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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue third



時天大帝国壊滅から一週間。
未だ犯人は不明。
しかし明らかになってきたこともある。


その日、双子のリオナとウィキはベッドの上で寝っ転がっていた。寝ているわけでもなく、かといって起きているわけでもなく。

「なぁウィキ。」
「なぁにリオナ?」
「今何時?」
「午後1時」
「なぁいつまで寝てればいい?」
「う〜ん夜が明けるまでかな?」

そう、なんと夜が明けないのだ。

外は未だに真っ暗。
月も真上で止まったまま。

明け方は国中が大騒ぎしていた。報道機関はひっきりなしに空を箒で飛び回り、情報収集をおこなっていた。
その光景はまるで年に一度行われる、箒で空を駆け抜ける"コメット・レーシング(ほうき星大会)"のようだった。

今は様子も落ち着き、いつも通りに活動しているものもいれば、夜だからと言って寝ているものもいる。


ヴァンズマン家の場合。
朝、
ダンによる勝手な話し合いの末、夜が明けるまで寝ると勝手に決められた。


「ねぇ今僕たちに朝がこないってことは、世界の裏側では夜がこないってこと?」
「・・そうゆーことじゃん?」
「じゃあ日焼けしちゃうね」
「それはイヤだな」
「でも夜が長すぎて、朝が急にきたら僕たちの目はつぶれるね」
「つぶれるな」
「痛いかな?」
「焼けるような痛さってやつじゃん?」


他愛のない会話が続く。
しかしやっぱり寝ているだけじゃおさまらない。


ウィキはばっと立ち上がり、ベッドからリオナを引っ張り起こす。
「ねぇ僕いいこと思いついた!」
「え?」
「あのねっ夜だから暗いでしょ?服のボロボロとか目立たないし隣町とかにふつうに入れると思うんだっ!ねっ?」

いつもはラグの町から隣町、ましてや中央都市など、堂々と入れない。一種の差別みたいなものだ。

二人は他の町には、この前サラと行ったのを入れて二度行ったことがある。が、どれも気が引けて居心地は悪かった。

だが暗い中だったら、中央都市はさすがに無理だろうけど隣町ぐらいなら余裕で入れるだろう。

輝くウィキの目に同調するかのようにリオナの目も輝き始める。

「確かに・・・!黒めの服ならわからないかも!」

「きまり!」

2人は夜が明けては意味がないからと急いで支度をした。





真っ暗な空の下、子供たちが楽しそうに遊んでいる。
普通ならおかしなことだが、
今は常識という言葉ほど説得力のないものはない。

時間的には昼間だけれど、太陽がないため、とても冷えている。

2人は黒のトレーナーにモナ手作りのニット帽とマフラーをつけて出かける。


隣街に向けて歩いていると
バルドの家が見えてきた。

「バルドは何やってるんだろう」
「ねてるよきっと。バルドはまだ夜中の1時位だと思ってるんじゃない?」
「あーぽいなぁ」

2人は勝手な想像をしてさっさとバルドの家を通り過ぎる。

二人が向かうのは、
先日、サラに連れられていった隣町とはまた別の隣街。
その街は中流の富豪が集まる街で、『どうせ行くならスゴいとこ』ということでこの街に決まった。




しかしリオナとウィキはあることに気づけなかった。


二人は隣街に着いたとたん、目を丸くした。


「あ・・・明るい・・・」

「・・・・。」

そう、二人は街灯というものを忘れていた。
街灯は隙間なく街中を照らしている。


「あ〜ぁ。やっぱそう簡単じゃないかぁ・・・」

「・・・」

ウィキはガッカリしたようでその場に座り込む。

そんなウィキを見つめながらリオナは悩んでいた。

彼の中には二つの考えがあった。
一つは、別にそのまま気にせず入っても大して目立たないし大丈夫なんじゃないか?というもの。

もう一つは諦めて家で寝るか遊ぶかというもの。


「ウィキ。1と2どっちがいい?」

ウィキは少々不機嫌そうにリオナを見上げる。

「・・・・なにそれぇ。」

いつもは天使のようなウィキが小悪魔化してしまっている。

「まぁいいから。ほら選んで!」

「・・・?じゃあ〜いちぃ・・・」

その答えを聞いてリオナは嬉しそうににっこり笑ってウィキを引っ張り立たせる。

「よし!ほら行くぞ!」
「!?でも明かりが・・・」
「気にしてても仕方ないよ。しかもウィキが選んだんだよ?」
ウィキが不思議そうに首を傾げる。
「2は何だったの?」
「帰って寝る」
「ははっ!そっか!」

小悪魔もようやく天使に戻り、二人は街へ踏み込む。


街は建物から全部レンガ造り。

お店のショーウィンドウが街灯を反射させ輝いている。

「なんか綺麗だねっ!キラキラしてる!」
「うん」

ラグとは違って道もきれいに整備され、金持ちが多いせいか道で遊ぶ子供たちの姿もない。

店が建ち並ぶ一本道を進んでゆくと、大きな広場にたどり着いた。

そこには大きなテントが建っていて、何やら中から歓声やら音楽やらが聞こえてくる。


「これってサーカスかなぁ?」
「じゃん?」
「中で何やってるんだろう?」
「さぁ?」
「ふぅん」
「・・・・」

ウィキはどうしてもサーカスが見たく、テントの隙間から覗こうとする。

「何か見えた?」
「うーん・・・あんまり」
「ちょっとどいて」

そういってリオナは小さい穴に手を添える。
小さく口元で呪文を唱える。

するとみるみる穴が広がっていき、2人でも覗けるほどになった。

「うわぁ・・・すご」

思わずリオナも感激する。

「僕、象はじめてみた!」


しかし感動するのもつかの間、
テントの中にいた職員と目が合ってしまった。

「おまえ等何してるっ!!さてはラグの人間だな!?」

「ヤバいっ!!逃げるぞ!」
「うん!」

すぐに二人は手を取って走り出す。

「ここはお前らみたいな汚い奴らが来るところじゃないんだ!!わかったかっ!!」

男からの罵声を背中で感じながらも全力で走る。


しかし元の道から大分はずれたようで、周りには住宅街が続いている。


二人は息を切らせて座り込む。

「はぁ・・・はぁ・・・ケホッ!!ウィキ大丈夫?」

「・・・うん・・・。」

「・・・?どうしたウィキ?」

リオナは少し元気がないウィキの顔を覗き込む。

するとウィキの目には涙がいっぱいに溜まっていた。

「・・・気にすんなよ。あんな奴の言葉なんか。別に俺ら汚くないし。」

「・・・・・。」

「ほら毎日ちゃんとお風呂だって入ってるし歯だって磨いてんじゃん。」

「・・・・・。」

リオナは困って頭をかく。
ウィキが落ち込んだり怒ると手のつけようがないことはリオナが一番わかっている。
だが、わかっていてもどうしようもないときもある。

「・・・なぁウィキ・・・」

リオナがどうしようもなくウィキに呼びかけた瞬間、頭上をものすごいスピードで四本の箒が飛んでいった。

するとこちらにUターンしてきてリオナとウィキの前に降り立った。

四人ともジャケットを羽織り、首には蝶ネクタイをしていて、いかにもお坊ちゃんという感じだ。
年齢はリオナとウィキよりも五つほど上くらい。

すると真ん中のリーダーらしき少年が2人を見て鼻で笑う。

「なんだコイツらラグの奴らだ。道理で汚いと思った!」

馬鹿笑いが響きわたる。

リオナは腸が煮えくり返る思いがしたが、それを無理やり押さえ込む。

「・・・・・。」

「おいもしかして迷子か?そうだよなぁラグは臭いから匂いで場所がわかるもんなぁ!はははっ!」

「・・・・。」

しかしリオナの冷静な態度がかんに障ったのか、端の体格のいい少年がリオナの前髪を掴み強く引っ張る。

「てめぇラグの人間のくせに生意気なんだよっ!!」

そう言うと思いっきりグーで殴られ、ウィキの隣に倒れる。

「・・・・ウィキ・・・逃げろ!」
「・・・・・。」

リオナが呼びかけても反応がない。

あんな子供四人だったらリオナとウィキなら簡単に倒せる。
けれどリオナの頭には、いつも口うるさく言うサラの言葉が響いていた。

-暴力はダメ!


すると少年は今度はウィキの服を引っ張り、体を引き寄せる。

「お前さっきから何ぐったりしてんだよ!!この汚いクズがっ!」

そう言って拳を振り上げる。

「ウィキ!!」

パシッという音が響きわたる。
リオナは思わず閉じてしまった目をそっと開いた。

ウィキは相手の拳を左の手のひらで受け止めていた。
しかし様子がおかしい。

目はいつもの輝きを失い黒々として、口元は不気味にひきつっている。

「なっ・・・なんだよコイツ・・・!!!はなせっ!!」

少年はウィキの手を払いのけようと手を振るが、びくともしない。

するとウィキはそのままリオナに話しかける。

「・・・ねぇ・・・・リオナ・・・・汚いってなぁに・・・?」

思わずリオナも息をのむ。

「・・・・ねぇ・・・クズって何?」

言葉を言い終わる前にウィキはいつの間に魔力を溜めていたのか右手から魔弾を相手の腹に打ち込む。

「ジャック!!」

ジャックと呼ばれる体格のいい少年は地面に倒れ、泡を吹き始めた。

「くそっ!!」

するとリーダーのような少年が手元から短い紐を取り出し、ウィキに向かって投げつけてきた。

短かったはずの紐はどんどん延びていき、まるで長い剣のようにウィキに突き刺さろうとしていた。

しかしウィキはサッと身をかわして相手の方に一瞬で移動する。


そして相手の耳元で呪文を唱え始めると、
男子はその場で石のように固まって地面に倒れ込んだ。

「うわぁっ!!」

残りの2人が驚きのあまりに悲鳴を上げる。
その声を聞いてウィキは残りの2人の方へ歩き出す。

「ウィキ!やめろ!」

リオナは立ち上がってウィキの後を追う。

腕を引っ張るが反応がない。

「ウィキ・・・だめだ・・!」

ウィキいつになく冷たい目をしている。

「・・・何で?何でやめなきゃいけないの?リオナを殴ったやつだよ?リオナを傷つけたやつは僕が許さないんだから・・・」

そう言って歩みを進める。

「俺は大丈夫だから!たのむからやめろ!」

後ろからウィキに抱きつく。
精一杯の力と願いを込めて。

するとウィキの目がふっと変わった。

「・・・リオナ・・・・」
「・・・・・ウィキ?」

そのままウィキが倒れ込んだ。
気を失っただけみたいで、リオナもホッとする。

すると遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「リオナ!!」

振り返るとそこには息を切らしたサラの姿があった。

人に見られてまずいと思ったのか、
残りの2人はウィキによって倒された2人を抱えて逃げていってしまった。

リオナは目を丸くしてサラを見つめる。

「サラ・・!なんでいるの!?」

「まぁ・・・ちょっとね。」

そう言って目をそらす。

でもサラが来たおかげでリオナの心が少し落ち着いた。

「ていうか大丈夫!?ウィキが暴れてたみたいだけど・・!」

「気絶してるだけだ。大丈夫・・・。でもあんなに怒るウィキ見るの初めてだ・・・・。」

そっとウィキの頭を撫でる。

「・・・うん。・・・・ってリオナもほっぺた真っ赤!腫れちゃってるよ!」

そう言ってハンカチを渡す。

「ちょっと殴られただけ。」
「なんでやり返さなかったのよ!」
「・・・サラが暴力はダメって・・・」
「ばかねっ!こういう時はいいのよっ!男だったら立ち向かいなさい!」
「はぁ!?」

サラの意外な発言に思わず笑みをこぼす。

「あっでもウィキにはお説教しないとね!」

するとそれに反応したのかウィキが起き上がる。

「・・・いやだ」

「・・・ウィキ!!」

リオナは喜びのあまり思いっきり抱きつく。
ウィキは意識をふらつかせながらもリオナの背中に手を回す。

「・・・リオナ・・・」
「ん・・?」
「・・・ごめんね?」

ウィキの手に力がこもる。
リオナはニコッと笑ってウィキのほっぺたをつねる。

「しょうがないなぁ。これで許してやるっ!さっ帰れろ!」

「うん!」

いつものようにウィキがにっこり笑う。

「ところでなんでサラがいるの?」

「そ・・・それは秘密よヒ・ミ・ツ!!」

「なにそれぇ!!」


三人はラグの町へ向かう。


ようやく夜が明けようとしていた。



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