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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story167 神と崇められた男



真っ白


それ以外、表現のしようがない


360度
どこを見渡しても変わらぬ白
何度見ても変わらない光景


この真っ白な空間に、
この無の空間に閉じ込められてから何百年経ったのだろうか。


時間の感覚などない。


どうせこの先もずっと、
永遠にこの無の世界にいるのだから。


起きていても仕方がない。


眠る以外、やる事などない。


再び深い深い眠りにつこう。


瞼を落としかけたその時、


"自分だけの世界"に、
突如現れた1人の少年。


何者か・・・・。


この"私だけの世界"に・・・・
"神の世界"に、足を踏み入れた哀れな者は。


その少年は両手両足を鎖で繋がれたまま現れた。

私のすぐ隣で横たわっている。

目覚める様子はない。

私と同じように、深い深い眠りに落ちてしまっている。

銀色の髪に透き通るような白い肌。

長いまつ毛は涙に濡れていた。


ああ・・・・そうか。
この哀れな少年は・・・・

【リオナ・・・】

私の血族である迷い子"フェイター"に捕まり
無残にも"ココロ"を殺された哀れなリオナ。

神である私が復活するためにココロとカラダを切り離された苦しみで、
深い眠りについてしまったのか。

よく見れば、リオナの右腕の鎖と私の左腕の鎖が繋がっていた。

リオナの"カラダ"に私の"魂"が入り、一心同体となった証拠だ。

ああ、なんということか。

私の望まぬことが再び起こるというのか。

















今から何百年も前。

まだ神として世界の均衡を保っていた頃の話。

私は神真大帝国に存在した。

そもそもの"人間"を創造したのはこの私。

それぞれの地にそれぞれの種族を創造した。

魔力を操る者
時を操る者
森羅万象を操る者
武力を操る者
光を操る者
闇を操る者

そして何も持たない、ただの人間を創造した。

神真大帝国の人間は、皆何の力も持たないただの"人間"だけだった。

国民たちは皆、私を"神"と言って讃えた。

それは国民だけには留まらず、
世界中の者たちがそう讃えた。

もちろん、私にも他の者と同様に名がある。

「エルゼン」

唯一、私を"神"とは呼ばず生まれ持った名で呼ぶ男がいた。

その男は私の唯一の親友であり、兄弟のように親しかった。

「なぁエルゼン。この世界はきっとこれからもっと素晴らしい成長を見せるはずだ。人も、時代も、全て。そうは思わないか?」

いつだって目を輝かせては世界の発展と平和を夢見てきたこの男を、私は尊敬すると共に、羨ましいとさえ思った。

この男だけは、心の底から信頼できた。

真っ直ぐで真っ白。

だから私は彼に助言を求めることもあった。

それからというもの、人も時代も彼が言った通りに目まぐるしい成長を見せた。

驚くほど、早く。

時代が変われば世界も変わる。
世界が変われば人も変わる。

こうして世界は進化と共に、徐々に徐々に変化を続けてきた。

良い方向にも、悪い方向にも。

ちょうどその頃から、人々の脅威ともなる"厄神"が現れるようになる。

厄神は実体を持たず、人に乗り移ってはその魂を食い荒らし、力を増幅させていた。

なぜ現れたのかは誰にもわからない。

今の時代の者たちは皆"厄神"を"化神"と呼んでいる。

「"神の悪い力"に影響を受けて心を失い、化け物と化す。」

そう信じられているようだ。

だが、本来はそうじゃない。

全ては"厄神"の仕業である。

ではなぜ"厄神"がのちに"化神"と呼ばれるようになったか。

全ては、ある一族の壊滅から始まる。

サムライカウンティにある薬屋の名家「宝条一族」には2人の息子がいた。

長男の紅明と、次男の更夜。

2人は薬屋の跡取りとして、大事に大事に育てられてきた。

しかし運命というものはなんとも残酷なもので。

巷で騒がれていた厄神が、ついにサムライカウンティにも姿を現した。

しかも今までの厄神の比ではない。

厄神の中でも最上級の力を持った厄神が現れたのだ。

その厄神に体を乗っ取られた人間が、
宝条家長男の紅明だった。

一族は深い悲しみにくれ、
紅明をなんとかして救いたいと私に助けを求めてきた。

「エルゼン、助けてやったらどうだ。厄神は放っては置けないだろう。」

そう助言してきたのは、もちろん親友であるこの男。

「私もできるなら助けたい。しかし・・・・」

それができない理由があった。

「私は・・・・厄神に触れることさえできないんだ。」

そう、私には厄神に触れることができない。

なぜだかわからないが、攻撃すらできないのだ。

それをどう助けろというのか。

すると彼はあまり言いたくなさそうに、あることを口にした。

「・・・宝条家の家長が、あるモノを対価に渡してきた。」

「あるモノとは?」

彼はゆっくり後ろを振り返ると、誰かいるのか手招きをした。

すると柱の陰から1人の少年が顔を出した。

「エルゼン、この子は宝条更夜。厄神に取り憑かれた紅明の弟だ。」

「まさか・・・・」

「・・・そのまさかだ。宝条家は紅明を救う代わりに末弟を差し出してきたというわけだ。」

「なんと愚かな・・・・!!!!!」

信じられなかった。

長男を救うために次男を平気で犠牲にするその考え方が。

怒りが込み上げる。

「・・・どうする。この子にエルゼンの力を入れ込めば、厄神を始末できる可能性はある。」

更夜はどうしたいのか。

大事なのは更夜の気持ちだった。

しかし更夜は何も言わず、ただただ無表情だった。

「・・・ならば、仕方ない。」

私は更夜に"神の力"を分け与えた。

もちろんタダではない。

神と契約を交わすということは、それなりの対価の支払いが必要となる。

私の意思に関係なく。

更夜から貰った・・・・いや、奪った対価は・・・

"宝条一族の命"だった。

愚かな一族にはそれなりの罰を。

やり過ぎだとは思った。

だが、親友の彼がそれを勧めたのだ。

彼が言うなら間違いない、はずだった。

結局、厄神は宝条紅明と共に滅び、サムライカウンティの危機は無くなった。

同時に、宝条一族は更夜を残し息絶えた。

更夜は賢者として永遠の命と神の力を手に入れたが、毎夜毎夜、悲しみに暮れ涙を流していた。

それを見かねた私は、彼に一本の桜の木を与えた。

少しでも気が晴れるように。

その想いが通じたかどうかは分からないが、
更夜は徐々に心を開くようになった。

そんな更夜には同年代の話し相手が必要なのではと考えた私は、1人の"娘"を生み出す。

名は"ルナ"。

誰よりも人の心を読めるよう願いを込めて生み出した。

期待通り、更夜はルナとよく話し、よく笑うようになった。

「エルゼン、一つ聞いてもいい?」

そんなある日、更夜は私にあることを聞いてきた。

「エルゼンはあの男をなぜそこまで信用するの?」

あの男とは、私の親友であり、唯一の理解者である彼のことだ。

「彼は昔からの親友だ。信用するのは当たり前のこと。」

更夜にはまだ分からないかもしれない。

でも、いつかきっと更夜にもそんな人が現れる。

だが、更夜の口から飛び出した言葉は想像していたものとは全く違うものだった。

「エルゼン・・・・あなたは、騙されていると思う。」

その言葉に、私は一瞬固まってしまった。

何を根拠にそんなことを言い出したのか。

更夜は嘘を言う子ではない。

素直で、真面目で、人を欺くことはできない子だ。

そんな子が真っ直ぐな瞳を向けてこんな事を言い放ったのだ。

「更夜・・・なぜそう思う?」

更夜がそう言うのには必ず理由があるはず。

「聞きたい?」

ニコリと笑った更夜に、思わず背筋が凍りつく。

なぜだろうか。

今、生きていて初めて"恐怖"という感情を抱いた。

「それはね、彼が"反神世界"のリーダーだからだよ。」

更夜が話した内容に、私は頭が真っ白になった。

"反神世界"とは、神が存在する世界を嫌い、神の力を奪って人間の世界を支配しようと目論む反対勢力の集団だ。

彼らは私たち"神の力"を手に入れようとしている。

我々を滅ぼし、力を手に入れ、この世を制圧するつもりだ。

そんな集団のトップに、彼が・・・・いや、"カイ"がいるとは信じがたい話だった。

親友であり、兄弟であり、唯一の家族だったカイが・・・・。

今まで私は、彼の掌で踊らされていたというのか。

そして、ついに事は起きた。

人々の間で、"神が傲慢になった"とデタラメな噂が流れ始めたのだ。

人々は神への信仰をやめ、私の存在を否定し始めたのだ。

ついには、"神が暴れ出し、殺戮を始めた"などと事実無根の話まで出てきた。

"神を滅ぼせ"

そう言い始めたのは・・・親友であるカイだった。

「ああ・・・・なんということだ」

苦しかった。悲しかった。

なぜ、気がつかなかったのか。

悔いばかりが残る。

それでも私は・・・・カイを恨むことはできない。

敵だろうが何だろうが、彼は私にとって、やはり唯一無二の親友だからだ。

「更夜・・・・頼みがある。」

私は、ある決意をした。

人々の心を乱す私の"神の力"は、
この世にあってはいけない。

この力さえなければ、カイは"神の力"に溺れることも無くなるだろう。

彼に奪われるくらいなら・・・自ら消えよう。

「私を殺せ。更夜。」

「エルゼン・・・・何を言うの?そんなことできない!」

「更夜ならできる。私が憎いだろう?一族を滅ぼした私が・・・・」

「・・・・っ、でも、ルナが悲しむ。」

「お前がついていてやればいい。」

「あなたがいなくなったあと、この世界を誰が・・・護るのですか。」

この世界は、今黒く染まっている。

この世界を護れるものは、この世界には今1人もいない。

だから、第三者の力が必要だった。

「更夜・・・・天にある世界を知っているか?」

「・・・天使と悪魔が住む天上界、ですか。」

「そうだ。あとのことは彼らに任せなさい。いや・・・・悪魔に任せなさい。」

「なぜ悪魔に?あの野蛮な一族は世界を守るどころか滅ぼす。」

「始めから野蛮だとわかっている悪魔と、真っ白なフリをした天使、どちらがまともか考えたことはあるか?」

「それは・・・・」

「大丈夫、間違いない。私の言う事をよく聞くんだ。」

こうして、私は更夜に全てを託した。

"神のいない世界"

それが私が最期に求めた未来だった。

だが、予想は打ち崩された。

更夜は、結局私を殺さなかった。

代わりに5つの玉に私の魂を封じ込めたのだ。

恐らくこれは、彼なりの優しさなのだろう。

人々は喜びにつかり、平和な時代が訪れた。

悪魔たちの裏社会での支えもあり、全てが順調に思えた。

だが、結局は結論を先延ばしにしただけであって。

"神の力"はまだこの世に存在したままなのだ。

私が封印され、この真っ白な世界に閉じ込められた日から、親友であったカイの姿は見えなくなった。

しかし彼は、再び姿を現わす。

場所は光妖大帝国。

アシュールという名の、私と同じ血族の少年の前にカイは現れた。

アシュールは健気にも神への信仰を続け、いつしか神が復活することを純粋に願っていた。

そんな少年に目をつけたカイは、力を合わせ"フェイター"という集団を立ち上げた。

ルナの力で命を伸ばし力を蓄えてきたカイは、
今、再び神の力を手に入れようとしている。

今度はこの"リオナ"を使って。

ああ、なんという悲劇だろうか。




















目を開ければ、見知らぬ場所にいた。

いや、昔よく見ていた"夢"に似ている。

何もない真っ白な部屋。
昔見た夢の中には、そこにウィキがいた。

だが今ここに、ウィキはいない。

重たい体を起こせば、
ジャラジャラと金属音がした。

両手と両足を鎖で縛られている。

ああ、とても長い夢を見ていた気がする。

自分が生まれる遥か昔の夢を・・・・

ふと、背中に気配を感じた。

ぼぅっとする頭をゆっくりと動かす。

「・・・・・・・・?」

そこに、1人の男がいた。

細身だが筋肉質で、肌が白い。

漆黒の髪に金色の瞳。

この男は・・・・そうだ、知っている。

たった今、夢で見た男だ。

「エルゼン・・・?」

そう、この男の名は"エルゼン"。

全知全能なる神だ。

人々に害をなしたと言われていた神。
だが実際はカイに騙され、自ら身を引いた哀れな神。

なぜだろう、ココロはもう無いはずなのに。

涙が溢れ出す。

「リオナよ・・・泣くな。」

そう優しく笑いかけるエルゼンの温かい心が、沁み渡る。

「・・・あなたは、似ている。」

初めて会った気がしない。
それはきっと、"似ている"から。

「ああ、私もそう思う。私とお前はそっくりだ。」

そう言ってエルゼンは微笑んだ。

「もう悲しむ必要などない。リオナ、お前が望むようにしよう。」

彼の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

「・・・なぜ?あなたは俺の体を使えばこの世に復活できるのに・・・・?」

「私がいつ、この世に舞い戻りたいと願った?それは単なるフェイターたちのエゴだ。私の願いは・・・・」

「神のいない世界・・・・」

「そう。それにはリオナ、お前の力・・・・そして命が必要だ。」

そう言って、エルゼンは俺の両手両足に繋がれた重たい鎖を、いとも簡単に外して見せた。

「リオナ・・・お前の心はまだ生きている。今再びこの世に戻り、全ての根源となるフェイターを・・・・カイを消し去るのだ。最後にリオナ・・どうか私と一緒に・・・・」

エルゼンの腕が伸びてくる。

ゆっくりと、優しく、抱き寄せられた。

「私と一緒に・・・滅んでくれ。」

そうすれば、全てが終わる。

再び世界が光で満ち溢れるだろう。

考えただけでも・・・・幸せだった。

たとえ自分が消え去ったあとだとしても。

「・・・もちろんだよ、エルゼン。」

大切で、大好きな、この世界のために。


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