[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
第零章 story0 マーシャ

(マーシャがダークホームに入る時からリオナに出会うまでの話)















・・・・ここ・・・・・どこだよ・・・・




・・・・てか・・・今いつ・・・・・?




ボロボロのコートに身を包み
今にも抜け落ちそうな靴を履いた赤茶髪の少年が
1人砂漠を彷徨っていた。


何日も何も食べずに歩き続け
少年はすでに限界を迎えようとしていた。


「・・・・疲れ・・・た・・・・・・・」



・・ああ・・・死んだほうが楽なんじゃないか・・・・・・


・・・こんなことしてたって・・・・


・・・・彼女は帰ってこない・・・・・・・


少年は遂に力なく膝をつき
そのまま目を瞑った。










・・・なんか・・・・温かい・・・・



・・ああ俺・・・死んだんだ・・



・・ついに・・・なんにも遂げることなく・・・・



・・・ばぁちゃん・・・ごめんな・・・・



・・・俺・・・先にみんなのとこに・・・・




「・・ぉーぃ・・・」





・・・ほら・・・・誰かが呼んでる・・・




「ぉーぃ・・・・聞こえてますかぁ・・・・」



・・・・聞こえてるよ・・・・・・・




彼女かな・・・・・・




今・・・・・そっちに行くから・・・・・





瞼がだんだん明るくなっていく。



少年はゆっくりと目を開いた。






「あっ。生きてる。よかったよかった。」


「・・・・・・・・」


しかしまず少年の目に映ったのは
天使でも悪魔でもなく
知らない青年だった。


「・・・・・・・・・・」


「あれ?死んじゃったかな?おーい。」


「・・・・・・・・!?あ・・・あんた誰!?」


少年は生きていることよりも
目の前にいる青年に驚いた。


桃色の髪をした青年は
ポカンと口を開けながら自分に指を差す。


「僕ですか?僕はダッドっていいます。見た目は10代ですけど立派な28歳です!」


「そ・・・そうじゃなくて・・・」


やりずれぇ・・・・


「ぁあ!どういう成り行きで僕が君の前にいるかってことですか?」


「・・・・あ・・・ああ。」


「僕はただの通りすがりの旅人・・・とでも言いましょうか。たまたま君を見かけてずーっとあっちから走ってきたんですよ?」


「あ・・・ありがとう・・・」


「いいえ。でも良かったです。」


すると青年は笑顔で少年の手をつかむ。


「・・・・・何が?」


「君が生きていたことです。」


「・・・・」


赤の他人なのに・・・・


すると青年は突然少年に背中を向けてしゃがむ。


「な・・・何してんの・・・?」


「何って、おんぶですよ?おんぶ。」


「まさか・・・俺にそこに乗れと?」


「はい。さぁ遠慮せずに!」


「い・・嫌だよ!なんでこの歳になって見ず知らずの男に背負われなきゃいけねんだよ!!!」


「この歳って、君いくつですか?」


「15だ!」


「ならまだギリギリセーフですよ。さぁ恥ずかしがらずに!」


「嫌だって・・・ぉわ!!ちょ・・!!!はーなーせぇ!!!!」


「あははは。元気で何よりです。」


天然童顔男に無理やり背負われながら
少年は仕方なく流れに身を任せた。



「そういえばまだ君の名前を聞いていなかったですね。なんていうんですか?」


「・・マーシャ・・・・・・・マーシャ=ロゼッティー。」


「マーシャですか。いい名前ですね。」


「・・・・どこが?」


「響きがです。」


いまいち掴み所がないダッド。


マーシャはわざとらしくため息をつく。


「ところでなぜマーシャはあんなところに?しかも大分ボロボロですよ?」


「・・・・・・・あんたには関係ない。」


「あははは。確かにそうですね。」


「・・・・・あははってあんた・・」


「はい?」


「・・・別に。」


マーシャは口を尖らせて顔をそらす。



・・やってらんねぇ・・・


なんなんだよこの変な男は・・・


はぁ・・・はやくこんな奴とはなれてぇ・・・


でも・・・今はこの男に頼るしかない・・・


体力全快したらさっさとおさらばだ・・・









そんなこんなで数日がすぎた。


ダッドはマーシャの体を気づかってか
なるべく日のあたらない森を通り
日が暮れるとすぐに夜の支度をしはじめた。


二人ともお互いの事は何も聞かず
ただ近くの国をめざして歩き続けた。


ダッドはマーシャを近隣の国の病院に預けるつもりだったらしいが
マーシャにそんな気はさらさらない。


今夜にでもこっそり出ていくつもりだった。





月が顔を出しはじめた頃
ダッドとマーシャは焚き火をしながら夕食をすませていた。


「それにしてもマーシャは本当に元気になりましたね。よかったよかった。」


「・・・・あんたのおかげだよ。」


「そんなことありませんよ。ただ僕は当たり前の事をしたまでです。」


「・・ふぅん。あんたお人好しなんだな。」


「そうですかね。あっ、でもよく親友に言われますね。」


「・・・俺だったら絶対に見捨てる。だって使い物にならないからな。」


「あはは。マーシャはまるで軍人みたいですね。」


「・・・あんた頭イカれてると思ってたけど案外鋭いな・・!」


「あれ?当たりですか?通りで体付きがいいと思いました。でも若くして偉いですね。」


「そ・・・そうかな。」


「はい!素晴らしいですよ!」


「・・・なんか照れるな。」


マーシャは顔を赤くしながら頭を掻く。


「あはは。でもマーシャは軍人らしくないですね。」


その言葉にマーシャは思わずむせる。


「な・・・!あんた今褒めたくせに突き落とすのか!?」


「そうじゃありませんよ。ただ軍人は皆冷徹な人たちばかりですから。それに比べてマーシャはとても温かい。そう思ったんですよ。」


「べ・・・・別に温かくなんか・・」


するとダッドはマーシャの手をつかみ
小さく微笑んだ。


「いいえ、温かいですよマーシャ。」


「・・・・・」




ダッドは掴み所がないし


見た目はなよなよだし


いっつも笑顔で不気味だし


なにかと天然で危なっかしくてどうしようもない男だけど・・・・




・・・俺の心を感じてくれた


初めて・・・俺のことをわかってくれた・・・・



だから・・・俺はどこかでダッドの事を・・・気に入っていたのかもしれない





「さて、今日はもう休みましょう。明日早くに出発すれば夜までにはすぐそこの国にたどり着くでしょう。」


「あ・・・ああ」


「それじゃあお休みなさい。」


「・・お休み」











夜中


月がてっぺんに上り切った頃

マーシャはのそのそと起き上がった。


隣で眠るダッドを起こさないように荷造りし
静かに立ち上がる。


・・・黙ってでてくのは悪いけど・・・


「・・・ありがとな・・・ダッド・・・・」


マーシャは小さく呟き
その場をあとにした。


そのあとは
ただただ森を進むだけ。


「・・あいつ・・・イイ奴だったなぁ・・」


・・・でも・・・俺は・・・呑気に旅なんかしていちゃいけないんだ・・・・


・・早く・・・強くなって・・


・・あの女を殺してやる・・・・


恨みを忘れるな・・・強くなれ・・・・




マーシャは何度も心で唱えながら
どんどん先に進む。



しかしいくら歩いても
森の出口が見えてこない。


「あっれぇ・・・?迷ったかなぁ・・・?」

辺りをキョロキョロ見渡すが、
暗くて何が何だか分からない。


「・・・やば・・・とりあえずあっちの方に・・・」
『・・・ギィィィャァァア・・・・・・・・』


突然森中に不気味な声が響き渡る。


マーシャは悲鳴に似た叫び声に思わず歩みを止めた。


「・・ははは・・・・気のせいだよな・・・・・」


そう言い聞かせながら歩みをすすめようとする。


しかし


『ギィィィァァアガァィィイ・・・・・・!!!!』


その叫び声は確実にマーシャに近寄りつつある。


決して気のせいなんかじゃない。


「・・・・やばいだろ・・・・なんなんだよ・・・・!!!!」


マーシャは辺りを見渡しながら
得体の知れないものへの恐怖で
背中を冷たい汗で濡らした。


・・・動け・・・・・・・



・・・・・怖がるな・・・・・




・・・・・・強くなれ・・・・・・・・!!!!




マーシャは何度も心に言い聞かせ
体の何処に隠していたのか
何本ものナイフを取出し
自分のまわりを囲むように浮かせた。



するとその時だった。



『ギィィィャァァア!!!!!!!!!!!!』



突然黒い影がマーシャめがけて走りよってきた。


「・・・・・・・そこか!!!」


マーシャは黒い影に一気にナイフを飛ばした。



が、しかし


ガッ・・・・ガン・・・ガン・・・ガンガンガン!!!!!!!


まるで鉄の壁にぶちあたったかのようにナイフはすべて跳ね返されてしまった。


「・・・嘘・・・・だろ・・・・・・」


マーシャは驚きと動揺で身動きがとれない。


しかし黒い影はどんどんマーシャに近づいてきている。


そして月光が黒い影を捕えた。


「・・・な・・・なんだよコイツは・・・・・・・・!?」


その姿は人型なのにまるで獣の様に牙や爪を剥き
目はギラギラと金に輝き
身体中からは黒々しい煙が吐き出されていた。



マーシャは思わず息を呑む。



・・無理だ・・・・無理だよ・・・・・



そして得体の知れない怪物は
マーシャめがけて思い切り駆け出す。



マーシャはとっさに目を瞑った。





・・ああ・・・・・今度こそ死ぬんだ・・・・・・・



・・・・俺・・・弱いな・・・




・・・結局・・・・弱いままだった・・・・・・・




・・・どうしてかな・・・・なんでかな・・・・・・




・・・俺には・・・強くなる資格がないのかよ・・・・




・・なぁ・・・・・神様・・・・・・




・・・俺・・・・アンタを一生恨むからな・・・・・




今度こそ・・・・・・彼女が俺をむかえに来てくれる・・・



・・・金色の光に包まれて・・・・




天使たちの歌声が俺を・・・



『ギャアアアアアアア・・・・・!!!!!!』


「・・・・・・!?」


次に聞こえたのは天使の歌声ではなく
怪物の悲鳴だった。


マーシャは咄嗟に目を見開く。


「・・・・・・・あ・・・・あれ!?俺生きてる!?」


しかし確実に目の前にはあの怪物が今にも襲い掛かろうとしている。


だが様子がおかしい。


怪物はうめき声をあげながら
地面に倒れたのだ。


「・・・へ・・・・・・・・?」


一体何が起こったのか。


マーシャはキョロキョロと辺りを見回す。


すると怪物の後ろからひとつの人影が現れた。


その影は手にムチのような物を持ち
怪物に向かって大きく振りかざした。


バチン・・・!!!!


『ギャアアアアアアア・・・・・・』


そのムチは黒い光を放ちながら
怪物を切り裂いた。


そして怪物はいとも簡単に崩れ去っていった。


マーシャはその光景に呆然とした。


「これは"化神"というものです。元は人間でしたが弱い心を神に付け込まれたのでしょう。」


すると怪物を倒した影が
ゆっくりとマーシャに歩み寄ってくる。


「あ・・・あんた・・!?」


聞き覚えのある声



独特の口調



そして赤髪の童顔



「心配しましたよ?マーシャ。」


「だ・・・・ダッド・・・!?」


急展開に頭がついていかず
マーシャはただただダッドを見つめる。


「あ・・・アンタ・・・!!何者だ!?人間じゃないな!?」


その言葉にダッドは苦笑する。


「確かに、人間だと言えば嘘になるし、人間じゃないと言っても嘘になる。」


「は?」


「僕は悪魔です。」


「はぁ・・・!?」


マーシャは半信半疑の目を向ける。


「詳しく言うと、僕は悪魔と契約を結んだ人間です。」


「・・・じゃあその強さは・・」


「はい。悪魔と契約をしているからです。僕はダークホームという組織に所属しています。」


「ダークホーム・・・?」


「悪魔直営の秘密組織です。僕達は今のような化神を倒したり世界の均衡を守るのが仕事なんです。」


「・・・へ・・・へぇ・・・・・」


マーシャは初めて聞かされた事に驚きを隠せずにいた。


「他に質問がなければ寝床に戻り・・」
「まった・・・!!!」
「・・・・・・・?」


マーシャはダッドの腕をつかむ。


「その組織に・・・俺も入れるか!?」


「え?」


「ダークホームに入りたいんだ!!」


「ぇえ!?」


ダッドは目を丸くしてマーシャを見る。


しかしマーシャの目はまっすぐで
強い意志がこめられていた。


「困りましたね・・」


「・・・強くなりたいんだ・・・・・」


「わかりますよ・・?でも・・・」


ダッドはいつになく厳しい表情を浮かべながらマーシャに告げる。


「マーシャ・・君には無理です。」


その言葉にマーシャはダッドにつかみかかる。


「・・・・!?なんでだよ!!」


「君には適していないからです。」


「どこが!?俺人一倍強くなりたいと思ってんだぜ!?」


「では逆に問いますが・・マーシャはなぜ強くなりたいのですか?」


「・・・・・!!!」


マーシャは思わず口をつぐむ。


「怨みを・・・晴らすためですか?」


「・・・・・!!!!!!!」


鋭い問い掛けにさらに息をつまらせる。


「君の目は確かに強さを求めてはいます。しかし怨みを晴らしたいがためにしか見えないのは気のせいでしょうか?」


マーシャは厳しいダッドの問いにうつむき、こぶしを震わせる。


そんなマーシャを見て
ダッドは申し訳なさそうに目を瞑る。


「さぁ、国まであともう少しです。夜も明けてきたみたいなので出発しましょう。」


そう言ってダッドは座り込むマーシャをむりやり背に乗せ歩きだす。


無言の空気がつづいた。


時々ダッドはマーシャに話し掛けるがマーシャからの反応がない。


しかしどうしようもなくなって
はぁ・・っとため息をついたときだった。


「・・俺・・・」


小さな声でマーシャが話しだした。


ダッドは軽く後ろを向くが
すぐに前を向いて歩みをすすめながら耳を傾ける。


「・・俺・・昔から好きだった人がいたんだ・・・・その人・・・・俺より2つ上でさ・・だから年下の俺には見向きもしないで・・・」


「はい・・」


「どうにかして・・・・振り向かせたかった。そしたら彼女・・強い男が好きだって言うから・・・俺頑張って体鍛えて帝国軍に入ったんだ・・・・・」


マーシャは苦しげに話ながら
ダッドの背中でこぶしを握り締める。


「そしたらある日・・光妖大帝国から使者がやってきた。俺、仕事である2人の護衛をやる事になったんだ。」


「・・・・?」


「その1人の女の名前はルナ=ローズ」


「神の子・・・・ルナ=ローズ・・ですか」


「ああ。・・・そいつ、なんか知らないけど俺に護衛を頼んできた。俺やっとまともな仕事ができるって少し嬉しかった・・。でもそいつ・・ルナ=ローズは・・・・」


マーシャはダッドの背中に顔を埋め
声を震わせる。


「俺が目を離したすきに・・・・ルナ=ローズが・・・彼女を殺したんだ・・・」


「・・・・・・!?」


「俺・・もうどうすればイイかわからなくて・・気付いたらナイフ片手にルナ=ローズに突進していってた・・・。でも・・殺せなかった・・・光妖大帝国の奴らに止められて・・・・・」


「・・・・」


「だから俺・・・やりきれなくて・・・気付いたら国をとびだしてた・・・・・ただ現実を忘れたくて・・・・・あいつさえ殺せばすべて終ると思ってて・・・」


「・・マーシャ・・」


「・・強くなりたい・・・・もう誰も傷つかないように・・・・でも何度そう思っても恨みが先に出ちゃうんだ・・・・あいつさえいければって・・・・心の中では・・そんなことしたって無駄だって分かってるのに・・・・・だめだね俺・・」


「・・・・・・」


森に差し込む朝日に目を細めながらダッドは深くため息を吐く。


そしてふと歩みを止めた。


「・・・ダッド・・・・?」


するとダッドは突然方向転換し
違う方向に向けて歩きだした。


「ど・・どこに向かってんの・・?」


マーシャは恐る恐る尋ねる。


しかしダッドはいつもの穏やかな笑顔でこう答えた。


「ダークホームです。」


「な・・・なんで!?」


「マーシャ」


「・・・・?」


「恨みは憎しみを生むだけで、憎しみは自分をつぶすだけです。」


「・・・うん。」


「だから約束してください。その恨みを晴らすのではなく、心に刻んで・・今度こそ、大切な人を守ることを。」


「・・・ダッド・・・」


「まぁダークホームは厳しいところですからそんなことも言ってられないかもしれませんがね。」


そう言って苦笑する。


しかしマーシャにはそれで十分だった。


「・・ああ!!俺約束する!!」


マーシャは力強くうなずき、
背中からダッドに抱きつく。


「あはは。マーシャくすぐったいですよ。でもまぁ・・よかったです。」


「何が?」


「マーシャとまた一緒にいれることですよ。」



この時から・・ダッドは俺の師匠であり・・



・・・俺が目指す憧れの人でもあった・・・








「すっっげぇぇメイドの数!」


「あはは。マーシャはどの子が好みですか?」


「俺女嫌い。」


「そんなこと言ったら女の子が泣いてしまいますよ?さぁ入りましょう。」


マーシャとダッドはダークホームに到着し
ダークホーム恒例のメイドの出迎えを受けていた。


「へぇ。ダークホームって毎回こんな手厚い出迎えがあるんだ。」


「それはダッドがスペシャルマスターだからだ。」


「・・!?」


突然聞き覚えのない声が聞こえ
マーシャはバッと振り返った。


いつからいたのだろうか。
マーシャとダッドの間に見知らぬ男が立っていた。


「ほぉ-。コイツがダッドが連れてきたガキか。」
「ぁあ!?」


マーシャはカッチーンときて男にガンをとばす。


「アンタ今ガキって言ったな!?」
「ああ。本当のことを言ったまでだ。」
「てめぇ!!」
「ちょ・・・・・・二人とも!!」


ケンカになりかけた二人をダッドが必死に止める。


「おいおい。ダッドはこのガキの肩を持つのかよ。」


「だってマーシャに対して失礼ですよ?ごめんなさいマーシャ。一応この人は僕の友人のデヴィスです。」


「友人じゃない。親友だろ?」


「どっちも一緒ですよ。で?デヴィスは一体何の用なんです?」


「ああ、後でおまえの部屋行くから。話したいことがある。」


「わかりました。じゃあまた後で。」


デヴィスは手を振りながらメイドの中に消えていった。


「・・・いやな奴。」


「あはは。確かに。でもデヴィスも慣れればイイ人ですよ!」


「慣れればね。ってかスペシャルマスターって何?」


「スペシャルマスターは戦闘チームのランクで、一番上のランクのことです。」


「ぇ!?じゃあダッドもめちゃくちゃつえーじゃん!!」


「そんなことありませんよ。さっきのデヴィスもスペシャルマスターの一人なんですよ?」


「性格悪いけど強いんだな。」


マーシャの愚痴に苦笑しながらダッド達は先を急いだ。






マーシャはマスターに会ったあと
ダッドと別れて自室へむかった。


どうやら部屋数が足りないため
誰かと同室らしい。


「あっここだ。」


部屋の前にたどり着くと
マーシャは軽くノックする。


しかし反応がない。


「あれ?いねぇのかな?」


マーシャは普通に扉を開ける。


すると廊下を抜けて奥に行くと
足元で倒れている人物が目に入った。


「・・・・」


・・生きてんの?死んでんの?


マーシャは不思議に思いながら
倒れている人物に近づく。


「おいおーい。」


「ン・・・・あ」


声をかけるともぞもぞと動き出した。


なんだ、生きてんじゃん。


「お前こんなとこで寝てたら襲われちまうぞ?」


すると倒れていた少年が驚いたようにマーシャを見る。


「え・・・・・・・うぁ!!俺いつからここに!?って君!!なんて事を言うんだ!!!」


「ははっ。いやあんた美形だからさ。本当のこと言っただけ。」


「な・・・・!!君いい加減にしろよ!なんでそんなはずかしげもなく・・・・!!失礼します!!」


「おいおい。どこ行く気だよ。」


「自分の部屋に戻るだけです!!!」


「お前大丈夫か?」


「は?!君に言われたくありません!!」


「ちがくてぇ。」


マーシャはぐいっと手をつかむ。


「??なっなにするんですか!?手を離してください!!」


「あのさぁ、今日から同じ部屋になったんだけど。」


「は・・・・は?」


「だからぁ俺昨日ダークホームに入って今日からあんたと同じ部屋になったの。」


「き・・・・君が?」


「あれ?聞いてなかった?」


「いや・・・聞いてたよ。でも元・王族の兵士って聞いてたからてっきり大人だと・・・」


「ははっ。俺はまだ15歳だよ。腕は確かだけど。あんたより年上かなぁ?」


「お・・・・俺は17歳だ・・・・」


「まじ!?超童顔。」


「君・・・・・はっきり言うね。」


「ははっ。あんたおもしろいなぁ。まっせいぜい俺に襲われないように気ぃつけなぁ。」


「なっ・・・!!!なんてこという」
「あっ。おれマーシャ。よろしく。」


マーシャは屈託のない笑顔で手を差し伸べた。


「え・・・・あ・・・・・ああ・・・・・俺はシキだ・・・・・よ、よろしく・・!」


するとマーシャは早速自分の部屋に行き
荷物を置いてまた玄関に向かう。


「ちょ・・・マーシャどこに行くんだ?」


「ん?ちょっとダッドのとこ行ってくる。」


「道分かるのか?」


「あっ。分かんない。」


「ったく・・・。ほら行くぞ。」


シキにつれられながらマーシャはダッドの部屋に向う。


「それにしてもダッドは強いよなぁ。」


「・・・・・?」


「敵をあっという間に倒しちまうんだぜ?」


「・・・・・そうかな。」


しかしシキの表情は少し厳しい。


「何でだよ?」


「彼は・・・いつもどこか迷っているように見える。確かに強いとは思うが・・・」


シキのよく分からない話に首を傾げていると
ダッドの部屋に到着した。


マーシャは嬉しそうに扉に近づき
開けようとする。


が、突然中から怒鳴り声が聞こえてきた。


マーシャとシキは顔を見合わせながら部屋に耳を傾ける。




「なんでだよ!!!いいだろ医者をめざしたって!!!」


「待ってくださいデヴィス!!デヴィスの夢はスペシャルマスターになることでしょう!?」


「もうなれたから次は医者をめざすんだよ!ダークホーム専属のな!」


「そんなこと言って・・・!!!デヴィスは僕に気を遣ってるんでしょう!?」


「はぁ!?んなこたぁねぇよ!!」 


「嘘。デヴィス・・・僕が病気だって知ってるんですよね。」


「・・・・!!!!」


「・・どうせ僕の病気治すために医者をめざすなんて言ったんでしょう?でもそんなことしたって無駄ですよ。僕の病気は絶対に治りませんから。」


「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ!?俺はやるって言ったらやるんだ!!!!」


「ちょっ・・・デヴィス!!!!」


「・・・ダッド。」


「・・・・?」


「お前は今の仕事が好きか・・?」


「・・・!?な・・・・何言ってるんですか?好きに決まってるじゃないですか・・・」


「そうか?」


「・・・・」


「俺にはお前が苦しそうに見える。」


「そんなことはありません・・・・!!!」


「じゃあなんで・・・・仕事から帰るたびに部屋で泣いてんだよ。」


「・・・・・・!!!!!」


「病気もそれが原因なんじゃないか?」


「・・・・・!!!」


「お前・・・・無理することなんて・・・」
「・・・帰ってください」


「・・ダッド」


「帰ってください!!!!!!!」


「・・・わかったよ。でも俺は医者になる。そんで絶対にお前の病気を治してやる!!」






マーシャは茫然と立ち尽くす。


「マーシャ・・・!!デヴィスがくるぞ!?」


シキは急いでマーシャの手を引きながら
部屋に戻った。







マーシャがダークホームに入って三年がたった。


マーシャも18になり
今ではダッドを抜かすぐらい背も大きい。


「おーい。ダッドいる?」


マーシャはダッドの部屋を覗く。


「マーシャですか?」


「俺俺。なぁ次の任務行こうぜ?」


「この前行ったばかりじゃないですか。それにマーシャはもう1stエージェントなんですから僕と行かなくても・・・・」


「いーの。だって二人のほうが効率いいんだぜ?」


マーシャはニヤッと笑いながらダッドの肩に手を回す。


「仕方ないですね。それで、次の任務場所はどこですか?」


「やった。場所はフラワーカウンティー。化神反応が一つ。」


「分かりました。では明日にでも出発しましょう。」


そう言ってダッドはニコッと笑った。










「お前・・・!!!また任務に行くのか!??」


その夜
帰ってきて早々また任務に出るというマーシャに対してシキは呆れたようにため息を吐いた。


「いーじゃん。だって暇なんだもん。」


「暇なんだもんって・・・マーシャ1人で行くならまだしもダッドを連れていくなんて・・・」


「大丈夫だって」


「彼は病気なんだろ?だったらもっと気遣って・・・」


「でもあの話聞いてから3年たつけど1回もそんな話聞かねぇしそんな症状も見たことないぜ?」


「・・そうなのか?」


「ああ。」


「それでも無理はさせないほうがいい・・・この任務が終わったら絶対に休めよ!!わかったな!?」


「はいはーい」






この時・・・俺はいつものようにシキの忠告を受け流してしまった・・






なんでちゃんと聞かなかったのか・・・・








・・・・後で後悔するなんて・・・・








・・・・思ってもみなかったんだ・・・











「よし・・・これでおわりっと。」


深夜2時
デヴィスはダークホーム内全員のカルテを整理していた。


医者をめざし始めて3年
未だにまともに眠れた日はない。


しかし今日は早めにおわったため
早く部屋に戻って寝ようと思い立ち上がる。


「デヴィス・・・いますか?」


すると突然部屋の隅から声が聞こえ思わず体をビクつかせる。


「なんだよ・・・・ダッドか。どうしたよ?こんな遅くに。」


ダッドは申し訳なさそうな顔をしながら
差し出された椅子に腰を下ろす。


「いや・・・なんとなく話がしたくなって。」


「なんとなく?いつも話してんじゃねぇか。」


「あはは。そうですね。」


いつものように笑うダッドだが
すぐに笑顔が消え去る。


「僕・・・・デヴィスに言われて色々考えました・・・」


「??俺なんか言ったっけ?」


「はい・・・。お前はこの仕事が好きかって・・・。」


「おいおい。何年前の話だよ・・」


「でも・・僕なりにずっと考えてたんです。」


「はいよ。で、答えを聞こうじゃないの。」


ダッドは姿勢を正す。


「・・・僕・・・デヴィスが言ってたようにこの仕事があまり好きではありません・・・・」


ダッドは暗い顔を上げながら話す。


「・・・化神が・・・怖いんです・・・・」


ダッドの手はふるえ
顔色はだんだん悪くなっていく。


「化神が・・・人の顔になって・・・・泣いているように見えるんです・・・・。」


「・・・・・そこまできたか。お前無理することはないんだぞ?マスターに頼んで仕事変え・・・」


「それはしません・・。」


「・・・・・?」


デヴィスは訝しげな表情を浮かべながらも
ダッドの話を聞く。


「僕・・最近気付いたのですが・・・任務にいくと・・・必ずマーシャが僕の代わりに化神を倒してくれるんです・・。」


「へぇ・・・マーシャが。」


「はい・・・きっと彼は・・僕が化神を恐がっていることを知っているんだと思います・・。何も言わずにさっさと仕事をすませてしまうんです。」


「あの無類の任務好きがねぇ。」


「回りからはそう言われてますが・・・・実際マーシャはそこまで任務に執着してませんよ・・・」


「そうなのか?」


「はい・・・。デヴィスも知っていると思いますが・・・僕皆から"臆病ダッド"って呼ばれてるでしょう?」


「ああ。昔から部屋にこもってるからな。」


「はい・・・。マーシャは恐らく僕が臆病じゃないことを証明するために僕をつれ回して任務に明け暮れてるんだと思うんです。考えすぎですかね・・・」


ダッドは苦笑を浮かべる。


しかしデヴィスはなぜか腹を抱えてゲラゲラ笑いだす。


「な・・・・・なんですか!?」


「いや!お前も鈍感じゃなかったんだなぁってさ!!」


「!?デヴィスは気付いてたんですか!?」


「まぁな。だってマーシャのやつちょくちょくココ来て"怪我したー"ってさ。なんでか聞いたら"ダッドをバカにした奴らをシめた"とかいってさ。これ内緒な。」


「そうだったんですか・・・・」


ダッドは驚きで目を丸くしながらも
少し嬉しそうに微笑んだ。


「僕・・決めたんです。マーシャが僕のためにしてくれるように・・僕もマーシャに何かしてあげたいんです。」


「ほー。何すんの?」


「マーシャを強くします!!誰よりも!!」


ダッドは力強く立ち上がる。


「ははっ!!その調子だ!」


「はい!」


ダッドはデヴィスとハイタッチをして出口に向かう。


「デヴィス。」


「ん?」


「明日任務に行ってきます。」


「そうか。気をつけて行ってこい。」


「はい!行ってきます!」


ダッドは満面の笑みを浮かべて部屋をあとにした。












フラワーカウンティー


バラの都



マーシャとダッドは現場である街へ到着した。



「うぁー。見ろよダッド。花だらけ。」


「すごいですね。ほら可愛い女の子がいっぱいいますよ?」


「俺女の子嫌いだもん。」


「あはは。そうでしたね。」


まだ化神反応が見られないため
マーシャとダッドは町を見物することにした。


フラワーカウンティーの中でもバラの都は世界で最も美しいとされ
毎年世界中からの観光客がたえない。


街の住民全員がバラを育て
誰もが都のトップ集団である舞士をめざしている。


「俺もこーゆーきれいな街に生まれたかったな。」


「大魔帝国も十分きれいじゃないですか。」


「そう?」


「はい。」


2人はその後バラ園を見たり
花の塔へ行ってみたりと観光気分を満喫した。


しかし夕方になっても化神反応がなかった。


「困りましたね。化神が人に混ざったまま夜を迎えるのは不安です。」


「でも捜し出すにも無理があるしなぁ。」


「仕方ないですね。今日は一旦引き上げますか。」


「はいよ。」


するとなぜかダッドはホテルとは逆方向を歩きだす。


「おーい。ダッド?ホテルそっちじゃないんだけど。」


「あはは。ばれましたか?」


「あははってアンタ・・てかどこ行くの?」


「僕行きたいところがあって。マーシャもついてきてください。」


「あ?別にいいけど。」


マーシャは首を傾げながらもダッドについていく。


空はますます暗くなり
辺りも人が減ってきた。


しかも中心から離れていくため
暗さがます。


一体どこにつれていかれるのかと若干不安に思っていると
ようやくダッドが足を止めた。



そこには果てしなく続く海があり
星を映し出し
幻想的な景色が広がっていた。



「すご!」


マーシャは思わず身を乗り出す。


「きれいですね。ここは"ワールドエンド"って呼ばれていて世界の果てが見えるんです。僕、生きてるうちに一回は行こうって決めてたんですよ。」


「へぇ。なんかこれ見てると悩みも吹っ飛ぶな。」


「あははは。マーシャに悩みなんてあるんですか?」


「失礼しちゃう。まぁ思い出せないけど。」


「あははっ。」


それからしばらくの間
2人はその景色を眺めていた。


「マーシャにはまだ話をしていませんでしたね。」


「?」


「実はって程ではありませんが・・僕は生まれも育ちもダークホームなんですよ。」


「!?そうだったのか。」


「僕の父はエージェントで母がメイドだったんです。だから僕はエージェントを目指さざるをえなかったんです。」


ダッドは少し寂しそうに笑っていた。


「僕はずっと迷っていました。このままエージェントを続けていてもいいのかって。」


「そう・・なんだ。」


初めてダッドの口から聞く事実にマーシャは少し悲しくなる。


「でもそんな時にマーシャ・・君に出会いました。」


「・・俺?」


「はい。マーシャに出会ってから僕は以前よりも仕事が楽しくなりました。」


そう言ってダッドはマーシャの手を握る。


「マーシャ・・・ありがとう。」


この時のことは・・・・今でもハッキリ覚えてる。


ダッドのあの穏やかな笑顔・・・


もっと見ていたいと思った・・・



「俺もダッドに会えたから今があるんだ。俺こそありがとうだ。」


「あはは!ぼくたちおかしいですね。」


「そーだな。」


「それじゃあもうそろそろホテルに・・・・」


しかしその瞬間
二人の動きが止まった。



「・・化神だ!」


「場所は・・・ここから北北西1q先の花屋です・・!急ぎましょう!」


そう言って2人は一気に駆け出す。





夜のフラワーカウンティーは思ったよりも静けさに満ちあふれている。


そのせいだろうか。
マーシャは少し心細さを感じた。


「ここら辺のはずなんですが・・・」

「花屋って・・・全部花屋じゃん!」


化神の反応が確かにするが
どの家から発せられているかがわからない。


しかも人の悲鳴も聞こえないため
手がかりがまったくない状態だ。


「どうしますか・・」


「とりあえず一件一件回るしかなくない?」


本当はそんなことをしている場合ではないのだが、
手当たり次第行くしか方法はないようだ。


2人は手分けして探すことにした。


「・・・ココじゃねぇな。」


マーシャは焦りながら化神を探す。


できればダッドには戦わせたくないため
先に見つけようとしていた。


「おいおい俺の悪魔さん・・頼むぜ?」


いないものはいないのだから仕方がない。


しかし次の瞬間


《ゥォォオ・・・・・・・》


これはまさしく化神の声。


しかし声がした方向は
紛れもなくダッドの方。


「くそ!!あっちか!!!」


マーシャは急いで駆け出す。


早くダッドの元に行くために。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!