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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story10 迷子の断片



2人はマスタールームをあとにすると、
マーシャはリオナに部屋に帰りながら(あとでするのが面倒だから)城内案内をする事にしたらしい。


「まずはだなぁこの城は"黒の屋敷"っていう。地下20階から地上18階まであるんだ。地下は全部研究所になってる。そこは関係者以外立ち入り禁止ね。さっきいた1階にはでかい食堂がある。んで2階〜4階はトレーニング関係の部屋。俺たちのいる5階はマスタールームと会議場だ。6階はメンバー全員の集会場。で7階〜14階までがメンバーの部屋。そんで15・16階はスペシャルマスターの階だ。で最後17・18階は書庫になってる。はい何か質問は?」


― これ案内って言うか・・・・?


適当すぎる説明にリオナは心で不満をいだく。


「・・・・・トイレは?」


「どこにでもある。部屋にもね。ついでに風呂も部屋にある。しかも冷暖房完備だ。」


「なんか快適だね。」


「まぁな。こうでもしないとさ、悪魔がうるさいんだよ。暑いとか寒いとかさ。」


「えっ・・・悪魔と会話できるの?」


「そりゃあな。悪魔の声は自分にしか聞こえないから頭の中での会話になるけど。口にだしたら一人でしゃべっててただの変態になるだろ?」


「いや今でも変態だよ。」


「失礼しちゃう。」


2人は会議場の横をすぎ、
エレベーターにのる。


マーシャは慣れたように16階のボタンを押した。


「ちょっと寄り道させてもらうぜ。」


「?16階は・・・・・何とかマスターの階。」


「スペシャルマスターね。」


「ねぇそれってなに?ランク?」


「そう大正解。まずダークホームの城内にいる奴らをメンバーって呼んでるのはわかるだろ?」


「うん。」


「んで悪魔と契約している奴らをエージェントってよぶ。その中でも4つのランクに分かれているんだ。下から順に3rdエージェント・2ndエージェント・1stエージェントそしてスペシャルマスターだ。3rdエージェントは主に見習い扱いだから、単独での任務は許されない。1stエージェント以上の指導者を必須としている。2ndエージェントは大体が同じランクのやつとの何人かのチームでの行動になる。1stは立派な悪魔使いとして一人で行動できるし、見習いを持つこともできる。ランクアップするにはマスターによって抜擢されるしかない。まぁ簡単に言えば実績を残せってハナシだ。今は1stエージェントなんてたった13人しかいないんだ。難しいぞ?」


「なんか先は遠いね・・・・・・」


「まぁな。でもお前はたぶん最年少だから若いうちに一気に1stに上がれるぞきっと。」


エレベーター内の鐘が16階についたことを知らせると、
スゥッとドアが開く。


しかしそこは異様だった。


普通だったらどの階に行ってもまずは廊下に出る。


しかしこの階は、階全体が部屋となっていた。


しかも
ビリヤード、ダーツ、ポーカー台、スロット、チェス・・・・・


様々な遊具であふれている。


部屋の壁は黒く、カーテンは血のような赤。


緊張せずにはいられないような空間だ。


しかしマーシャはいつもと変わらぬ口調でリオナに話しかけてくる。


「スペシャルマスターっていうのは、まぁ名前でわかるかもしんないけど、ダークホーム最強のエージェントのことなんだ。全員で4人。仕事は主に1stと変わんないけど、奴らはあんまり仕事をしない。」


「なんで?強いんでしょ?」


「強いからだ。何か大事があったときにここにいなかったら大変だろ?」


「そーだぞマーシャ!!!なのにお前今までどこほっつき歩いてた!!!」

その瞬間、突然聞き覚えのない声が部屋に響いた。

2人は声のした方を見ると、
いつの間にか目の前のソファーに一人の長身の男が座っていた。


「ったくてめえのせいでコッチは散々だったんだぜ!?なぁベン!」


「・・・・・・・・・・・・・マーシャ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・久しぶりだな。」


するとすぐにまた、もの静かそうな男が現れた。


「あーらマーシャじゃない。すっかり死んだかと思ってたわぁ。何かお土産は?ウフフフまぁ期待なんてしてないけど。」


最後に色っぽい雰囲気を漂わせる女がでてきた。
女はマーシャの顔をそっと撫であげる。


「はぁ〜・・・。2ヶ月ぶりの帰還なのによぉ、なんだこの冷たい出迎えは。特にラードとユリス。」


「バァァッハッハッハッ!!!これでも精一杯喜んでやってんだぜ!?なぁユリス!」


「そうよ。これ以上をお望みなら続きは夜よ?」


ラードとユリスは甲高く笑う。


「・・・ったくよぉ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前はいつも仕事熱心だな。」


「どーも。こんなこと言ってくれる奴はベンだけだ。」


「ウフフフ。そーやって地味に誉めちゃうベンがだぁいすきよっ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」


するとラードはソファから立ち上がり、
マーシャの前まで来ると、マーシャの背後をのぞき込んだ。


後ろにいたリオナはビクッとしてマーシャの足をつかむ。


「おい、このガキなんだ?」


ラードがリオナを持ち上げた。


「やぁだ可愛い〜。もしかして隠し子?」


「まさか。」


「そうよね。あんたからこんなかわいい子供が生まれるはずないものねぇ。」


「ほっといて。」


「いやんそれにしてもすごくかわいい!」


リオナはユリスに抱きつかれ、
涙目でマーシャに助けを求める。


「おいユリス。かわいそうだろ?離してやれよ。」


「えー。やよ。」


ユリスはしぶとくリオナからはなれない。


「で、そのガキはお前が面倒見るわけ?」


マーシャはリオナを見て、
腕を組む。


「うーん・・・いや、たぶん1stエージェントに預けることになると思う。」


「えっ・・・・」


リオナは思わずマーシャを見つめた。


リオナはてっきりマーシャが指導してくれるものだと思っていたから。


「マーシャ・・・なんで?」


「え?」


「俺・・・・マーシャがついてくれると思ってたのに・・・。」


リオナはため息とともに肩を落とした。


「リオナ・・・・。」


「まーま!気ぃ落とすなって!」


気休めのようにラードがリオナの頭をぽんぽんたたいてきた。


しかしリオナは顔さえあげない。


「おいラードもやめろって」


「まぁ俺にまかせとけって!あのな、お前の大好きなマーシャはスペシャルマスターだからお前と一緒に任務とかそんなに行けないんだよぉ!!だから勘弁してやって!」


その瞬間、リオナは耳を疑った。


「え・・・スペシャルマスター!?マーシャが?!」


「あら。知らなかったの?」


リオナは驚き、
目を見開く。


マーシャは頭をかきながらリオナに苦笑いを向けた。


「別に隠してたつもりはないんだけど・・・。」


「そうなんだ・・・。」



別に一生の別れではないのに、
なぜだかマーシャがずっと遠くの存在に感じてしまう。


空気が一気に重くなる。


マーシャはとりあえずラード、ユリス、ベンにマスターからの言伝を伝える。


「あっそうそう。明日会議があるからちゃんと来いってマスターが言ってた。」


「えー!明日はダーリンとのデートなのにぃ!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・面倒だな。」


「まぁそう言うなって!マスターも色々悩んでんだからよ!!バァハハハハ!!!」


「んじゃそーゆーことだから遅れないでね。行くぞリオナ。」


リオナはユリスが離れると、
逃げるようにその場をあとにした。









「なぁ怒ったの?」


「え?別に。」


「だってさっきから無口じゃん。」


「・・・・・・。」


2人は15階にあるスペシャルマスター専用の部屋へ向かった。


一番奥の部屋のドアには"マーシャ"と書かれていた。


マーシャは鍵を取り出し、
開けながらリオナの様子をうかがっている。


リオナはさっきから無口で、
どこかボケッとしている。


「ほら入れ。」


背中をぽんと押され、リオナは部屋に足を踏み入れる。


部屋の中はかなり広く、
中にもいくつかの部屋に分かれていた。


真っ直ぐいくと寝室があり、

何人で寝るんだよと思うくらい巨大なベッドがあった。


「ま、今日はゆっくり休めよ。明日は俺会議でいないから好きにしてて。」


「・・・うん。」


リオナは疲れたのかベットに腰掛けて、深くため息をつく。


マーシャは少し戸惑いながら、顔をのぞきこんだ。


「・・・・どうする?シャワーあびるか?」


「マーシャ先にいいよ。」


「・・・じゃあシャワー行ってくる。」


そう言ってマーシャはシャワー室へ行った。


「はぁ・・・・・・」


リオナはゴロンとベッドに寝っ転がると
ここまでの旅路を思い出した。


― 長かったのかな・・・


マーシャと行動したのはたった1ヶ月ちょっと。


それでもマーシャとはずっと前から知り合いだった感じがする。


それはマーシャの気さくな性格が原因なのだろう。


しかしこれでマーシャとの生活もおしまい。


次からはまた知らない誰かとの生活が始まる。


別にイヤな訳じゃない。


ただなんとなく寂しいだけ。


リオナはポケットにあるローズソウルをさわる。


ローズソウルはまるで生きているかのように温かい。


そのままポケットをまさぐると、手に何かが当たった。


リオナは取り出し、
目の前に持ってくる。


それは少し古びた鍵だった。


―・・・・あれ・・・?この鍵・・・なんだっけ・・・


見覚えはあるけど、なんだか思い出せない。


そういえばさっきもマーシャが写真を捨てたと言っていたけれど、
誰との写真だか覚えていない。


最近までは覚えていたようないなかったような・・・・・


でもトラ婆の事は覚えてる。


でもどうして知り合ったかは・・・


考えれば考える程分からなくなっていく気がする。


それでもリオナは必死に考える。


クリスマスの夜、
燃え盛る町で俺は泣いていた。


そうだ・・・崩れた家の下には母さんと父さんがいたんだ。


でも・・・・顔が思い出せない。


その事件の前は・・・?


そもそも俺・・・・毎日何してたんだろう・・・・


何人家族だった?
いや、1人だったっけ・・・・?


でもこの鍵は家の鍵じゃない。


誰のだっけ・・・・・






すると次の瞬間、


目の前が真っ白になり、


また、いつもの真っ白な部屋にたどり着いた。


やっぱりいつものように
知らない少年が駆け回っていて。


しかしよく見ると、
顔が見えない。


いままでも見えていなかったのだろうか?


「リオナ。どうしたの?顔が悲しそう・・・・」


少年はリオナの前で止まると、
そっと顔をなでてくる。


リオナはそっと顔を下げて
首を振る。


「・・・・・・思い出せないんだ・・・・・・・・・自分が・・・・・どういう人間でどういう生活をしていたのか・・・・・」


すると少年はリオナの手から鍵をとる。


「ふぅん。この鍵の記憶を知りたいんだ。」


リオナは小さくうなずく。


少年はにっこり笑うと優しくリオナの頭をなでてきた。


「僕が思い出させてあげよっか。」


「!?できるのか!?」


「うん!」


そう言って少年は鍵を持つ手を差し出す。


そしてリオナはその上に手をおいた。





すると次の瞬間
頭の中に、一気に色々な映像が流れ込んできた。


まるで走馬灯のように

ぐるぐると回りだす。





『おっ!リオナと―――か。おどかして悪かったな。』

『だぁから気をつけろっていったろうが!』

『よぉく見てみろ。ここに島があるだろ?』

『自分の属性がわかったようだな。よかったじゃねぇか。』

『お前らはいつもこんなにダラダラしてんのか。』

『・・・・悪いが俺はこの町を出ることにした・・・・・』

『なぁ―――。リオナのこと・・・頼んだぞ。お前の言うことなら聞くだろうからよぉ。』

『・・・・また会えるさ・・・・・・』

『元気にやれよ・・・・ガキンチョども・・・・』

















「うっ・・・・・!」


「大丈夫?リオナ?」


リオナは胸が激しく痛くなり、その場に倒れ込む。


そしていつものように目の前の光景が砂のように崩れ去り、
気づけばマーシャの部屋の床に倒れていた。


鍵をもったまま、
激しく痛む胸を押さえる。


「う・・・ぁあ・・・・!!」


そうだ・・・バルドだ・・・これはバルドの部屋の鍵・・・・
でもバルドも・・・・


「っ・・・・・!!!!」


思い出せばだすほど胸が刺すように痛み、
気が遠くなる。


「おいリオナ!?」


マーシャは床に倒れ込むリオナに駆け寄り、急いでベッドに乗せた。


「はぁ・・・・・はぁ・・・・っ・・・・!!ぅ・・・・・!」


「大丈夫か!?ここ痛いのか!?」


リオナはうつろな目でマーシャを見つめる。


そして無意識にマーシャの胸に手をおいた。


―・・・・・いつか・・・マーシャも・・・・バルトみたいに・・・・いなくなるのかもしれない・・・


・・・・もう・・・・・・あんな思い・・・・・・したくない・・・・・・・・・



―だったらマーシャとは仲良くしなきゃいいんだよ?


リオナの頭に、少年の声が響く。


するとリオナは苦しそうにベッドから起き上がり、部屋のドアに向かった。


しかしマーシャに腕を捕まれ、
止められる。


「リオナだめだ。ベッドで寝てなさい。」


しかしリオナはムリヤリ引っ張ろうとするマーシャの腕を思いっきり振り払う。


「・・さわんなっ!」


「・・・・!」


マーシャは驚き、
ビクッとする。


「・・俺に構うな!」


「・・・・・?どうしたんだよ・・・。」


リオナはハッと我に返り、
悲しそうに見つめるマーシャが目に入った。


「・・・別に・・・・どうもしない・・・・・・・。」


マーシャは下を向く。


しかしいつもみたいにまたニッと笑ってリオナを抱えた。


「なら寝ろ。疲れてんだよきっと。」


そのままマーシャはリオナをかかえ、
再びベッドに乗せた。



いつからだろうか・・・・


自分がこんなに臆病になったのは・・・・・


誰か・・・・誰か・・・・教えてよ・・・・


どうすればいいか・・・・・・



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あきゅろす。
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