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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story161 世界でたった1人の大切な弟
日も暮れ、空に月が昇る。

月はあと少しで満月を迎えようとしている。

そんな月を見上げながら、
リオナ達はバルドの家に戻った。

バルドの家の鍵を持つのはリオナとウィキだけ。
だから安全な場所といえばここしか考えられなかった。

あれからリオナはウィキと一切口をきいていない。

ウィキも黙ったままキッドにギュッとくっ付いていて。

リオナとウィキは部屋の端と端、お互いに一番離れたところに腰を下ろした。

B.B.は気まずそうにリオナのところまでくると、
リオナの膝上に飛び乗った。

≪リオナ・・・なんだか顔色が悪いのだ。大丈夫?≫

「ん・・・・大丈夫。」

大丈夫と言いながらも、頭がぼうっとしてしまう。

日に日に弱ってゆく体に鞭を打つようにリオナはあえて体を起こしたまま、目をつむる。

「B.B.・・・・フェイター達に何かされたか?」

目をつむったまま、膝上にいるB.B.の頭をゆっくりと優しく撫でる。

長いこと離れていたせいか、B.B.のぬくもりが妙に落ち着く。

≪ずーっと監禁されたままだったから大丈夫なのだ。≫

「・・・・はは、遊びたがりのお前が監禁なんて、笑える。」

≪わ、笑うなー!大変だったんだからなぁ!≫

「・・・・ごめん。でも、本当に良かった。」

リオナはゆっくり目を開けると、
部屋の奥にいるウィキとキッドが目に映る。

2人はお互いに肩を寄せあい、手を繋いだまま眠っていた。
恐らく彼らも追われる身で、ゆっくり休める場所がなかったのだろう。

安心して眠っているようだ。

「・・・・なぁ、B.B.」

≪なに?≫

「キッドって・・・・どんな人?」

≪キッドは良いやつなのだ。キッドはフェイターだけど、初めて会った時からオイラたちの面倒を見てくれたのだ。≫

リオナはじっとキッドを見る。
疲れ切った表情をしているのが見てわかる。
きっと・・・・ウィキやB.B.のことを・・・

≪フェイターたちの城から逃げようって提案したのもキッドだし、オイラたちを逃がしてくれたのもキッドなのだ!そのせいでキッドはフェイターから狙われることになっちゃったけど・・・・≫

「・・・そう。わかった。」

≪本当に分かったのかリオナー!本当は分かってないんじゃないのー!?≫

「・・・うるさいぞ、馬鹿うさぎ。」

そう言ってリオナはB.B.の額を指で弾いた。

さて、どうしようか。

リオナはゆっくりと窓の外を見た。

もうすぐ満月を迎えようとしている。

急がなければ・・・。

焦りだけが募る。

≪リオナ・・・オイラ、リオナが何をしようとしているか聞いちゃったのだ。≫

すると、いつになく小さな声でB.B.が呟いた。

なんとなく予想はしていた。
恐らく更夜が言ったのだろう。

ということは・・・・

「・・・・ウィキも知ってるの?」

≪うん・・・。≫

「そう・・・・」

≪リオナ・・・考え直すのだ・・・・!まだ間に合う!皆で力を合わせればフェイターも神も倒せるのだ!!≫

B.B.の目に、薄っすらと涙が見えた。

ああ、このB.B.まで悲しませるなんて。
俺はなんて最低な奴なんだ。

リオナはそんなB.B.の頬を両手で包み込み、額と額をくっ付けた。

≪リオナ・・・・?≫

「・・・ありがとう。そう言ってくれて、俺は嬉しいよ。だけど・・・・ごめんなB.B.。もう、後戻りはできないんだ。」

頬を包む手に力が篭る。

「・・・神を完全に消滅させるには、誰かが"神の器"にならなきゃならない。それは誰でもなれるものではない。俺にしかできないことなんだ。」

きっと、B.B.なら分かってくれるはず。

幼い頃からずっと一緒だったB.B.なら。

俺の性格が、わかるはず。

≪はぁ・・・・あーあ!≫

するとB.B.はリオナの手から離れ、宙をクルクルと飛び始めた。

≪あーあーあーあーガッカリだぜ!本当ガッカリなのだ!リオナはいっつもオイラのお願い聞いてくれないよなー!≫

クルクルクルクル飛び回ると、そのままリオナの頭に止まる。

≪だけど、リオナらしいのだ。うん、リオナらしい!≫

「B.B.・・・・」

初めて理解してくれたのがB.B.だなんて。

信じられない反面、嬉しさで胸がいっぱいになる。

≪オイラの契約者は頑固だからな!≫

「・・・・お前に言われたくない。」

するとB.B.はリオナの膝上に再び座ると、リオナの心臓あたりに手を当てた。

何をし始めるのかと、リオナはじっとB.B.を見つめる。

なんだか心臓が温かく熱を持った感覚がした。

≪リオナ、オイラを連れて行くのだ。≫

「・・・え?」

≪リオナの体、もうボロボロなのだ。オイラにはわかる。≫

「・・・・何言って、」

≪オイラならリオナを"約束の場所"まで連れて行くことができる。きっとオイラにしかできない。オイラがいないと、リオナはきっと辿り着く前に死んじゃうのだ。≫

「・・・お前、"約束の場所"のことまで」

≪フェイターたちの話、全部聞いてたのだ。オイラその場所もどこにあるか聞いちゃったのだ!でもきっと、リオナならその場所がわかると思う。だからここに来たのかと思ったけど違った?≫

B.B.が一体何を言ってるのか、分からなかった。

でも、まさか・・・・

「"約束の場所"の"月の谷"は・・・・大魔帝国?」

≪うん。でも、ここから結構距離があるのだ。国の端。だからそこまで行くのに、リオナはオイラが必要なのだ。オイラならリオナの命を少しだけ助けることができる。≫

「それってどういうことだ・・・?」

≪さっきオイラ、リオナにオイラの"命"を流し込んだのだ。だから少し楽になったでしょー?≫

そういえばさっき、心臓が温かくなった気がした。
体から怠さも無くなったし、妙な眠気も無くなった。

≪リオナは知らないだろうけど、オイラたち悪魔は共食いをする種族なのだ。オイラも他の悪魔たちを何匹も食ってきてペナルティとしてこんなウサギの姿にさせられちゃったけど、その分、共食いでオイラの力は強くなったのだ!悪いことだけどね。だから悪魔同士は力や命を分け与えることができるのだ。ただの悪魔の契約者には無理だけど、悪魔であるリオナには可能なのだ。≫

「でもそれって結局は俺がB.B.の命を貰ってるってことだろう・・・・?そんなことしたらB.B.は・・・・」

≪オイラも死ぬのだ。≫

「何言ってんだ・・・!そんなこと絶対許さない!」

≪許すも許さないも、もう手遅れだもんねーっ!≫

「は・・・!?」

B.B.はひっひっひと笑いなから、リオナに自分の服の中を覗けと催促する。

リオナは慌てて自分の服の中を覗くと、
左胸に、真っ黒な呪印が刻まれていた。

その呪印はB.B.の胸にも刻まれていて・・・・

「お前ッ・・・・!!!!!」

≪聞いてリオナ。オイラがなんで今、この世界にいるかわかる?≫

「それは・・・・っ」

≪それはリオナがオイラを見つけてくれたからだよ。≫

B.B.はギュゥゥッとリオナにしがみつく。

≪ひとりぼっちのオイラを見つけ出して、自由にしてくれたのはリオナなのだ。オイラね、リオナが大好きなのだ!リオナはオイラのパートナーで兄弟なのだ!それに悪魔っていう種族はね、パートナーの最期まで一緒に寄り添うものなのだ。オイラ死ぬのは全然怖くない。だけど一番怖いのは・・・・≫

B.B.の目から、涙が溢れでる。
その涙がリオナに見えないように、きつく抱きつく。

≪一番怖いのは、またひとりぼっちになることなのだ・・・っ≫

「B.B.・・・・」

≪だから、オイラはリオナが死ぬなら一緒に死ぬ!もう決めたしやっちゃったしリオナに拒否権なしだからな!!もしそれでもダメってゆーなら今ここで自害するのだ。≫

B.B.は顔を上げると、いつものようにイタズラっぽく笑った。

その笑顔にどれだけ救われたことか・・・・

俺は、本当に幸せ者だな。

もう何に感謝をすればいいかわからないくらい、幸せだ。

気がつけばリオナも笑っていて。
リオナはB.B.の頬をぎゅっとつねった。

≪いだだだ!!!!≫

「・・・お前はいつも我が儘で自分勝手だな。」

≪ケッ!生まれつきだーい!≫

「まぁ、お前がそこまで言うなら・・・・俺と一緒に死ね、馬鹿うさぎ・・・・」

俺も相当な捻くれ者だ。

素直に"ありがとう"が言えないなんて。

でも、B.B.に"ありがとう"は不要だ。

だってこいつは、俺の悪魔なんだから。

≪ひっひっひ!一緒に地獄行きー!≫

「・・・いや怖いこと言うなよ。」

≪リオナの弱虫ー!≫

「うるさい。」

B.B.から命を貰っているおかげで、体力が回復してきた。

きっと俺が回復している分、B.B.の命が削られているということ・・・・

無駄死になんて絶対させない。

こんなところで呑気に休んでいる場合じゃない。

早く"月の谷"に向かわなければ・・・・

「B.B.、月の谷までどれくらいかかる?」

≪恐らく5日はかかるのだ。だけど道という道が無いからもう少しみたほうがいいかも。≫

満月の夜までも、あと一週間くらい。

ギリギリか。

「・・・今夜出発しよう。」

≪今夜?ウィキとキッドは!?≫

「・・・・・・・・」

≪わかったのだ。オイラは良いけど、リオナはそれでいいの?せっかく会えたのに、もう少し一緒にいなくていいの?≫

もちろん一緒にいたい。

話したいこともたくさんある。

せっかくまた会えたし、これで最後かと思うと離れがたい。

だけど、俺にはもう時間がない。

少しだけでも会えたことに・・感謝しなければ。

「・・・俺は大丈夫だ。ただ、最後にキッドと2人で話がしたい。ここで待っててくれるか?」

≪そっか。わかった、待ってるのだ!≫

リオナは立ち上がると、そっとキッドとウィキに近づく。

ウィキの寝顔を見つめ、思い残す事がないようにしっかりと目に焼き付ける。

そのままウィキを起こさないよう、キッドの肩をトントンと叩いた。

するとキッドは目をこすりながら、ゆっくりと目を覚ました。

『リオナくん・・・・?ごめん、寝てたんだね俺・・・』

「・・・・休んでいるところ申し訳ないんだけど、少しだけ話がしたい。外でいいかな。」

『あ・・・・うん。』

そう言ってキッドは寄りかかるウィキを起こさないよう床に横たえ、腰を上げる。

リオナはチラッとウィキをもう一度見てから、そのまま外に出た。

最後の最後まで、ウィキを自分に刻むために。













写真やら何やらで度々リオナくんを見たことはあったが、
本人を目の前にするとやはり緊張してしまう。

あのアシュールの心を鷲掴みにした少年・・・
見た目はウィキにそっくりだが、ウィキの可愛さとは違い、どこか儚げで美しい。

見た目は双子だが、中身が全然違う。

やはり兄としての責任感があるというかなんというか。

初めて会った時、リオナの鋭い目つきに射抜かれるかと思ったくらい、物凄い殺気を放たれた。

彼もこの果てのない戦争に身を投じた者、侮れない。

キッドはリオナのあとに続き、バルドの家を出た。

明かりの代わりに照らす月の光は、リオナの透き通るような肌によく似合う、とキッドは思わず息を飲んだ。

リオナは足を止めるとこちらを向き、キッドと向かい合った。

はじめに会った時は殺されるんじゃないかと思うくらい殺気立っていたリオナだが、
今は全く感じない。

むしろ、穏やかさを感じる。

ただ、真剣な眼差しだけは変わらない。

『リオナくん・・・・話ってなんだい?』

するとリオナはトランプを取り出し、たちまち剣に変形させた。

その剣先を、キッドに向けて突き出す。

「・・・もう一度聞く。あなたは本当にウィキを愛しているのか?」

リオナの疑う目が、キッドの動きを制御する。

彼はすごい・・・・。

殺気はないのに体が動かせないくらいリオナの想いが真摯に伝わってくる。

『・・・・リオナくんが俺を疑う気持ちはよくわかる。もし俺がリオナくんの立場なら、きっと相手を殺してる。だけどリオナくんは、俺を殺さないんだね。』

「・・・答えによっては、わからないよ。」

『うん。だけど俺は、リオナくんに殺されようが生かされようが、ウィキを愛していることに嘘はつきたくない。ウィキは俺をヒーローのように話すけど、俺にとってのヒーローはウィキだ。ウィキは俺に"優しさ"と"愛"を思い出させてくれた。俺がウィキに優しくしたのは、ウィキがそれ以上に優しい心を持っていたからだ。その心に俺はすごく惹かれた。ああ、愛ってこんなにも温かいんだなって初めて知った。俺はウィキを心から愛してる。誰に邪魔されたってこの想いは変わらない。たとえそれがリオナくんだとしても、ね。』

冷や汗がキッドの首筋を流れる。

心拍数が上がる。

リオナの変わらない表情に、駄目かと諦めかけた。

「・・・・やっぱり」

するとリオナは、向けていた剣を下ろし、手から離した。

カランと音を立てて、地面に落ちる。

「やっぱりあなたは彼に・・・・マーシャに似ている。」

『・・・え?』

リオナの表情は先ほどまでの表情とは打って変わり、穏やかな笑みを浮かべていた。

「・・・マーシャも、あなたのように真っ直ぐだった。あなたに初めて会った時、その真っ直ぐな瞳に少し驚いた。」

自然に笑うリオナを見て、こんな表情もするのかとキッドは思わず見とれてしまう。

「疑ってごめんなさい。ウィキが言うんだから、絶対良い人だって分かっていたのに・・・それでも、信じてあげられなかった。」

『リオナくん・・・・』

リオナの表情が悲痛に歪む。
握りしめた拳が震えている。

「やっぱり俺にとって、フェイターという存在はどうしても憎い。どんなにあなたが良い人だって分かっていても。・・・本当は信じたい。あなたを、心から信じたい。でも、どうしても信じられないんだ・・・。ウィキを助けてくれた感謝の気持ちよりも、両親を、故郷を、大切な仲間たちを奪われたこの憎しみの方がどうしても上回ってしまうんだ・・・・っ。」

俺はどこか、リオナくんを甘く見ていたのかもしれない。

彼なら、俺を許してくれると思っていた気がする。

なんて馬鹿なのだろう。

彼だって、1人の"人間"なのに。
俺が傷つけてきた、"人間"の1人なのに。

初めて、自分がやってきた過ちを憎く思う。

「でも・・・俺はあなたを信じるしかない。」

しかしリオナのその言葉に、キッドは思わず顔を上げた。

『リオナくん・・・・なんで、』

「・・・あなたも知っているでしょ。俺にはもう時間がない。ウィキを守れるのは俺じゃない。俺にはもうウィキを守る余裕がない。だから、あなたに頼むしかない。俺のエゴを主張してる場合でもないんだ。だから・・・・」

リオナはそう言うと、キッドの瞳をしっかりと見据える。

そのまま、ゆっくりと、深く深く頭を下げた。

「どうかウィキを・・・・よろしくお願いします。」

『リオナくんそんな・・・っ』

「・・・ウィキは頑固だし甘えん坊だし寂しがり屋だけど、根はしっかりした優しい弟です。きっとこの先、あなたに迷惑をかけることが沢山あるかもしれません。それでもどうか・・・・ウィキを愛してください。」

リオナくんがどんな想いで頭を下げているか。

こんな俺に、本当は憎くて憎くてたまらない俺に、ここまでできる彼は・・・・なんて立派な兄なのだろうか。

言葉が、出なかった。

「・・・・キッド、手を出してください。」

頭を上げたリオナに初めて名前を呼ばれ、
戸惑いながらもキッドは右腕を差し出す。

するとリオナはキッドの腕を優しく掴み、
何やら呪文を唱え始めた。

キッドの腕に、白い光が集まり始める。

その光はお日様のように温かく、意識がぼんやりとしてくる。

リオナが呪文を唱え終わると光は消え、代わりにキッドの腕に白い綺麗な呪印が残されていた。

キッドはぼんやりする頭で、何だろうかと首をかしげる。

そんなキッドを見て、リオナは悪戯っぽく笑った。

「これは俺の最後の"悪あがき"です。」

『・・・・?』

「"呪い"です。キッド、俺は貴方に"呪い"をかけました。もし貴方がウィキを裏切ろうものなら、この呪印が貴方の心臓を締め付け、殺すでしょう。」

呪い・・・・か。

キッドは頭でぼんやり考えながらも、なぜだか眠気が急に襲ってきて。
そのまま地面に倒れこむ。

眠気で朦朧とする中、最後にリオナが小さく囁いた。

「もっと時間があれば・・・・貴方を信じられたのに。最後まで信じてあげられなかった俺を・・・どうか許して。」

笑いながら涙を流すリオナを最後に、キッドの意識が途絶えたのだった。













目が覚めた時、俺はウィキの横にいた。

外でリオナと話していたはずなのに、気がついたら部屋に戻っていた。

だが、リオナとB.B.の姿はない。

横にいるウィキに目をやると、ウィキもすでに目を覚ましていて。
静かに涙を流していた。

リオナが行ってしまったことに、気がついたのだろう。

『ウィキ・・・・』

ウィキを優しく抱き寄せる。

ウィキの涙は、しばらく止まりそうもない。

ふと、昨夜の出来事を思い出した俺は、自分の右腕を見た。

そこには紛れも無いリオナからの"呪い"がハッキリと残されていた。

・・・・夢じゃなかった。

思わず、笑いが溢れる。

「キッド・・・・それ、どうしたの・・・?」

すると涙を流したまま、ウィキはキッドの腕に刻まれた呪印を撫でた。

すると、ウィキの触れたところからたちまち白い光が放たれ、温かく優しい熱に包まれた。

ウィキとキッドは驚きで思わず目を合わせる。

「・・・・これ、リオナが?」

リオナは確かにあの時、"呪い"と言った。

だけどこれは・・・・

『呪い・・・・なんかじゃない。』

きっとこれは、リオナの最後の"愛の呪い"だ。

最後の最後まで彼は・・・・。

リオナが最後についた優しい嘘。

それはキッドを呪い殺すものではなく、
ウィキを守るための"愛の呪文"。

『信じて・・・くれたじゃないかっ・・・リオナくん・・・・』

キッドの目に涙が込み上げそうになる。

「・・・・、リオナがね、これを置いてったの・・・・」

するとウィキが、一冊の本を手渡してきた。

本をペラペラとめくると、そこにはギッシリと文字やら図やらが描かれており、キッドはなんだこりゃと首をかしげる。

「これね・・・・リオナが僕のために書き残してくれた、魔術の本なんだ。」

『え・・・リオナくんが、これ全部書いたの!?』

尋常じゃない量に、キッドはもう一度本の中身を見る。

自分には何が書いてあるかわからなかったが、
ここにリオナの全ての想いが詰まっている気がして。

ウィキへの愛と、魔術への情熱を感じる。

彼の"生きた証"が、最愛の弟の手に残された。

すると本の最後のページに、ある短い文章が残されていた。
そのページを開いた瞬間、ウィキはぎゅっとキッドに抱きつき、目を背けてしまった。

恐らくこれは、ウィキに残した、リオナからの最後の言葉・・・・。

キッドはゆっくりと、その言葉を読んだ。














親愛なるウィキへ


忘れないで。
どんなに遠く離れていても、俺はウィキを心から愛してる。
こんな暗い世界でも、必ず光が照らされる時がやってくる。
暗く怖い夜でも、温かく眩しい朝がやってくるように、必ず。

ウィキの愛は、みんなを優しくする力がある。
忘れないで、絶対に。
その愛を、その笑顔を。

これからたくさんの素晴らしい出会いと、たくさんの幸福がウィキに訪れますように。

どうか、笑って。


ーーリオナ・ヴァンズマン




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