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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story160 ごめんねとありがとう
俺の人生はいつだって君が中心だった。

大好きで大切な、世界でたった一人の弟。

俺はずっと、ずっとずっと・・・・この日を待ち望んでいた。

そう、この日を。

君に伝えたいことがたくさんある。

俺が見てきた"世界"を。
俺が出会ってきた"人々"を。

そして、本当の"自分"を。















透き通るような銀の髪。
雪のように真っ白な肌。
まん丸と見開かれた漆黒の瞳。

紛れもない、
目の前に現れたのは、ウィキだった。

信じられなかった。
目の前の現実を。

だって君はいつだって俺の"夢の中"だったから。

「ウィキ・・・・」

「り・・・・おな、リオナ・・ッ!!」

ウィキの目からボロボロと涙が溢れ出す。

そんなウィキをリオナは強く抱きしめた。

ウィキの存在を確かめるように、強く。

「リオナぁ・・・・っ」

言葉が、出なかった。

だってあのウィキが、今目の前にいるのだから。

「ッ・・・・リオナ・・会いたかった・・・・ずっとずっと・・・っ、会いたかったよ・・・・!!!」

「・・・・俺もだ・・・ウィキ・・・・っ」

一度死んだ弟が、ちゃんと目の前にいる。
この腕の中にいる。

何と言って良いかわからなかった。

それくらい、喜びと驚きでいっぱいいっぱいだった。

思い出すのはいつだってあの最低で最悪なクリスマスの夜の出来事。

ずっと思い出せなかった"ウィキの死"を思い出したあの日から、頭に焼き付いて離れなかったウィキの亡骸。

今でも思い出すだけで体が震える。

しかし、今、間違いなくここにウィキがいる。

ウィキは・・・・生きている。

「本当に・・・・会いたかった・・・」

リオナの目から、一筋の涙が零れ落ちた。


















この気持ちを、どう抑えて良いか分からなかった。

何年も何年も想い続けた大好きで大切な世界でたった一人の兄・・・・リオナが、すぐ目の前にいるなんて。

堪えていたたくさんの涙が、リオナの肩に染み込んでゆく。

ようやく、悲しみが喜びに変わろうとしている。

ずっとずっと、言いたかったことがあるんだ。

僕が辿ってきた"道"、僕を変えた"人"。

僕からリオナへの"愛"。

僕の想い・・・・届け。





しばらく抱き合っていた2人は、ようやく気持ちを落ち着かせて体を離した。

お互いに恥ずかしそうに目線を逸らしながら、
ウィキはバルドの部屋の中をゆっくり歩き回っていた。

懐かしさと同時に、緊張感も高まった。

どうしよう・・・リオナがいるんだ。ここに。ああ、リオナだ・・・・

リオナがいる喜びに胸が高揚して、何から話そうかそわそわしてしまう。

一方リオナは、すごく落ち着きを払っていて。
相変わらずだなと感心してしまう。

「・・・・まさか、本当に生き返っていたなんて。」

リオナが呟いた言葉に、ウィキは勢いよく振り返る。

「えっと・・・・、その・・・」

「・・・・大丈夫、事情は全部知ってるから、何も心配しなくていい。ただ安心したんだ。無事に逃げられたんだなって。」

そう言ってようやくリオナの表情が和らいだ。

ウィキも思わず口元を緩めてしまう。

「リオナ・・・・あのね、ずっと言いたかったことがあるんだ。」

「・・・・?」

会ったらまずこれを最初に言おうと決めていたけれど、いざとなると言葉が出なくなる。

自分自身、こんなにも臆病だったのかと呆れてしまうくらいだ。

けれどやっぱり言わなければ。
リオナからどんな反応が返ってきたって、真摯に受け止めなければいけない。

それくらいのことをしてきたのだから。

ウィキは思い切り息を吸い込み、
リオナに向けて深く頭を下げた。

「リオナ、今までたくさんリオナを振り回して・・・・本当にごめんなさい・・」

本当に、僕は呆れるくらいリオナを振り回してきた。

敵であるアシュールと手を組んでリオナを精神的に追い詰めたこともあるし、傷つけたこともある。

挙句、リオナは自分の命と引き換えに、僕を救い出してくれた。

全てを捨てて・・・・。

こんな自分勝手な僕のことを、恨んで当然だ。

「謝っても許してもらえないことはわかってる。それでも僕は、どうしても生き返りたかった・・・・っ」

「ウィキ・・・・」

「僕・・・もう一度、一度でいいから、リオナに会いたかった・・・!!リオナをぎゅっと抱きしめたかった・・・・できたらもう一度、あの時のように一緒に暮らして、一緒に遊びたかった・・・・リオナが大好きで仕方ないの・・・。昔も、今も・・・っ」

生まれた時から僕はずっとリオナの虜だ。

「僕はきっと・・・・リオナに憧れてた。顔はそっくりなのに、リオナは僕と違って落ち着いていて、一緒にいるとすごく安心するし、不安も一気に吹き飛んだ。魔法もすぐに覚えちゃうし・・・・僕はリオナみたいになりたかった。それくらいリオナが大好きで、ずっとずっと一緒にいたいって思うんだ・・・・。リオナには迷惑かもしれないけど・・・本当に、大好きなんだよ・・・リオナ。」

嫌いになったかもしれない。
こんなに独占的で身勝手な僕を・・・・。

僕自身、こんな自分が嫌だった。
昔から何も変わってない自分が。
見た目だけが大きくなってしまった"ウィキ"が。

涙が、止まらない。

リオナの顔が見れない。

「ウィキ・・・・」

しかしその瞬間、
ウィキの額に温かい何かが触れた。

パチっと目を開けると、リオナが額にキスをおとしていた。

「リオ、ナ・・・・?」

リオナは額から唇を離すと、
柔らかく微笑みかける。

「・・・・昔よく、ウィキがやってくれたおまじないだよ。覚えてる?」

「っ!」

そういえば昔、リオナが泣いている時、僕はよくリオナの額にキスをしていた。

これはお母さんがいつも泣いている僕にやってくれてて、僕も真似してやっていたこと。
真似してやれば、リオナはいつも笑ってくれて・・・・

思い出した。
懐かしい思い出を。
僕も思わず笑ってしまう。

「・・・ようやく笑ってくれた。」

そう言ってリオナも昔のように笑ってくれた。

「・・ウィキ、俺たちはやっぱり双子だね。」

「え・・・・?」

「・・・俺もね、ウィキと全く同じ気持ちなんだ。」

「そう・・・・なの?」

「ああ。俺の中で、ウィキは世界でたった一人の大切で大好きな弟だ。大好きで大好きで・・・・今までずっと会いたくてたまらなかった。」

リオナは瞳を伏せ、ウィキの手を取ると自分の頬に押し当てた。

リオナの冷え切った頬に、あたたかい涙が伝う。

「俺もね・・・・ウィキに憧れていたんだ。ウィキのように素直でいつも笑顔でいられたら・・・って。ウィキと一緒にいた頃は、本当に楽しくて、嫌なことがあってもすぐに忘れられた。このまま永遠に一緒にいられたらって何度も思った。それくらい、俺はウィキが大好きで仕方ないんだ。」

止まらないリオナの涙に、リオナの想いがひしひしと伝わってくる。

「だからね・・・・どんなにウィキに振り回されたって、傷つけられたって、俺はウィキが愛おしくてたまらない。嫌いになんてなれない。もっともっと好きになる。だって世界でたった一人の弟だよ?」

「リオナっ・・・・」

ああ、僕は何を怯えていたのだろうか。

リオナは、"リオナ"のままだ。

確かに僕らは変わった。

変わったけど、想いは全然変わってない。

「リオナ・・・・ありがとう。本当に、ありがとう。」

ウィキはリオナの手を握りしめる。

もう二度と、大切なものを手放さないように。













「・・・・本当は俺も、ウィキに会ったらまず謝ろうと思ってたんだ。」

「え・・・・?」

あれからしばらく、リオナとウィキはラグの町を歩いていた。

変わり果てた故郷の姿を、2人で一緒に受け止める。

そうすれば何も怖くないから。

2人とも黙って町を歩いていると、しばらくしてリオナが小さく呟いた。

「・・・俺はあの日からずっと後悔してた。なんで俺だけが生き残ってしまったんだって・・・・なんでウィキじゃなくて、俺なんだって。」

「リオナそんな・・・・っ」

「・・・今日ウィキに会うまで、謝ろうと思ってた。1人にしてごめん、と、俺は・・・・・・・」

リオナは言葉を詰まらせる。

苦しげな表情のリオナに、ウィキは背中を優しくさする。

「・・・俺は、ウィキから"大切なもの"を分けてもらったおかげで、この世にいられたんだ。それを奪ってしまったことを・・・・謝りたかった。」

「大切なもの・・・・?僕何もリオナから奪われてないよ?」

「・・・・"ココロ"だよ、ウィキ。"ココロ"だ・・・・。」

そう言って、リオナはウィキの胸に手を置いた。

「ココロ?」

「・・・そう。」

リオナが何を言っているのかわからなかった。

けれど、リオナは何かを誤魔化すようにふわりと笑った。

リオナの笑みは、やっぱり天使みたいだと、ウィキは見とれてしまう。

「・・・・とにかく、ウィキに謝らなきゃならないことがたくさんあったんだ。でもね、ウィキに今こうしてまた会うことができて、わかった。俺がウィキに言わなきゃいけないことは、"ごめんね"じゃなくて、"ありがとう"だってことに。」

「っ・・・」

「・・それをウィキに話したい。話・・・・聞いてくれるかな。」

「もちろんだよっ!聞かせて、リオナ。」

そう言うとリオナは嬉しそうに微笑み、ウィキの手を引いてゆっくり歩き出す。

「・・・俺はね、ウィキと別れたあの日、ある人に出会ったんだ。大人なのに中身は子供みたいな人で・・・でも子供が大嫌いな変な大人なんだ。」

「ははっ、なにそれ。変な人。」

「でしょ?本当に変な人なんだ。もっと変なのが、子供が嫌いなくせに、子供の俺を・・・・助けてくれたんだ。体張って、助けてくれた。」

「・・・・もしかして、それがマーシャさん?」

「・・そう。よく知ってるね。」

「うん・・・・。名前を何回か聞いたことがあったから。リオナの大切な人だって。」

「・・・・マーシャは俺を見捨てないでいてくれた。ずっとそばにいてくれた。喧嘩もたくさんしたけど、心の底から俺を愛してくれた。マーシャはね、俺に"世界"を見せてくれたんだ。狭い世界しか知らなかった俺に、世界の大きさを教えてくれたんだ。人を愛することの素晴らしさを教えてくれた。生きる喜びを教えてくれた。たくさんの仲間にも、マーシャがいたから出会えたんだ。」

リオナの表情を見て、本当にマーシャが好きだったのかとわかるくらい、愛で満ちている。

昔の自分だったら嫉妬していたかもしれない。

でも今は、リオナの気持ちがよくわかる。

「・・・マーシャに出会えたのは、ウィキのおかげなんだ。ありがとう。本当に・・・・ありがとう。」

「そんなことないよリオナ・・・っ、マーシャさんに出会えたのは、運命だよ!」

「運命、か・・・・。そうかな。」

「そうだよ!だから僕にお礼なんか・・・・あ!そうだ!!」

リオナと再会できた喜びで、すっかり忘れていた。

「リオナ、僕もリオナに話したいことがあるんだ。」















空もだんだんと暗くなり始めた頃、
ウィキに連れられてリオナは中央都市まで戻ってきた。

さっきからそわそわとしているウィキに、少し不安を覚える。

「・・・あの、ウィキ?何かあるの?」

「えっと・・・おかしいな。ここで待ち合わせしてた筈なんだけど・・・・」

「・・・待ち合わせ?」

思わず警戒してしまう。

てっきりウィキは1人でここまで来たのだと思っていたから。

誰かと一緒ということは、もしかして更夜か?
それとも・・・・

リオナの警戒心が高まったのをウィキは感じ取ったのか、慌てた様子でリオナの手を掴む。

「ち、違うよリオナ!?大丈夫だから・・・!!!悪い人じゃないから!!!」

「ウィキ・・・ここまで誰と一緒に来たんだ?」

「それは・・・・」

と、その時だった。

崩れ果てた家の角から黒い物体がこちらに向かって勢いよく飛び出してきた。

リオナは咄嗟にウィキを庇い、黒い物体に向かってトランプを投げつける。

≪グピャッ!!!!≫

トランプは黒い物体に見事命中した。
が、地面に落ちたその物体を目にした瞬間、
リオナは慌てて拾い上げた。

「なっ・・・・」

今日は一体何なんだ。

こんなことって・・・・

「・・・・B.B.!?」

思わず声を上げてしまう。

まさかの再会に、また言葉が出ない。

≪り・・・リオナひどいのだぁぁ!!!痛いのだぁぁ!!!≫

腕の中で一匹の黒うさぎが暴れ出す。

間違いなく、B.B.だ。

一体どういうことなんだと、
後ろにいるウィキを見ると、苦笑を浮かべていた。

「あのねリオナ・・・・僕も色々と話さないといけないことがあって・・」

「・・・もしかして、B.B.も連れてきてくれたのか?」

「えっと・・・そうなんだけど、正確には、ちょっと違うというか・・・・」

「・・・ありがとう。本当・・・本当にありがとう・・・っ」

「リオナ・・・・」

また涙が込み上げそうになる。

騒がしくてうるさい我が儘なウサギが、ようやく戻ってきたんだから。

「B.B.・・・・」

≪リオナっ!会いたかったのだぁぁ!≫

抱きついてくるB.B.をギュッと抱き返す。

「・・・馬鹿、心配したんだぞ・・・・!」

≪オイラだって心配だったのだぁぁぁ・・・!!!!≫

「でも・・・・良かった。本当に、良かった・・。」

更夜は約束をちゃんと果たしてくれたんだと、ようやく彼を信じることができる気がした。

「よかったね、B.B.もリオナも。それでね、さっきの話なんだけど・・・・」

「・・・・?」

「もう一人、リオナに会ってもらいたい人がいるんだ。」

そう言ってウィキはB.B.が飛び出してきた家の方にかけてゆく。

リオナの中で不安が募る。

しばらくして、ようやくウィキが姿を現した。

だが、1人じゃない。

右手に、1人の青年を連れて出てきた。

20歳後半くらいだろうか。

綺麗な白に近い金髪に紫色の瞳。まさに絵本に出てくるような王子様のような容姿だ。

だが、リオナはすぐにあることに気がつく。

紫色の瞳・・・・それは光妖大帝国の人間ということだ。

シュナも紫色の瞳をしている。

ただの光妖大帝国の住民なら良いのだが・・・・

「リオナ、紹介するね。この人はキッドって言うんだ。キッド、リオナだよ。」

そう言うと、キッドは少し気まずそうに笑いながら手を差し出した。

リオナも訝しげな表情のまま、彼の手を取る。

『はじめまして、リオナくん・・・』

「・・・・はい」

リオナは黙ってウィキに目をやる。
別に睨んだわけではないが、ウィキは恐る恐るリオナを見ながら、キッドの横に並んだ。

「その・・僕とB.B.を助けてくれたのは、キッドなんだ。」

「・・・・そうなの?更夜ではなくて?」

「えっと・・・・正確には更夜が僕たち3人をフェイターから逃がしてくれたんだけど、その前に、アシュールたちから僕らを守ってくれたのは、キッドなんだよ。」

リオナは黙ってキッドを見る。

ウィキとB.B.を助けてくれたということは、
この人もフェイターと同じ場所に居たということ。

リオナはウィキの妙な話し方に疑念を抱く。

核心を隠している気がする。

「だからキッドは僕たちの命の恩人なんだよ!ね、B.B.。」

≪そうなのだ!キッドはオイラたちの・・・・≫
「・・・・ちょっと待って。」

リオナは流れてゆく話を流すものかと言わんばかりに止めた。

「・・・・ウィキ、彼は何者?」

「え・・・・?」

「・・・隠さないで。」

大体、身体つきからして、フェイターの捕虜とは思えない。

あの身体は、間違いなく一般人ではない。

リオナの疑心が強くなる。

オドオドとして口を開こうとしないウィキ。

だが、このギスギスした空気を打ち破ったのは、
渦中の人であるキッド本人だった。

『ウィキ、隠しても仕方ないよ。』

「でも・・・・っ」

『本当のことを話そう。どうせ隠しても、リオナくんにはお見通しだよ。』

そう言ってキッドはリオナの目を見た。

その瞳はとても真っ直ぐで。

『リオナくん、恐らくもう気がついているかもしれないけど・・・・俺はフェイターだよ。』

「・・・・っ」

やっぱり・・・・

リオナはキッドを睨む。

「・・・・なんでアンタがウィキとB.B.を?敵だろう?」

『信じてもらえないかもしれないけど・・・・俺は、もうフェイターじゃない。ウィキとB.B.に出会って、変わったんだ。』

「・・・信じろっていうのか?」

フェイターは俺の、俺たちの全てを奪ってきた奴らだ。
フェイターこそが倒すべき敵だと思って今まで生きてきた。

なのに大切な弟と仲間を助けたのがフェイターだって?
信じられるはずがない。

「悪いけど・・・・信じられない。」

「リオナそんなっ・・・・」

「ウィキは黙ってて。」

「・・・・っ」

ウィキは唇を噛み締め、2人を交互に見る。

リオナは完全にキッドを疑っているし、
キッドはキッドで強気の姿勢だ。

『別に信じてもらえなくてもいい。だけどこれだけは聞いてほしい。』

「・・・・・・・・」

『俺はウィキを愛してる。』

その言葉にリオナの目が見開かれた。

「・・・・はっ、何言ってんだアンタ」

正気かと言わんばかりに鼻で笑い、キッドを睨み上げる。

『俺は本気だよ、リオナくん。君がマーシャさんを愛しているように、俺もウィキを心から愛してる。』

「・・・・俺はもう彼を愛してなんかいない。それにウィキを愛すなんて、そんなこと俺が許さない。」

そう言って、リオナはウィキの腕を強く引く。

「・・・・行こうウィキ。こんな奴信用しちゃいけない。」

「ま、待ってリオナ・・・!話を・・・・」

「・・・所詮フェイターだ。俺たちを騙してるに決まって」

「話を聞いてよリオナ・・・・!!!」

その瞬間、ウィキは思い切り腕を振り払い、
リオナの元から離れ、キッドの元に駆け寄る。

そして、キッドの腕に、自分の腕を絡めた。

「聞いてリオナ・・・・っ、僕は、僕は・・・・キッドを愛してる。」

ウィキの言葉に、頭痛がした。
まるで鈍器で頭を殴られたような。

まさか最愛のウィキが敵であるフェイターを愛しているなんて。

信じられない。いや、信じたくない。

「僕はずっと一人だった。孤独と恐怖でいっぱいだった。そんな僕に毎日のように会いに来てくれたのがキッドだよ。キッドは確かにフェイターだけど・・・彼だけは、違う。僕を命がけで助けてくれたんだ。」

何を言われても信用なんかできない。
だって、フェイターは敵だとずっとずっと思ってきたから。

「・・・ウィキは騙されてるとは思わなかったの?」

だからいくら最愛の弟だからと言って、優しい言葉なんてかけてやれない。

それくらい、今、動揺している。

「・・・・最初からウィキを利用するつもりだったのかもしれない。」

「キッドは違う・・・!もしかしたら、最初はそうだったかもしれない。それでも今は違うんだ!」

「・・・ウィキは世の中を知らなすぎる。この世界にそんな都合の良い奴なんていない。」

俺は間違っているのか?

だって、フェイターだぞ?

故郷を奪い、仲間を殺した、敵だ。

「リオナ・・・・なんで、」

ウィキは目に涙をいっぱいためて、
震える声を絞り出す。

「なんで僕を・・・・信じてくれないの?」

その言葉は、胸に深く深く突き刺さる。

「いつからそんな・・・人を疑うようになったの?」

そんなの・・・・俺が聞きたい。

「今目の前にいるリオナは、僕が知ってる"リオナ"なんかじゃないっ」

「・・・違うよ、ウィキ。俺は今も昔も同じ"リオナ"だ。ただ違うのは、ウィキの望む"リオナ"ではなくなったって事だけだ。」

「・・・・っ」

不穏な空気が流れる。

間に挟まれているB.B.はキッドを見るが、
キッドも珍しく困惑しているようだ。

当たり前だ。自分のせいで仲良しの2人の仲にヒビをいれそうなのだから。

≪と、とにかく!もう日も暮れるし安全な場所に移動するのだぁ!≫

このどんよりした空気を払拭すべく、B.B.は必死に飛び回る。

「・・・・そうだな。」

それだけ言って、リオナは来た道を戻り出す。

「リオナ・・・・っ」

今にも泣きそうな表情を浮かべたまま、
ウィキはキッドと手をつなぎ、リオナのあとを追いかけた。



分かり合えない訳ではない。

けれど、思ったよりも心の傷は深いということ。

奪われたものが大きすぎるということ。

気づかないうちに憎しみが増していたということ。

でもわかってる。

俺に残された時間はない。
選択肢もない。

ウィキをこの世界から守るためには・・・・
信じることしかないことくらい、わかっていた。

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