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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story169 最期のキスを。
もうわかっている。
神も、人も、みんな。

この世に"神"は必要がないことを。

崇拝する対象は用意されたものではなく、
自分で選択できるのだと。

だから終わらせるんだ。
今度こそ。

俺たち"人類"を生み出してくれた、"神"を永遠に眠らせるために。

















目覚めた時には、全てが180度変わっていた。

時が再び正しく動き始めた世界。

歴史が動く音がする。

ゆっくりだが、着実に変化しつつある。

人も世界も。

そして、真の"黒幕"もようやく姿を現した。

俺たちが倒すべき本当の"敵"が。

俺は朦朧とする意識の中、目の前で繰り広げられている光景をただただ見つめていた。

アシュールが俺を抱きかかえて走り出す。

カイから逃れるように。

アシュールの表情は・・・・"無"。

だけどその"無"の中からは
悲しみ、怒り、絶望の色が見えた。

「大丈夫だよ"リオナ"・・・・俺が守るから、必ず。」

そう言ってニコリと笑うアシュール。

そうか、こいつも人間なんだと初めて感じた。

今まで脅威しか感じ取れなかった彼から、
ようやく人間らしさというのを感じた気がする。

朦朧としていた意識も、ようやくハッキリしてきた。

力が入らなかった指も動かせる。

・・・・いける。

リオナはアシュールの肩を両手で掴むと、勢い良く体を突き放した。

「・・・・!?」

自らの意志で離れたリオナを、アシュールは驚いた表情で見つめる。

「なぜ?カイが追ってきてるんだよ?」

「アシュール・・・もう終わりにしよう。」

「何を言ってるの?ようやく復活できたんだよ?早く逃げよう。2人ならできる!」

アシュールは虚ろな目でリオナに笑いかける。

リオナの瞳は黄金に輝いていた。
神を体に宿しているから。

だが、その黄金の輝きは徐々に失われ、漆黒の瞳に変わった。

悪魔の赤ではなく、生まれた時の漆黒に。

「な・・・・なぜだ?」

アシュールは困惑の色を浮かべる。

「神は復活しない・・・残念だけど、俺は"神"じゃない。リオナだ。」

悪魔でもなければ神でもない。
ただの"リオナ"だ。

確かに体の中には"悪魔"と"神"がいる。
けれど俺は、"リオナ"だ。

もう、後ろは向かない。

「・・・・神は復活を拒んでいる。」

「そんなはずない・・・・!!!!神はこの世界の統一を望んでいる!!!!」

「じゃあなぜ神は復活できるこのチャンスを手にしないのか。考えてごらんよ。神はもう俺の中にいる。それでも神は出てこない。なんでだろうね、アシュール。」

「そんなはずない・・・・!!!!そんなはずっ・・・・」

今にも発狂し始めそうなアシュールをリオナはぎゅっと抱き寄せる。

「アシュール・・・・もう分かってるでしょう。」

「リオナ・・・・っ」

「・・・もう諦めるんだ。」

体を離せば、
アシュールは小さく震えていて。

今まで信じてやまなかった神の復活。

カイに裏切られ、信じるものも失われ、絶望の淵に立たされて。

どんな気持ちだろう。
考えたくもない。

だけどできることなら、彼を救いたかった。

俺は神ではない。だけどせめて、俺の力で彼の心だけでも・・・・

「そうか・・・・わかったよリオナ。」

だが、アシュールはなぜかクスクスと笑い始めて。

「そうか・・・・そうか!リオナのココロを壊しきれなかったからか!なぁんだ。だから神はそんな寝ぼけたことを言ってるんだね!」

そう言ってアシュールは黒い笑みを浮かべ、リオナに近づく。

ああ・・・・やはりアシュールは狂ってる。

取り返しなんてつくはずがない。
救えるわけがなかった。

「・・・・・・・・」

リオナも一歩ずつ後ずさる。

「さぁリオナ・・・おいで。もう一度ココロをぶっ壊してあげよう。この間は愛おしいあまりに痛みと同時に快楽を与えてやったが、そんなヌルいやり方やめよう。痛みだけでイッてみようか。」

アシュールの笑みに、体が震える。

頭があの日の出来事を思い出そうとしている。

だめだ・・・・思い出すな・・、

「・・・・さぁおいでリオナ。ぶっ殺してやる。」

その瞬間、リオナはアシュールから逃げるように走り出した。

走りながら、気持ちを落ち着かせようとする。

ここで取り乱したら終わりだ。

落ち着け・・・・もう終わったことだ。

走れ・・そして戦うんだ。

自分に何度も言い聞かせる。

"リオナ"

すると、声が聞こえた。

頭の中に。

"リオナ、私のチカラを使え"

エルゼンの声だ。

しかしこんなところで使うわけにはいかない。

まだだ・・・・ここじゃないんだ。

だって本当の黒幕は・・・彼じゃない。

リオナはピタッと走る足を止めた。

「行き止まり・・・・か」

目の前は壁。
だが、誰かが壁を打ち壊したのかポッカリ穴が空いている。

そっと近づき下を覗きこめばそこはまさに断崖絶壁。
自分が地上数百メートルもの高さがある位置に居たとは思いもしなかった。

飛び降りたら死ぬ。

自分は神と一緒に死ななければいけないが、
今じゃない。

死ぬのはフェイターを始末した後だ。

リオナの頭の中の構想では、
まずカイから倒すつもりだった。

だが、状況が変わった。

カイは思っていた以上に力がある。

恐らくアシュールの何倍も。

神のチカラを持ってでも敵わない可能性が高い。

アシュールとカイ。
2人を倒すことは難しいかもしれない。

だったら、どちらか1人なら・・・・?

せめてカイだけでも倒せれば・・・

「さて・・・・こんなくだらない追いかけっこなんてやめよう、リオナ」

気がつけばアシュールがすぐそこまで来ていた。

ゆっくりと近づいてくる。

ニヤリと笑みを貼り付けて。

「もう逃げられないよ。さぁ、おいでリオナ」

アシュールのその笑みをみただけで、あの日のことを思い出してしまう。

熱にうなされ、痛みに悶え、快楽に溺れたあの日のことを・・・・

体が動かなくなる。

【ーーー】

「・・・・?」

その時、誰かに呼ばれた気がした。

【りおなーーーだ。ーーーりろ。】

耳ではない。
頭に聞こえる。
だけどエルゼンの声じゃない。

【ーーろ、リオナ】

この声は・・・・

心臓の鼓動が早くなる。

身体中が熱くなる。

自然と表情が明るくなる。

リオナは思わず笑みを浮かべた。

そんなリオナに、アシュールは訝しげな表情を浮かべる。

「リオナ・・・・?なんで笑ってるの?」

そんな質問さえ耳に届かない。

リオナは大きな穴から下を見下ろした。

「リオナまさか・・・」

アシュールがリオナに手を伸ばした瞬間、

リオナの体は地上に向けて落下していった。

最後まで笑みを浮かべて。

アシュールの驚愕した顔だけがはっきりと目に焼きついた。

体は高速で落下しているのに、気持ちだけがフワフワしているような妙な感覚。

・・・・大丈夫、俺は死なない。だって俺には・・・・


残り数十メートルで地面に叩きつけられる。
その瞬間。

リオナの体を温かい何かが包み込んだ。

大きくて、温かい。

その熱はリオナを抱きかかえてそのまま空を駆け抜けてゆく。

リオナの目から、涙が溢れ出した。

溜まっていたものが全て、洗い流されてゆく。

涙を流しながら、リオナは顔を上げ、笑った。

「・・・・遅い、ばか」

「あはは、お待たせ。」

黒いコートに燃えるような真紅の髪。

ニヤリと笑う顔は相も変わらずいやらしい。

「・・・・マーシャ、マーシャ・・・・!!」

マーシャ。
最愛の人。

リオナはマーシャを強く強く抱きしめる。

さっき聞こえたのはマーシャの声。

何度も何度も呼びかけてきたのはマーシャの言葉。

【リオナ】

【リオナ、こっちだ。飛び降りろ。】

【信じろ、リオナ】

自分から突き放したのに、結局最後の最後まで愛し、求めた最愛の男。

「マーシャっ・・・・」

「・・もう離さねぇよ。」

懐かしい愛しい声に、涙が止まらなくなる。

そして2人は深い深いキスを交わす。

今までの溝を埋めるかのように。

最期の、キスを。

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