[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story32 決別の時



「マスター!!!マスター!!!」


シキは勢いよくマスタールームの扉を開け、
いつになく憤慨した表情をして部屋をドスドスと突っ切っていく。


「・・・・どうしたんだシキ。お前らしくない。」


マスターはいつものように椅子に座り、
コーヒーカップ片手に報告書を読んでいた。


「どうしたじゃありません・・!!!ムジカをどこにやったんですか!!」


「ムジカか?私もまだ見ておらんな・・・早く会いたいものだ」
「本当の事を言ってください・・!!!」


シキは机に両手をたたきつけ、
マスターの瞳をじっと見つめる。


シキの珍しく怒る様子にマスターもやれやれと報告書を一旦置き、
足を組み直した。


「私は何も知らないがね。」


「・・・・・・!」


いつものペースを保つマスターに対して怒りを増しながらも、
シキは一度落ち着こうと息を吸って吐いた。


「・・・ところでマスター・・・・急用はどうしたんです・・?」


「ああ、それならもう済んだ。なぁスバル。」


すると部屋の隅から黒髪の男がさっと出てきた。


「はっ。確かに私がお供させていただきました。」


「・・スバル・・・」


スバル=セザーナはシキに次いでマスターが厚い信頼を寄せている男だ。


しかしどこか無愛想で、
シキは彼とは挨拶程度しか交わしたことがない。


しかも最近ではマスターの出張について回ったりと
もしかしたらシキよりも信頼されている可能性がある。



「シキよ・・・そんなに感情的になってどうしたのだ。私は今回の件ではお前の意見を重視してやったのだぞ?これ以上なにが気にくわないのだ?」


・・・・重視って・・・・どこをだよ・・・・・


心で不満をもらしながらも
スバルが目にはいると
なぜか対抗心がわいてしまい、
思わずマスターの言いなりになってしまう。


「・・・べ・・・べつに気にくわないわけでは・・・・」


コンコンッ!!


すると突然扉をノックする音がし、
一同がさっと扉に目をやった。


「・・・・・・?スバル。今取り込み中だと伝えろ。」


「はっ。」


スバルはそのままシキの横を通り過ぎ、
扉に手をかけようとした。


しかしその瞬間、
扉がバンッと音を立て開きた。


いつもは無表情なスバルもさすがに驚きを隠せずに目を丸くしていた。


そしてすぐに我に返り、
大きく手を広げて道を閉ざす。


「困りますマーシャ様!!!只今マスターは手が放せないため・・・」
「ほぉ、コーヒー飲んでただ座ってるだけに見えるんだけどなぁ。」
「・・・・!!」


スバルは顔を真っ赤にさせながらも、
マーシャ達が歩みを進めるのにあわせるかのように後ずさっていく。


いつもならこんな暴言に加えてこんなひどい態度をとったら間違いなくシキが怒鳴りつけてくるはずだが、
シキはスバルの弱点がマーシャだとわかったことに少し優越感を抱いているようだ。


マーシャとリオナはシキの横に並び、
マスターの前に立つ。


「・・・ムジカを返してください。」


リオナが真剣な眼差しでマスターに訴えると、
マスターはまたかと言わんばかりに鼻を鳴らし、
口元をひきつらせた。


「・・・なんのことだかさっぱり・・」
「とぼけるのもいい加減にしろよマスター。」


マーシャは今にもマスターに飛びかかるかのように机に身を乗り出す。


「あんたリオナを進級させて俺にボーナスだしゃあムジカを手放すとでも思ったか?悪いが俺たちゃそんなに単純じゃねぇんだよ。」


「マーシャ様!!なんですかその口の利き方は!!!!」
「いいからスバルはさがりなさい。」
「・・・・!?で・・・ですがマスター・・・!!」
「よいと言っておろうが。下がりなさい。」


マスターの命令は絶対・・・


仕方なくスバルはお辞儀をして後ろに下がった。


「・・・お主等はあの小娘の事を何も知らんだろう?」


「・・・少なくともマスターよりは知ってます。」


「じゃあ彼女が最終兵器だって事もか?」


「・・・・・!?」
「は?どうゆーこった・・・」
《・・・・・!?》


マスターは三人の表情を見て、
小さく鼻で笑い、
ある資料を引き出しから取り出して目の前に広げた。


その資料には一人の女性のデータがかかれていた。


そこに貼られた写真の女性は、気のせいだろうか、
一度会ったことがある気がした。



「彼女の名はディズ=モーレ。このダーク・ホームのプレーンと呼ばれた天才科学者だった。」


マスターはコーヒーを一口含み、
再び話し出す。


「彼女はずっとある計画を立てていた。"アルティメイト・プロジェクト"と呼ばれる、いわゆる対神用最終兵器製造計画だ。」


「"アルティメイト・プロジェクト"って・・・・・」


何度かマーシャから聞いたことはあったが、
それは昔から行われていた人体実験で、
結局失敗に終わったはず・・・・


「神が復活した時のために、神を倒す為の人間兵器だ。人間と悪魔を契約するだけではなく、人間を完全な悪魔化させることで最強武器となるはずだったが・・・なかなかうまくいかずにな、犠牲者ばかりが生まれた。しかしそこで彼女は考えたんだ。悪魔と人間の子供ならうまくいくのではとな。すでに悪魔の血を引く人間に、更に悪魔を入れ込めば、悪魔以上の力を持った悪魔が生まれると。」


リオナは一瞬にして目の前が真っ白になる感覚におそわれた。


「・・・まさか・・・まさかディズって・・・・」


「ムジカの母親だ。」


「・・・・・!!!」


「そこで彼女はサタンに協力を要請し、まず第一児を出産した。それがムジカの兄・ビットウィックス。しかし彼はあまりにも優秀過ぎたためにサタンが実験体として譲らなかったんだ。だから次に産まれた子供を必ず実験体にやるとディズに約束したんだ。そして生まれたのがムジカだ。彼女はもちろんすぐに実験体として体に悪魔を入れられた。しかし実験は大失敗に終わった。ムジカは本来の悪魔の力を半分以上失った上に記憶障害も起き始めてな。さすがにまずいと思ったディズはそこでやっと実験を終わらせ、計画を打ち切りにした。」


たんたんと語るマスターの表情を見て、
リオナは殴り倒したい衝動に駆られたが、
必死に押さえつける。


「ムジカは最終兵器失敗作であり悪魔の出来損ない。いつ暴れ出してもおかしくない彼女をいつまでも生かしておくわけにはいかないのだよ。」


マスターから・・・そんな言葉がでるなんて・・・・


・・・・何が・・・・失敗作だ・・・・・・何が・・・・・出来損ないだ・・・・


リオナはカッと頭が熱くなるのを感じたときには
すでにマスターに飛びかかっていた。


「・・・・・!?リオナ・・!!」


シキは驚き、
マスターからリオナをはなそうとする。
が、リオナに思い切り払われてしまった。


「リオナ・・・私はマスターだぞ?こんなことして許されるとでも・・」
「・・・・うるさい!!これ以上ムジカのことを侮辱してみろ・・!!マスターだろうがこのまま喉をかっ切ってやる・・・!!!!」


なんで・・・・なんでだよ・・・・!!


「・・・なんでわかってやらないんだ!!ムジカは何も知らないだけなんだ!!出来損ないでも失敗作でもない・・!!ただムジカは知らないだけだ・・!!!」


呼吸を乱しながらもリオナはマスターの襟元を引っ張り、
顔を近づけた。


「・・・・・ムジカは・・・・・空が見たいっていってた・・・・・・いろんな色の・・・空が見たいって・・・!!!」


「・・・・・・」


「・・・ムジカは空の色を知らないんだ・・!!星だって知らない!!海や山や雪や雨や・・・自分が生きている世界を全然知らないんだ・・!!!!なぁマスター・・・なのにムジカが突然暴れ出して人を殺すと思うか?ムジカはそんな子じゃない・・!!なんで知ろうとしないんだ!なんであの子に壁を作る!?あの子がどれだけ・・・どれだけ傷ついているかあんたにわかるか!?」


「わからんがね。たかが小娘ひとりの命なんか惜しくもないわ。」


「なんだと・・・!!!」


リオナはマスターの首をつかみ、
力を入れようとした。


すると同時にマスターの周りを脅しのように何本ものナイフが取り囲んだ。


「てめぇ、人の命をなんだと思ってる!」


珍しく声を張り上げるマーシャを見て、
驚きでシキも止めるのを忘れてしまう。


「マーシャからそんな言葉がでるとはな。」


するとマーシャはナイフをさらにマスターに近づけさせる。


「マスター、あんたがムジカを殺そうとするならこっちもあんたを殺す覚悟はできてんだよ。どうする?早くムジカの居る場所いわねぇとザクザクと串刺しになっちまうぞ?ぇえ?」


「・・・マーシャ・・!!貴様この意味が分かっているのか!?私はマスターだぞ!!」


「わかってるさ。じゃあ逆に聞くが・・・・」


マーシャは一本の指をクイッと動かすと、
一本のナイフがマスターの頬をひっかき、うっすらと血がにじんだ。


「"死"の意味・・・・わかる?」


マーシャの表情は笑っているが、
目は怒りに満ちている。


マスターは少し体を震わせると、
小さく口を開いた。


「・・・・地下の・・・・研究室だ・・。」


「・・・・あんた最悪だな。最後までムジカを実験体扱いだとは。」


マーシャはさっとナイフを引っ込め、
リオナとB.B.を引っ張り部屋を出ようとした。


「マーシャ=ロゼッティー、リオナ=ヴァンズマン、B.B.。」


するとマスターは再び強気の姿勢を見せ、
三人に告げる。


「貴様ら三人はマスターである私に暴言かつ攻撃をし、そして天上界死刑囚ムジカと無断契約を行った上、これからダークホームからの逃亡を企てていると見る。これはダーク・ホーム法大全第1条に反している。よって・・・」



マスターはいつになく口元をひきつらせる。


「死刑だ。」


「・・・行くぞリオナ、B.B.!」


「・・・ああ!!」
《おう・・!!》


三人はマスターに再び背を向け、
シキの横を通り過ぎた。






「・・・・・じゃあなシキ。」
「ま・・まて・・マーシャ・・・!!」


シキが振り返った時には
すでに三人の姿はなかった。


そしてすぐにダーク・ホーム中にブザー音が響きわたる。




『緊急指令!緊急指令!スペシャルマスター・マーシャ=ロゼッティーと1stエージェント・リオナ=ヴァンズマンとその悪魔が逃亡中!!直ちに確保または殲滅せよ!!全エージェントに告ぐ!!直ちに指令に従いなさい!!』




黒の屋敷内はどよめきであふれ出す。





「なんでマーシャとリオナが!?どーゆーこった!?」


「マーシャとリッチャンはそんなことするわけないわ!!何かの間違いよ!!」


「・・・・でも・・・・マスターからの指令だが・・・・・」


スペシャルマスターの三人は黙って考え込む。


「でも・・・俺達にはやらなきゃなんねぇだろ・・!!!!」


「ええ・・・・!!」


「・・・・行くぞ・・・・・」



三人も急いで向かっていった。












未だにマスタールームに立ち尽くしていたシキは、
ただ呆然と黒の屋敷内に響きわたるブザー音を聞いていた。


「シキよ。」


「・・・・・・?」


マスターに呼ばれ、
うつろな目を向ける。


「お前はどうする?お前はマーシャの兄のようなものだろう?」


・・・・兄・・か・・・


「さぁどうする?あやつについて行くか・・・それとも私にもう一度忠誠を誓うか・・・」


・・・・マーシャ・・・・・俺は・・・・・・


シキはゆっくりとひざまずき、
マスターの手にそっと唇を落とした。


「・・・・あなたに・・・・・ついていきます・・・・でも・・・・」


しかしすぐに、シキはスッと立ち上がった。


「でも今回の件は・・・・マーシャの肩を持たせていただきます。」


それだけ告げるとシキはマスタールームを出て行った。


「・・・・!!・・シキめ・・・」


マスターは椅子に座り、コーヒーカップをバリンと割る。


「スバル!!」


「お呼びでしょうかマスター・・・。」


「今日からお前が第一使用人だ。」


「ですが・・・シキが・・・」


「あやつはクビだ。」


・・・・さて・・・どんな罰を与えてやるべきか・・・・・


マスターは暗がりで怪しく笑った。












"おい・・・・・・・おーい。"


"ン・・・・あ"


"お前こんなとこで寝てたら襲われちまうぞ?"


"え・・・・・・・うぁ!!俺いつからここに!?って君!!なんて事を言うんだ!!!"


"ははっ。いやあんた美形だからさ。本当のこと言っただけ。"


"な・・・・!!君いい加減にしろよ!なんでそんなはずかしげもなく・・・・!!失礼します!!"


"おいおい。どこ行く気だよ。"


"自分の部屋に戻るだけです!!!"


"お前大丈夫か?"


"は?!君に言われたくありません!!"


"ちがくてぇ。"


"??なっなにするんですか!?手を離してください!!"


"あのさぁ、今日から同じ部屋になったんだけど。"


"は・・・・は?"


"だからぁ俺昨日ダーク・ホームに入って今日からあんたと同じ部屋になったの。"


"き・・・・君が?"


"あれ?聞いてなかった?"


"いや・・・聞いてたよ。でも元・王族の兵士って聞いてたからてっきり大人だと・・・"


"ははっ。俺はまだ15歳だよ。腕は確かだけど。あんたより年上かなぁ?"


"お・・・・俺は17歳だ・・・・"


"まじ!?超童顔。"


"君・・・・・はっきり言うね。"


"ははっ。あんたおもしろいなぁ。まっせいぜい俺に襲われないように気ぃつけなぁ。"


"なっ・・・!!!なんてこという"
"あっ。おれマーシャ。よろしく。"


"え・・・・あ・・・・・ああ・・・・・俺はシキだ・・・・・よ、よろしく・・!"

















「はは・・・・懐かしいな。」


マーシャは懐かしい思い出に小さい笑い声をこぼした。


「・・・?なに笑ってんだよこんな時に・・・」


「いや、ちょっと昔を思い出しただけ。」


《ところで・・・これからどうすんの?》


三人は"灯台下暗し作戦"と名付け、
実は未だにマスタールームのすぐ近くに隠れていた。


「まぁ俺たちに残された道はまた二つだな。」


「・・このままムジカと共に死んでくか・・・・・ムジカを連れてダークホームから逃げるか・・・」


「さぁて・・・・どうする?」


「・・・・答えるまでもない。」


《だな!》


「でも研究所ってどうやって行くんだよ。」


「・・・・マーシャ知らないの?」


「当たり前だろ?あそこはマスターと研究員以外は立ち入り禁止だ。地下にあるって事以外わかるはずない。」


「まじか・・・・・・」


なんだか死ぬ気しかしないんだけど・・・・・


すると三人が隠れているモノの横を騒がしく人がかけていくのがわかる。


『どうやら三人は一階に向かったらしい!!急げ!!』


バタバタと音を立てながらエージェント達が通り過ぎていく。


「ふぅ・・・・危な」
「リオナ・・!?マーシャさん!?」


すると突然
こちらに顔をのぞかせるものがいた。


ば・・・バレた・・・


「・・・!!!!ってシュナかぁぁ・・・」


「シュナか。なんだよ脅かすんじゃねぇよ。」


シュナは青白い顔をしてさっとリオナ達と一緒に物陰に隠れ、
ヒソヒソと話し出す。


「大変だよ・・・みんなリオナとマーシャさんを探してる・・・というか狙ってる・・・」


「そうなんだよ・・・・・・・参ったな・・・・」


「シュナはここにいて大丈夫なのか?鬼のシキに怒られるぞ?」


「俺は大丈夫です・・・。でもこれからどうするつもりですか?」


「・・・・ムジカを助けたいんだけど研究所がわからなくて・・・・」


本当に浅はかだった・・・・
ちゃんと調べときゃよかった・・・


「それなら俺・・・知ってるよ・・?」


さりげなく飛び出してきた言葉に三人は目を丸くした。


《まじかよ!!》


「え・・ああ・・・・シキさんに連れられてよく・・・」


「えっ・・・じゃあ連れてってくれないか?」


あ・・・・でもシュナを巻き込むのは・・・・・


「も・・・・もちろんだよ!!!」


「・・・・!!シュナでも・・・」


「何言ってんだ・・・!俺たち親友だろ!?助け合いなんて当たり前だ!」


「・・シュナ・・・」


リオナは涙がでそうになるのをこらえ、
シュナの手を取る。


「じゃあ・・・頼むよ」


「・・・うん!!」


シュナも満面の笑みでリオナの手を握り返した。



「じゃあこれからリオナとB.B.とシュナでムジカ奪還に向かってくれ。」


「マーシャは?」


「俺は一旦上に戻って必要最低限のものをとってくる。」


・・・もちろんローズ・ソウルもな。


「・・・わかった。じゃあ一階で会おう。」


「おう。あとエレベーターは使うな。階段でいけ。」


「おっけい。」


そう言ってマーシャは上に、
リオナとB.B.とシュナは下に向かった。













[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!