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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story172 犠牲と忠誠
[ビットウィックス・・・・!!!!!!!!]

ナツの叫び声が響き渡る。

悲しみと苦しみに満ちた声が。

・・・・ビットウィックスが、死んだ。

時の加護でも守りきれなかった。

ビットウィックスにもかけていた時の加護。
だがそれを弾け飛ばずほど強力な剣だったということか。

「ぐっ・・・・」

その瞬間、クラッピーの口から赤い血が噴き出した。

ビットウィックスへの加護の影響が、クラッピーの体にも影響を及ぼしているようだ。

だが、それだけではない。

シキ、ナツ、シュナ、ラード、ユリス

彼らが傷を負うたびに、彼らの身代わりにクラッピーへその負担がかかる。

だけど弱音なんて吐いてる場合じゃない。

「おらおら!!!!情けねぇ顔してんじゃねーよナツ!!!!」

「・・・そうよなっちゃん!!!ビットウィックスのためにも、前向かないと・・・!!!!」

呆然と立ち尽くすナツの横から、今度はラードとユリスが飛び出した。

何も武器を持たないカイに攻撃を仕掛けるなら今しか無い。

ユリスの薔薇の鞭がカイの体を捉える。

そしてラードの巨大化した銃が焦点を定めた。

「死ね!!!!」

ドォンという地響きに近い音が響き渡る。

同時に真っ黒な煙が天に向かってのぼってゆく。

仕留めたか・・・・

いや、そんなわけない。

そんな簡単にいくような男ではない。

『・・・・まったく、なめられたものだな。』

黒煙の中から、カイが姿を現した。

しかも無傷で。

「はは・・・!不死身のバケモノかよ!!!」

ラードの額に汗が滲む。

無闇に攻撃しても敵わない相手ということはよく分かった。

このままでは・・・・全員死んでしまう。

"時の加護"にも限界がある。

ある一定量を超えてしまえば、反動で即死だ。

「な・・・・なんとかっ・・・・なんとかしないと・・・・!!!」

クラッピーの手が震える。

皆を・・・・死なせたくない。
絶対・・、死なせたくないのにっ・・・・

「クラッピー・・・」

その時、異変に気付いたシキが目線こそカイに向けているが声をかけてきた。

「クラッピー、俺たちを助けようなんて思うな。全て覚悟の上・・・・」

「で・・・でもっ!!!!」

「いいか集中しろ。もう戦いは始まってるんだ。戸惑いは隙を生む。隙と死は同じ。迷うな。」

そんなことを言われたって・・・・

クラッピーはふとリオナとマーシャを見た。

2人とも極神召喚の長い長い詠唱をしている最中。

表情はとても苦しげで・・・・

ああ・・・・見たくない。
皆が死に倒れてゆく姿なんて・・・・

滅びるべきは、彼らじゃない。

ボクなのに・・・

すると、その時だった。

遠く彼方から、声が聞こえた気がした。

かすかに聞こえる懐かしい声。

名前を呼ばれた気がして、思わず振り返る。

誰かが・・・・誰かが来ている。

こちらに、走って。

「クラッピー・・・・!!!!!!!」

まさか・・・・なんで・・

「く、クロノス!!!!?」

そこに姿を現したのは、クロードだった。

なんで・・・・クロードはダーク・ホームに帰ったんじゃ・・

はぁはぁと呼吸を乱すクロードに、
クラッピーは口を開けたまま何も言えなかった。

「ごめ・・・ごめんねクラッピー・・・っ、ぼく、ぼくね・・・本当、弱かった・・・・」

「な、何言って・・・!それよりなんで・・・・!!!」

クロードは息を整えると、穏やかな笑みをクラッピーに向けた。

「ぼくもね、やっぱり皆のために何かしたいんだ。ごめん・・・・世界の為にではなくて、リオ兄やマー兄、あとダーク・ホームのみんなのために・・・」

「クロノス・・・」

「ぼく、逃げてた。怖かったんだ。皆が消えて無くなってしまうのが。・・・でもわかった。本当に怖いのは、自分に嘘をついて、全てに背くことだって。だから・・・・もう逃げない。」

するとクロードはそのままリオナに近づく。

リオナもクロードに気がつき目を丸くするが、
詠唱を止めることができないため視線だけクロードに向けた。

「リオ兄・・・・リオ兄っ、ごめんなさい・・・・あんなこと言って・・・ごめんなさい・・・・!!!」

クロードはリオナの足にぎゅっと抱きつく。

「・・・大好きだよ、リオ兄もマー兄も・・・だから、今度は僕が守る。」

そう言ってクロードはリオナから離れる。

リオナの右目から、一筋の涙が零れ落ちる。

それを見て、クロードも笑顔を見せながら静かに涙をこぼした。

「よし、クラッピー!僕と力を合わせよう!」

いつになく明るい表情でそう言い放つクロード。

「で、でも・・・クロノスのチカラはもう・・・・」

「うん、そうだよ。僕にはもう時の力はない。でも、皆の傷をクラッピーと一緒に負う事はできる。」

「そんなことしたら・・・・!!!クロノスあなたが死んでしまう!!!!」

「クラッピー、大丈夫。僕怖くないよ。」

「クロノス!!!何言って・・・・!!!」

「僕にはもう、この世界でやり残した事はないんだ。それに、皆が消えていくことが何よりも苦しいんだ・・・・クラッピーにもわかるでしょ?」

クロノスも・・・・同じ。

ボクと、同じ気持ち。

なんだ・・・1人じゃなかった。

ボクにはやっぱり・・・・

「クロノス・・・やっぱりあなたには、敵わない。」

クラッピーは、クロードの手を取る。

ギュッと握りしめ、ニコリと笑った。

「一緒に、最後までいくッチョ!!!クロノス!!!」

「うん!どこまでも!」

2人の体が黄金のベールに包まれる。

今までに見た事のない輝き。

その姿に、誰もが見とれてしまう。

「よーっし!みんな全力で行くッチョよ!!」







ラードやユリス達の体にも変化が現れた。

力が漲るような、不思議な感覚。

今までの疲労感が嘘のように無くなった。

「これが時の力・・・・?」

シュナは心配そうにクラッピーとクロードを見た。

こんな事をして、彼らの体は大丈夫なのだろうか。

そんなことを心配する最中、
再び激しい戦闘が始まった。

ラード、ユリス、ナツが飛び出していった。

するとシキがシュナに小声で耳打ちをする。

「シュナ、お前はここを離れるな。」

「え・・・・?」

「おそらく、カイは隙あらばリオナとマーシャを狙ってくるはずだ。シュナはそれを防ぐためにここを動くな。」

「は、はい・・・・!!!」

3人で立ち向かっても打ち返してくるカイ。

なんという強さ・・・・

勝ち目などあるのかと一瞬最悪の結末を想像してしまう。

いや、ダメだ!!!
何言ってるんだ自分は!!!!

弱気になるのはまだ早い。

これからが・・・・"本番"なのだから。

リオナとマーシャの詠唱が終わるまで、
なんとか時間を稼がなければ。

「ユリス!」

その時、ラードがユリスを呼んだ。

ユリスは口元に笑みを浮かべて頷くと、
地面を思い切り蹴って宙を舞った。

まるで蝶のように。

そのまま弧を描くようにカイの背後に着地すると、
全身からツタを出してカイを縛り上げた。

その量は今までに見たことがないくらいの量だ。

ユリスの瞳が赤く燃え上がる。

「私から逃げようなんて、罪な男ね。」

そのツタは見る見る黒く染まってゆき、
鋭い棘を生やす。

棘はカイの体に刺さり、全身を締め上げる。

「ラード!!」

今度はユリスがラードを呼んだ。

するとラードは再び巨大な銃・・・・いや、大砲を構えていて。

ラードとユリス、共にこの一発に力を注ぐつもりだ。

2人の口や目から、血が流れ落ちる。

「行くぜ!!!!!!」

ラードの大砲から、
激しい黒い炎が噴き出す。

黒い炎はカイの体を巻き込み、
天高く燃え上がる。

だがその時、

カイの手がグッと伸びてきたかと思うと、
ユリスの手を掴み、力強く引き寄せた。

「っ・・・・!!!!!!」

「ユリス・・!!!!!!!!」

そのままユリスも共に、黒い炎に巻き込まれてしまった。

「クソッ!!!!ユリス!!!!ユリスーッ!!!!」

ラードが急いで駆けつけようとした瞬間、

ユリスの叫ぶ声が響き渡った。

「みんな・・・・!!!!離れて・・!!!!!!!!!」

ユリスは足で、ラードを蹴り飛ばす。

その瞬間、

ドカンッと大きな爆発が起きた。

カイとユリスの黒い炎が、爆発した。

天から薔薇の花びらが舞い落ちる。

真っ赤な、薔薇の花びらが。

ユリスが自らの体を犠牲にして、爆発を起こしたのだ。

黒い炎が勢いを失い、
2つの人影がようやく見える。

さすがのカイもダメージを受けたのか、
地面に膝をつけている。

ユリスは何とかフラフラする足で立ち上がると、カイの背中に足を置いた。

そして笑みを浮かべて、言葉を吐き捨てた。

「女・・・・・・なめんな!!!!」

そしてそのまま、地面に倒れ込んでしまった。

ラードもその場で力尽き、座り込んでしまう。

カイが倒れ込んでいる隙を見て、ナツが再び飛び出した。

その手には二本の長剣が握られていて。

「あの剣は確か・・・・」

「・・・ああ、あれはビットウィックスの剣だ。」

ビットウィックスの形見。

両手に剣を構えたナツの瞳は、ただただ真っ直ぐだった。

ナツはトドメを刺すべくカイの首を狙って剣を振りかざした。

スパッと音を立てて、首を切り落とす。

そう、カイの首が・・・・落ちた。

[な・・・・!!!!]

「え・・・・!?」

ナツはもちろん、
シキもシュナも、リオナでさえ、
驚きで目を丸くした。

まさか、こんなにアッサリ・・・・と?

ナツは確認すべく、カイの頭を持ち上げる。

確かに、カイの頭だ。

血も大量に吹き出している。

まさか・・・・終わったのか?

「気を抜くな!!!!!まだ終わってない!!!!!首を投げ棄てろナツ!!!!!!!!!!」

その時、詠唱中のマーシャが声を張り上げた。

ナツは咄嗟に首を投げ捨てた。

そして次の瞬間

カイの首が巨大な爆発を起こしたのだ。

爆発の勢いで体が吹き飛ぶ。

『さぁ・・・・遊びはここまでだ。』

黒煙の中から、
人影がこちらに近づいてくる。

『時間稼ぎも十分できただろう?お前らに付き合うのも大変なものだな。』

そこに現れたのは、真っ暗な肌に金色の瞳に3メートルにも及ぶ身長をした、怪物だった。

まるで、"悪魔"。

これがカイの本当の姿なのか・・・・。

その時、ふとカイの動きが変わった気がした。

空気というか・・・・
何かが・・

その変化にいち早く気がついたシュナが、
反射でリオナの前に飛び出した。

するとその瞬間

「・・・・っ」

シュナの口から、血が噴き出した。

一体、何が起きたのか・・・・

シュナでさえ、頭が混乱していて。

自分のまわりすべてが、スローモーションになって見える。

シキがゆっくりと振り返り、
何か叫んでいる。

何を・・・・

ナツも、何か叫んでいるのがわかる。

シュナはゆっくりと自分の体を見た。

ああ・・・・そうか

左胸を、漆黒の槍が貫いていた。

痛みなど感じない、ただ、

これが、"死"かと。

「・・・・シュナぁぁああああ!!!!!」

リオナの叫び声が響き渡る。

よかった・・・・リオナに、刺さらなくて、本当に良かった・・・

「リオ、ナ・・・・り・・・ぉ」

シュナの体が、地面に倒れこむ。

その瞬間、クロードも口から血を吐き出した。

「・・・クロノス!!!!!!!」

時の加護でも、守りきれなかった。

クロードの体に負担がのしかかる。

リオナは涙をボロボロ流し、
詠唱を止めてしまう。

言葉が、出なかった。

信じられなかった。

これ以上は・・・・もう、

「続けろリオナ・・・・!!!!続けるんだ!!!!!!!!!!」

その時リオナに怒鳴りつけたのは、
シキだった。

シキはシュナを見ることなく、ただただカイを見据えていて。

「いいか、これが戦争だ!!!下を見るな後ろを振り返るな誰が倒れようと踏み越えていけ!!!これが・・・・戦争だ!!!!」

シキは肩を震わせて、そう告げた。

リオナは涙を拭い、震える声で詠唱の言葉を必死に紡ぎだす。

ああ・・・・シュナ、シュナ・・

悲しみの渦の後ろで、微かに湧き上がる恨みの情。

リオナの中の"狂気"が、再び動き出そうとしている。

・・・・ダメだ、振り返っては駄目だ。

俺は必ず・・・・前へ!!!!!

そしてついに、
長い長い詠唱が終わる。

リオナとマーシャは最後の呪文を大きく言い放った。

「極神召喚"審官ガロウ"・・!!!!!!」

巨大な魔方陣が、描かれた。


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