【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story164 動き出す歯車
ローズ・ソウル
かつてこの世界を創造した神が封じ込められた魂の神玉。
神の暴走により、五大帝国と賢者の力によって5つの玉に封じ込められた。
"神の暴走"・・・・それは神が人々の傲慢さに怒り狂い、力を爆発させたと言い伝えられている。
だが、果たしてそれが真実であるのか。
真実を知る者はただひとりしかいない。
「・・クラッピー、ぼく・・・・リオ兄に酷いことを・・・っ」
<大丈夫だッチョ、クロノス。リオナは優しいから、絶対に許してくれるッチョ。それより・・・・>
クラッピーとクロードは、何処かもしれぬ森に迷い込んでいた。
リオナと別れてから大分たつが、あれからクロードはずっと泣きっぱなしだ。
さすがのクラッピーでさえ頭を抱えるくらいだ。
だがそんな事に頭を悩ませている場合じゃなくなった。
<クロノス・・・更夜が死んだッチョ。>
「えっ・・・・!?」
あの賢者である更夜が、死んだ。
それは"時の神"の継承者となってしまったクラッピーにしか分からないこと。
<そうか・・・・ついに、始まるのか>
クラッピーの表情が翳る。
クラッピーは手に持っていた"時の神クロノス"からの預かり物を握りしめる。
更夜に渡したくても渡せずにいたモノ。
これはかつて時天大帝国壊滅時にクロードを助けてくれたお礼として更夜に渡したかったものだ。
それは"時の加護"と言い、御守りのようなものだった。
だが、それももう意味の無いものになってしまったが。
「始まる・・・・って?」
クロノスの問いかけに、クラッピーは苦笑を浮かべた。
<なんでもないッチョ!クロノスは心配しなくていいッチョ!>
更夜が求めていた、"神の存在しない世界"が、始まろうとしている。
<・・・なんだ。これで、良かったじゃん。>
クロードから"時の神の力"を全て奪い、時の神" の"継承者"となった事への罪悪感に苛まれていたが、むしろこれで良かったんだ。
だって"神"は、これから消えゆく運命なのだから。
<クロノス・・・・>
「クラッピー・・?」
<クロノスはボクちんが・・・・いや、ボクが必ず守るから。>
思い出した。
自分の使命を。
この世に再び舞い戻った意味を。
力を欲したから時の神の"継承者"になったわけじゃない。
クロードが力を手放したからなったわけじゃない。
これは初めから全て、王であった父の仕業。
"時の神クロノス"を護るためにボクを蘇らせたわけじゃない。大事な息子を、クロードを守るために、ボクを蘇らせたのだ。
万が一、神が必要とされない時代が訪れた時、
クロードの代わりに"時の神"としてこの世から消えるために。
これが、お父様がボクをこの世に引き戻した答え。
<クロノス・・・あなたは愛されてますよ、ちゃんと。>
「クラッピー・・・」
後継者としてではなく、
大事な可愛い"息子"として。
羨ましく思わないと言ったら嘘になる。
けれど、"時の神"の後継者として認められたことに、少なからず喜びを感じている自分もいる。
だから、ボクは何の悔いもない。
クラッピーは穏やかな笑みを浮かべると、
クロノスの目の前で跪いた。
<クロノス、ここでお別れです。>
「な、何言ってるのクラッピー?!」
<ボクはやっぱり、リオナを追います。>
目を丸くするクロードに、クラッピーは優しく微笑む。
<"時の神"の力を受け継いだボクが、この最期の戦いから逃げるわけにはいかない。>
「でもっ・・・・そしたらクラッピーは・・!!!」
<人はそれぞれ使命を持って生まれてくる。その使命を最初から理解している者もいれば、死ぬまで気が付かないものもいる。>
「わかんないよ・・・・っ、難しくてわからないよ・・!!」
<クロノス、貴方にも使命がある。生まれた時からずっと。まだ気がついていないかも知れないけれど。>
クロードの瞳から涙が溢れでる。
ああ、また泣かせてしまった。
もう泣き顔は見たくないのに。
<貴方はこの世界を、これから変わるこの世界をしっかりとその目で見届けなければならない。どんなに残酷な結末を迎えようとも、その目に焼き付けなければならない。そしてその事実を、貴方の言葉で語り継がなければならない。それが貴方の使命です。そのためにはまず・・・・>
クラッピーはそっと腕を伸ばす。
そのままクロードの腕を取り、
思い切り抱き寄せた。
力一杯、抱きしめる。
<・・・生き延びて下さい。何が何でも。>
多くのものを犠牲にしてでも、強く。
そして逞しく、生きなければならない。
それが"人間"なのだ。
「クラッピー・・・・」
<はい・・・>
「ごめんなさい・・・ごめ、なさ・・・!!」
泣きじゃくるクロードに、クラッピーは困ったように笑った。
するとクロードはぎゅっとクラッピーに抱きつき、こう言った。
「お兄ちゃん・・・・っ、」
<・・・・っ!!!>
クロードの口から飛び出した言葉に、身体が固まる。
「お兄ちゃん・・・・ごめんね、ごめんね・・・」
涙を流しながら必死に謝るクロードに、
自然と腕が伸びる。
小さな背中をそっとなで、ぎゅっと抱き寄せた。
<謝らないの。なんで謝るの?>
「だって・・・・、ぼくは弱虫で自分勝手だからっ・・・・」
<クロノスは弱虫でも自分勝手でもない。大好きな人の為に熱くなれる素敵な人だよ。>
そう、クロノスは誰よりも人の気持ちを考える人。
リオナの事がすごく大好きだった分、熱くなってしまってあんな事を言ってしまっただけ。
それはリオナだってわかっている。
だからリオナはボクたちを・・・・
「クラッピー、お願い・・・・。」
<・・・?>
「絶対に・・・・また、会えるって約束して?リオ兄と、クラッピーに、また会えるって・・・・」
涙をこぼしながら言われたその言葉に、
クラッピーは苦笑を浮かべる。
"絶対"か・・・
するとその時、周辺の木々がざわざわと騒がしくなった。
風が徐々に強くなり、突風が吹き荒れる。
2人は思わず抱き合い、目をつむった。
「こんな所にいたのか。」
風がピタリと止み、突然聞こえた低く落ち着いた声に、クラッピーとクロードはゆっくりと顔を上げた。
目の前に黒いコートを羽織った集団が現れたのだ。
数百人はいるだろうか。
その集団に、2人は思わず目を見開く。
「やぁ、久しぶりだね。無事で良かった。」
そう言ってニコリと笑ったのはビットウィックスだった。
その後ろにいる集団は紛れもないダーク・ホームのエージェントたち。
もちろんシキやシュナ、ナツ、ラード、ユリスもいる。
2人は安堵と戸惑いで、その場に座り込んでしまった。
一度はリオナと一緒にダーク・ホームを裏切ったのだ。
何をされるかわからない。
そんな彼らの心配も他所に、ナツはクラッピーに近づき、屈んで顔を覗き込んだ。
[へぇ、本当にクラッピーが継承者になったのか。]
<な、なんでそれを知ってるッチョ!?>
[そんなもん"サタン"にはお見通しだ。]
サタンでもあるビットウィックスは真っ赤な瞳を細める。
「クラッピー、君にお願いがある。」
<なんだッチョ・・・・?>
「私たちと一緒に戦ってほしい。」
<へ・・・・?>
予想外の言葉に、呆然としてしまう。
すると今度はシキが近づいてきて、クラッピーの手を取った。
「頼む・・・・これが"最後の戦い"になる。ぜひクラッピーの力を貸して欲しい。」
<で、でもボクは・・・・っ>
するとその時、シキの後ろから1人の少年が顔を出した。
その少年の顔に、クラッピーとクロードはまたもや驚く。
「り、リオ兄!?」
<リオナ!?>
「違う。彼はリオナの弟のウィキだ。」
リオナと瓜二つのウィキに、クラッピーも口をポカンと開けてしまう。
ナツとシュナに偶然出会ったウィキとキッドは、2人に連れられてダーク・ホーム勢に加わっていた。
もちろんキッドに関しては元々フェイターだったため、ビットウィックスからの直々の尋問を受けたようだが、どうやらビットウィックスの中でキッドは無害だと判断されたようだ。
『あの・・・どうか力を貸してください。リオナの力になりたいんです!!』
ウィキが必死に訴えかける。
目には涙を浮かべて。
突然の出来事に、クラッピーは混乱で言葉を失う。
どうすればいいのか。
だってボクは・・・・みんなを裏切って・・・
「クラッピー、何も気負うことはない。」
するとシキがいつものようにクラッピーの頭をポンポンと撫で、優しく笑った。
「俺たちは今、それぞれが様々な想いを抱いてここに集まっている。ただ共通するのは、ここにいる全員がリオナの力になりたいと思っている者達ばかりだ。」
[どーせお前は自分が俺たちを"裏切った"とか思ってビビってるんだろ?そんな心配してねぇでさっさと協力しやがれ!]
ここにいる人たちが皆、自分と同じ想いを抱いている。
みんな、リオナを想ってここにいる。
<どうしよう・・・・>
良いのだろうか、自分がここに混ざっても・・・・
すると、そんな迷うクラッピーを後押しするように、クロードがポンっとクラッピーの背中を叩いた。
「クラッピー・・・・何を迷ってるの。みんなと一緒に行くべきだよ!」
<く、クロノス!?>
いつになく強い眼差しを向けてくるクロードに思わず息を飲む。
「リオ兄のために、でしょ?」
<・・・・っ>
そうだ、自分は何を迷っているんだ。
リオナを助けたい。力になりたい。
なら何も、恐れることなんてないじゃないか。
リオナがそうだったように、恐れずに突き進むんだ。
クラッピーは立ち上がり、ダーク・ホーム勢に顔を向ける。
瞳を閉じ、そしてゆっくりと瞼をあげれば、瞳は黄金に輝いていた。
<・・・・クロノスの後継者として、仲間に入れて欲しい。>
その言葉に、シキやナツ、ビットウィックスは顔をほころばせた。
全ての準備が整った。
戦いの舞台はすぐそこまで迫っている。
戦いの終わりも、目の前にある。
「ひとつ教えてくれクラッピー」
シキはどうしても気になることがあった。
戦いが始まるその前に。
「以前、この世界は今"仮時間"の中にあると聞いた。本当の"時"は時天大帝国が壊滅した日から止まっていると・・・・。ではローズ・ソウルが全て揃い、その封印が解かれた瞬間、この世界はどうなるんだ?」
その問いかけに、クラッピーは苦い表情を浮かべた。
恐らく、あまり良い話ではないのだろう。
<・・・シキたちにとって良い話かどうかはわからない。ボクもクロノスの継承者になってから初めて分かったことだからなんとも言えないけど、今分かってることで良ければ・・・・、>
その答えによっては、とんでもない事態になるかもしれない。
だって、もし全ての時が戻り、今まで生きてきた仮時間の記憶も何もかも全て無くなってしまっては意味がない。
誰も神が復活したなんて気がつかないし知る由もないだろう。
「それでいい。教えてくれ。」
<うん。・・・・この"仮時間"の中で生きてきた人々の記憶は、無に帰る。つまり時天大帝国壊滅時の状況に全て戻るってこと。人の命も、体も、記憶も、全て。だから"仮時間"の中で死んでしまった人たちも皆生き返るはず。だからある意味、時天大帝国壊滅後に壊滅した大魔帝国の人たち・・・リオナの家族も生き返るはずだッチョ。>
まだ可能性の話だからか、クラッピーはウィキに聞こえないように小声で話した。
だがそのクラッピーの話に、シキは思わず足を止める。
これは予測した中でも最悪の事態だ。
このままではフェイターに勝つ負ける以前に、戦うことすらできないということ。
なぜなら記憶が時天大帝国壊滅時の平穏だった時代まで戻ってしまうからだ。
今の、この状況の記憶が残らないということだ。
<ただ、例外があるッチョ。>
「例外?」
<"神"の力に少しでも触れた者、関わった者は、記憶が無に帰る事も体が戻ることも命が若返ることもない。このままってこと。>
「神の力に触れた者・・・・?それはフェイターたちのことか?」
<簡単に言うと、フェイターとダーク・ホームのエージェント、この両者の"時"は戻る事はないってこと。たとえ今の"仮時間"に死んじゃったとしても、普通の人間は生き返るけど、フェイターと悪魔は無理なんだッチョ。その理由は単純に"人間ではない"から。詳しく話すと奥が深い話だから、聞かない方がいいッチョ。>
悪魔はもちろん、悪魔と契約を交わしたエージェントの"時"も戻る事なく、"今"を持続できるということは分かった。
最悪の事態を免れたと安心する反面、今まで亡くなってきた仲間たちが戻る事がないという悲しみも込み上げる。
それに一つ、引っかかる事がある。
「さっきクラッピーは"神の力に少しでも触れた者、関わった者"と言ったよな。フェイターは元々神の血を引くものだからわかるが、なぜ俺たち"悪魔"が・・・・?」
<それは・・・・>
「それは神が悪魔を生んだからだよ。シキ。」
するとシキの後ろを歩いていたビットウィックスがクラッピーの代わりに答えた。
「神が、悪魔を?」
「そう。元を辿れば、ね。だから我々はある意味、フェイターとは近い存在なんだ。」
「なぜ神は悪魔を生み出したんでしょうか。わざわざ敵になるような存在を・・・・」
「ははっ、"敵"かどうかはわからないだろう?もしかしたら、"味方"かもしれない。」
ビットウィックスの含み笑いに、シキは訝しげに首をかしげる。
「シキ。神はなぜ、暴走をしたんだろうね。なぜ神は、賢者である更夜に封じ込められたんだろうね。なぜ神は、悪魔である我々にローズ・ソウルを見張らせたんだろうね。」
確かに、よく考えてみれば不可解なことだらけだ。
なぜ我々ダーク・ホームは"神の島"に拠点を置くことを許されたのか。
全ては歴史の裏で賢者である更夜が働きかけたと聞いてはいたが、ではなぜ、神の遣いである更夜が悪魔に手を貸したのか・・・・
「答えは"神"にしかわからない。そうだろう、シキ。」
「そうですね・・・・。」
とにかく、今は目先のことに集中しなければならない。
シキが抱えていた不安はクラッピーの話で解消されたが、その話が良いか悪いかは実際に"仮時間"が終わってみなければ分からないということだ。
「さて、そろそろ此処で最終会議としようか。」
ビットウィックスは歩みを止め、エージェントたちを一度待機させた。
ビットウィックスに召集されたのは
シキ、シュナ、ナツ、ラード、ユリス、クラッピー、そしてキッドとウィキだ。
「今回、この最終決戦で鍵を握るのは君たちだ。君たちにはそれぞれ動いてもらう。シキ、光妖大帝国の地図を。」
シキが地図を地面に広げると、地図にはいくつかの赤いバツと、1つの大きな丸が書かれていた。
「光妖大帝国の地形にはキッドが詳しい。説明してくれるかい?」
『・・はい。この大きな丸がフェイター達の城、旧帝王の城です。ここにリオナ君が収容されていることは間違いないでしょう。城周辺は他の国と変わりなく普通の住人が暮らしています。フェイターは武装組織を持たない代わりに"化神"を戦いに使います。その化神が現れる箇所がこのバツ印です。』
キッドの話に、全員が暗い表情を浮かべる。
というのも、化神が現れると思われる箇所があまりにも多いからだ。
今回、この戦いに参加したのはダーク・ホームのエージェント全員だ。
皆、リオナをちゃんと理解し、力を貸してくれたのだ。
だが、それでも数百人だ。
化神の数は恐らくそれを上回るだろう。
そんな重たい空気を打ち破ったのがマスターであるビットウィックスだった。
一人だけ爽やかな笑顔を浮かべている。
相変わらずというかなんというか。
「大丈夫。こっちにはキッドがいる。キッドは化神の発生を未然に防ぐ方法を知っているらしい。」
「つーか本当にこいつ大丈夫なのか?!元フェイターだぞ!?俺たちをスパイしてる可能性だってある!」
その時反発の声を上げたのはラードだった。
確かにすぐに信じろと言われても信じることは難しい。
「・・・彼ならきっと、大丈夫です。」
するとそんなキッドを擁護したのは、意外にもシュナだった。
光妖大帝国の元王子と元フェイター。
相反する立場のシュナが、キッドを庇った。
「確かに彼はフェイターだった。だけど今、彼の目に嘘は見えない。それに彼の腕にあるこの呪印・・・・これはリオナがかけた守護の呪印らしいです。リオナが信用したのなら、絶対に大丈夫です!」
シュナの言葉に、さすがのラードも黙り込んだ。
「わ、わかったよ。仕方ねぇ。今回だけは見逃してやる!」
「何が見逃すよ。見逃してもらうの間違いでしょう?」
「なっ!ユリスてめぇどっちの味方だ!」
「私はイケメンの味方。よろしくねキッド♪」
ユリスにウインクをされて少したじろぐキッドだが、
気を取り直し、話を続けた。
『さっきビットウィックスさんが言ったように、俺は化神発生の防ぎ方を知ってます。だから今回は、俺がその役目に回ります。』
「そうだね。キッドには2ndエージェントと1at エージェントを率いて化神殲滅をしてもらう。3rdエージェントには全員治療班に参加してもらう。そこでウィキ、君も治療班に参加してくれるかい?」
ビットウィックスからの問いかけに、
ウィキは大きく頷いた。
『僕・・・・治癒魔法なら得意です!やらせてください!』
「よろしい。あとクロードはスバルと一緒にダーク・ホームへ戻りなさい。そして残るはシキ、シュナ、ラード、ユリス、ナツ、君たちだ。」
[はっ、作戦なんて聞かなくてもわかる。]
ナツがニヤリと笑みを浮かべると、シキ達もみな口元に笑みを浮かべた。
「ははっ、君たちもやる気満々だね。もう分かっていると思うが、君たちはフェイターの城に進入し、リオナを奪還。そしてフェイターの殲滅が仕事だ。リオナを奪還後・・・・」
その時、ビットウィックスは言葉を切った。
そう、この戦いに終止符を打つには、フェイターの殲滅だけでは意味がない。
必ず・・・・必ずやらなければならないことがある。
「マスターが言いたいのは、"万が一"リオナが生きていた場合、リオナを我々の手で殺さなければならない、ということだ。」
言葉を詰まらせるビットウィックスの代わりに口を開いたのはシキだった。
その言葉に、誰もが表情を曇らせる。
「どうしても・・・・やらなければならないのね。」
[・・・神がリオナの中にいる限り、な。リオナだってそれを望んでる。]
更夜が死んだ今、全てがフェイターの思惑通りに動き出している。
恐らくフェイターはリオナを何が何でも生かすだろう。
何が何でも、死なせないように。
『・・・・リオナ』
小さな声で呟いたウィキの背中を、シュナは優しく撫でる。
もう、誰も引き返すことはできない。
これが現実なのだ。
生死をかけた一世一代の戦いが始まる。
<・・・・っ!!!!>
その時だった。
クラッピーが突然立ち上がり、空を見上げた。
クラッピーの目の色が見る見る黄金に輝き始める。
[どうしたクラッピー!!!]
ナツがクラッピーの腕を掴んだその瞬間、
地面が大きく揺れ始めた。
空の色は激しく変化し、朝昼夜を何度も何度も繰り返す。
まるで世界がぐるぐると高速で回っているかのように。
「これはまさかっ・・・・」
<時が・・・っ戻った!!!!!>
クラッピーが声を上げた瞬間、
ビットウィックスは立ち上がりエージェント全員に向けて声を上げた。
「全員直ちに戦闘準備を。これより光妖大帝国に攻めこむ。」
ビットウィックスの言葉に、全員が声を上げる。
「今、神が蘇った。命に代えても、神の殲滅を。行くぞ。」
狂い止まっていた歯車が、再び音を上げて動き出す。
正しく、音を立てて。
"神が蘇った。"
それは世界の始まりを表すのか、終わりを示すのか。
まだ、誰にもわからない。
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