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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story168 世界の再生
俺の人生は、真っ黒だった。
黒くて黒くて前も見えないくらい真っ黒で。

"神の血族"と呼ばれ、光妖大帝国で迫害を受け、
何度となく血の涙を流した。

恨みは積り、涙は枯れ、
愛を捨て、死を縋った。

そんな時、ある男に出会った。

出会った場所は光妖大帝国王宮内の牢獄。

この出会いが、俺の人生を変える。

彼も俺自身も神の血を引く者同士。
無実の罪で捕まった者同士。
意気投合しないはずがなかった。

彼の名前は"カイ"

この時カイが言ったのは
「神を復活させよう。」

そうすれば、この苦しみから解放されると。
迫害のない世界が待っていると。

「力を合わせよう、アシュール」

断る理由なんてなかった。

失うものなんてない、あとは得るだけだから。




カイは"兄"のような存在だった。

俺のワガママを呆れながらも聞いてくれた。

でも今思えば、俺はカイを"兄"と思ったことなんてなかったのかもしれない。

兄さん、兄さんと、
呼んでいたのは口先だけ。

心の底ではただの"仲間"、
友達以上家族未満だったのかもしれない。

それは俺だけじゃない。カイもだ。

お互いにお互いを目的が同じだけのただの駒だとしか思っていなかった。

俺はただ、世界を真っ黒に染めたかった。
神の復活により、再び人類が神に跪くように。
黒く黒く。

そして神の復活に向けてようやくフェイターとして動き出した頃、ある出会いがあった。

これが人生で2番目の大きな出会い。

そう、"リオナ"だ。

最初はなんの興味も無かった。
愛する弟を目の前で殺されてしまった哀れなただの少年。

興味が湧いたのは彼がダーク・ホームに入った時。

あの真っ白な彼が、悪魔に魂を売ったのだ。

なんとまぁ愚かな少年。

でも彼が、あの真っ白な彼が黒く染まるのか興味が湧いた。

いや、黒く染まるか染まらないかなんてどうでもいい。

黒く染めたい。真っ黒に、真っ黒に。

俺と同じ色に。

絶望の黒に。

リオナが黒く染まった時、彼のココロは砕け散る。

どうせならその空っぽのカラダを頂いてしまおう。
神の復活する器として。

ああ、なんてすばらしいのだろうか。

愛するリオナと愛する神の融合。

これ以上にない褒美だ。





それが今、現実となったのだ。

リオナのカラダで神が再びこの世界に舞い戻ったのだ。

「・・・・ああ、神よ」

深い眠りについていたリオナの瞼がゆっくりと開かれた。

リオナの瞳は黄金に輝いていて。

「なんと美しい瞳・・・・」

黄金色は神の証。

神が、復活したのだ。
夢じゃない。

リオナ・・・・いや、神はカラダを起こすと辺りをゆっくりと見渡した。

神は今、何を想い、何を感じているのだろうか。
考えただけでゾクゾクする。

「神・・・・俺はあなたの復活をずっと待っておりました。」

『・・・・・・・・』

「・・・さぁ、何から始めましょうか。殺戮ですか?破壊ですか?それとも」
「待てアシュール。」

興奮する俺を遮ったのは、
いつになく落ち着きを払っているカイだった。

俺は思わず舌打ちをしてしまう。

「アシュールは今から他のフェイターたちの指揮をとれ。どうやら"ネズミ"が潜り込んだようだ。」

「ダーク・ホームの連中?そんなの想定内の範囲だよ。すでに化神も動いている。今更俺の指揮は必要ないでしょ。それより俺は」
「いいから言うことを聞け。」

今までになく冷たい声で言い放ったカイ。

そんな彼の両手には真っ白に光る剣が握られている。

「何をそんなに殺気立ってるのさ、兄さん。まさか悪魔達に怯えてるの?」

茶化すように言えば、カイはゆっくりとアシュールに剣の先を向けた。

「兄さん・・?」

勘違いではない、カイの様子が明らかにおかしい。

ここまで順調にきているのに、カイは一体何を考えているのか。

「ちょっとちょっと、なんで俺に剣を向け・・・・、」

その瞬間、カイは剣をアシュールに向かって振りかざした。

「・・・・!!!」

ギリギリの所で避けたアシュールは"リオナ"を抱えて後ずさる。

「ちょ・・・・本当何考えてるのさ」

「全く・・・お前は本当に使えない"弟"だな、アシュール。」

「それはコッチのセリフだよ"兄さん"」

「いいから"リオナ"を渡せ。」

カイが何を考えているのか、
本当にさっぱり分からない。

だが、良くないことを企んでいることは何となく感じる。

例えば、俺たちを"裏切る"とか。

「ねぇ、もしかしてカイは神を独り占めしようとしてる?」

もはや信用も何もない。
"兄さん"なんて口が腐ってももう呼べない。
呼びたくなんてない。

「独り占め?そんな事はどうでもいい。」

「どうでもよくないね。理由を聞かせてよ。カイが"リオナ"を渡せと言う本当の理由をさ。」

言っておくが、カイの表情ははじめから一度たりとも変わってなんかいない。

いつもの冷酷なあの表情と口調。

それが何よりも、アシュールの心を乱す。

「理由を言えばリオナを渡すのか?」

「さぁ?理由によるよ。」

アシュールもまた、右手に白く輝く光の剣を出す。

その様子を見て、カイは「ほう」と口元に笑みを浮かべた。

「神の力を手に入れたい。ただそれだけだ。」

「わお。素直すぎて笑える。」

いや全然笑えないけれど。
笑うしかない。
結局、この"カイ"という男は最初から最後まで俺と仲間達を欺いてきたということだ。

まぁ、この男を心の底から信用したことなど一度もないが。

「それで?神の力を手に入れてどうするの?」

「"世界の再生"さ。」

「へぇ。"世界の再生"か。なんだか興味深いね〜」

"世界の再生"
それは俺たちフェイターが考えていたものにも近い思想。

ある意味共通の思想だ。

でもその共通の思想、本当に"共通"?

「・・・・ねぇカイ、そのカイが考えている"世界の再生"のビジョンの中に、俺たち"仲間"はいる?」

「・・・・・・・・」

黙って俺を見つめるカイを見て、
わかってしまった。

ああ・・・・カイは初めから俺たちを"仲間"だなんて一度たりとも思ったことが無いんだ。

わかってしまった以上、もう何も問う必要はあるまい。

無意識に"リオナ"を抱き寄せる手に力がこもる。

と、その時だった。

この張り詰めた空間に、3つの影が現れたのだ。

なんてタイミングだ。

「もぉー!いつまで待たせるのー!僕退屈しちゃったよ!」

「チャキは我慢を覚えた方がいいッスね。」

「でもわたくしも少し退屈ですわ。」

チャキ、ビンス、エルミナ。
唯一この長い戦いの中で生き残ってきた最後の"仲間"だ。

俺は、少なからず彼らの事は仲間だと思ってきた。

カイとは違う。

現れた3人をカイは一瞥すると、
カツカツと音を立てて3人に近づく。

ああ・・・・なんでこんな時に来てしまったんだ。

3人はどうしたものかとキョトンとしている。

「カイにぃ?どうしたのそんな怖い顔し・・・・」
「逃げろチャキ・・・・!!!!!!!!!!」

こんなに声を張り上げたのは何年ぶりか。

手が震えた。
体が震えた。

平常心を保つというのはなんと難しいことか。

初めて思い知った。

彼らが、自分にとって"大切"な存在であることを。

「・・・・ッ!!!!」

カイは容赦なく幼いチャキに剣を振りかざした。

続けてビンス、エルミナ・・・・

急所である首を斬られ、
呆気なく倒れてゆく。

まるで糸の切れた人形のように。

「・・・・なにをする・・っなにをするんだ・・・・!!!!!!!」

俺は"リオナ"を手放しカイに斬りかかる。

キンッと剣と剣が音を立ててぶつかり合う。

「許さないよカイ・・・・ッ」

「・・大丈夫。こいつらは死んだとしても、こいつらの"チカラ"は俺の中で生き続ける。」

そう言うと、カイの剣がドクンドクンと脈打ち始める。

まるで生きているかのように。

次の瞬間、死に倒れた3人の体が光の粒子となり、
カイの剣に吸い込まれた。

剣の鼓動が更にハッキリと強く聞こえる。

俺は目を疑った。

カイの剣を見つめれば、
何十人、いや、何千人もの人の顔が見える気がして。

今までこの剣で斬られたものの魂が、今もなおこの剣の中で生き続けているのだ。

それがカイの力となって・・・・。

思わず、笑いがこぼれてしまう。

絶望の笑いが。

「ハハ・・・・ハハハ・・・なんてこった・・・・」

「俺の力は衰えることは無い。むしろ増幅し続ける。ここに神のチカラさえ加われば、"完全"になるんだ。」

そう言って笑みをこぼすカイは、もう俺が知っているカイではなかった。

「だがな、俺はあと2人の"チカラ"も欲しい。」

「・・・・へぇ。まだ欲しいの?なんて欲張りなんだ。」

「ああ。俺は欲張りだ。1人は愛に縋る哀れな男と、」

カイはそっと手を伸ばし、俺の頬に触れた。

「"神の血族"唯一の純血である、お前だよ・・・・アシュール。」

その瞬間、アシュールは剣を振りかざしカイを斬りつけた。

その隙に"リオナ"を抱き抱えて部屋を飛び出す。

渡してなるものか・・・・

愛する"リオナ"と"神"を・・・


















光妖大帝国 城下町下層

人々は突然始まった戦争に慌てふためいていた。

『い、一体何が起きてるんだ!?』

『政府は何をしてるの!!!』

『なぜ悪魔たちがここに!?』

時が戻ったことを知らぬ人々は、
フェイターたちの企みすら覚えていない。

突然現れた悪魔の集団"ダーク・ホーム"

そして大量の化神。

ダーク・ホームの者たちは化神の退治に追われる一方、
光妖大帝国の人々の避難を行っていた。

「これではキリがないな・・・・。」

今回の作戦の総指揮官に任命されたシキは、
この事態に頭を悩ませていた。

悩ませている時間もないのだが。

現在、救護チームと化神討伐チーム、そしてフェイター殲滅チームに分かれている。

救護チームはウィキに、
化神チームはキッドに任せた。

フェイター殲滅に向かうのは、
マスターのビットウィックス、ナツ、シュナ、ラード、ユリス、そしてクラッピーだ。

そろそろフェイター達がこちらの動きに気づいて反撃をしてくると予想をしていた、が。

どうやらそれが外れたようで。

「おいシキ、もう行こう。」

待ちくたびれたラードがシキを急かす。

何かがおかしい・・・・。

なぜ我々が侵入してきているのに反撃をしないのか。

気づいてないはずがない。

まさかこの帝国ごと潰す気じゃ・・・・

「・・・・わかった。行こう。」

ついにシキの許可がおり、
ナツやユリスもニヤリと笑みを浮かべた。

「待ってなさいよフェイター!りっちゃんは私のものだからね!」

「え、いやリオナはみんなのものですよっ!」

「ふふふ、黙りっしゃいシュナ!まぁまずはりっちゃんを見つけたらお尻をペンペンしないとね。」

緊張感のないこのメンバーが心配でたまらない。

その中で、1人だけ暗い表情を浮かべるものがいた。

シキは彼に近づき、背中をさする。

「大丈夫かクラッピー・・・・?」

「だ、大丈夫だっチョ・・・・」

大丈夫と言う彼の表情は真っ青だ。

どこが大丈夫なのやら。

「あの・・・・シキ・・」

「どうした?」

「ほ、ほんとに・・・やっていいッチョか?」

そう、今回クラッピーには大事なことをお願いしていた。

このメンバーの"命"がかかった事。

それは、このメンバー達の"時"を預かる事。
"時の加護"というものだ。

そうする事によって傷を受けても防げる可能性がある。
あくまで可能性の話だが。

だが、時が自身に戻ってしまえば受けた傷は一気に体を蝕む。
死ぬ可能性もある。

その場しのぎの対策に過ぎないが、
フェイターと本気で勝負するにはこれが必要不可欠だった。

「頼むよクラッピー。クラッピーにしかできないことだ。」

「う・・・・うん。わかったッチョ。」

未だに表情は暗いままだが、やってもらうしかない。

無理強いをしてでも、だ。

「み、みんな・・・・今からみんなの"時"をボクが預かるッチョ・・・・」

緊張感がなかったメンバーも、さすがに真剣な眼差しになる。

「どうなるかはボクにもわからないけど・・・"時の加護"は少しでもみんなの傷の負担を軽減してくれるッチョ!・・・・でもどうなるかは本当にわからないから十分注意するッチョよ・・・・!!!」

今にも泣きそうなクラッピーに、ナツは乾いた笑い声を上げた。

「ははっ、なぁにを今更。俺たちは死ぬつもりでここに来たんだ。もう何も怖くねぇんだよ。」

その言葉に、ビットウィックス、シュナ、ラードとユリスも頷いた。

「・・・・ほらね、大丈夫だからクラッピー。それに俺たちは強い。安心して。」

シキはそう言って笑いかける。

たちまちクラッピーは目に涙を浮かべたが、
すぐに目を擦り、先ほどとは違う強い眼差しで前を見据えた。

「うんっ・・・わかったッチョ!じゃあいくよみんな!」

そう言って、クラッピーは左手を天に向けた。

たちまち空が黄金に輝き出したかと思うと、雷のように全員の体を光が包み込んだ。

暖かいような熱いような。

なんとも言えない感覚だ。

「本当に、始まるんですね・・・・」

自分の掌を見つめながら、シュナは呟く。

そう、始まるんだ。
最期の戦いが。

シキはシュナに近づき、手を握る。

「シキさん・・・・?」

「シュナ・・・」

今思えば、
シュナと過ごしてきた日々はとても温かく穏やかであった。

色々なことがあったが、思い返すだけで気持ちが温かくなる。

本当は、シュナを最前線なんかに行かせたくなかった。

彼はここ、光妖大帝国の次期国王になる者。
この争いが終わったら、彼のチカラが必要になる。

いや・・・・違う。そうじゃない。
そんなことはどうでもいい。

・・・失いたくない。

彼は弟のような、息子のような、それくらい大切な存在なんだ。

それでもシュナは行くと言って聞かなかった。

真っ直ぐな目をした彼に、それ以上何も言えなかった。

シキは握りしめたシュナの手を引き寄せ、抱きしめた。
強く強く。

「・・・ーーーる。」

「・・・・!?」

シキが囁いた言葉に、シュナは驚き、
顔を真っ赤にさせた。

そんなシュナを見て、シキはクスリと笑った。

「安心して。マーシャとは違う。」

「し、シキさんんー!!!!!!!」

「さぁ、気をつけて行ってこい。」

トンッと背中を押してやる。

「・・・・はい!行ってきます!」

俺はいつだって見送る側。

旅立つもの達の背中を押してやることしかできない。

「シキさん!」

「・・・・?」

「俺も愛してますよー!」

「・・・・まったく」

でも、いつだって準備はできている。
旅立つ準備は、いつだって。

「ではシキ、あとは任せたよ。」

そう言ってビットウィックスはニコリと笑った。

「・・・はい。何かあればすぐに連絡を。いつでも加勢します。」

そしてビットウィックスを先頭に、全員が武器を構える。

「行くぞ。」

駆け出す彼らを、シキは見えなくなるまで見つめた。

背中が見えなくなると、
シキは踵を返して拠点に戻ろうとする。

だがその時
空を駆ける1つの影が目に入った。

「・・・・!」

一瞬だったが、間違いない。

俺が見間違えるはずがない。

あの影は・・・・

シキは震える手で通信機に手をかける。

「・・・・キッド、聞こえるか?」

『はい、どうしましたか?』

「少し席を外す・・・指揮はキッドに任せる。」

『え?ちょ、シキさん?さすがにそれはマズイんじゃないですか?!』

「すまない、キッドなら大丈夫だ。あとは頼む。」

『ちょっとシキさん!?それは困・・・・』

通信を遮断し、シキは駆け出す。

そう、旅立つ準備はいつだってできている。

きっと俺は、俺たちは、
この日を迎えるために、
精一杯生きてきたんだと信じる。



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