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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story171 闇の光と光の闇
神の力

それは誰もが憧れた力。
誰もが手を伸ばした夢。

神の力があれば何でもできる。

だってこの世界を創造した力なのだから。

俺は神の力が欲しかった。

世界を変えたかったから。

たとえ心が悪に染まったとしても。

ようやく、時が満ちた。

何十年も何百年も待ち続けたこの時。

リオナというくだらない人形に神の力を渡してたまるか。













『・・・さぁ、終焉のはじまりだ』

暗黒の闇が空一面を覆う。

力が湧き上がる。

今まで出会ってきた仲間、友、敵・・・・
全ての魂がカイの力を増幅させる。

『あと1人・・・・マーシャ、貴様の魂・・・食わせてもらう』

一歩一歩、歩みを進める。

最期の時を迎える為に。

ああ、なんて気分だ。

心が高鳴る。
こんな晴れやかな気分はいつぶりだろうか。

カイは街外れの古びた教会に辿り着いた。

全く、なんて巡り合わせだろうか。

この教会は・・・フェイターの始まりの場所。

アシュールと2人で、帝国軍から逃げてきた場所だ。

"ねぇカイ、カイの夢は?"

"神の復活・・・・それ以外ない。"

"クスクス・・そっか、一緒だね、カイ。"

"ああ。お前となら、必ず成し遂げられると信じてる。"

"じゃあさ、誓いを交わそう。"

"誓い?"

"そう、誓い。俺はカイの身が危険にさらされた時、この命尽きてもカイを守るよ。"

"なるほどな・・・・では、俺はお前の命が危険にさらされた時、お前の意思を必ず守り通そう。"

"・・・・なんか、それじゃあ俺が死んでカイは生きるみたいじゃないか。"

"悪いが俺はお前に命を捧げるくらいなら初めから1人でやるって決めてる。"

"ははっ、そーゆーところ嫌いじゃないなぁ。うん、いいよ。誓いだ。絶対に忘れないで。"

"ああ・・・・もちろんだ、おまえは今日から俺の弟だ。"

"だったらカイは、兄さんだね。俺の兄さんだ。"




想い出はいつだって温かく優しい。
それは想い出だから。

そう、たかが想い出。

想い出など、脆く儚い。

想い出に縋るものほど、愚かで弱い生き物はいない。

だから俺は強くなる。

神に一番近い男。

それが俺だ。

『・・・覚悟しろ、悪魔・・・いや、黒き天使ども。』

カイは白く輝く剣を高く掲げる。

そして教会に向けて大きく振りかざした。

一瞬、空気が止まった。

音も、風も、雲も。

ピタリと。

しかし次の瞬間、古びた教会が音を立てて崩れ落ちた。

跡形もなく、全て、真っさらに。

さぁ、出てこい。

姿を現せ。

「・・やっぱりお前とは、切っても切れない関係なんだなぁ。」

そこに姿を現したのは、
戦場に似つかわしくない陽気な声をした男。

燃えるような真っ赤な髪に、雪のような白い肌。

口元に笑みを浮かべ、かつてダーク・ホームの鬼神と呼ばれた男、マーシャが姿を現した。

もちろん彼だけではない。

その後ろにはリオナ、サタンであるビットウィックス、そしてダーク・ホームの先鋭たちの姿があった。

『マーシャ、この日を待っていた。』

「あはは、俺は全然待ってない。」

『お前と俺はよく似ている。その野望に満ちた目なんかそっくりだ。』

「野望?んなもん持ってねーよ。一緒にすんなクズ。」

唾を吐き捨てるように言い切るマーシャに、
カイは思わず笑みをこぼす。

『・・・それでこそマーシャだ。さぁ、俺を楽しませろ、マーシャ。』

カイは再び剣を構える。

ようやく、決着が付けられる。

長かった全ての戦いに。

だが次の瞬間、
カイに向かって立ち向かってきたのはマーシャではない別の男、シキだった。

想定外の動きに、少し身を引く。

『・・・・ほう、確か貴様は裏切り者の息子だったか。』

フェイターと悪魔の男女から生まれた忌子。

双方の力を持ち合わせていたため一時はその力欲しさにこいつに何度も接近を試みたが、結局手に入らなかった男。

そう、こいつは強い。

だが所詮は悪魔の奴隷。

たかが人間だ。

「そんなにマーシャと戦いたければ、まずは俺から倒して行け。・・・・いや、"俺たち"をだ。」

『ふっ・・・・良いだろう』

何人でも来い。

俺はおまえらを倒し、
マーシャを手に入れ、
リオナを、殺す。




















「マーシャ・・・・」

始まる、最期の戦いが。

体が震える。

手は、うまく動くだろうか。

カイを目の前にした今、ようやく現実が追いついた気分だ。

シキが颯爽と前へ飛び出し、カイと互角に戦っている。

その横から続け様にナツ、ビットウィックス、シュナが出る。

だがカイは強い。
想像以上に。

たった1人でこれだけの強者たちを抑え込むつもりだ。

・・・・できるだろうか。

本当に、俺にできるのだろうか。

俺に・・・、

「リオナ」

その時、マーシャの手がリオナの手を握った。

いつもの温かく優しい大きな手が。

ニコリと笑う穏やかな顔。

「リオナ、大丈夫だ。大丈夫。」

「・・・マーシャ」

「リオナならできる。だって俺がいるから。リオナは1人じゃないよ。忘れるな。」

・・・そうか。
そうだった。

俺はひとりじゃない。

いつだって、そばにいてくれる。

「あのね、マーシャ・・・・」

「ん?」

「・・・マーシャも、ひとりじゃないよ。俺がいるから。マーシャも忘れないで。」

リオナの言葉に驚くマーシャ。

まるで隠していた小さな、ほんの些細な不安を見抜かれたかの如く。

「・・・・ったく、敵わんなぁ〜!」

リオナには敵わない。
絶対に、敵わない。

「さて・・・・と。時間だ、リオナ。」

「うん・・・。」

「一度きりだ。やり直しはきかないからな。」

「・・・わかってる。でももし・・・うまくいかなかったら皆は・・・」

「大丈夫。うまくいかないわけがない。俺たちならできる。」

そう、今からマーシャとやる事は・・・・

"極神召喚"

本来は俺を・・・・神を滅ぼす為にバルドから聞いたようだが、
対象がカイに変わった今、
俺の魔力とマーシャの魔力を合わせることにしたのだ。

何が召喚されるのかはうまく行ったらのお楽しみと言われてしまった。

正直、マーシャにもわからないのだろう。

この召喚は、長い長い呪文を唱えなければならない。

その時間稼ぎにシキたちが先に出たのだ。

無駄にはできない。

リオナは目を瞑り、深呼吸をする。

そして再び瞼を上げると、
瞳は黄金に輝いていた。

マーシャの瞳も、黄金に・・・・。

「・・・マーシャ、いくよ。」

「いつでも。」

リオナとマーシャは呪文を唱え始める。

2人が片手を前につきだすと、
そこから見たこともない文字がつらつらと飛び出してきた。

呪文を唱えれば唱えるほどそれは加速し、
渦を巻き始める。

「・・・っ、」

リオナは身体中の痛みに表情を歪めた。

極神召喚は術者の命を削る究極召喚。

体への負担が徐々に現れ始めたのだ。

それにしても早すぎる・・・・。

この命が持つかどうか・・・・・・・

それはマーシャも同じで。

マーシャも苦痛の表情を浮かべている。

まだだ・・・・まだなんだ。

リオナは歯を食いしばり、
呪文を唱え続けた。

















「始まったか・・・・」

シキは後ろで呪文を唱え始めたリオナとマーシャを見た。

2人とも・・・・瞳が黄金に輝いている。

あれが神の力か。

いや呑気なことを言っている場合ではない。

『ほう・・・・やつらは何を始めるつもりなのか。』

するとリオナとマーシャの様子に気がついたカイが、
興味深そうに口元に笑みを浮かべた。

「それよりこっちに集中してくれないか?」

シキは隙など与える暇もなく攻撃を続ける。

[よそ見してんじゃねーぞドアホ!!!!!!]

暴言を吐く余裕があるナツは、
素早い動きでカイを吹き飛ばした。

さすがマーシャに次ぐダーク・ホームのエース。

だがカイもこんなことでやられる玉じゃない。

すぐに体勢を立て直した。

「シキ・・・これでは勝負が目に見えてるね。」

するといつになく真剣な表情をしたビットウィックスが思わぬことを口にした。

「・・・何を言うんですかマスター。まだこれからじゃないですか。」

「カイが持つ輝く剣・・・あれが厄介だ。」

よく見ればビットウィックスは少し辛そうな表情をしている。

まさか・・・・

「・・・マスター、もしかして」

「そのまさかだ。あの光は、悪魔には強すぎる・・・・。特に純血の私にはね。」

あの剣さえどうにかすれば・・・

だがどうやって?

「恐らくだけど、ナツもあの光に力を消耗しているはずだ。彼は人間だが一応純血だからね。今はああやって強がってるけど、限界なんてすぐ来てしまう。」

ならば選択肢はひとつしかない。

「ではここは俺が行きます。」

シキは手袋をはめ直す。

「待ちなさい。」

今にも飛び出しそうだったシキを止めるビットウィックス。

「私が行こう。」

「な・・・・っ、何言ってるんですかマスター!!!」

「あの剣はただの剣じゃない。シキの力では無理だ。」

「でもマスターだってあの光じゃ・・・・」

「確かにあの光は強すぎる。だけど俺の力でカイを倒せないとしても、あの剣くらいなら壊すことができる。」

あの何百、何千という数の魂が込められた剣を・・・・?

「今、私ができるのは、君たちを先に進めることだ。未来に。」

「ですがマスター・・・・!!!もし万が一のことがあったらどうするつもりですか・・!!!あなたはダーク・ホームと天上界の長なのですよ!?」

「ふふ・・・シキ、君は本当に小さな男だ。」

「なっ!!!!」

ビットウィックスは穏やかな笑みを浮かべて、言った。

「マスターとして、サタンとして、今できることをするまでだ。」

「マスター・・・・」

「この戦いの勝利を手にすることが、私がここにいる理由ではない。この儚い世界を、未来につなげるのが、この裏社会で活躍してきたダーク・ホームの長である私の役目だ。」

そう言って、ビットウィックスは勢いよく前へ飛び出した。

打ち合いをしているナツとカイに一気に近づく。

[なっ・・・・!!!!!ビットウィックス!?さがれ!!!邪魔するな!!!!]

ビットウィックスの姿を見たナツは、声を荒げる。

恐らくナツも気がついている。

この剣の放つ光の強さに。

悪魔の闇を飲み込む強い光に。

だからビットウィックスを近づけさせたくなかったのだろう。

[おい!!!聞いてんのか!?]

「聞いてるよ。退がるのはナツ、君だ。」

ピリピリとした空気が、一気にフワッとする。

ビットウィックスはいつだって、穏やかな笑みを浮かべているから。

「ナツ、君は私たちのエースだ。言っただろう。ダーク・ホームと悪魔たちの未来は君に任せたと。」

[何をまた寝ぼけたことをッ!!!]

「良いから退がれ。ここからは私の仕事だ。」

するとその瞬間、先ほどまでのふわりとした空気から一転、
物凄い殺気に満ち溢れた。

ナツでさえ鳥肌が立つくらいだ。

ビットウィックスの目が、完全に悪魔と化している。

その様子に、カイは再び笑みを浮かべた。

『ほう・・・・これがサタンの力か。面白い。』

ビットウィックスの周囲に闇が広がる。

カイの剣が放つ光を奪うように。

「ふふ・・・これでも私は生粋の悪魔でね。実の父親を殺してでも手に入れた力を無駄にはしたくないんだ。」

『笑いながらそんなことをよく口にできるな。だが、気に入った。貴様とは気が合いそうだ。』

「全然嬉しくないね。」

2人の剣がキンッと音を立ててぶつかり合う。

闇の剣と光の剣。

どちらも互角だ。

『・・・・だが貴様はひとつ過ちを犯した。』

カイはニヤリと口元を引きつらせる。

「ふむ、私がいつ過ちを?」

『サタン自らが先陣を切るとは。普通、長は最後に出るものだ。貴様ら悪魔の未来は見えた。サタン無くして悪魔の今後はない。悪魔にこの世界は重すぎて支配できまい。』

カイが力強くビットウィックスを押しのける。

だが当のビットウィックスは、
怯むどころかどこか楽しげに笑っていて。

「なるほど。それが君が見た我々の未来か。クスクス・・・なんて単純な未来だろう。」

相も変わらず穏やかな笑顔を見せるビットウィックスに、初めてカイの表情が強張った。

「カイ、いつ私が・・・いや、いつ我々がこの世界を支配したいと言ったかな?」

ビットウィックスはカイの剣を跳ね除けると、
一歩、二歩と大きく詰め寄る。

「我々悪魔にこんなちっぽけな世界など必要ない。我々が必要なのは秩序ある世界。天と地の境界。天上界での世界の秩序維持だ。」

トンットンッとまるでステップでも踏むかのように軽やかにカイを追い詰めて行く。

「私たちの仕事はあくまで悪魔として人類の悪に対して裁きを行うのみ。逆に人類の善に褒美を与えるのが天使の役割。我々はその境界を超えてはならない。善も悪も、裁きも褒美も、全てを司る権利があるのは"神"のみ。我々は神になろうだなんてこれっぽっちも思っていないんだよ。本来、我々がこの世界に、地上にいること自体が私達にとっても不本意でならないのだから。」

『ではなぜ貴様はここにいる?ここ地上は人類の領域。貴様ら悪魔の居場所など微塵もない。その大事な境界とやらを自ら侵しているのは貴様ら悪魔じゃないのか?』

カイの剣の光がより強くなる。

「知っているかい?悪魔の長は、サタンである私だ。だが、私の長は・・・・」

その強い強い光を、ビットウィックスの闇が覆い隠す。

黒く深い暗闇で。

「私の長こそ、我々悪魔の生みの親である、神"エルゼン"だ。」

『・・・・っ』

「だから神は我々悪魔に地上を任せた。天使と違って私たち悪魔は秩序に厳しい。だから神はこの世界の均衡を悪魔に託したんだ。侵してはいけないラインなんて、言われなくとも分かっているさ。けれどもこれは神からの"命令"。長の命令は絶対だ。これの意味、わかるかな?」

ビットウィックスの表情から、笑みが消える。

闇はますます濃く深くなり、
巨大化する。

「・・・サタンとしてのチカラ、命を捨ててでも、守らなければならないものがあるって事さ。」

次の瞬間、
ビットウィックスの体から闇が噴き出した。

体はみるみる人型を無くし、見るものを恐怖に陥れるほど恐ろしい姿になってゆく。

『貴様・・・・っ、本気で言ってるのか?』

「ふふ・・本気さ。それにね、カイ・・・・君はサタン無き悪魔に未来はないといったね。だが私はそうは思わない。」

サタンとしての本来の姿を現したビットウィックスに、誰もが息をのむ。

このカイでさえも。

「神なき世界に悪魔や天使も必要ない。これからの未来に必要なのは人の子。その人の子が今後悪魔をどうするか、それはわからない。けれど私は託す事にした。"彼"なら、サタンではなく、悪魔としてではなく、"人"として、未来を作ってくれるとね・・・・!!!!!」

その瞬間、
ビットウィックスは両手でカイの剣を掴んだ。

そしてそのまま、
自身の体に剣を刺し入れたのだ。

『なっ・・・・貴様!!!!』

カイは力強く剣を引き抜こうとするが、ビクともしない。

『馬鹿か!?本気で滅びる気か・・・・!!!!』

剣はみるみる、ビットウィックスの体へ吸い込まれるように入ってゆく。

それが進むにつれ、ビットウィックスの身体中から赤黒い血が噴き出した。

「ふはは・・・・っ、・・・ああ、本気・・・さ・・・・私には、君を殺せる・・・ほど、の・・チカラはな、い・・・・から・・・せめて・・・・」

そう、これがサタンとして、ダーク・ホームマスターとしての、最期の役割。

きっと彼らなら・・・未来を切り開けると信じているから。

安心して悪魔を任せられるから。

「・・・・ぁあああ!!!!!!!!」

最期の剣の柄を、無理矢理体にねじ込んだ。

痛みなどない。
あるのは、高揚感のみ。

ああ、役割を無事に果たせたようだ。

光る剣がなければ、この男も・・・・もう・・・

視界が反転する。

ぐにゃりと地面が歪む。

一瞬、ナツの姿が見えた。

何か言ってるのか・・・・

わからないけど、きこえないけど・・・・

「ナツ・・・・・・・・、ナツ・・・」

君には、見えるかな。

この先の道が。

今はまだ暗いだろうか。
今はまだ険しいだろうか。

でも大丈夫だよ。

ナツ・・・・

「・・・この・・・・世界、を・・・愛し、て・・・・」

こんなに素晴らしい世界なのだから。

泣かないでね、ナツ。

君はもう1人じゃないのだから。





私の生涯は、振り返れば最低最悪なものだった。

母を殺し
妹を見捨て
父を殺し
仲間を見捨てた。

最愛の妹を失ってもなお、
秩序に縛られて生きてきた。

・・・・いや、ちがうな。

良き仲間に出会い、
秩序に逆らって、逆らい続けてきたのは、紛れもなくこの私だ。

これが正しい道だったかは、わからない・・・・けれど

今の私に後悔と言う言葉はない。

ああ、ムジカ・・・・

ようやくおまえの所へ行ける。

"兄さん"

まるで天使のような穏やかなムジカの笑みが見えた気がする。

"兄さん、おかえりなさい"

そう言われて、私は静かに微笑み返した。




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