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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Epilogue-promise-
エルゼン・・・・

俺はあなたを恨む。

なぜ俺を・・・・再びこの世界に戻したのか。

なぜ・・・"彼"のいないこの世界に。

俺はもうずっとあの真っ白な穏やかな世界で、
誰にも恨まれる事なく永遠の眠りについていたかったのに。

なぜ・・なぜ・・・・

今は貴方への、怨みの言葉しか出てこない。








目覚めると、俺は柔らかいベッドの上にいた。

今にも崩れ落ちそうな天井。
穴の空いた木の壁。
ミシミシと音を立てる床。

ああ・・・・なんて懐かしいんだ。

懐かしさと共に、
絶望が押し寄せる。

蘇ってしまった・・・・再びこの地に。

なぜ、なぜ・・・・なぜ・・・

「・・・・ぁぁぁあああ!!!!!!」

頭を抱えて悲鳴をあげる。

信じられない・・・苦しい・・・・苦しい!!!!!!

こんなこと誰も望んでない!!!

エルゼンはまだ俺を苦しめるのか・・・・ッ

なんでどうして!!!!!!!

「リオナ・・!?」

俺の悲鳴を聞きつけて、
ウィキが姿を見せた。

ああ・・・ウィキだ。
ウィキが目の前に・・・・

「どうしたウィキ!!!・・・・っ!?リオナ!!!!!!!」

すると今度は、
父さんと母さんが現れて・・・・

母さんは、口を押さえて涙を流していて・・・

「り・・・りおなぁぁあ・・・・!!!!!」

泣き叫びながら、俺を抱きしめてくれた。

母さんの温もりに、一瞬荒ぶった心が落ち着きを見せる。

「父さん・・・・母さん・・」

「・・・・よく帰ってきた。リオナ・・・おかえり。」

そう言って、父さんも静かに涙を流した。

そう、俺はずっと・・・・ずっとこの時を夢見ていた。

父さんと母さんと、ウィキと・・・・

再び出会えることを。

心の底から嬉しい・・・・嬉しくてたまらない。

「・・・・ただいま」

俺も涙を零して、そう答えた。









・・・・でも違うんだ。

違うんだ・・・っ

・・・なんで生きてるんだよ・・・なんで俺は・・・・

あの時、死んだはずだ。

そのまま真っ白な世界でエルゼンと2人で・・・・

なぜエルゼンは俺を・・・・?

家族に会えて嬉しいはずなのに、
このポッカリ空いた穴は1ミリも埋まりそうにない。

「リオナ・・・・!良かったら一緒にバルドに会いに行かない?」

昔のように笑うウィキに安心しながらも、
心はすごく重かった。

そうか・・・・これが、本当の"ココロ"か。

思わず胸を押さえる。

「いや・・・・俺はいいや。ごめん、ちょっとまだ頭が混乱してて・・・」

「・・そっか!!ううん、大丈夫だよ!そしたら僕は薬学の先生のところに行ってくるね。」

そう言って出て行くウィキを見送る。

俺は目をつむり、俺の中に生きている"エルゼン"に問いかけた。

"エルゼン・・・・エルゼン、いるんだろう"

だが、エルゼンから返事はない。

"貴方は・・・・最低だ。本当に、最低だ・・・っ"

自分でもなんてひどい言い方しかできないのかと思う。

でも無理なんだ。

こうでも言わないと、この重く苦しい気持ちに耐えられないから・・・・

正直、何度も死んでやろうと思った。

何度も何度も、ナイフを手に取って。

けれどそのたびに体が固まる。

またエルゼンか・・・・

「・・・・いい加減にしてくれ」

これ以上どうすればいいんだ・・・。

これ以上・・・俺は・・・









「なるほどなぁ、こうやって毎日部屋に篭っては自殺未遂を繰り返していたワケだ。」

この世界に戻ってひと月経った頃だ。
予想もしていなかった者が突然俺のところにやってきた。

ナイフを手にしていた俺は、今日も死ぬことができずにゆっくり手を下す。

「・・・・バルド」

そう、ずっとずっと会いたかった唯一無二の師匠。

けれど会ってしまえば何かが崩れてしまう気がして。

ずっと再会を拒んできた。

けれど痺れを切らしたバルドがわざわざ休暇を取って会いに来たのだ。

「こりゃあ随分大きくなりやがって。あの糞ガキだったリオナがなぁ!ガハハハ!」

そう言って笑い飛ばすと、
バルドはギュッと俺を抱き寄せた。

温かく心地いい逞しい腕で。

「・・・よく帰ってきた。心配させやがってこの馬鹿弟子が・・・・っ」

「・・・・・・・・っ」

バルドの力強い抱擁に、涙がこぼれた。

だから会いたくなかったんだ。

バルドはなんでもお見通しだから。

「お前のことはすでに噂になってる。知ってたか?」

「・・・・なんで?」

しばらくして、バルドが口にした言葉に少し驚いた。
なぜ自分の存在が知れてしまったのかと。

「神を倒した少年が復活したってな。今は帝国内だけだが、まぁ世界に広まるのも時間の問題だろう。」

バルドはリオナの横に腰を下ろすと、タバコを一本取り出して火をつける。

懐かしバルドの香りに、本当に全てが元どおりになったのかと実感した。

「なぁ、そんなにあの男が好きか?」

「え・・・・?」

突然話が変わり、何を言い出すのかと訝しげな表情を浮かべる。

「マーシャだ。マーシャ・ロゼッティといったか。お前と共に身を呈して神を滅ぼしたとして奴もまた名は知れ渡っている。」

「・・・・」

なぜその名前を出すのか・・・・だからバルドには会いたくなかったんだ。

「リオナ、もしお前がマーシャを本当に愛してるんならよぉ、なんで死のうと思うんだ?」

「・・・マーシャのいない世界で生きる意味はない。」

俺が欲しかったのは、マーシャそのものだ。

それ以外はもう何もいらない。何も・・・・

「ったく・・・・お前は本当に昔から頑固だなぁ!」

バルドはリオナの背中をバシッと叩いた。

あまりの力強さに背中がヒリヒリするほどだ。

「なっ・・・・痛い」

「そう、痛みだ。痛みは消えねぇよ。特に心の痛みってのはよ。たとえお前が今ここで死んだって、一生消えない。それでもお前は死ぬのか?死んで心の痛みを抱えたまま再び眠りにつくのか?どっちにしてもマーシャにはもう会えねぇじゃねーか。勿体無い。本当に勿体ねぇ!生きたくても生きられない人間がこの世に何万何百万いるとおもう?お前はまだ世界をしらねぇ。知ったつもりか?神になったつもりか?勘違いするなよ。」

バルドの突っかかるような言い方に、リオナは拳を握り締める。

違う・・・違う・・・・違うんだ!!!

「・・・・そうじゃない!!!!俺はただ・・・、マーシャを置いて行きたくないんだ・・・・!!!!」

マーシャが俺を待っていてくれたように、俺もマーシャを待っていたいんだ。

いつの日か、マーシャが俺を見つけてくれるって信じてるから。

このマーシャがくれた紅いブレスレットが、俺とマーシャを引き合わせてくれるって。

何千年かかろうと、俺は・・・・っ

「・・・・今度は俺が待つ番なんだ。今の俺があるのは、マーシャが俺をたくさん愛してくれたからだよ。その愛がなければ俺はここにいられない。」

分かってる・・・命を粗末にしてはいけないことくらい。
エルゼンの力が阻まなくとも、自分の手で命を絶つことができないことも分かってる。

俺は弱い・・・・弱くて臆病でちっぽけなただの"人間"なんだ。

「それでいいんだ、リオナ。」

だがバルドは、リオナの意に反して肯定をした。

「それが"人間"だ。今日はお前に渡したいものがあって来た。」

そう言ってバルドは封筒を差し出す。

随分と年季が入っている。

「本当はよぉ、ついさっきまではこの手紙渡したくねぇって思ってた。自殺しようとしてる奴には勿体無い手紙だからな。だけど気が変わった。お前は自分の弱さをよく分かってる。これはお前が読むべきものだ。」

これは一体・・・・

俺は封筒の中から一枚の手紙を取り出した。

緊張しながらも、ゆっくりと手紙を開く。

「・・・・っ」

なんで・・・・なんでこんなものが・・・っ

手が震える。

そこに書かれていたのは、
マーシャから俺への手紙だった。

『リオナ、この手紙を読んでるということは、お前と俺は今離れてるってことかな。バルドの奴、ちゃんと渡してるか不安だが・・・・。まぁ、とにかく。元気にやってるか?ちゃんと飯食ってるか?俺はリオナが心配だ。お前は寂しがり屋だからなぁ。まさか俺がいないからってバカなことやってねぇだろうな?もしやってたらもうリオナには2度と会わないからな!!
リオナ、俺はお前に言いたいことがある。



生きろ!笑え!
生きてりゃなんとかなる!笑ってれば辛いこともなんとかなる!
俺はそう信じてる。
心配すんなリオナ。俺はどこにいたってリオナを愛してる。
大丈夫、リオナ。未来は明るい。
暗くて前が見えなくなったら、思い出せ。
俺はいつだってリオナのそばにいる。

たとえ形を無くしても。

愛してるよ、リオナ。
笑ってるお前が好きだよ。』








「・・・・っマーシャ」

涙が、止まらなかった。

ボロボロと零れ落ちる。

「この手紙をリオナに渡してほしい言われた。だけど、渡さなくてもいいとも言われた。」

「・・・・え?」

「あいつには全部お見通しってことだろう。お前がこうなることを見越して、あいつは手紙をお前の為に遺したんだ。愛されてるじゃねーの。」

マーシャ・・・・マーシャ・・・、

「あい・・・たい、マーシャに・・・会いたい・・!!!!!」

会いたくて会いたくてたまらなくて、
言葉にしたくてもできなくて・・・・っ

「会いたいよマーシャ・・・・!!!!マーシャ・・!!!!」

声が枯れるまで、泣いた。

泣いて泣いて、想いを全部吐き出して。

もう何も出なくなるまで・・・・叫んだ。
















"この国を出ろ。リオナ。"

バルドに最後に言われた言葉。

"国を出て、世界を見てこい。世界にはまだまだリオナの知り得ないことで満ち溢れてる。そうすればこれからの世界の見え方も変わってくるだろう。"

だから俺は、大魔帝国を出ることにした。

世界を見て、色々なものを感じ取りたい。

もう一度貰ったこの命を、無駄にしたくない。




出発の日は、俺とウィキが生まれた11月24日の朝だった。

父さんと母さんは泣きじゃくりながらも俺を見送ってくれた。
最後は何を言っているか全くわからなかったが、
悲しいというより、笑ってお別れができてよかったと思う。

バルドには会っていないが、きっと会えば今度はバルドが泣いてしまうだろうからあえて会わないで行くことにした。


ラグの町の瓦礫の山の上。
幼い頃、よくウィキとここで悪戯をしたものだ。

久々に2人で登ってみる。

景色は何も変わっていなかった。

遠くに見える中央都市。
街は早くもクリスマス一色となり、
空にはサンタが飛んでいて。

よく撃ち落そうとしたものだ。

「僕たちは、変わったのかな。」

「さぁ、どうだろう。」

「変わったとしても、この気持ちだけはずっと変わらないと思う。」

「どんな気持ち?」

「リオナのことがすごく大好きって気持ち!」

「・・・・俺もウィキのこと大好きって気持ちだけはこれから先もずっと変わらない。」

「リオナはこれからどうするの?」

「・・・実はまだ何も考えてないんだ。」

「えー?!大丈夫なの?」

「大丈夫。なんとかなる。」

「そっか・・・・!ちゃんとこまめに連絡してね!」

「うん。・・・・それでウィキは、いつ出るの?」

「え?なにが?」

「キッドのとこ。光妖大帝国に行かないの?」

「ぼ・・・・僕はここにずっといるよ・・・・!」

「ウィキ・・・・じゃあこうしよう。」

「え・・・・?」

「1年後、光妖大帝国で会おう。」

「なっ・・・・ずるい!そんなのずるい!」

「こうでも言わないと、ウィキはいつまでたってもここにいるだろう?」

「だって・・・僕はキッドにはもう・・・・」

「でもまだ、好きでしょ?」

「・・・・・・・・」

「俺のこと気にしてるなら、それは間違いだよウィキ。これからはお互い、自分のために好きなように生きようって、この前も話しただろ?」

「うん・・・・」

「だったら、もう一回よく考えてごらん。俺も自分の意志でここを出て、世界を見てくる。だからウィキも自分の意志で立ち上がって。ね?」

「か、考えてみる・・・」

「うん。」

俺たちはずっと繋がってる。
どこにいようと、なにをしてようと。

ずっとずっと。
なにも変わらない。

今までも、これからも。















ウィキとはラグの町でお別れをした。
これ以上先まで一緒だと、寂しさで引き返してしまいそうだから。

大魔帝国の入口。

ここに立つと色々な思い出が蘇ってくる。

楽しかったことも苦しかったことも、
本当に大切だった仲間たちも、
愛する人たちも。

全部は持って行けないから。

思い出は、ここに置いていこうと思う。

「マーシャ・・・・ありがとう」

貴方が与えてくれたものは、
いつだって温かった。

それが今の俺を生み出してくれた。

ありがとう。

だけど優しさと愛で包まれた日々の思い出も、ここでお別れだ。

空は雲一つない晴天。

風は心地よく肌を撫で、

草木はサワサワと歌う。

「さようなら・・・・いってきます。」

いつかまた、出会えると信じて。


Epilogue END





































「おいおい。この俺を置いていくのか?」

一歩踏み出したその時だった。
背中から声がした。

一瞬、何がなんだかわからなかった。
誰が現れたのか。
俺に言ってるのか。

でもすぐに分かった。
顔を見なくたって分かる。

だって彼は・・・・

まるで時が止まったかのように、
静けさが広がる。

風も雲も、全てが止まる。

瞳が、揺れる。

大きく、大きく息をした。

「マーシャ・・・・!!!!!!」

振り返って、マーシャのところまでかけてゆく。

そして両腕を広げて待っていてくれたマーシャに、リオナは思い切り抱きついた。

「おまたせ。」

そう言って笑うマーシャは昔のままで。

力強い腕の中で、涙が溢れ出す。

なんで・・・・どうして・・・・っ

聞きたいこととか言いたいこととかたくさんあるのに、出てくる言葉はいつだって捻くれてて。

「おそい・・・・ばかっ」

「あはは、ごめんなぁ。これでも早い方なんだよね。更夜とルナに感謝しねぇと。」

涙を流すリオナを、マーシャは愛おしそうにじっと見つめる。

涙を指で拭ってやり、その指でリオナの唇を濡らす。

「・・・・しょっぱい」

「知らなかった?これが涙の味だよ。」

「・・・知ってるもん」

「あはは。やっぱり可愛い・・・・」

そう言って唇を重ねた。

何度も何度も。

「ん・・・・愛してるよ、リオナ。」

「俺もマーシャのことずっとずっと愛してる・・・・離れないで。」

「もう離さない。絶対に。」

2人は額と額をくっつけ、笑った。

「さぁて、行くか!ってところでどこ行くの?」

「・・・・どっか?」

「どっかってどこ?」

「・・・決めてなかった。」

「ったく・・・・じゃあちょっと行きたいところがあるから、ついてきて。」

「うん。何かあるの?」

「どうやら騒がし黒うさぎが目撃されたとかされなかったとか〜・・・・」

「え・・・・!!?」

「おっとこれ以上はついてからのお楽しみだ。」

「行こうマーシャ!」

「ちょっ・・・・早い早い!」

2人は手を取り合ってかけてゆく。

光り輝く未来に向かって、まっすぐに。




Lord's Soul -END-

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あきゅろす。
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