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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story31 罠



リオナが発作を起こしてから一週間がたった。



あれからリオナは普段通り落ち着いていて、
トレーニングがしたいと騒ぐほどだ。



そんなリオナの回復を、
表情には出さないが一番心から喜んでいるのがマーシャだ。
が、その割にはリオナをかなり使いまわしている気がする。



最近はいい子だったB.B.は、病んでいたリオナの方が優しいから好きだと嘆き、
なんとかリオナを病ませるために色々ちょっかいを出している。



ムジカはというと、
リオナが休んでいることを期に、
脱・リオナを再び試みていた。
しかしなかなかうまく行くはずもなく、
結局リオナに慰めてもらうという日々を送っていた。
まぁリオナにとってはかなり嬉しいだろうが。




そんな平凡と言えば平凡な生活を送っていた四人だが、
実際は大きな問題を抱えている。


そう、1ヶ月半前に起こしたムジカ救出事件の処分だ。


先日、マスターが長い出張から帰国したと聞き、
四人は表には出さないが内心かなりハラハラしていた。



そして今日1月8日。


新年に入って初の夜会が開かれる。


ということは今日処分を告げられる可能性が高い。



しかし、なるべく気にしないように普段通りの生活を送るようにしていた。







「いいかリオナ。たとえ夜会で皆の前で処分がくだされようが動揺するんじゃねぇぞ。」


「・・・・マーシャがね。」


しかしマーシャだけは普段通りではなかった。


どうやらスペシャル・マスターからのランク落ちは歴史上初の出来事になるらしい。


汚名を歴史に刻むわけにはいかない、と今更ながらに焦っていた。




「マーシャ・・・今更気にしたって仕方ないよ。いいじゃん歴史上初。ある意味名前が残るよ?」


《そーだそーだ!》


「ちょっ・・・ちょっと2人とも・・・!マーシャがかわいそうだよ・・・」


明らかにからかっている二人を見て、
マーシャは思いっきり睨みつける。



「おまえ等にわかるか!?あのラードにからかわれる気持ちが!!」


「・・・ラード・・・ねぇ。」


確かに彼は人をからかうことを生き甲斐にしているといっても過言ではない。


ラードにからかわれた日は一日中落ち込むこと間違いなし。


「・・・・どうせ一日や二日の辛抱だ。しかもマーシャは降格しても1stエージェントでしょ。俺たちなんか3rdエージェントだ。な、B.B.ムジカ」


《うん・・・・》
「うん!」




落ち込むB.B.と対照的になぜか嬉しそうなムジカ。


恐らく降格の意味がわからないのだろう。


「・・・なんかそう言われると元気が出てきたかも。」


「でしょ。気長にいこ・・・・」


ドンドンッ   ドンドンッ


突然の扉をノックする音に、
四人は表情を固めた。


そしてそれぞれと目を合わせ、
確信に近づく。




「よぉ・・・シキ。」


リビングの入り口に立つシキを、
4人はそっと見つめる。


シキも気まずそうに4人を見ながら、
一度咳をして気合いを入れ直した。


「マスターがマーシャとリオナとB.B.を呼んでいる。今すぐ着替えてルナの部屋に行きなさい。」


「は?なんでルナの部屋だよ。」


「マスターからのご要望だ。早くしろ。」


それだけ告げるとシキはそのまま部屋をあとにした。


「・・・・?なんかおかしくない?」


「ああ。なんでマスタールームじゃねぇんだよ。」


《も・・・もしかして・・・・死刑!?》
「それはない。」
「それはない。」





とにかく三人は急いでスーツに着替え、
身支度を整える。


「じゃあムジカ。たぶん夜会までには戻ってくるから大人しく部屋にいろよ?」


「・・・・・うん。」


マーシャはよしっと言って、
三人で部屋を出ようとした。


「・・・リオナ!」


「・・・・?うわっ!」


ムジカはリオナの腰に抱きつき、
顔を埋めてきたのだ。


ま・・・・まいったな・・・・・


嬉しいが・・・・嬉しすぎるが・・・・顔が熱い・・・・・


「・・・・・ムジカ?大丈夫だよ。死ぬ訳じゃないんだから。」


「・・・・・・・・」


ムジカはただただ首を横に振り、
腕に力を入れて離す様子がない。


「・・・・ムジカ・・・」


「・・・・・体・・・無理しないでね・・・・」



・・・俺が寝込んだあの日から、
ムジカはずっとさりげなく俺のそばにいてくれた。


まぁおそらくマーシャの仕業だが。



リオナはクスッと笑って、
ムジカの頭をなでてやる。


「・・・・ありがとね。じゃあ行ってくるから。」


「・・・うん。」


ムジカはリオナから手を離すが、
いつも以上にジッとリオナを見つめてくる。


「・・・・?」


・・・どうかしたのか・・?


リオナは少し心配しながらも、
マスターを待たせるわけにはいかないと、
可哀想だがムジカから目を離して部屋から出た。


「ムジカか?」


外で待っていたマーシャとB.B.と合流し、
三人はルナの部屋に行くためにエレベーターに乗り込む。


「・・・・ああ。」


「ほぉ。ラブラブ〜。妬いちゃいそう。」
「違うよ。そんなんじゃない・・・」


なんか・・・・いつもより変に不安そうだった・・・


「まぁ気にすんなよ。いつものことだ。」


「それならいいんだけどさ・・・・。」


ムジカは普段抜けてるけど・・・こーゆー時はなんか敏感なんだよなぁアイツ。


何も起こらなきゃいいが・・・・













ルナの部屋の階に着き、
エレベーターの扉が開くとルナの部屋の扉の前にはシキがいた。


シキもこちらに気づくと
壁から体を離し、
扉に手をかける。



「・・・来たか。よし、中に入れ。」


三人はゴクリと唾を飲む。


いつかはこの日がくるとわかっていたが、
実際にやってくると死にそうなくらい緊張する。


そしてシキが扉を開けて三人を中に入れた。







「・・あ・・・れ・・・?」


《・・・。》


中にはいるとそこはいつもと変わらぬ光景。


中にいるのはルナだけ。


マスターの姿はどこにもない。


「どーゆーことだシキ。」


マーシャは少し訝しげにシキを見る。


シキも少し戸惑いながら、
あくまで強気の姿勢を崩さないようにゴホンと一回咳をした。


「・・・実は先ほどマスターから頼まれたんだ・・・・・俺がマーシャ達に処分を告げろって・・・。」


「?なんでだよ。」


「俺もよくわからないが・・・突然急用ができたって言って・・・」


シキは眉間にしわを寄せながら、
どうして俺・・・と深くため息をついた。


「まぁ今夜は夜会だからマスターも忙しいんだろ。」


「じゃあさ、早く言ってくれよ!俺このまま緊張で死にそうだ!」


「あ・・・・ああそうだな。」


するとシキはなにやら上着のポケットを探りはじめる。


「・・・・・・?」


身構えていた三人は、
何をしているのかと、
少しいらだつ。


「ああ・・・・あったあった。」


そう言ってシキが取り出したのはネクタイだった。


そしてそれをそっとリオナとB.B.に渡す。


「リオナとB.B.の処分は・・・・進級だ。」


「・・・!?!?」
《・・・!》


まさかの展開に三人は口をぽかんと開けた。


リボンからネクタイに変わるということは、1stエージェントへの昇格を意味している。


「マーシャはこれ以上進級できないからボーナスを・・・」
「ちょっと待った!」
「・・・・・・」


マーシャはシキの言葉を遮り、
疑うようにシキに近寄る。


「何たくらんでやがる。」


「別にたくらんでなんか・・・」
「おかしくないか?あんだけ非難を浴びたのに進級だ?意味わかんねぇよ。」
「俺だって納得いかないさ!!!」


シキの怒鳴り声にマーシャは少し後ずさる。


「俺だって・・・まだおまえ等を許せてないのに・・・なぜかマスターが進級にするとおっしゃったんだ・・・!!確かに実績はあるが・・・・・俺はそれはおかしいと言ったんだ・・・・・でもマスターは進級にすると聞かないから・・・!!クソっ・・!!俺の気持ちが分かるか!?」


「・・・・・・・・」


しかしマスターの存在は絶対だ。

今更シキがどうあがこうと状況は変わらないだろう。




あまり嬉しくはないが、仕方なくリオナとB.B.は黙って首でだらしなく結ばれたリボンを外し、
ネクタイを締める。


「今からルナと不老の契約を結んでもらう。B.B.は悪魔だからリオナだけだ。マーシャ、付き添ってやれ。」


それだけ告げると、
シキは扉に向かっていってしまった。


「・・・・俺の人生は17年で終わりか。」


嬉しいような悲しいような。


でも何かが引っかかる。


どうしても・・・・胸の鼓動が収まらない。

















「・・・・・・はい・・・・終わったわよ・・・」


たった数分でルナとの契約が終わり、
リオナ達は緊張がとれたせいかガクンとその場に座り込んだ。


「はぁ・・・・疲れた。」


「でもなんか引っかかるよなぁ。」


「・・・マーシャも?」


「ああ。だってあのマスターがだぞ?何かたくらんでるとしかおもえねぇ。」


でも企むとしたら何だろうか・・・・・・


・・・俺たちを進級させて何がしたいのか・・・・・・



「・・・・あれ・・・・・・・・・・?」


「どうしたルナ。」


「・・・・・シキがいる・・・・・・・?」


「・・・・?」


「いやシキならさっき帰って・・・」


四人が横を向くと、
いつから立っていたのか
シキがいた。


《あれ!?さっき帰ったんじゃなかったのかよ!》


敵意むき出しにB.B.はシキの周りを飛び回る。


「シキどうし・・・」
「出れないんだ。」
「は?」
「だから、出れないんだっ!」


マーシャは意味がわかんねぇよとシキに地面の草を投げつける。
が、ルナが草を抜いたことに怒り、マーシャをバシッと叩いた。


「いてぇ・・・・・で、何がどこからでれねぇんだよ。」


「頭の悪いやつだな・・!!だから俺たちがこの部屋からでれないんだよ!!!」


「へぇ〜・・・ってなに!?」


マーシャはバッと立ち上がり、
シキにつかみかかる。


「なんであかねぇんだよ!!」
「こっちが聞きたいわっ!!!」
「はぁ!?使用人のクセして!!鍵はどうした!?」
「そんなもんいつも持ち歩いてるはずないだろ!?」
「この役立たずが!」
「なんだと!?お前に言われたくない!!この自己中やろう!!」
「なんだと!!」


2人の言い合いはしばらく続いた。


しかしそんな2人を放っておいて、
リオナは黙って座り込んでいる。


・・・・なんか・・・・嫌な予感がする・・・・・・


・・・・まさか・・・・・これは全部仕組まれたこと・・・・だったら・・・・


「・・・・・ムジカが・・・・危ないわね・・・・・・」


「・・・・!?」


その言葉にマーシャはピタリと言い争いを止めた。



「どうゆーことだルナ。ムジカが危ないって。」


「・・・・あくまで予想だけれど・・・・・リオナたちを進級させると言ってここに閉じこめて・・・・その間にムジカを・・・・・」


「・・・始末って・・・ことか!?」


リオナもがばっと立ち上がる。

が、それ以上にシキが強く声を張り上げた。


「まさか!マスターはそんなことしない!!!」


「いや、信用できないな。むしろシキ、お前もグルなんじゃないか?」


マーシャはさっとナイフを取り出し、
シキに刃先を向ける。


「まっ・・・まさか!!俺はそんなことしない!!!それにマスターだって・・・・・ムジカを助けてやるって!」


「でもその¨助けてやる¨が"死"を表していたら?」


「・・・・・!」


シキは今までの強気の姿勢を崩し、
少し逃げ腰になる。


「・・・・・でもどうするんだ・・・・ムジカを助けるってことはマスターに逆らうことだぞ!?ダーク・ホームにいられるはずがない!」


「そんなこと知ったこったない。とりあえずマスターと話してみないとな。リオナ。扉に穴あけられるか?」


「うん。」


そう言うとリオナは扉に近づき、
呪文を唱え始める。


「まっ・・・まて・・・!!!そこの扉は簡単には・・・・」


ドゴォォォォォォン・・!!!


しかし扉はシキの考えとは裏腹に、
物凄い音を立てて大きな穴をあけた。


「どう?」


「上出来だ。シキ、魔族をなめんなよ。」


「・・・・・」


そう告げると、
リオナとB.B.とマーシャは部屋を飛び出した。





「とりあえず一度部屋に戻るぞ。」


《勘違いって可能性もあるしね。》


「そうだな。」


三人はエレベーターに乗り、
急いで部屋に戻る。












「ムジカ!!ムジカ!!」



リオナは自分たちの部屋の扉を勢いよく開けて
ムジカを探し回る。


しかし部屋中を探すが、
いる様子はない。


「マーシャ・・やっぱりいなかった・・」


・・・・ルナの予想通り・・・マスターの仕業か・・・・


マーシャは小さく舌打ちをし、
やれやれと肩をあげた。


「やっぱり罠だったか・・・。クソ。」


「でもどうすんだよ・・・」


するとマーシャは珍しくまじめな顔をして、
リオナとB.B.に向き合った。


「いいか、よく聞け。俺たちに残された選択肢は2つだ。一つは、マスタールームを襲撃してムジカを助ける。もう一つはムジカと別れるか。」


「そんなの・・・助けるに決まってる。」
《そーだそーだ!!》


「でもムジカを助けたあとを考えてみろ。ムジカを助けるって事はムジカをダーク・ホームにはいられない。ダーク・ホームの外に出なきゃなんねぇ。つまり俺たちも一緒にだ。それはダーク・ホームを裏切ることにも値するんだぞ。」


そしてマーシャは眉間にしわを寄せながら、
小さく尋ねる。


「お前達に仲間を裏切る覚悟があるか?」


その言葉がこんなにも重いものだなんて・・・思ってもみなかった。


仲間を裏切る・・・・シュナやシキ・・・・ラード・・・ユリス・・・・ベン・・ルナ・・・・


みんな・・・・どう思うかな・・・


でも・・・・俺は・・・・


「大切な人の命を救えるなら・・・たとえそれが仲間を裏切ることになっても・・・俺はムジカを助ける。」


リオナは強い眼差しでマーシャを見る。


そんなリオナを見て、
マーシャはやれやれと頭をかいた。


「そーゆーと思ったよ。」


「マーシャ・・・・」


するとマーシャはリオナに背中を向け、
エレベーターホールに向かう。


そしてエレベーターのボタンを押すと、
さっとこちらを振り返る。


「いつまで突っ立ってんだよ。さっさと行くぞ。」


「・・・!?ま・・・マーシャ!?」


「ぁあ?助けんのか助けねぇのか?」


「そうじゃなくて!!」


リオナはマーシャの腕をつかみ、
しっかりと目を見る。


「そうじゃなくて・・・!!マーシャはそれでいいの!?マーシャもダークホームに居られなくなるかもしれないんだよ!?」


「別に?いいんじゃない?」


「・・・!?」


マーシャはいつものようにあっさりと答えると、
これまたいつものようににやっと笑う。


「リオナがやるなら俺もやる。リオナがやらないなら俺もやらない。ただそれだけの話。」


それだけって・・・・・


「なんでだよ・・・・」


なんでそうやっていつも俺のワガママに付き合うんだよ・・・・


「なんでってか?そんなの簡単じゃーん。」


そう言ってマーシャはリオナの肩に腕を回し、
耳元で囁いた。


「リオナ君がたぁぁぁい好きだから。」
「・・!!!!!!!!」


な・・・・なんてこと言うんだ・・!!!


でも・・・・もう慣れた。


「・・・・ばか。」


「知ってるよ。あ、リオナ照れちゃって。かーわいー。」


「・・・・うるさい。」


そう言ってリオナとマーシャはエレベーターに乗り込んでいく。


《ちょ・・・ちょっとまてよぉ!!!》


「あ?B.B.いたのかよ。」


《ひどっ!!》


B.B.は半泣き状態でリオナの頭に飛び乗った。


《オイラも行くぞ!!おいてかないでぇ!!》


「・・・おいてかないし。むしろお前は強制的に付いてきてもらわなきゃ困るんだけど。」


「え〜!?リオナ君はオイラはいなくていいの!?」


《マーシャぁ!!オイラのマネしないでぇ!!》


「は?オイラは昔からオイラだ。」


《もぉ!!!リオナなんとかいってよ!!!》


「・・・・マーシャ、がんばろうね。」


「おう。」


《リオナまでぇ・・・》


そして三人はエレベーターに乗り込み、
戦いの幕を開けるためにマスタールームに向かっていった。

















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