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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story170 もう一度、力を。
「・・・・へぇ、結局こうなるのか」

断崖絶壁から見下ろすアシュール。

リオナが、自らの意志で落ちて行った。

だが彼はまだ生きている。

間違いない。

「はぁーあ。やってられないよ。」

リオナなんてもういらない。

使えない駒なんて捨ててしまえ。

俺に必要なのは"神"

ただそれだけだったのに。

初めから俺が器になるべきだった。
まぁ、なりたくてなれるものでもないけど。

アシュールは乾いた笑い声をあげた。

背後に迫る影。

振り返らずとも、もう誰だかわかる。

「カイ・・・・人というのは、なんて愚かなんだろうね。」

「それをお前が言うのか?」

「クスクス・・・そうか、愚かなのは俺も同じか。」

アシュールは振り返ると、カイに向かってニコリと笑った。

今までの貼り付けたような笑みではない。

心からの笑みを。

「俺の力、カイにあげる。」

きっとそうする事が、神へ近づく為の最短の近道。

"世界の再生"
これさえ果たせればもうどうだっていい。

あとはカイの好きにすればいい。

「・・・さすが俺の"弟"だ。」

「"兄さん"には及ばないよ。」

カイは光り輝く剣をアシュールに向けて構える。

「後は任せたよ。」

人類に裁きを。

「ああ・・・・。」

世界に絶望を。





















「はぁ・・・・はぁ・・」

リオナとマーシャは城下町に無事着地し、町外れの小さな教会に逃げ込んだ。

ステンドグラスに彩られた窓から、夕日が射し込む。

誰もいない教会に、2人の呼吸音だけが響き渡る。

キラキラ輝く床の上に、2人は座り込んだ。

乱れた息を整え、互いに目を合わせる。

「リオナ・・・・」

マーシャの手がリオナの頬を優しく撫でる。

その手にリオナも自身の手を重ねた。

「マーシャ・・・なんで・・・・っ」

再び頬を涙が伝う。

それを見てマーシャは困ったように笑った。

「泣くなリオナ。襲いたくなる。」

「馬鹿・・・・!!なんで来たの・・・!!あれだけ酷いこと言ったのに・・・・っ」

マーシャと別れる直前に言ったあの言葉。

"愛されるのも愛すのも憎まれるのも憎むのも全部・・・・全部全部!!嫌なんだもう!!!!"

思い出すだけで胸が苦しくなる。

俺がマーシャを泣かせた、俺がマーシャを傷つけた。

「俺は最低な人間だ・・・・っ、大切なもの全部投げ捨てて逃げた弱い奴だ・・・!!!」

「はぁーあ」

するとマーシャはわざとらしくため息をついた。

「リオナはやっぱりわかってない。」

「え・・・・?」

マーシャはリオナの涙を指で掬う。

「俺のことなんにもわかってねぇなぁ。なぁんにも。俺にはリオナしかいないって何回言えばわかる?何回キスをすればわかる?何回愛を囁けばわかる?」

マーシャはリオナを手をキュッと握ると、そのまま手の甲にキスを落とした。

「愛してる・・・・って何回言えばわかる?」

「マーシャ・・・・」

マーシャの鋭い目つきに、心臓を射抜かれた気分だ。

「・・・ごめんなリオナ。たくさん傷つけて、本当に悪かった。それにしつこいだろ、俺。でもこれが俺なんだ。リオナが嫌がろうが突きはなそうが、どうでもいい。嫌がったってずっと付きまとってやる。ストーカーって言われようがしつこくアタックしてやる。それが俺なんだ、リオナ。」

マーシャはリオナの前に跪くと、
リオナの手を自分の胸にもってゆく。

「リオナ・・・・愛してる。リオナの弱いところも強いところも。黒だろうが白だろうがリオナはリオナだ。俺はリオナの全てが欲しい。リオナなしでは俺は駄目だ。たとえリオナが悪に染まろうが、死を望もうが、俺はお前にどこまでもついていくよ。もうこの愛は誰にも止められない。リオナにもだ。だからどうか俺を、リオナの側に置いてくれ。」

これが人生2回目の、最愛の人からの告白。

きっとこんな幸せ者・・・・他にはいない。

「・・・・マーシャ、」

リオナはマーシャに近寄る。

ジッと瞳を見つめる。

マーシャの顔を両手で包み込み、
そっと唇を重ねた。

「ごめんねマーシャ・・・愛してる。どうしようもないくらい、マーシャを愛してる・・・・っ」

最後までちゃんと嘘をつけなくて・・・・ごめんなさい

もう、嘘はつきたくない。
ずっとずっと、そばにいたい。そばにいてほしい。

「・・・・リオナ」

震える身体を、マーシャが優しく包み込む。

ああ・・・・この熱だ。

「あのね・・・愛してるって言葉じゃ足りない・・・それ以上の愛なんだよマーシャ・・・・」

「ははっ・・・ようやく俺に追いついたか?」

「ううん・・・今度は俺が追い抜いちゃったよ」

「おや。それはどうかなぁ。」

ニヤリと笑うマーシャに、リオナの涙はようやく止まった。

マーシャはそんなリオナの目元を何度も何度も指でなでる。

愛おしくて仕方ないとでも言いたげに。

「やっぱりリオナの瞳、この漆黒の瞳・・・・たまらない。」

「・・・・色、戻ったみたい。」

「俺はこの色が好きよ?綺麗だ。」

2人は離れていた時間を埋めるように話しだす。

今まで起きた出来事を。

B.B.と更夜の死、神の話、カイのこと、フェイターのこと、全て話した。

「そうか・・・・B.B.が・・・」

B.B.の死を知らされ、マーシャの表情が陰る。

「あいつは本当にうるさい奴だった。だけどな、こんな事死んでも言いたくなかったが・・・・俺はあいつをどちらかというと息子みたいに思ってた。」

「そうなの・・・・?」

「・・・ああ。なんつーか、わからんが何となくだ。」

マーシャの拳が震える。

「・・・なぁリオナ。」

「・・・・?」

「俺たちが歩んできた道は、決して無駄なんかじゃない。」

「・・・・・・・そうかな」

やっぱりマーシャはいつだって俺が欲しい言葉をくれる。

それは優しさとかそういうのじゃない。
俺の事を一番よく分かっているから、俺のためになる事だけをいつも言ってくれる。

「絶対だ。何1つ無駄なんかじゃない。どれか1つでも欠けてしまえば今俺たちは此処にはいない。俺の瞳を見て、リオナ。」

そう言ってマーシャはゆっくりと瞼を閉じる。

そして再び瞼を開けると、その瞳は黄金に輝いていた。

リオナと同じ、神の力を手に入れた証。

「・・・・ルナだね。」

「ああ・・・・ルナは俺の中にいる。いつだってな。こうなったのも全て必然。あの日、ルナがモナを・・・・リオナの母ちゃんをどうにかしなかったら、俺はルナを恨む事もなかった。だけど恨む事がなければルナに関心を持つ事もなかったしこうして力を貰い受けることもなかった。全ては為すべくしてなった事なんだ。」

マーシャの言葉はいつも前を向いていて。

だから何度も勇気付けられた。

「俺はルナに誓った。今度こそ必ず、愛する人を守ってみせると。もう2度と手放す事なんてしたくない。だからリオナ・・・」

するとマーシャはポケットからブレスレットを取り出した。

真紅の宝玉がついた、マーシャがかつて自分の分身だと言ってくれたブレスレット。

別れの際、俺が置いてきた大切なマーシャからの贈り物。

「もう一度俺を連れてけ。死ぬなら、一緒だ。」

「マーシャ・・・・」

今まで、そう言われるのが怖かった。

大切な人たちをこれ以上巻き込む事が。

この争いを激化させてる渦中にあったのは間違いなく俺の存在で。

愛する人、大切な仲間を巻き込みたくなかった。

だけど、俺は1人で旅をして、B.B.から教わってしまった。

あのB.B.からだ。

"一番怖いのは、またひとりぼっちになることなのだ・・・っ"

この言葉が、胸にずっと突き刺さっていた。

もしかしたらマーシャも、そうなのかもしれないと。

俺は勝手にマーシャを苦しみから解放したつもりだったのかもしれない。
偽善者気取りだったのかもしれない。

突き放したマーシャの気持ちなんて結局考えようともしなかったんだ。

だから今なら、マーシャの言う事がわかる。

もし俺が逆の立場なら・・・・間違いなく最期までマーシャと共に喜んで滅びるだろう。

「マーシャ・・・ごめん」

「・・・・っ、やっぱり・・・駄目?」

「ごめんね、マーシャ・・・一緒に、いて欲しい・・・最期まで、最期のあとも、その先もずっと・・・・」

「・・・・リオナ」

マーシャは強く強くリオナを抱きしめる。

「もちろんだ・・・ずっとずっと、一緒にいるよ。死んでも、その先も、生まれ変わっても、ずっとずっと・・・・ずっとだ・・・!!」

「ははっ・・・約束」

そしてマーシャは手にしていたブレスレットをリオナの腕にはめた。

「もう絶対に外すなよ。もし万が一離ればなれになっても、そのブレスレットが俺を導く。リオナの元に、必ず。」

やはりそのブレスレットは、熱い。

マーシャの愛情のように熱い。

「わかった。約束する。」

「ああ。」

2人は静けさの中、抱き合い、誓いを交わす。

刻一刻と迫りくる時の中で。

最期の穏やかな時を過ごす。

「リオナは覚えてるか?」

「・・・何を?」

「リオナがダーク・ホームに入りたいって騒いだ日のこと。」

「騒いだ?騒いでないよお願いしたんだよ。」

「あの時はさぁ、なんだこのガキはーって思ってたけど今じゃこんなに可愛くなっちゃって」

「可愛くない。」

「B.B.と3人で色んな国行ったなぁ〜。行くたびにB.B.が暴れては謝って歩いて・・・・」

「ああ、今思えばちょっと笑えるね。」

「いやまだ笑えん。俺は根に持つタイプだからな!!!」

「そういえば、ムジカと出会った時も色々大変だったね。」

「あー、そうだったな。初めてシキと対立したもんなぁ。」

「ムジカ、可愛かったなぁ・・・・」

「おいおい、それ俺に言う?妬いちゃうだろうが。」

「でもさ、何となくなんだけど正直・・・・ムジカは俺のこと恋愛感情で好きって感じじゃなかった気がするんだよね。」

「え、そうだったか?」

「たぶん・・・・ムジカはどちらかというとビットウィックスのこと・・・・・・・・いや、なんでもない。」

「まぁあの娘は天然娘だったからなぁ。」

「・・・・ジークとサラは元気かな?あ・・・2人とも時が戻ったからまた子供に戻ったのかな」

「どうだかなぁ・・・もしかしたらあの2人は俺たちに関わりすぎたせいで、子供に戻っても記憶だけは残ってるかもしれないな。」

「ジークの場合はその方がいいかもね。」

「まぁな。」

リオナとマーシャは昔話に花を咲かせる。

どの思い出も、温かく優しい思い出ばかり。

辛いこともたくさんあった。

でもそれ以上に、楽しかった思い出もたくさんある。

もう戻る事のない時間を恋しく思う事もあるが、
もう、十分だった。

「マーシャ・・・・」

「ん〜?」

リオナはマーシャの肩に、頭を乗せる。

「・・・・死ぬって、どんな感じかな。苦しいかな、辛いかな・・・」

今まで考えないようにしてきたこと。

だけどふと思ってしまった。

「大丈夫、一瞬さ。」

「一瞬・・・・?本当?」

「ああ、一瞬。うわぁー!ってなって終わり。」

マーシャの適当な返答に、思わず笑ってしまう。

「そっか、うわぁーか。」

「そう、うわぁ〜よ。」

二人でクスクス笑う。

ずっとこのまま、この時が続けばいい。

そんなことを思ったのも束の間。

教会の扉が開かれた音がした。

リオナとマーシャは柱の陰に隠れる。

誰かがカツカツと急ぎ足で中に入ってくるのがわかる。

リオナとマーシャは目を合わせ、コクリと頷きあった。

そして、武器を構えて柱の陰から飛び出した。

「・・・・!!!!」

だが、そこにいたのは予想もしなかった人物だった。

「シキ・・・・?」
「シキか・・!?」

「・・・リオナ!!マーシャ!!!!!」

そこに現れたのは、シキだった。

2人は武器を下ろしてシキに駆け寄る。

「なんでシキがここに・・・・?」

「ダーク・ホームのみんなも一緒だ。リオナ、無事でよかった・・・・」

シキに抱きしめられ、一瞬戸惑ってしまう。
けれど少しして、リオナもゆっくり抱き返した。

嬉しかった。
再び出会えたことが。

「・・・それより、マーシャ。お前もやっぱり来ていたか。」

「なんだよ。また説教かよ・・・・ってうわ!!」

するとシキはマーシャのことも強く抱きしめた。

その行動に、マーシャは動揺が隠せない。

「な、なにしやがる!!!」

「・・・馬鹿野郎!!!死んだかと思ったんだ・・・・!!!!よかった・・・・マーシャ、生きてて良かった・・・ッ」

「シキ・・・・」

涙を流すシキに、マーシャはそっと背中をなでてやる。

「空を駆ける1つの影を見たんだ・・・・もしかしてマーシャなんじゃないかって追ってみたら・・正解だった。良かった・・・・本当に、良かった・・」

「動体視力だけはいいよな、おまえ。」

「なっ・・・・失礼だな!他にも優れたところはたくさんあるんだぞ!?」

久々のシキとマーシャの言い合いに、懐かしいなぁと思わず笑みをこぼした。

するとその時。

「うぉーいシキ!!!なんでテメェが司令部から離れてんだよこのバカちんが!!!」

「そうよ!!しかも私たちより先にいるなんて信じられない!!」

[っち・・・ガリ勉メガネのくせに。]

「ちょ・・・・ナツ!シキさんはガリ勉じゃない!」

「そこ問題じゃないッチョ。」

「おや、もう休憩かい?お茶菓子は何がいいかな。」

懐かしい仲間の姿があった。

ラード、ユリス、ナツ、シュナ、クラッピー、ビットウィックス・・・・

なんで・・・・なんで・・・・っ

[っておい・・・・リオナと変態か?]

「・・・・!!!!りっちゃん!!!!!!!!」
「り、りおな・・・・!!!!!!!!」

リオナとマーシャはかつての仲間たちに取り囲まれた。

皆が皆、目を疑うようにこちらを見る。

そして我慢を切らしたユリスとシュナが、思い切りリオナに抱きついてきた。

「リオナぁぁぁぁあ!!!!!」
「りっちゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

大号泣する2人に、リオナも動揺する。

だって俺は・・・・みんなを裏切って・・・・・・・・

[おいリオナ。]

すると今度はナツが物凄い剣幕で近づいてきて。

今にも殴りかかってきそうなナツに、思わず目をつむる。

が、

[心配させんじゃねぇぇよこの馬鹿が!!!!!!!!!!!]

ナツも一緒になって抱きついてきた。

リオナはただただ驚きと、罪悪感が入り混じった複雑な感情が浮き沈みしていた。

「みんな・・・・、なんでここに・・・」

するとラードが、いつもの笑い声をあげて言う。

「なんでって?仲間だからに決まってんだろうが!」

仲間・・・・

「だって俺はみんなを・・・・裏切ったんだよ」

「そんなことないよリオナ。もう俺たちは全部知ってる。リオナが何を思って、考えて、あの時ダーク・ホームを出たのか。裏切ったなんて誰も思ってないよ!」

シュナの笑顔に、何度心を締め付けられたことか。

「それにリオナ、俺たちはリオナの事が大好きなんだよ?好きすぎてみんなで来ちゃった!」

「そうよ!もうひとりにはさせない。りっちゃん、私たちも命かけて戦いたいのよ。世界のために、仲間のために、りっちゃんのために!」

その言葉に、どれだけ救われたことか・・・・

どれだけ自分が勝手だったか。

どれだけ仲間という存在がかけがえのないものか。

終わりになってようやく気がつくなんて・・・・

「リオナ・・・・」

すると、今までビットウィックスの後ろに隠れていたクラッピーが顔を出した。

クラッピーとは途中、最悪な別れ方をしてしまった。

「クラッピー・・・・来てくれたんだね。」

クラッピーは今にも泣き出しそうなそんな顔をしていて。

「ごめ・・・・ごめんなさい、リオナっ・・・ぼくちん・・・やっぱりどうしてもリオナのことまもりた・・・・」

リオナはクラッピーに近づくと、ギュッと力強く抱きしめた。

涙を、見せないように。

「ありがとうクラッピー・・・来てくれて、本当にありがとう。」

ごめんねじゃない、ありがとうだ。

これはクラッピーから教わったもの。

「ううっ・・・・りおなぁぁぁぁぁ」

クラッピーの泣き声にみんなが笑い出した。

失いかけた心が再び息を吹き返すように、温かくなった気がする。

「はいはいはいはい、俺は無視かよ!」

すると今まで黙っていたマーシャがついに我慢を切らしたようで。

リオナを取り囲んでいた仲間たちはみんな
「お、マーシャ。生きてたか!」
と適当に声をかけてやっていた。

ああ、今思い知った。
自分が今まで全てに背を向けて逃げてきていたことを。

仲間を巻き込みたくないとか、そんな理由でみんなから逃げていたなんて。

みんなはちゃんと考えて、命懸けでここまで来てくれたのに・・・・

"仲間"

仲間は決して家族ではない。
力を合わせて一緒に戦うもの。

でも俺の中で、彼らはいつしか"家族"になってしまっていた。

でもきっと、それは俺だけじゃない。

みんなも同じ気持ちだと思う。

だからこそ、家族の為なら命をかけて戦えるのだと思う。

「みんな・・・・本当にごめんなさい」

今まで、ちゃんと向き合ってなかった。
本当に、本当にごめんなさい。

「あと・・・・ありがとう」

最後まで見捨てないでくれて、ありがとう。

俺はやっぱり・・・・世界一の幸せ者だ。

悔いはない。

必ず、明るい未来を・・・・この世界に。

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あきゅろす。
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