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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
最終話 神なき世界
極神召喚"審官ガロウ"

地獄の審判の全ての権限を握ると言われる最高審判官ガロウ。

その容姿は恐ろし鬼の様な形相に、巨大な体。

背中には赤黒く燃え上がる審判の槍。

今までに審官ガロウの召喚に成功した人物はこの世でたった1人。

大魔帝国の英雄、クレイだ。

クレイはこの極神召喚で・・・・命を落としている。

そう、極神召喚とは自らの命を代償にする禁術中の禁術なのだ。

「・・・・成功だ」

苦しげに息を乱すマーシャ。

すでに魔力を使い切ってしまった様だ。

リオナも同様、すでに消耗しきっている。

だが、これからだ。

審官ガロウの姿に誰もが息を呑んでいる。

それくらいの迫力なのだ。

まるで今にも魂を抜かれる気がしてしまうくらい、気迫に満ち溢れている。

『ほう・・・・懐かしいな。』

だがカイだけは審官ガロウの姿に笑みを浮かべていた。

『こいつは確か・・・・ああ、あの魔族の男が呼び出した事があったな。マーシャ、なんて愚かな。こんなものに命を使い果たすつもりとはな。』

「悪いが俺は死んで地獄へ行ったとしてもお前と同じ地獄には行きたくなくてね。知ってるか?審官ガロウの弓矢と槍。弓矢に貫かれた者は痛みを感じることなく天に召される。だが、この槍に貫かれた者は痛みを抱えて死ぬ。死んだ魂は天国は愚か地獄にすら行けない。地獄のさらに下・・・・最下層の名もない所で何度も何度も拷問を受けるんだ。そしてその魂は2度と生まれ変わることはない。」

リオナは思わずガロウを見上げる。

なんという恐ろし話だ。

地獄の最下層・・・・想像しただけでも恐ろしい。

『そうか。だがお前らにそこまでの体力が残っているのかどうか。』

すると隙を突くかの如く、カイが一気に距離をつめてきた。

狙いはリオナ。

光の玉を込めた右手をリオナめがけて振るう。

しかしその間に入ったのはシキとナツ。

2人は強くカイを押し返した。

「ナツ行くぞ。」

[・・・ああ。]

シキの言葉に、ナツは力強く頷いた。

2人はカイの回りを円を描く様に回りながら攻撃を仕掛ける。

今までにないほど速いスピードに、さすがのカイも付いていけない。

『・・・・小賢しいまねを』

よく見ればシキとナツの手から黒い糸のような細い線が出ていて。

グルグルと攻撃をしながらカイの体を束縛していた。

そして次の瞬間、ナツが思い切り二本の剣を振り上げた。

『・・・・ッ!!!!』

ボトッと音を立ててカイの両腕を切り落とした。

続けざまに、今度はシキの手に溜められた黒い玉が勢いよくカイの腹に穴を開ける。

『・・・・まったく、貴様らを少し甘く見ていたようだ。』

すでに原型をとどめていないカイが、笑い声をあげる。

そう、こんな事で死ぬわけがなかった。

不老不死、不死身の男。

『こっちも、本気を出さないといけないようだな。』

するとカイの体は一気に弾け飛び、液状になった。

地面に黒々しい水たまりができる。

何とも不気味な光景だ。

何かが起こる、だが、なにが起こるか想像ができない。

そして水たまりは徐々に広がり、
そこから黒い手が一本ぐいっと伸びて出た。

「ナツ・・・・!!!!!」

[・・・・!?!?]

その手はナツの足を掴もうとする。

しかしその瞬間。
シキが庇うようにナツを突き飛ばしたのだ。

[なっ・・・・シキ!!!!!!!!!]

シキはそのまま足を掴まれる。

「おいシキ・・・・!!!!!!」

マーシャが声を上げ、飛び出した。

「来るな!!!!!!!」

だがそれを制止したのは、シキだった。

「マーシャ!!!迷うな!!!お前の信念はそんなものか!?」

「シキ・・・・ッ!!!!!」

「大丈夫だ、マーシャ。」

そう言って、シキは笑った。

そのままグッと水たまりに飲み込まれてしまった。

コポコポと気泡が上がる。

そして今度はそこから大きな水しぶきが上がった。

そこから出てきたのは・・・・

[シキ・・・・!?]

シキだ。
いや・・・・シキだが、シキじゃない。

「カイ・・・・!!!!!」

カイだ。

見た目はシキだが、中身は完全にカイ。

薄ら笑いを浮かべ、こちらに近づいてくる。

マーシャは唇を噛み締め、カイを睨み上げた。

だがそれも、カイを喜ばせるだけ。

『マーシャ、そうだ、その目だ。俺が見たかったのはお前のその表情だ。』

ニヤリと笑うカイに、マーシャは地面を蹴って飛び出した。

「マーシャ・・・・!!!!」

リオナの制止も届かず、
巨大な漆黒の鎌を出して。

『まるで"死神"だな・・・・だが悪くない』

カイもシキの体から再び光の剣を生み出した。

キィンッと刃と刃がぶつかり合う音がする。

『この十数年、いや、何百年も俺はこの時を待っていたのかもしれない。』

「・・・・っ」

『お前は今まで出会った人間の中で、飛び抜けて強い。恨みの情と、執念が。それがお前の原動力。そんな憎しみで満ち溢れたお前をこの俺が倒した時、お前はどんな顔をするのかといつも考えていた。』

刃の擦れる音が激しさを増す。

『神の力と同時に、お前も欲しかった。お前なら、俺の右腕になれる。アシュールとは違う。お前となら世界の再生を図れる!だからお前が欲しい!』

カイは高らかに笑って見せた。

狂ってる。

何もかもが。

しかしそんなカイに、マーシャは初めてニヤリと笑みを浮かべた。

「へぇ〜俺ってそんなにお前からモテモテだったんだ。」

マーシャは一度カイから距離を置く。

「なぁ、覚えてるか?お前と最後に戦った時、俺がどうしたらお前を倒せるかって、聞いただろ。」

『ふん・・・・そんなこともあったな。』

「あの時お前は言った。リオナに執着している限り、倒すことはできないと。」

『愛は身を滅ぼす。愛は時に力を与えど、自らを犠牲にすることもある。そんなくだらないものに縋るより、お前には憎しみという情の方がよく似合う。』

「だが俺はそうじゃない。俺は憎しみより、愛が欲しい。リオナがいればそれで良かったんだ。ようやくわかったよ。だから俺はこの最期の戦いで証明して見せる。俺は俺のやり方で、例えこの身が滅びようともお前を倒す。」

『はっ、愛で全てが片付くとでも?』

「ああ!俺の愛は天より高く海より広い!そうだろリオナ!」

マーシャがリオナにニヤッと笑って見せた。

そして、マーシャの瞳が黄金に輝く。

「シキ・・・・悪い。お前の事は必ず助ける。だから少しだけ、我慢してくれよ。」

そう呟いた瞬間、
神官ガロウが動き出す。

大きな鋭い槍を構え、カイに向けて振りかざす。

カイもすんでのところでよけた。

マーシャの表情は、今までに見たことないくらい生き生きとした表情をしていて・・・・

リオナは思わず息を飲む。

「マーシャ・・・・」

気を抜くと、マーシャに全部持っていかれるくらいの気迫に満ち溢れている。

カイをこの槍でつけば、全ては終わる。

でもシキを・・・・殺すことにもなる。

「マーシャ・・・・、いやだ、シキは・・・!」

気持ちが揺らぐ。
シキは、いつだって俺たちを見守ってくれていた。
そんなシキを犠牲になんて・・・・

「リオナ!」

マーシャが、強く叫ぶ。

「大丈夫、シキは必ず俺が助ける。信じろ!」

その瞬間、マーシャの目の奥に懐かしいものを見た気がした。

「ルナ・・・・?」

そうか・・・・なら俺は・・・・

リオナはギュッと目を瞑る。

自身の中にいる神、エルゼンに問いかけた。

"エルゼン・・・・"

"・・・時が来たか"

"どうか・・・・俺に力を貸して欲しい。"

"ひとつ聞こう。その力、何に使う?"

"最初は全てを終わらせたかった。なにもかも。でも、違う。そうじゃない。はじめるんだ。この世界は・・・・これから始まるんだ。その為に、今、俺はカイを・・"

"わかった。それならば力になろう"

悲しみに暮れたこの世界のために。

犠牲となった仲間のために。

まだ、できることはある。

リオナの瞳も黄金に輝いた。

力がみなぎるようなこの感覚、不思議でならない。

スッと見据えるその先に、カイとマーシャの姿が見える。

リオナの様子が変わったことに、カイも気がついたようだ。

『・・・・エルゼン。なんと愚かな。こんな子供に力を渡すとは・・・』

カイの声に余裕がないのがわかる。

『リオナ・ヴァンズマン・・・・お前はただの人形だ!!心を持たないただの使い捨ての人形如きがその力を使っていいはずがないだろう!!!!』

「・・・カイは、愛されたことがないんだね。」

『はっ?何を言い出すかと思えば。』

「今までカイを愛してくれた人は?」

『・・・・黙れ。小賢しい!!!!』

「誰も愛してくれない世界なんていらない?」

『愛なんてものはただの自己犠牲だ。そんなもの身を滅ぼすだけ』

「だから世界を再生させたいの?カイ、あなたは間違ってる。」

『・・・・黙れと言っているだろう!!!!』

「カイだって・・・・愛されてたはずだ。仲間がいたはずだ。それを見て見ぬフリしてきたのは、あなただ。怖かったんだ。愛が。形が見えないから。」

『うるさい!!!!!うるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!』

「・・・俺も怖かった。だけど、もう逃げないって俺は決めたんだ。」

リオナは左手を前にかざす。

「世界に再生なんて必要ない。」

「そう、俺たちは前に進むだけさ。」

マーシャも共に手をかざす。

その瞬間、神官ガロウの鋭い槍がカイめがけて飛んで行った。

見事に槍はカイに乗っ取られたシキの体を貫いた。

と、思ったその時だった。

シキの体から黒々とした煙が溢れ出す。

その黒い煙が腕となり、ガロウの槍を間一髪で押さえつけていた。

シキの体が、再び立ち上がる。

『・・・これで終わりだ。お前ら人類に勝ち目など初めからない。』

そう言ってカイは巨大な漆黒の球を浮かび上がらせる。

それはさらに大きくなり、
空を覆い隠してゆく。

「・・・・なっ」

「・・・・・・・・!」

絶望とは、まさにこのことか。

辺りが完全に暗闇にのまれる。

「クソッ・・・・」

マーシャは一瞬目眩がした。

魔力の消耗と絶望的なこの状況に。

「けどよ・・・・俺は諦めるわけにはいかねぇんだよ・・・」

「・・・マーシャ」

リオナに誓った。

もう、2度と離れないと。

「ごめんな・・・・リオナ」

だけど、ちょっと無理そうだ。

「・・・俺はやっぱり、最低な男だ。」

「マーシャ・・・・?」

マーシャはそっと、リオナの頬を撫でる。

「なんでだろうな。ずっとずっと一緒にいたいと思えば思うほど、リオナから離れなきゃならなくなる。」

「・・・え?」

やっぱり俺は、神なんて信じない。

信じるのは、常に己の信念。
大切な仲間。
愛するリオナ。

「リオナ、忘れるな。どんなに遠く離れても俺はリオナを・・・・」

「マーシャ・・・・ッ!!!!!!」

マーシャが、カイ目がけて駆け出した。

そしてカイに飛びかかり、体を羽交い締めにする。

『愚かな・・・・!!』

「シキ!!!聞こえてるだろ!!!コイツの力を押さえつけろ!!!シキ!!!」

マーシャはシキの名前を何度も呼ぶ。

「シキ・・・・!!!シキ!!シキぃぃい!!!!!」

その瞬間。
カイの天に伸びていた両腕が徐々に下がってゆく。

『ば、バカな・・・・』

「シキ!!!」

そして空を覆い尽くしていた闇がだんだんと薄くなってきた。

シキの声は聞こえないが、シキの信念はしっかりと感じる。

「シキ・・・・やっぱりお前は最高の親友だよ。」

マーシャはそのままカイの体をさらに締め付け、身動きを完全に封じた。

「リオナ!!!」

「・・・・っ!!」

「ごめん、最期のお願いだ。」

「聞きたくない・・・・!!!!!」

「俺ごと貫いてくれ!!」

いつもみたいに笑うマーシャに、リオナは涙を流す。

「嫌だ!!!!!絶対嫌だ!!!!!!!!!!」

「嫌だじゃない。リオナ。頼むから困らせないでくれ。」

「だってそうしたらマーシャは・・!!!!!!!」

「心配すんな。約束は絶対守る。リオナ、さぁ早く!!!」

ひたすら首を横に振るリオナ。

だがそんなリオナの両手を握ったのは、ナツだった。

「ナツ・・・・っ!!!」

[・・・信じろ。あの変態なら、きっと大丈夫だ。]

「でも・・・・!!!!」

[いいから信じろ!!!!!!お前にしかこの世界はもう救えねぇんだよ!!!!!!!]

ナツの言葉がリオナの心に突き刺さる。

涙が・・・・止まらない。

同じ場所には・・もう、行けない・・・・

マーシャ・・・マーシャ・・・・

「悪いな、ナツ・・・。」

[ふん・・・知るかよ。]

リオナの震える手が、前へ伸びる。

神官ガロウが再び槍を手にした。

ガロウの目が、標的を定める。

「・・・・マーシャっ・・・・やだ、マーシャ・・・」

「大丈夫、大丈夫だリオナ。」

そして、神官ガロウの槍が、再び放たれた。

「マーシャ・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

マーシャとカイ、そしてシキを、容赦なく槍が貫いた。

『く・・・・くそがぁぁあ!!!』

シキの体から、カイが飛び出す。

だがそれはすでに原型を留めず、首にはしっかりとガロウの鎖が繋がれていた。

そしてマーシャの首にも、しっかりと。

「ははっ・・・・!!おまえ、とは・・・・やっぱ・・・地獄の・・・果てまで・・・・一緒、みたい・・・だな・・・・」

ああ・・・・リオナ

泣くな。

結局最後まで泣かせてばかりだったな。

なんでだろうな。

思い出すのは、いつだって同じ光景。

あれだけ楽しくて暖かい時を過ごしていたのに、
思い出すのはいつもあの時の事。

燃え盛る大魔帝国で、1人泣き叫ぶリオナの姿だ。

あの時はできなかった。
リオナを抱きしめてやることも、優しい言葉をかけてやることも。

だけど、今ならできる。

"泣かなくても大丈夫だ、リオナ。リオナは1人じゃない。"

俺の人生はなんともまぁ大荒れの人生だった。

だけどリオナとの出会いが、全てを変えた。

リオナ・・・リオナ・・・・

愛してるよ。
大好きだ。
ごめんな。


・・・・ありがとう。

シキの体だけ残し、マーシャとカイがガロウと共に消えていった。





















「あああああ・・・・!!!!!!!!!!!!!!!」

狂気が・・・・再び動き出す。

全てが、終わった。

長かった苦しみが、今、終わりを告げる。

真っ青な綺麗な空。

暖かい空気。

かつて感じたことがない開放感。

けれど、ここにマーシャはいない。

「・・・・ま・・・しゃ・・・・」

嫌だ・・・・マーシャ・・・・マーシャが・・・

イヤだ!!!イヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!!!!

[リオナ・・・・っ!!!]

血を吐きながら、頭を掻きむしるリオナをナツは抑えつける。

ドクン・・・・ドクンと・・・狂気が動き出す・・・・

その時、後ろでドサッと何かが倒れる音がした。

[クラッピー・・・クロード・・・・!!!]

ナツの掠れた声が響き渡る。

クラッピーとクロードは手を握り合ったまま、
その場で力尽きた。

仲間を守るために。

だが、2人の表情は明るかった。

笑っているような気がして・・・・

すると2人の体は黄金に輝くと、そのまま宙に浮き上がる。

光が爆発したかのように、辺り一面が眩しく輝いた。

正気を失いかけたリオナも思わず見惚れてしまうくらい、美しい輝きだった。

しばらくして、光がおさまった。

だが、その場所からクラッピーとクロードの姿は無くなっていた。

その代りに、巨大な透明な結晶が真っ直ぐに佇んでいて。

「クラッピー・・・・クロード・・・」

そうか・・・

過去を振り返ってはいけない。

振り返っても、ちゃんとまた前を見れば良い。

前を、真っ直ぐに。

「未来・・・・か」

全てが終わりを告げ、新たな世界が今始まる。

これから世界は・・・・どうなっていくのだろう。

きっと今まで以上に、輝いて見えるのかな。

「ぁ・・・・、」

視界がぐにゃりと歪む。

口から血がとめどなく流れ落ちる。

[リオナ・・・・!!!!!!]

ナツが倒れそうになったリオナを抱きかかえた。

「なつ・・・ごめ・・・・」

[いいからもう話すな・・・!!!!]

ぎゅぅっと抱きしめてくれるナツが、とても温かい。

「なつ・・・あの、ね・・・・」

どうか・・・・この世界を・・・

「生きて・・・・」

俺の代りに、ナツに見て欲しい。

これからの、世界の未来を。

新しい時代を。

悲しみや苦しみは、一瞬で終わるから。

[リオナ・・・・ッ]

涙を流すナツに、手を伸ばす。

けれどその手は、届かなかった。

















思い出すのは、他愛のない会話ばかり。

いろいろ苦しいこともあったけど、もう思い出せないや。

"リオナ〜、今日も可愛いねぇ"

"・・・・うるさいきもいあっちいけ"

"ひどっ!!!でもそんなリオナも好き"

"はいはい・・・・"

本当は、もっと一緒にいたかった。
この世界で、ずっと一緒に・・・・

いつだって素直に言えなかった。

愛してるよ、マーシャ・・・・

2度と巡り合うことがないとしても、
俺は貴方を愛し続ける。

大丈夫、信じてる。

もし永遠の眠りから目をさますことがあるのなら、
次も貴方の隣に在りたい。











終焉の鐘が鳴り響く。

神の時代の終わりを告げる。

未来を照らす輝かしい太陽のもと、
人々は再び立ち上がる。

始まるのは神なき世界。

世界はいつだって、変わり続ける。


最終章 Lord's Soul-神の世界-

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