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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story46 森の悪魔



UW



西部    フラットタウン




中央の都会とは一変し
煉瓦づくりの昔ながらの家々が立ち並んでいる。




このフラットタウンの端には
黒々とした小さな森がそびえていた。



その森は"叫びの森"と呼ばれる。



それはしばしば森から悲鳴が聞こえるからだ。



だから人々は森には一切近づかない。



しかし、事件は突然起きた。



のどかなフラットタウンの住人、クリストファー家は5人家族。

父はいたってふつうの町工場でいたってふつうに働いている。


母はいたってふつうの主婦。



クリストファー家の三人の子供ももちろんいたってふつうの子ども達。


8才の長男はマラソン大会でクリストファー家最高の12位をとった。


6才の次男は先日4人目の友達ができたらしい。


4才の長女はようやく一人でトイレに行けるようになった。



そんないたってふつうのクリストファー家にもたまにはふつうではないことも起きるものだ。



それはいたってふつうの晴れの日。



その日もいつも通り
父は町工場に、母は買い物に出かけていた。



そんないたってふつうに時が流れる中、
暇を持て余した3兄妹が立ち上がる。



3人はこんないたってふつうな生活から脱出するため
ある場所に向かう。



悲鳴あふれる"叫びの森"へ



通りすがりの住人達は
町から遠ざかっていく3兄妹に声をかける。


「いいのかい。もう日が落ちるよ。」


「森には近づかないんだよ。」


「でないと二度とでられないからね。」



それでも3兄妹は前へ進む。



いたってふつうの生活脱出を目指して。






それから一週間。


いたってふつうの生活は幕を閉じた。


なぜなら彼らが帰ってこなかったから。


人々は口々につぶやいている。


"森の悪魔に狩られたのだ"と。
















そんな人々が恐れる"悲鳴の森"の奥には
人々が知らない屋敷がある。


昼間は全く動きがないが
夜になると活発に動きだす。


中にいる人々は全員赤いコートを着て
忙しそうに外に飛び出していく者もいれば
内に飛び込んでくる者もいる。


そんな忙しい玄関には
なぜかダークホームの紋章が掲げられている。


しかしただ掲げられているだけじゃない。


その上から赤く×を刻み込まれている。


そう、ここは悪魔撲滅を目指す
"悪魔狩り"の本部だ。



その悪魔狩り本部に
ある一人の男が帰還した。


男はボロボロになった赤いコートを引きずりながら
本部の玄関に入っていく。


するとそこに忙しそうな青年が大量の書類を抱えながらやってきた。


しかし
目の前で今にも倒れそうな男を見て
少しいぶかしげな顔をする。


「・・・・・?・・・!!!!ジーク様!?ジーク様!!!!」


青年は持っていた書類を床に落とし
ジークと呼ぶ男に近づく。


「ジーク様!!ああ生きていらっしゃったんですね!!!」


「・・・・ああ。」


「あっ!!まだ動かないでください!!今僕が運びますから!!」


「・・ありがたいな。それにしてもお前・・・・・・・イイ腰してるな。」


ジークはさりげなく青年の腰を掴む。


「や・・・・やっぱり医務室の方を呼んできますね。」


青年はひきつった笑顔を見せると
そそくさと消え去っていった。


「・・・・・チッ。惜しいことを・・・・アイタッ!!!!!」


ジークは何者かに思いっきり蹴り飛ばされ
壁に頭を打ち付けた。


「アイタタタタタタタ・・・・・・」
「ジーク=メイリン。」


ジークは目の前にたつ
真っ赤なコートを翻す女を睨んだ。


女は真っ赤なズボンの美脚でジークをもう一度蹴り飛ばす。


「ハグッ!!!!!この巨乳ばか力!!!」


「わたくしはヘッドですよ?そんな口を聞いてもイイと?」


女は真っ赤なヒールでジークを踏みつける。


「ジーク=メイリン。あなたは死んだはずではないのですか?ターミナル103でやられたとの報告を受けていたのですが。」


ジークはヘッドの足をどけ
バッと立ち上がる。


「・・・。たしかに私は一度死んだ。だが今生きている。なぜだかわかるか?」


「さぁ?」


「それはだな・・」


ジークは拳を強く握りしめ
血が出るほどに力を込めた。


「"悪魔"に助けられたからだ!!!」


ジークは怒りを壁にぶつける。


「・・・そうですか。それは災難でしたね。」


「災難どころではない!!私のプライドが傷ついたんだ!!!」


「ではなぜまたこの地に戻ってきたのですか?」


ヘッドは鋭い視線をジークに向ける。
が、ジークも力強い目つきでヘッドを見た。


「もちろん、その"悪魔"の始末だ。」


その言葉に
ヘッドは小さくうなづく。


「よろしい。ではジーク=メイリンはその悪魔についての情報を仕入れ次第、出発を。もちろん失敗は許しません。もし失敗したら・・・」


「わかってる。永久追放だ。」


ジークは小さく笑うと
ヘッドに頭を下げ
階段を上っていく。


「あ・・ジーク=メイリン!待ちなさい!」


「・・・?」


「先日3人の子供達を保護しました。その子供達を教育係に渡してください。」


「教育係じゃなくて調教係だろ。」
「ジーク=メイリン。口を慎みなさい。」
「相変わらず堅い奴だ。だからイイ男ができないんだよ。」
「男色家のあなたに言われたくありません!」
「男色家だと!?私はただの同性愛者だ!!!」


ジークとヘッドはにらみ合うと
ふんっと鼻息をならし
互いに背中を向けて立ち去っていった。




















UWに住み始めて二週間がすぎた。


リオナたちはようやく家の整備を終え、
今は部屋の取り合いをしていた。


二階の寝室は結構数があり、
全部で8部屋もあった。


「まず俺とB.B.は同じ部屋だろ?」


《えー!?オイラ一人部屋がイイ!!》


「お前は暴れるからリオナと一緒。」


「私この部屋がイイ」


「・・・・俺もそこがいい」


リオナとムジカはにらめっこをする。


「はいはーい。じゃあくじ引きね。みんな平等。」


しかしくじ引きはシビアな結果となった。


「・・・・・・。」
「・・・・・・。」


「俺って前からくじ運いいんだよね。あはは。やっぱり日頃の行いかな。ってリオナ君ムジカちゃん、そんなに見つめんなよ。てれるじゃん。」
「・・・睨んでんだよ」


たとえくじ運が悪かったからといったって、
この男に負けると腹が立つ。



「あっそうだ、B.B.。おまえに渡したポスターちゃんと貼ってきたか?」


《もっちー!!》


ポスターというのは
リオナが提案した"何でも屋"の宣伝ポスターである。


しかし
もちろんただの"何でも屋"ではない。


主に怪物退治など戦闘中心の"何でも屋"である。


「よし。あとは連絡を待つだけぇってね。」


するとクロードが目を見開きながら
リオナの腕を引っ張った。


「・・僕も何か倒したりするの?」


「・・いや。クロードは留守番かな?」


「・・・・・・そっか。」


残念そうに肩を落とすクロードに
リオナは少し戸惑う。


「・・違っ・・違くてだなクロード、お前にはルナとこの家を守ってもらいたいんだ。」


「・・あっそっか!」


クロードは一変して喜び、
握ったリオナの手をブンブンふった。


「あれ?ルナ姉は?」


「ルナは庭で花植え。あーあ早く俺も行かなきゃ怒られる。」


そう言ってマーシャは軍手をはめ始めた。


プルルルルルル プルルルルルル


すると電話が鳴りだした。


しかも"仕事用"だ。


《オイラがでるー!!!》
「あっ・・・コラB.B.・・!」


しかしリオナの制止も聞かずにB.B.は一気に電話まで飛んでいってしまった。


《もっしもーし!!オイラはB.B.様だーい!!!怪物退治ならオイラに・・ハグッ!!》
「申し訳ありませんねぇ。ウチのバカが勝手に。それでご用件は?」


マーシャはB.B.の首を締め上げながら
仕事の依頼を聞く。


しかしだんだんとその表情は暗くなっていき、
電話を切ったときには変なオーラを発していた。


「・・・マーシャ?どうし・・」
「どーゆーことかなぁ?B.B.」


振り返ったマーシャは
顔に不気味な笑顔を浮かべながら
B.B.の首をグイッと引き寄せた。


《な・・・オイラ知らない!》


「俺はどこにポスターを貼れといった?え?俺はお菓子屋に貼れなんて一言も言ってないよなぁ?」
《ギャウ!!!!》


B.B.の首を思いっきり締め上げると
マーシャはB.B.を窓の外に追い出した。


「菓子屋のおばさんカンカンだったぞ!今すぐ謝って貼り直してこい!」
《エ゙ェ゙!?ちょっま・・》


ピシャリと窓を閉めると
マーシャはあきれたようにため息をついた。


「どうしたんだ・・・?」


「B.B.のやつポスター全部お菓子屋に貼ってきたんだよ。それの苦情。」


「はは・・・あのバカウサギが。」


あとでもう一発殴ってやんなきゃな・・・・

あーあ
先が思いやられる・・・・


リオナとマーシャは肩を落とした。






















本部に帰還してから2日たった。


ジークは自室のコンピューターでダークホームメンバーのデータを調べていた。


しかしジークが探す赤毛の男と銀髪の少年の情報はいっさい見あたらない。


・・・まいったな


「ジーク様!失礼します!」


するとそこに先日玄関ホールで会った青年、ノームが現れた。


「ほう。どうした君。ようやく私のものに・・」
「違います。」


あっさり否定すると
ジークのデスクになにやら大量の資料をドサッと置いた。


「ジーク様が探していらっしゃるのはマーシャ=ロゼッティでは?」


そう言って写真を見せる。


「ああ!コイツだ!!私に屈辱を味あわせた男は!!」


「ならよかったです。これは全部彼の資料ですので。あと連れの銀髪の少年のデータは見れませんでした。」


「おいなぜダークホームのデータに残っていない?」


「彼らはダークホーム初の脱走者のようでして。除名されたようですよ。あっ隣の指名手配リストには入ってます。銀髪の少年はどこを見ても不明です。彼のデータだけ厳重にロックがかかっておりまして・・・・」


「そうか。まぁいい。助かった。」


ジークは部屋を出ていくノームを見送ると
早速資料を開く。


・・・・元スペシャルマスターか・・
通りで強いわけだ・・・



しかしそれにしてもいい男だ・・



「悪魔じゃなければもらってやったものの・・・」



ジークは不気味な笑みを浮かべながら
マーシャの写真をそっと胸ポケットにしまった。


すると再び扉をたたく音がする。
顔を出したのはまたノームだった。


「ジーク様。先ほどのマーシャ=ロゼッティの一行はたしかターミナル103で?」


「ああそうだが?」


「あの・・・僕のただの勘違いかもしれませんが、実は先日ファストライン内に悪魔がいるとの情報が入ってきたんです。」


「なに!?それで追ったのか!?」


「実はそのファストラインは故障だらけで度々止まっていたんですよ。そのせいで見失ってしまって。」


その言葉にがくっと肩を落とす。


「ですがジーク様。彼らがこのUWにいるかもしれません。」


「というと!?」


「二週間前にファストラインからマーシャ一行とだいたい同じ人数の者達が降りてきたんです。」


ジークはゴクリと唾を飲む。


するとジークはあることを思い出した。


ターミナル103でたまたま出会った少年クロノスロードが、
人間の形をした悪魔と黒ウサギの悪魔がマーシャ=ロゼッティと一緒にいたと言っていた。


「・・しまった。」


「どうかしましたか?」


「ここへくる前に・・私は中央都市によったんだ。その時・・・どこの菓子屋だったか忘れたが・・・黒ウサギがポスターをはがしていたんだよ!!そいつはマーシャ=ロゼッティのつれなんだ!」


「そ・・・そんなぁ!もったいない!!」


「わかってる!!ああまさかあのウサギだったなんて!!クソっ!!」


ジークは悔しそうに顔を歪ませる。


「でもそのウサギは何を剥いでいたんでしょうか?」


「・・確かに。・・・いや、まてよ!?」


そう言ってジークはコートの中を漁り始める。


「たしかあのウサギ・・・剥がしたポスターを無理やり配ってたんだよ・・・・・あった!!」


ジークはボロボロになったポスターを広げる。


「ははっ・・・やりましたね!!!ジーク様!!!」


「何でも屋か・・・ククク・・・ハハハハ!!!!おい君。このポスターを森をでたフラットタウンの者に配れ。」


「はい。でもなぜ?」


「知らんのか貴様は?フラットタウンの住人たちはこの森に悪魔が住んでると思っているのだ。しかも今は子供三人行方不明ということになっている。」


「なるほど!これで住人に奴らを呼び出させるんですね!」


「ああ!これで私の勝ちが決まった!!」


ジークは資料を閉じ、
低い声で笑い出す。


「クハハ・・・・悪魔には裁きを・・・・」


必ず・・しとめてやる・・・


ジークはほくそ笑みながら
胸ポケットの写真を破った。












「ヘッド!只今ジーク様に資料をお届けいたしました!」


ノームはヘッドを前に緊張しながら頭を下げる。


「よろしい。下がれ。」


「はっ!」


ヘッドはコーヒーを片手に
先ほどジークの元に持って行かせたマーシャ=ロゼッティの資料のコピーに目を通す。



・・・私と同じ魔族か・・・・・


彼はあの事件の生き残りなのだろうか・・・


ならなぜ悪魔側につくのだろうか・・・・


「悪魔が・・・私たちの故郷を破壊したのに・・・なぜ・・・・」


ヘッドは悲しげに俯く。


それにしても気になるのは
連れの銀髪の少年。


悪魔だったら必ずデータがあるはずだが
残っていない。


彼は悪魔ではないのだろうか・・・


それとも・・・・・・・


ヘッドはデスクの上に置かれた写真を手に取る。


小さい頃の写真だろうか。
ヘッドと思われる少女は2人の小さな少年達と楽しそうに写っている。


「・・・生きてて・・・・2人とも・・・・」


祈るような声は
静かな闇に飲み込まれるように消えていった。




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