていくのを見つめる。


何度か手を伸ばしては引っ込め
何かをつぶやいては目を閉じた。



気付けばそこに残ったのはマーシャとシキとデヴィスだけ。


ダッドが完全に消え去っても
マーシャはじっとその場を見つめていた。


しかしマーシャは何度も何度も彼の名を呼び続ける。


「・・ダッド・・・・・」





・・・届かないってわかってた。








「・・・ダッド・・・・」








でも手を伸ばせばつかんでくれるような気がして・・・・・








「・・・ダッド・・・!」









だから最期にもう一度・・・








「・・・・ダッドォォ・・・・・!!!!!!!」







あなたに思いを届けたかった・・・・




































ダッドが死んでから半年がたった。



シキは大量の資料を抱えながらマスタールーム第一使用人室に入っていく。


息をつくまもないくらい忙しく動き回るシキに
一本の電話がかかってきた。


シキは「こんな時に・・・・」
とため息を洩らしながら受話器を取る。


「はい。シキ=ワーカーヴァンズ。」


"あっシキ?俺。"


そこから聞こえたのは半年ぶりの懐かしい声。


「マーシャ!?お前どこをほっつき歩いてたんだ!!!」


"どこって・・・ここ?てかちゃんと任務はやってたろ?"


「あのなぁ・・お前ダッドの葬儀にも出ないで何考えてんだ!?ダークホーム中"マーシャ死んだ説"が流れてんだぞ!?」


"マジ?あはは。それナイス。"


「あははってお前・・・今どこにいる!ったく時天大帝国が壊滅したっていうのに・・・」


"ヒミツ。ってかなにその話?壊滅したって。"


「時天大帝国が壊滅させられたんだよ!ローズソウル盗まれてな。」


"ふぅん・・・・・・・ローズソウル、ね。"


「おい、マーシャ聞いてるか?今すぐダークホームに・・」


"悪い、行く場所できた。"


「え?!!おいマーシャ!!!ってきられたし・・・・・・・・」






マーシャは電話を切り
小さく笑う。



「もうちょっと・・・待てよな。」


そう呟いて
歩きだす。







・・・・・俺・・・・・








まだダッドには会えない・・・







だってまだアンタとの約束果たしてないから。






"大切な人を守る"って約束。










だからもうちょっと待ってほしい。







次に会うときは









ダッドに胸はって話せるような











あははって笑えるような











そんないい話がしたいからさ。











END



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!