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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story13 夜会



《なぜだぁ〜!!!!なぜなんだぁ〜!!!!!》


「ったくよぉ、うっせぇから黙れってぇ。」


「・・・ちょっとB.B.動くなって!!」


今日は月に一度のメンバー集会。

その名も"夜会"


リオナとマーシャは正装に着替えたが、
問題はB.B.。


シキ特製のB.B.専用の服を着せようとするが、
暴れまわって着せることができない。


「・・ちょっと暴れないでよB.B.。おいてくよ。」


《なんでなんだよ〜!!なんでオイラが〜!!》


「・・・さっきから何・・・・」


リオナはB.B.の耳をさっと捕まえ、
その隙にマーシャが服を着せていく。


《だぁかぁらぁ昨日のあれだよ!!なんでオイラが可愛いっていわれなきゃなんないんだぁ!!オイラは悪魔だぞぉ!?》


マーシャは乱暴に服を着せながらB.B.の戯言に面倒臭そうに口を開いた。


「ああアレか。いっとくがアレはリオナだからこそ可愛いんだ。うぬぼれんなよ。」


《うるせぇ!!》


「ああ・・・・思い出しただけで頭が痛くなる・・・・」


リオナは頭を押さえた。












そう、昨日の契約の儀をすませた帰り、
B.B.のくだらない策略で、B.B.が中に入ったまま
黒の屋敷に帰る羽目になった。


リオナの頭からウサギの耳が2本。


黒の屋敷に入るとリオナはすぐにマーシャの陰に隠れながら歩きだした。


談話室を越え、
人が出てこないのを見計らって、少しだけ歩くテンポを早めたりする。


"案外いけるじゃん"


誰もがそう思った瞬間だった。


その日は本当についていなかった。


三人は食堂の前を通る。


食事の時間はとうに終わっているからリオナは安心して通った。


が、甘かった。


なんと食堂から一人の男がでてきたのだ。


その名はラード。
顔見知り。


「おーマーシャとシキじゃん!何してんだぁ二人して?てか聞いてくれよ!食堂のおばちゃんがよー・・・・・・・・ってリオナもいんじゃん!なに隠れてるんだよ!」


― ・・・・ばれた・・・!!


「い・・・・いや別に何も・・・・」


リオナはさらにマーシャとシキを盾にした。が、時すでに遅く、
ラードに引っ張り出されてしまった。


― ・・・あ〜あ。


これから起こる惨事にマーシャはため息をつく。


そしてラードはリオナを上から下まで目を丸くして見つめた。


「お・・・おい・・・お前・・・その耳・・」

「わかってる・・・ラードが笑いたいのはわ・・・・」
「かわいーなー!!」
「・・・・・・・・・・・はい?」


ラードの意外な反応に、
リオナは驚きを隠せずに目を丸くした。


「だからかわいいっていってんだ!この耳どうしたんだよ!?シキのオリジナルか!?」


ラードは無理に耳を引っ張る。


《イデデデデェ!!!そんなに引っ張るなって!!オイラの耳はオモチャじゃないのだ!》


「!?リオナお前オイラとか言ったっけ!?」


「・・・・違うよ。これは俺の悪魔・・・・。」


ラードはマーシャとシキの顔を交互に見る。


「・・・もしかして、リオナの中にいる悪魔って・・・・あの黒ウサギか・・・・?」


二人は何も言わずにうなずいた。


「オイオイオイオイオーイ!!!まじかよ!!アイツかよ!!リオナついてねぇな!!バァーハッハッハッハァ!!!」
「ちょっ・・・・・声デカ・・・・」


しかしラードの豪快な笑い声は、
大勢の人を引き寄せ
いつの間にかリオナの周りには人だかりができ、
至る所から耳や羽を引っ張られる。


写真をせがまれたり、
ひどいときは連れ去られそうになったり。





それからシキと別れ、部屋に戻ることができたのは1時間後。


マーシャは部屋に入ってからもずっと笑いっぱなしだったが、
リオナとB.B.はぐったり。


B.B.に関しては耳がゆがんだとか何とかで落ち込んでいて、自業自得としか言いようがなかった。















「ほれできた。カワイイ自分の姿を見て元気出せ。」


マーシャはB.B.の首にリボンをむすんでやると、
ポンと鏡の所まで弾き飛ばす。


空中をフワフワと浮遊しながら、
B.B.は鏡に映る姿を見た。


《なんでリボン!?オイラネクタイがいい!!》


「・・・ワガママ言うなよ・・・しょーがないじゃん。俺の契約者なんだから。」


俺もネクタイがいいけど・・・・


小さく呟くと、
リオナもやっとのことでリボンを結び終え、
マーシャに見せる。


「あっそう言えばさ、今日はルナ来るの?」


微妙にゆがんでいたが頑張って結んだリオナのリボンをあっさりとほどき、もう一度結びなおしているマーシャを、
リオナは少し苦笑いをして見つめている。


「いや。来ないよ。」


マーシャはリオナの何倍もの速さでキュッと結び終わってしまった。


「なんで??」


「そりゃあ犯罪者だから。」


たんたんと述べるマーシャを少しだけ睨む。


「・・・その言い方・・・・やめて。」


「ははっ。まぁそんな怒るなって。安心しろよ。今日で犯罪者じゃなくなるから。」


「!?ホント!?・・・・ならよかった・・・」


リオナは安心したのか顔の表情が明るくなる。


そんなリオナを見たマーシャは逆に少し暗い顔をしていた。


「・・・リオナはルナが好きか?」


別に聞くつもりはなかったが、
自然と口から飛び出していた。


「?何言ってるの。好きに決まってるじゃん。どうして?」


「・・・・・・いや、なんとなくだ。まぁ気にすんな。あっほらもうこんな時間だ。行くぞぉ。」


マーシャはニカッと笑って部屋を出ていく。


「・・・・・・・・・。」


どうしてだろう


"マーシャはルナの事好き?"


聞こうとしたけど


聞けなかった


それは


なんとなく


答えを聞くのが


怖かったから





部屋を出ていくマーシャを見つめていると
頭にB.B.が乗っかってくる。


《なぁ。オイラたちもはやくいこー?オイラ腹ペコで死にそうだ。》


「・・・・うん。ってか頭に乗るなよ。お前には翼があるだろ?飛べよ。」


《やなこった。お前は分からないだろうけど空飛ぶってすんごい体力使うんだ。だから今日からリオナの頭の上がオイラの特等席だ!》


「・・・はいはい・・・」




















夜会の会場はどうやら城内ではないようで、
三人は外に出て、庭を通り抜けていく。


夜のせいか空気が一段と冷たくなり、
ダーク・ホーム全体がどこか神秘さに満ちあふれている。


「おっ。これ見てみろリオナ。」


「ん?」


突然マーシャは庭に咲いている真っ白な花を指差した。


月の光に照らされていて、少し青白く見え、
美しさを増している。


思わずリオナも見とれてしまうほどだ。


「すごいキレイ・・・」


「だろ?この花はな、大魔帝国に咲いていた花なんだ。キレイだろ?いつも任務に出るときは必ずこの花を拝んでから行くんだ。」


「へぇ・・・なんかいいね。願い事とかかないそう。」


《!?願い事!?》


願い事という言葉に反応して、
B.B.は耳をピンと立ててパタパタと花のところまで飛んでいく。


《オイラをこの黒ウサギから解放してくれぇ!!!》


真剣に祈るB.B.。


そんな彼を見て、
マーシャとリオナは吹き出した。


《な・・・・なんで笑ってんだよ!?》


「はははは!いやっ・・・悪魔も祈ることがあるんだなって!」


「言っとくがその花は願い事とか叶えてくんないぞ。だってただの花だから。 あはは」


《ほ・・・ほっといてくれよ!!オイラだってたまには祈るのだぁっ!!》


そして乱暴にリオナの頭に戻っていく。


その表情はいつも以上にムスッとしていて。


一度怒ると手のつけようがない。


リオナとマーシャは顔を見合わせ、苦笑いしながらも
再び歩き出した。





少し行った所に、大きな湖があった。


その湖の中央には浮いているかのように巨大な半円のホールがあり、
中には沢山の人がいて、楽しそうな音楽が耳に入ってくる。


どうやらここが会場らしく、
陸地から続く長い橋を渡って、
ダーク・ホームメンバーがどんどん会場内に入っていっていた。


水はキラキラと輝き、
まるでイルミネーションのようだ。


― ん・・?何かある・・・


水中に何かを見つけ、
リオナは走って駆け寄り、
水面を覗き込む。


《うぁ!落ちる落ちる!!》


リオナの頭につかまるB.B.は必死にしがみついた。


「あっ。これ指輪だ・・・・ぅわ!」


思わずのぞき込みすぎて手が滑る。


しかし間一髪。


マーシャが後ろから思いっきりリオナを引っ張り上げた。


「あぶねー。落ちたらどうすんだよ。」


「あ・・・ありがとう。びっくりしたぁ・・・」


リオナはふぅっと息を吐き、
高鳴る心臓を沈ませる。


「コッチがびっくりしたよ。指輪か?」


マーシャは水に手を入れ、
指輪を手に取る。


シルバーのリングに真っ赤な石が埋め込まれている。


「派手・・・・。」


「だな。」


《これオイラもーらい!!》


B.B.は指輪をマーシャから奪うと、
鼻歌を歌いながら指にはめようとした。


《んな・・・・!!》


しかし気づいてしまった。


自分に指がないことに。


B.B.は指にはいらないことへではなく、自分に指がないことへのショックのあまり
白目をむいてしまった。


「ははっ。まぁ落ち込むなって。」


そう言ってマーシャは指輪を手に取ると
B.B.のリボンを外し、指輪と一緒に結び直す。


「ほれ。これでいいだろ?」


指輪はキレイにリボンの中心に収まっていた。


「おお・・・さすがマーシャ。」


《すごーい!マーシャは女か!?》


「ほめ言葉になってねぇ。つうかやべー。もうこんな時間だ。いそがねぇとシキにどやされっからなぁ。」


― あんま焦ってなくない?


リオナは呆れてため息をもらした。


三人はホールに続く橋を渡っていく。


どんなことをするのだろうか。


どんな人々がいるのだろうか。


ホールに近づくにつれて
リオナの心臓が高鳴る。


入り口が見えてくると、
そこには何度も何度も時計を確認しては足をカツカツ床にぶつけ、
眉間にシワをよせている男がいた。


そう、シキだ。


シキはマーシャ達を見つけると、
すぐに走って駆け寄ってくる。


マーシャの予想は的中した。


「遅い!何やってたんだ!あれだけ遅れるなっていったのに!」


どうやらシキはご立腹のよう。


「悪かったよ。でも文句言うならこのガキンチョどもにしろよ?俺は悪くない。」


「・・・ガキンチョじゃない!」
《ガキンチョじゃない!オイラは悪魔だぞ!?》


ギャアギャア騒ぐ三人を見て、怒る気が失せたのか、
シキはため息をつきながら髪をかきあげ、
時計をもう一度みて三人を急かす。


「とにかく中に入って。特にマーシャは早くステージに。マスターがお待ちだ。それに今日はカンナ様がお越しだ。」


「はぁこりゃまた大物がお越しになったことで。」
「こらマーシャ・・・」


シキはマーシャに目で叱りつける。


マーシャは肩をすくめて適当に相づちを打ちながら、
リオナとB.B.に視線を合わせた。


「俺はちょっくら行ってくるからお前らは好きにしてな。ほら中に食い物いっぱいあるからよ、好きなもん好きなだけ食えよ。」


「うん。」


そう言ってシキに手をひかれながらリオナとB.B.に手を振っていく。


「あと暴れんじゃねぇぞ?いい子にな。特にB.B.。」


そのままマーシャは人ごみに消えていった。


「・・・・だってさB.B.。いい子にね。」


《ふんだ。周りがいい子だったらねっ。》


そして二人も中へ入っていく。




入り口を抜けると、

中は金色に輝く大ホール。

そして人と料理と音楽であふれかえっている。


人の見分けはだいたいつく。


ドレスやタキシードを着た人は召使いや料理人、いわゆる雑用。

そしてスーツを着ているのはエージェントだろう。


比率的には若干エージェントの方が少なそうだ。


マーシャが前に言っていたように人材不足なのだろうか。


「なんか眩しいな。」


《何が?》


「何がってこの建物。」


《ふぅん。言っとくけどぉ〜天上界はもっと眩しいのだ!建物は全部真っ黒!》


天上界とは悪魔達の住む世界のことであると、確かシキが言っていた。


「真っ黒って眩しいって言わないよ。」


《じゃあなんて言うの?》


「なんてって・・・眩しいっていうのは見ていて目が細まる感じ?だから黒は違うの。」


《へぇ。オイラそーゆーこと全然知らないもんなぁ。》


B.B.にしては珍しい発言にリオナは少し微笑みを浮かべた。


「ねぇ天上界ってどんな感じ?」


《別に地上と変わらないよ。人じゃなくて悪魔が住んでるっていうだけの違いなのだ。》


「へぇ。ねぇ悪魔ってどうやって地上にくるの?」


《どうやってって?それはねぇ、ひたすら勉強するのだ。人間界についてね!そんで選ばれた何匹かが地上へこれるってこと。》


「じゃあB.B.も選ばれたんだ。」


《あったぼうよ!!オイラは主席だぜぃ!?》


「・・・・・・主席でもその後に問題がありすぎだよ・・・・・」


《なんか言った?》


「いや別に。ほら好きなの食べれば?お腹減ってるんだろ?」


《イェスッ!!》


B.B.はリオナの頭から離れると、食べ物をむさぼり始める。


周りの人たちは驚き、
だんだんと人がいなくなっていった。


《貸し切りなのだ!ラッキー!》


「あはは・・・・そうだね」


リオナはB.B.のポジティブ思考を尊敬するとともに恨んだ。





何分かたった頃。



突然音楽が止まり、
人々は皆最奥にあるステージに体を向けている。


「何か始まるのかな・・・・」


《さぁね。オイラには関係》
「あるから一旦食うのは止めろ。」


リオナはB.B.を引っ張り、
ステージの近くまで行く。


《オイラの貸し切りテーブルが・・・》


「後でまた食べさせてあげるから。ちょっと我慢。」


人混みをかき分けてゆくと、
人々はB.B.を珍しそうに眺めてくる。


しかしB.B.はそんなこともお構いなし。


見てくる人ひとりひとりにガンをつけている。


リオナが止めても聞くはずがない。









そしてステージのカーテンが開いていく。


ステージ右にはマスターの使用人と思われる者が5人、ステージ左にはスペシャルマスターのラード、ユリス、ベン、マーシャが座っていた。


そして中心にはマスターと1人の40代ほどの女性。


ステージの右半分だけ見ればきっちりしているが、
左半分のスペシャルマスター達のだらけ具合といったらハンパない。


一番左のベンは、
頭の傾き具合からして明らかに寝ている。


隣のユリスは未だに鏡を見て髪をいじくっている。


一番右にいるマーシャは隣で話し続けるラードを無視して、ボケェとしている。


しかしそんなスペシャルマスターたちを見て、
歓声やら何やらを上げて人々は喜んでいる。


《あんなんでスペシャルマスターかよ!オイラでもなれるぜ!》


「うーん・・・」


否定はできない。


けれどそれでも強いのだからすごい。


マーシャを見つめていると、
こちらに気づいたのかヒラヒラと手を振ってくる。


それがなんだか少し嬉しくて、
リオナも頬を少し赤くして手を振りかえそうとした。

しかし、

「おっリオナと黒ウサギじゃーん!!!おーい!!こっち来いよ!!」

「え!?リッチャン!?あっリッチャンだぁ!!!やっほぉ♪いやんそんな目で責めないでぇ♪」


リオナは一気に冷め、
そっぽをむいてしまった。


周りからは注目を浴びてしまい、
恥ずかしさでいっぱいになる。


マーシャを見ると、
苦笑いをするだけで、
ラードとユリスを止める様子はない。


― この面倒くさがり屋め・・・・


するとステージ横からさっとシキが出てきた。


そしてラードとユリスに何かを告げると、
ニコッとこちらに笑いかけ、
爽やかに司会を始めた。


ラードとユリスの先ほどとは打って変わった強張った表情からすると、
シキの怒りが直撃したのがわかる。


今日でリオナの中のシキの印象は、好青年から怒らせたら怖い人に変わった。







「えー、皆さんお待たせいたしました。只今からこの1ヶ月の報告をさせていただきます。」


シキはスラスラとこの1ヶ月間の世界情勢とダーク・ホームの活動を報告していく。


そしてやっとルナの話題があがる。


「では先ほども申し上げたルナ=ローズについての処分を申し上げます。先日行われた会議で、ルナ=ローズはまだ歳が若いという意見が圧倒的だったため、処罰は与えず、保護という形となりました。」


あたりが急にざわめき出す。


ほとんどが不満をこぼしている。


― でも・・・よかった


そのざわめきをなくすため、
シキがゴホンと咳ばらいをした。


「勿論、ルナ=ローズを殺さない限り、光妖大帝国の不老を止めることはできません。そしてそれは我々ダーク・ホームの脅威でもあります。そこでです。その脅威をなくすためにマスターがお決めになったのは、使用人と1stエージェントとスペシャルマスターは不老の契約を結ぶということです。」


辺りは一気に歓声を上げて盛り上がった。


何がうれしいのかリオナにはさっぱり分からない。


「なので来週1stエージェントとスペシャルマスターは必ず集まってください。以上で報告を終了いたします。続いてマスターからお言葉をいただきたいと思います。」



その後、マスターの話が何分も続き、
思わず立ったまま眠ってしまった。


「はいどんどん行きましょう。続いては前マスターのご子息のカンナ=ウィーバー様です。」


次に隣にいた女性が紹介され、がっしりした肉体を揺らしながらマイクを握った。


一言で言えば
派手。



「ごきげんよう皆さん。カンナ=ウィーバーです。」


― あっ・・・カンナってさっきシキが言ってた・・・・


リオナはチラッとマーシャを見る。


マーシャは予想通り引きつった顔をしていた。


彼女が相当苦手なのだろう。


それもそのはず、
カンナはマスターの二倍以上話すのだ。


そして話が終わったのはマスターまでもが眠りに落ちた瞬間。


「と言うことでですね、ワタクシはこれからも皆様のご健闘をお祈りしておりますわ。ありがとう。」


皆は話の素晴らしさではなく、
話が終わったことに大きな拍手をした。


勿論カンナは知らない。








全体の話はこれで終わりだと思った。


リオナは頭の上でぐったりしているB.B.に気がつき、
少しかわいそうだと思って、食事を与えにテーブルに戻ろうとした。


しかし再びシキが話し始める。


「えー皆様。いつもならこれで話は終わりなんですが、最後にですね、先日帰還いたしましたマーシャから一言ご挨拶があります。」


マーシャは半分閉じかけていた目をかっぴらき、
シキを見つめる。


"そんなこと聞いてねぇぞ!?"


顔にそう書かれている。


しかしシキに通用するはずがなく、
シキはニコニコ笑うだけ。


日頃の恨みからだろうか。


マーシャは仕方なく、
とりあえず前にでてマイクを握った。


その顔は今までになくひきつっていて。


― あーあ・・・マーシャのやついっちゃってるよ・・・


「よっ!!マーシャ!!いいぞぉ!!」


ラードが後ろから飛ばしてくるやじが、
余計にマーシャを窮地に追いやっていく。


「え・・・・えぇと・・・・」


たったそれだけで女性たちの歓声が上がる。


マーシャの挙動不審な行動は
思わず目をふさぎたくなるほどだ。


「えぇと・・・・ただいまぁ〜?」


「おかえりー!!!キャー!!!」


一部の女性達が妙に盛り上がっている。


― あれが噂の"マーシャ崇拝の会"か。


崇拝の会はマーシャ以外にもいくつかあるらしいが、
こんなに熱狂的な会はマーシャだけらしい。


「マーシャさん!!何か一言喋ってくれよ!」


「・・・・何かって・・・・」


マーシャはシキに目をやる。

たっぷり恨みを込めて。


すると次の瞬間、
会場内に悲鳴が鳴り響いた。


一気に会場がざわめき、
人々は悲鳴のありかを探す。



それはステージに座るカンナからだった。


シキは急いでカンナに駆け寄る。


「カンナ様!どういたしましたか!?」


カンナは肩をふるわせ、シキにつかみかかる。


「わ・・・わたくしの・・・!!わたくしの指輪がない」


「指輪・・・ですか?」


― それだけで叫ぶか普通・・・・
シキは作り笑いをしながらも
思わず小声で呟いた。


「やぁーりぃー。」


対してマーシャはニヤニヤしながら席に戻っていく。


それを見てシキは残念そうにため息をついた。


「赤い石が埋め込まれてるのよ!!あれはお父様からいただいた大切な指輪なの!国一個分よ!」


「く・・・国一個分!?」


会場が一気にざわめきを増す。


―赤い石の指輪って・・・


マーシャとリオナははっとして、B.B.のリボンについた指輪を見た。


すると突然ラードが立ち上がり
マイクを握った。


「よぉし!!お前らよぉく聞け!!今から指輪大捜索だ!!見つけた奴は一年間ダークホーム巡回は無しだ!!」


「おぉぉぉぉ!!!!!」


人々は雄叫びをあげ、
野獣のように探し始める。


― やばい!!!


リオナはB.B.を隠すように抱え、いそいでホールの裏に回った。


すると向こうからマーシャも走ってやってくる。


「マーシャ!!どうするの!?」


「そりゃ外して持って行くしかないだろ!?なんてったって一年間巡回無しだぜ!?」


前に聞いた話だと、
ダーク・ホーム巡回は一日中寝ないでダーク・ホーム中を巡回する一年に数回あるとてつもなく面倒な任務らしい。


確かにそれが無くなるのは嬉しい。


「・・そうだよね!持ってくしかない!!」


二人は一斉にB.B.のリボンにつかみかかる。


ぐったりしていたB.B.はそれに気づいて目を覚した。


《ちょっと!!何すんだよ!?これはオイラの指輪だ!!》


B.B.は翼をパタパタ動かし、
宙に逃げる。


「こらまてB.B.!!リオナ!そっちだ!!」


「オーケー!」


リオナは背後に回り込み、
後ろからB.B.をつかむ。


《はぁなぁせぇ!!!いやだいやだコレはオイラのだぁ!!!》


結局、
指輪はマーシャによってとられてしまった。


「よっしゃ!!コレで俺たちは・・・」


しかし次の瞬間、
B.B.がマーシャに向かって突進してきた。


「うぁ!!」


そしてB.B.を避けた瞬間、
マーシャの手から指輪が飛んでいってしまう。


そのまま指輪はコロコロと転がっていき、かなり離れた所で止まった。



三人は一斉に指輪に向けて飛びつく。


しかし、
指輪はすぐに何者かに拾い上げられてしまった。


「・・・・・・指輪見つけた・・・・・・。」


三人が顔を上げると、
そこには指輪を持ったベン。


ベンはこちらに気づき、
軽く手をふり、
またホールへと戻っていった。


「俺たちの・・・・・」
「・・・・休暇が・・・」
《オイラの指輪・・・・・》



三人はガクンと肩を落とし、
会場から聞こえてくるカンナの歓声を聞きながら
その場で力尽きた。




































光妖大帝国



"神の墓"








いつものように二つのローズ・ソウルを取り囲む11人のフェイター。


先日より2名少ないようだ。


しかも先日と比べ、深くかぶるフードの下は、
皆あまりいい顔をしていない。


「どう。見つかった?」


そこに1人の青年が入ってくる。

見た目は18歳くらいだが、
実際はもう少し上なのだろう。


黒髪が紫色の目を際だたせている。


「アシュール様、大変申し訳ございません。先日発見した大魔帝国の男はただの旅芸人で生き残りではなかったようです。」


1人のフェイターが申し訳なさそうに跪く。


しかしアシュールと呼ばれた青年は、たいして興味なさそうにフェイターから目を離した。


「ふーん。まぁそんなことだろうと思った。だって噂では生き残りは子供らしいし。ところで前王の息子はどうした?最近は忙しくて会えないんだけど。」


全員が顔を見合わせる。


「・・・・それが、シュナはルナ=ローズが逃亡した時に共に逃げたようでして・・・・」


「はぁ・・・。しっかりしてくれよ。君たちがこれからのフェイターを引っ張っていくんだよ?これじゃあ兄さんに顔向けできないよ。で、シュナは今どこに?」


「それがっすねぇ、ダーク・ホームに肩入れしたみたいっす〜」


「ちょっと・・・!!口を慎みなさい!」


「はいはい・・・・」


「そう・・・それはまずいね。・・・・神の島ダーク・ホーム。あそこへの進入手段は今のところないからね。」


「・・・申し訳ありません。」


「いいよ。まぁダーク・ホームから一歩もでないわけはないからね。見つけ次第抹殺。ね。」


「はっ!!」


全員がその場で跪く。


するとアシュールはローズ・ソウルに歩み寄り、
そっと触れた。


ローズソウルには今まで生み出してきた化神達の映像が映し出された。


するとアシュールはある光景に手を止める。


そこには銀髪の少年と茶髪の男。


「・・・・ねぇ、この二人は誰?」


「あぁこの茶髪の方はダーク・ホームのエースのマーシャ=ロゼッティーらしい。じゃなくてだそうです・・・。こっちのガキは知らねー。じゃなくて知りません。」


「へぇ。そう。」


アシュールはローズ・ソウルから手を離し、
扉へ向けて歩きながら低い声で笑い出す。


「ど・・・どうなされましたか・・・?」


「・・フフっハハハハ!!いや・・・何でもないよ。それよりさ、なんとかして化神達を従えなきゃね。今はローズ・ソウルの捜索はいいからそっちに集中してよ。あとシュナの抹殺ね。あぁそれと・・・・」


アシュールはドアの前で立ち止まり、
振り返る。


「ダーク・ホームもルナと不老の契約を結ぶそうだよ。」


そう言って薄笑いを浮かべて部屋を出ていった。


アシュールがでていくのを確認すると
フェイターたちは再び騒めきだす。


「笑い事じゃねぇだろ・・・!」


残されたフェイター達はそれぞれに不満をこぼした。








アシュールは"神の墓"を出ると、
扉に寄りかかり
うつむく。


「フフフ・・・・・・・ハハハハ・・・!!」


笑い声は天まで響き、
呼応する。


「・・・また会えたね・・・・リオナ。」


アシュールは再び笑い、
煙のように姿を消した。















第二章 追憶の闇 混沌の記憶

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