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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story166 守りたいもの
"神の復活"

それと同時に戻り出した"時"。

"仮時間"の終わりを告げる。

時は走馬灯のように戻り、戻り。

時天大帝国壊滅直後まで遡った。

世界は再び、正しく時を刻み始める。

一度壊滅したはずの大魔帝国が再び蘇った。

人々も、街も、何もかも。

人々の頭の中に"仮時間"の中で起きた出来事の記憶はない。
だから一度死んだ事すら知らない。
だが、不可思議なことに一部の人間の中には、曖昧な記憶が頭に残っている者もいた。

まるで長い夢でも見ていたかのように。




大魔帝国
ラグの町

古びた一軒のボロ屋で暮らす4人家族。

ヴァンズマン一家だ。

24歳の若い夫婦、ダンとモナには6歳の可愛い双子の息子がいた。

兄のリオナと弟のウィキ。

ヤンチャすぎて手を焼くこともあるが、それでも可愛いくて仕方がなかった。

いたって平凡で平和な家族。
貧乏だけど、幸せな毎日。
である筈だった。

「ダンっ!!!!起きて!!!!リオナとウィキがいない!!!!!」

なにやら朝から国中が騒がしい。

時天大帝国が壊滅したというニュースが流れる一方で、
国内では"蘇った"と騒いでいる者たちがいるという。

とにかく異常事態が発生していることはわかる。

そう、この家族にも"異常事態"が起きていた。

妻であるモナに叩き起こされたダンは、重たい体をゆっくりと起こし、頭を押さえた。

・・・おかしい。何かが、おかしい。

今まで、長い長い夢を見ていた気がする。

確か、夢の中で俺は・・・・

「なんで・・・・生きてるんだ?」

一度、死んだはず。

なのに、なぜ・・・・?

「ちょっとダン・・・?大丈夫?ねぇ・・・っ」

「ああ、それより・・・・リオナとウィキは!?」

「いないの・・・・!!!2人ともベッドにいなくて・・・・!!!今国中が騒いでるの・・・昨日までいた人が突然消えたり、生きてるのに"一度死んで蘇った"って騒ぐ人もいるし・・・・っ」

ダンは今にも泣き出しそうなモナを抱き寄せる。

ゆっくりと背中をさすってやる。

「大丈夫だモナ・・・きっと、大丈夫。」

どうやら、俺が見ていた夢は、夢ではないかもしれない。

もし夢でないのなら・・・・

「リオナ・・・・ウィキ・・・」

2人の愛する息子を、再びこの手で抱きしめたい。

「モナ、お前は家から離れるな。俺はバルドの家に行ってくる。」

「で、でも・・・・っ」

「大丈夫、心配するな。もしリオナとウィキが帰ってきたら、誰かがこの家にいないと2人が不安がるだろう?」

「・・・・、うん。わかった・・・!!」

俺はぎゅっとモナを抱きしめ、額にキスをする。

「大丈夫!すぐ戻るから!」

きっとバルドなら何か知っているはず。

世界一の魔法使いのバルドなら。

「バルド!!!」

俺はバルドの家の扉をノックもせずに押し開く。

「バルドいるか!?」

「相変わらず慌ただしいのう。」

家の中には、少し驚いた顔をしたバルドがいた。

辺りを見渡すが、リオナとウィキの姿はない。

「どうしたんだ、ダン。お前が走ってくるなんて珍しいじゃねーか。」

呑気にタバコをふかすバルドに、思わず深いため息をついてしまった。

「何を呑気なことを!それより聞いてくれ!リオナとウィキがいなくなった!!」

だが、バルドはいたって冷静で。

「そうか。」と一言漏らしただけだった。

「そうかって・・・」

「いやぁ、俺もたった今まで"死んでいた身"だったからなぁ。」

さりげなくつぶやいたバルドの言葉に息をのむ。

まさか。

「もしかして・・・・バルドもか!?」

「ほう、その様子だとお前もか。」

ニヤリと笑うバルドに、やっぱり何か知っていると確信をもった。

「一体何が起きているんだ!?」

「何が起きているかなんて知らねーよ。」

「俺の記憶だと・・・・大魔帝国は一度壊滅しているはずだ!」

バルドは椅子から立ち上がり、窓の外を見る。

外では人々がみな、空を見上げていた。

「バルド・・・・?」

「おい、なんじゃありゃ・・・」

俺もバルドと並んで外を見る。

先ほどまで明るかった空が、みるみる暗闇と化してゆく。

禍々しい空の色に、本当に異常事態が起きていることがわかった。

と、その時だった。

バルドの家の扉が、バンッと音を立てて開いたのだ。

思わず拳を構える。

「誰だ!!!人の家に勝手に上がるな!!!」
「・・いやそれはお前もだろうダン。」
「ちょっとバルドは黙ってて!!!」

そんな二人の前に姿を現したのは、
真っ黒なコートを羽織った、赤髪の男だった。

自分より背の高い男を見上げ、思わず一歩後退してしまう。

『・・・よかった。オッサン生きてたか。』

赤髪の男はバルドに向かって安堵の表情を浮かべる。

「・・・・!?」

だがその姿と声に、俺は目と耳を疑った。

「嘘、だろ・・・」

一方、バルドは近くの箒を手に取ると、赤髪の男に向けて箒を構えた。

まるで殴りかかる勢いだ。

「ッチ、まぁたお前か!!!!何度来たって俺は国王に力なんかかさねーぞ!?」

『・・・・は?ああ、そうか・・・時が戻ったせいか。安心しなオッサン。もうその件は忘れていい。』

「なぁにが忘れろだ!しつこく押しかけてきおって!!!用がないならさっさと帰れ!!!」

そんなバルドを押しのけ、俺は前に出た。
その男の顔をよく見るために。

『はぁ、相変わらず頑固オヤジだねアンタ。そんなんじゃ・・・・、っておい。誰だお前?顔近い、近いから。ちょっ、話聞いて』
「マーシャか・・・・?」

そう、彼は"マーシャ"だ。

数年前から生存不明行方不明の男。

兄弟のように一緒に暮らしてきた"家族"。

そんな彼が、すぐ目の前にいる。

間違いない。

この綺麗な黄色の瞳に、真っ赤な髪。

彼以外、あり得ない。

「マーシャ、だよな?」

突然目の前に現れた男は、目を丸くして口をポカンと開けていた。

そして苦笑を浮かべ、深いため息を吐いた。

『あはは、バレちゃったか。久しぶりだなぁ、ダン。』

やっぱり、マーシャだ・・・・
あのマーシャだ!

喜びと驚きと・・・・他にも色々な感情が溢れ出す。

ああ、なんて言えばいいんだ。

何から言えばいい?

今までどこにいたんだ?
何をしてたんだ?
どうして居なくなった?
ちゃんと飯食ってたのか?
怪我はしてないか?
みんな心配していたんだぞ。

色んな言葉が溢れ出す。

でも、やっぱり・・・・一番言いたいのは

「マーシャ・・・・おかえり。」

俺は力強く、マーシャを抱きしめた。

もう二度と手離さないように、強く。

『ダン・・・・』

初めは戸惑っていたマーシャも、しばらくしてぎゅっと手を背中に回してきた。

こんなに大きく逞しくなって・・・・

それでもやっぱり、マーシャは変わらない。

間違いなく、こいつは俺の"弟"だ。









「おまえ!まさかあの時の小童か!?」

『小童とはなんだクソジジイ。』

「こらマーシャ。そんな言葉を使うもんじゃない。」

しばらくして、ラグの町の様子も少し落ち着いてきていた。

空は未だに暗いままだが、騒いでいても仕方がない。

「というか、マーシャとバルドは知り合いだったのか!?」

『ただの腐れ縁だよ。俺が帝国軍にいた時、ちょっと色々あってね。その時このクソジジイの頼み事を聞いてやっただけ。』

「なぁにが頼み事だ!俺はこんなクソガキに頼みたくなんかなかったわい!!」

『ぁあ?誰がクソガキだって?』

今にも取っ組み合いになりそうな2人を無理矢理引き離し、落ち着かせる。

「はぁ・・・・こんな時に喧嘩はナシ!!!!それで、マーシャはこの異常事態について何か知ってるのか?」

不貞腐れたマーシャは、目線を外したままボソッと何かを呟いた。

『・・変だよな。こいつらには仮時間の記憶は無いはずなのに。騒ぎが起きてるってことは、やっぱりこの国の人間は少なからず神の力に触れたってことか・・・・』

「マーシャ・・・?」

『いや、なんでもねぇ。それより、この異常事態について知ってるかと聞いたか?』

マーシャはニヤリと笑みを浮かべる。

「・・・実は、俺の息子たちがいなくなったんだ。昨日まで普通にベッドで寝てたのに。朝になったら居なくなってたんだ。」

『リオナとウィキ、か』

「なっ・・・・なんでマーシャが!?」

『さぁ・・・なんでだろうな。考えてごらんよ。』

「分かるわけないだろう!?なんで息子たちを知ってるんだ!!今どこにいるかわかるのか!?」

思わずマーシャに掴みかかってしまう。

だって2人は・・・・本当に、本当に大切な息子だから。

『・・・2人をなぜ知ってるか。それは、リオナをこの国から連れ出したのが俺だからさ。』

冗談かと思った。

でも、マーシャの表情は真剣で。

『信じるか信じないかはお前らの勝手だが、この帝国は一度滅んでいる。人も街も全て。』

マーシャの口から出てくる言葉は、今朝見た長い長い夢と全て一致する・・・。

偶然なのか・・・・それとも、

『その時、俺はリオナと出会った。崩れた家の前で泣きじゃくってた小さいリオナを連れてここを去った。あの日から、かれこれ十数年経ってる。信じられないかも知れないが、世界の"時"が戻ったんだ。大魔帝国壊滅前に。』

信じられない話に、俺は口をポカンとあけたまま、黙り込んでしまった。

そんな俺をよそに、バルドだけがたんたんとマーシャに言った。

「それじゃあ今、てめぇは何をしにここへ来たんだ?何もなしに来たわけじゃあねぇだろう。」

『俺はあんたに・・・バルドに教えてもらいたい事があってここへ来た。』

マーシャは立ち上がると、バルドの目の前に行き、その場に跪いた。

『俺に、禁術を教えてくれ。使うことを禁じられた、史上最悪最恐と言われたあの"滅びの禁術"を。』

マーシャの口から出た言葉に、あのバルドが目を丸くし、言葉をなくした。

一体、何の事なのか。

「お前・・・なぜその事を知っている!!!あの呪文はかつて世界をも滅ぼしかけた最悪の術だ!!!その存在自体、隠されてきたはずだ・・・どこで誰から聞いた!!!」

『そんな話、知ってる奴は知ってるさ。その"滅びの禁術"を現代で唯一習得しているアンタに、お願いしてるんだ。』

「なっ・・・・てめぇ正気か!?」

『ああ、正気だし本気だ。』

「あの呪文は絶対に教えんぞ!!!!どんな理由でもな!!!」

『神が復活した。』

マーシャの口から放たれた言葉に、ダンはもちろんバルドも言葉を失う。

「・・・・小僧、悪い冗談はよせ。」

『冗談だって?ははっ、本当冗談だったら最高だよな。残念だが冗談じゃないんだなこれが。神が復活したことによって止まっていた時も戻った。この世界は今、脅威にさらされている。』

「か、神が復活したということは・・・どうなるんだ?」

『光妖大帝国の新政権、フェイターのやつらがすでに動き出してる。神の力を利用して、"世界の再生"を図るだろうな。』

「ちょ、意味がわかんねぇ・・・・!!!世界の再生!?どゆことだよ!!!」

『ったく・・・ダンは頭が悪いな。"世界の再生"="神の世界"="人類滅亡"ってこと。奴らは世界を破滅させて、もう一度新たな人類を生み出そうとしてるってこと。』

マーシャの言ってることが、理解できない。
いや、正確には理解できるが、理解したくない。

一体世界で何が起きていたのか。

自分たちは昨日までなにもない平穏な暮らしをしていただけなのに。

「・・それで、貴様は何の為に"滅びの禁術"なぞ知りたがる。」

今まで黙って話を聞いていたバルドがようやく口を開いた。

その表情はいつになく険しいもので。

『俺は、神を倒したい・・・・・・・・って言いたいところだが、本当は違う。』

マーシャは眉間に皺を寄せ、うつむく。

『・・・助けたい人がいるんだ。どうしても、護りたいひとが。』

「マーシャ・・・・」

『俺は一度、全てを失った。自分のせいで、家族も、兄弟も、故郷も、愛するもの全て。もう二度と失いたくない。この身が滅びようが、何が何でも護りたい。その為には神を殺すしかない。だから、力が欲しい。』

マーシャのこんな表情、今までに見たことがない・・・・。

それくらい、想っている人なのだろう。

『・・・・ダン、ごめんな。』

「え・・・・?」

『俺はおまえに、殺されても仕方がないと思ってる。』

突然なぜ俺に・・・・?

頭がこんがらがる。

まさか、まだモナのことを・・・・

「マーシャ・・・・お前やっぱりまだモナのことを・・・」

『リオナだ』

「・・・・・・・・・・・え?」

『俺が護りたい人・・・・それがリオナだ。理解できないかもしれないが・・・俺はリオナを愛してる。世界中の誰よりも、愛してる。』

「ちょちょちょっっとまて!!」

まてまてまてどんな展開!?

「リオナだって!?リオナはまだ6歳の子供だぞ!?しかもオス!!!!!あ、いや、愛してるってどうゆうことだ!?息子として!?」

『息子とか家族とか、そういう愛してるじゃない。それにリオナはもう6歳のガキじゃない。あれから10年以上経ったと話したよな。』

嘘だろ・・・・いや、何が何だか・・
マーシャがリオナを?
いやリオナがもう子供じゃないって?
いやいや問題はそこじゃない!!!!!

「ああもう!!!とりあえずそれは良いとして!!!いや良くないけどね!!良くないけど今は良いとして!!!!」

こんがらがる頭を落ち着かせるようにダンは一度深呼吸をする。

「・・・・とにかく、リオナとウィキは今どこにいて、どうなってるんだ。それをちゃんと教えてくれ。」

とにかく大切な息子たちがどこでなにをしているのか、安全なのか、どうなのか。

まずはそこからだ。

『ウィキは恐らくだが、俺の仲間が保護しているはずだ。大丈夫、安心しな。』

その言葉にホッと胸をなでおろす。

「り、リオナは・・・・」

嫌な予感がする。さっきの話からして、リオナが何かに巻き込まれているのは何となくわかる・・・。

『・・・・知ってるか、ダン。神はな、ローズ・ソウルだけでは復活できないんだ。』

質問の答えになっていない。

今度はなにを言い出すのかと、ダンは急かすようにマーシャの腕を掴む。

「マーシャ今はそんな話よりも」
『神が復活するには器が必要なんだ。人間の器がね。それは生まれる前から決まっていた。』

その時、マーシャの胸ぐらをバルドが思い切りつかみ上げた。

目を見開き、唇を震わせて。

「まさか・・・・っ、それがリオナだと言いたいのか!?」

『・・・ご名答』

一瞬、思考回路が停止した。

全く起動しない。

聞き間違い?

ダンは思わず地面に座り込む。

「えっと・・・つまり俺の息子は・・・・・・・」

マーシャは瞳を伏せ、口を開いた。

『リオナを器として・・・・神が復活したんだ。』

頭を鈍器で殴られたかのように、クラクラした。

なにがどうなっているのか

なぜ、リオナが・・・・

ダンは勢い良く立ち上がるとマーシャの両肩を掴み、激しく揺すった。

まるで責め立てるように。

「マーシャ・・・・っ、リオナをどうすれば助けられる!?なんでもする・・!!!!どうかあの子を返してくれ!!!」

『ダン・・・・』

「リオナは俺とモナの大切な息子なんだ・・・!!!!!あの子はまだ幼い・・・・!!!!!いや幼くないかもしれないが大切な大切な息子なんだ!!!!捻くれ者の優しい可愛い俺の息子なんだっ!!!!!!頼むよマーシャ!!!教えてくれよ・・・!!!!!!!」

涙が溢れ出す。

このままではリオナが殺されてしまう。

神として、殺されてしまう。

悲しみと絶望でいっぱいになる。

『知ってるよ・・・・ダン。お前がどれだけ息子たちを愛しているか、よくわかる。』

マーシャはダンをぎゅっと抱きしめる。

その表情は今にも泣き出しそうで。

『俺は、ダンがリオナと過ごした時間よりも長くリオナと沢山の時間を過ごしてきた。でも、時間なんかじゃない。リオナはちゃんとダンの愛情を受け継いでる。リオナは誰よりも強く、お前ら家族を想っている。』

羨ましい限りだと、マーシャは苦笑した。

『・・・神の器になることを選んだのはリオナ自身だ。』

「な・・・・なんで・・・っ」

『リオナはこの世界を愛してるからさ。ダンやモナ、ウィキがいたこの世界をな。ダンがリオナを愛していたように、リオナもダンをちゃんと愛していたよ。口下手だから言葉にはできなかっただろうが・・・だからこそ、リオナはこの道を選んだのさ。』

「なら尚更・・・マーシャ・・・・お願いだ。リオナを助けてくれ・・!!!」

『・・・・』

マーシャはゆっくりとダンから離れる。

その表情は苦しそうで・・・・

「な・・・・マーシャ?なぁっ・・・マーシャならできるだろう?なぁ!」

『・・・・俺はリオナを愛してる。だから、リオナのそばにずっといると決めた。』

「ま、マーシャ・・・・!?それはどういうことなんだよ!!!」

『神は・・・・リオナは・・・俺が殺す。』

「・・・・ッ!!!!!!!!!」

ダンは拳をマーシャに向けて勢い良く振るう。

マーシャは避ける様子はない。

だがその瞬間、マーシャとダンの間に立ちはだかったのはバルドだった。

バルドに拳を掴まれてしまった。

「バルド!!!!邪魔するな!!!!」

「やめねぇかダン。良い大人がそう荒ぶるな。」

「なっ!!!!分かってるのか!?マーシャは俺の息子を・・・リオナを殺そうとしてるんだぞ!?!?」

「んなこたぁわかっとるわ。」

「じゃあなんで・・・!!!!!」

「なんともまぁ・・・・リオナらしいじゃねぇかよ。」

「え・・・・?」

バルドはダンの手を放すと、ポケットから煙草を取り出し、火を付けた。

空を見上げ、ふぅっと煙を吐き出す。

真っ白な煙を。

「・・・口下手で捻くれ者のリオナがこんな道を選ぶとは、全くあいつもこの十数年で色んなもんを吸収して成長したようだな。嬉しい限りじゃねぇか。こーゆーとこがダンにソックリだ。特に真っ直ぐなところがな。」

「おれ・・・・?」

「ああそうだ。きっとそこの小童にも似たんだろうがな・・・・。」

『・・・・?』

「まぁよ、どうせ何回人生やり直そうが、リオナは間違いなくこの道を選んでいたさ。奴は強情だ。そうだろう?」

「でも・・・・でもおれは・・!!!!!!!!」

「ダン・・・世界はもう昨日までの世界じゃない。これが現実なんだ。」

「それでも嫌なんだっ・・・・俺の・・・・俺たちの大切な息子なんだ・・っ」

頼むから・・・リオナを助けてくれよ・・・・なぁ・・・・っ

『・・・ごめんな、ダン。恨むなら・・・・俺を恨んでくれ。許してくれなくて良い。』

マーシャの手が、ダンの額に手を添えた。

その瞬間、目の前の視界がぐにゃりと歪んだ。

なんだか眠気が一気に襲ってきたような・・・・

体が言うことを聞かない。

そのまま地面に倒れてしまう。

『ダン・・・・リオナを1人にはさせないよ。約束する。だから、ごめんな・・・』

最期に見えたのは、
マーシャの涙だった。
















『すまない・・・・、ダン』

地面で眠るダンの顔に、涙がこぼれ落ちる。

愛する息子を殺すと聞かされて、
気が狂うほど苦しいだろうに・・・・

ああ、俺はなんて最低な人間なんだ。

最期の最期まで、本当に・・・・っ

「お前の選択に間違いはない。」

バルドの口から飛び出した言葉に、
マーシャはゆっくりと首を振る。

嘘でも、「助ける」と言えば良かった。

そうすればダンも苦しまずに・・・・いや、

そんなの、ただ自分を慰めるだけの偽善。

『俺は・・・俺はこの選択が正しかったとは思えない・・・・でも、この選択しか無い。俺には、こうするしかない。』

自分に言い聞かせるように呟く。

この罪は、地獄へ堕ちても付きまとうだろう。

でも、それでいい。

「・・・・まったく、てめぇも本当にダンに似てるな。ああ、確かダンはてめぇを"弟"って言ってたか。なるほどな納得だ。」

するとバルドはクシャクシャの紙を取り出すと、
そこに何かを書き始めた。

そしてその紙を再びぐしゃぐしゃに丸めてマーシャの前に落とした。

マーシャはそれを拾い上げ、紙を広げた。

『・・・・これは』

マーシャはバルドを見上げる。
そこに書かれていたのは、"滅びの禁術"ではなく・・・・

「お前には"滅びの禁術"より、こっちの方が向いとるわ。言っておくがこれはお前の為じゃねぇ。リオナの為だ。ここに書いたのは"滅びの禁術"なんか比にならねぇくらい、歴史史上最恐最悪の禁術だ。まぁ、この禁術を習得できたものはこの世で1人しかいないがな。」

『誰だそれは・・・・?あんたか?』

「ぶわっはっは!まさか!これを習得するのは能力云々の問題じゃあねぇ。これは完全に相性だ。今までこの技と相性が良かった奴は1人しかいない。」

『だから誰だよ。』

「奴の名前は"ティーモ・ホルタナ"。・・・というより、"クレイ"と言えば分かるか?」

『なっ・・・・』

クレイ・・・・それは大魔帝国を築き上げた英雄の名前であり、俺の本当の名前でもある。

まさかこんなタイミングでその名を再び聞くことになるとは・・・・

まったく・・・とことん呪われた人生だ。

「まぁ、相性が悪けりゃそこまでだが、テメェはどっちだろうなぁ〜」

バルドの言葉に、マーシャはニヤリと笑みをこぼす。

『まぁ、仕方ねぇか。・・・伝説の続きになってやろうじゃねぇの。なんてったって、俺は"クレイ"だからな。』

マーシャのその表情は、いつになく自信に満ち溢れていた。


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あきゅろす。
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