【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
拍手小説〜そうだ、旅行に行こう。〜
「なぁリオナ、旅行に行こう」
マーシャはいつだって突然だ。
ソファでうたた寝をしていたリオナの横に腰掛け、静かに雑誌を読み始めたかと思いきや、突然こんなことを言い始めた。
「なぁなぁ、長期休暇も近いしさ、たまには任務抜きで2人きりで旅行に行こうぜ?」
そう言って肩を抱き寄せられ、雑誌を渡される。
「どこがいい?リオナが選んでよ。」
正直、どこにも行きたくない。
最近ちょっと疲れが溜まってるし、
毎年長期休暇は寝て過ごすと決まっていたし。
でもせっかくマーシャが誘ってくれてるのを断るのも嫌だ。
なんとかマーシャが諦める展開に持って行こうと、
リオナは雑誌のとある記事を指差した。
「・・・・じゃあここに行きたい。」
そこは超高級リゾートで、王室関係者や貴族たちが行くような場所だ。
さすがのマーシャもここは・・・・
「いいぜ。じゃあここに行こう。」
そう言って鼻歌を歌いながら部屋を出て行ってしまった。
「・・・・。」
ああ・・・・自分は馬鹿だ。
なんで気がつかなかったんだろうか。
マーシャが金だけはあるということに。
スペシャルマスターはただでさえ給料が高い上にボーナスも多いのに、マーシャは一年中任務に行きまくってるから大量に稼いでるし、しかも一年中任務に行きまくってるせいでそのお金をほとんど使っていないということに全く気がつかなかった。
本人はただ仕事(戦闘)が大好き過ぎる変人なだけで、金を稼いでいる気は更々ないのだろうが。
「・・・・という感じでね、旅行に行くことになっちゃったんだ。どう思う、シキ。」
「どう思うと言われても、ヨカッタネとしか言えないぞ・・・・」
リオナはいつだって突然だ。
夜、自室のソファで書類に目を通していたシキの横に、気がついた時にはリオナが腰掛けており、静かにボケーっとしているかと思いきや、突然こんなことを言い始めた。
まるで自分の部屋のようにくつろぐリオナはまるで猫みたいだ。
「・・・・良かったのかなぁ。」
「もっと喜んだらどうだ。マーシャが任務以外で旅行に行きたいって言うなんて本当に珍しいぞ?」
「・・・そうだよね。そうなんだけど、俺・・・・」
リオナはクッションを抱きかかえソファに寝転がると、すごく小さな声で、ボソッと呟いた。
「・・・・俺、外に出たくないんだよね。」
「・・・・。」
まさに引きこもりが言いそうな言葉だ。
確かに最近のリオナはどこか気怠げで、疲れが溜まっていそうだ。
だが、恐らくマーシャはリオナの疲れをわかった上で誘ったのだろう。
少しでもこの地から離れ、仕事や嫌なことを忘れられるように。
マーシャは変態だが、根は紳士だから。リオナいわく。
「まぁ、リオナが行きたくないなら行かなきゃ良いんじゃないか?」
「・・・・え?」
「正直に言えばいい。そうすればマーシャだって分かってくれるさ。」
「・・・そうかな。」
「それに、マーシャだって本当に旅行したければ別にリオナじゃなくたって他の奴と一緒に行くだろう。」
ちょっと意地の悪い事を言ってしまっただろうか。
まぁわざとだが。
シキの期待通り、今まで気怠さ100%だったリオナが、突然ソファから起き上がり、横にいるシキを見た。
その表情はどこか不満げだ。
「・・・・それ、どういうこと?」
「そのままの意味だが?マーシャと旅行したい奴はたくさんいるだろうなぁ。」
「・・・そんなことない。きっと。」
「そうか?この前だってマーシャの奴、メイドのすごく可愛い女の子に呼び出されて告白されてたぞ。その女の子を誘うかもな〜」
「・・・・・・・、へぇ。」
徐々に徐々にリオナの表情が曇ってゆく。
眉間に皺を寄せ、若干頬を膨らませている。
見て分かるくらい怒って・・・・いや、妬いている。
この表情が見たかったと言わんばかりに、シキは満足気に笑った。
「ははっ、リオナはわかりやすいな。」
「・・・は?」
「まぁさ、たまには息抜きしてこい。ここに居るよりきっと疲れも取れるぞ?羨ましいなぁリゾート。」
「・・・・。・・・・もうシキには相談しないもん。」
「そうしてくれ。」
「・・・・意地悪。」
「これは俺なりの優しさだ。ほら、そろそろ帰らないとマーシャが心配するぞ?」
そう言うと、リオナは未だ不服そうな表情のまま部屋を出て行った。
「リオナのやつ・・・・相当マーシャに妬いてるな。可愛いところもあるじゃないか。」
満足できたのはシキだけだった。
「・・・マーシャ。」
「ん・・・、はい・・・・はい?」
リオナはやっぱりいつだって突然だ。
自室のベッドで半分寝かけていたら、突然リオナに起こされ、慌てて起き上がった。
しかもリオナが俺の膝の上に馬乗りになっているこの状況は何ですかボーナスステージですか隠しルートですかハッピーエンドですか?
だが、リオナは名前を呼ぶだけ呼んで、何も言わずにただただ俺の目をジッと見つめているだけ。
「え、リオナ?どうした?」
なんだが怒ってる?
いかにも不服そうな表情をしている。
こんな表情を俺に向けてくるなんて可愛いじゃないか。
って言ったら絶対に怒るんだろうな。
「リオナ言わないとわからないから。どうしたの?」
「・・・・、マーシャは・・・」
「うん、俺が?」
リオナは不満気に開いた口を噤んでしまったが、
今度は少し悲しげな表情で言葉を続けた。
「・・・・もし、俺が旅行に行かないって言ったら、マーシャは誰と旅行に行くの?」
「え?」
「・・・誰と行くの?シキ?ラード?ユリス?もしかして・・・・メイドの子とか?」
「ちょ、ちょっとタンマ!!!!」
話についていけないんだが。
リオナは少し泣きそうな顔をしてるし、一体何があったのか。
と、その前に。
「リオナ旅行行かないの!?」
もしって言ったけど、もしって本当にもし!?
ちょっと言ってる意味が自分でもよくわからなくなってきたがな!!!
「・・・・それはいいから質問に答えて。」
もうリオナは泣きそうなのか怒りそうなのかわからない表情をしている。
「いやぁ・・・リオナ以外と一緒に旅行に行く気はねぇなぁ・・・・。」
「・・・本当?」
「え?うん。どうしたんだよ急に。」
「だ・・・・だって・・、だって・・・・」
顔を逸らすリオナ。
今にも泣きそうな表情をするものだから、思わず抱きしめたくなる。
よくわからないが、きっとリオナなりに何か悩んでいるんだろう、多分。多分・・・・。
マーシャは困ったように笑い、リオナの両手を握り、顔を覗き込んだ。
「リオナが旅行に行かないなら俺も行かないよ。この休暇はリオナのやりたい事を一緒にしたい。俺と一緒は嫌か?」
ブンブンと首を横に振るリオナに少し安心した。
「あはは、なら良かった。」
「でも・・・・マーシャは旅行に行きたいでしょう?」
「別にどっちでも良いんだ。」
「・・・・なんで?」
「いや、最近お前すごい疲れてるだろ。だからたまには息抜きに〜って思っただけなんだ。だから大丈夫。」
「マーシャ・・・・」
するとリオナは真っ正面からぎゅぅっと抱きついてきた。
本当にどうしちゃったのこの子!?
マーシャはドキドキしながらリオナを抱き返す。
「どうしたのさリオナ〜。何かあったか?」
「・・・・俺、旅行いきたい。」
「本当?無理しなくていいんだぞ?俺リオナと居られればそれでいいしさ。」
「・・・・嫌。マーシャと一緒に旅行する。マーシャと2人がいい。」
あー・・・・ヤバイ。
こんな状況でこんなこと言われたら、ねぇ。
こんなにドキドキするなんて。
「嬉しいリオナ。ありがとな。」
「・・・・うん。マーシャはなんで俺と行きたい?」
「何でって?じゃあ逆になんでリオナは俺と2人がいいの?」
「それは・・・・・・・・」
黙ってしまった。
リオナは体を離し、マーシャの膝上に座ったまま、「うーん」と考え始める。
そんなに考えなきゃわからないのかとマーシャは少し落ち込む。
だが、リオナの頬が見る見る赤く染まってゆき、
リオナはふぃっと顔をそらした。
あれ?あれれ?
マーシャはニヤリといやらしく笑い、
リオナの頬に手を添えた。
「どうしたのかなリオナくん。」
「・・・・言わなくたってわかるでしょ。」
「わからないよ。言わなきゃわからない。リオナと同じ。」
「・・・・、・・・マーシャのことが・・・・・・・・す、きだから・・・っ」
その言葉に、理性の糸がプツンと切れそうになった。
マーシャはやっぱりいつだって突然だ。
「・・・・、・・・マーシャのことが・・・・・・・・す、きだから・・・っ」
「・・・・・・・・。」
マーシャは突然黙ってしまった。
言わないほうが良かったかな・・・・
少し後悔する。
「・・あの、マーシャ・・・・その・・・」
「リオナ・・・・」
「・・・・?・・・んンっ」
いつも以上に真剣な表情のマーシャの顔が近づいてきて、
そのままマーシャの唇がリオナの唇に重なった。
顔がカァァっと熱くなるのを感じる。
マーシャはリオナの頬を両手で包み込み、ゆっくりと、優しく唇を啄ばむ。
リオナの口を舐め、ちゅっと吸い、また舐める。
決して激しくない優しいキスが、いつも以上に熱く、そしていやらしい気持ちにさせるのは気のせいだろうか。
しばらくして、マーシャの唇が離れた。
そのままマーシャは目をつむったまま、コツンとおでことおでこをくっつけた。
その表情はどこか扇情的で。
かつ男前というか・・・かっこいい。
リオナは思わず見入ってしまう。
「リオナ・・・・」
「・・・うん」
「愛してる・・・・。」
マーシャの声が、言葉が、リオナの体を熱くする。
「愛おしくて・・・愛おし過ぎて・・・・おかしくなりそうだ。」
「言わないで・・・・」
「言うよ、何度でもね・・・」
マーシャはニヤリと笑う。
その笑い方にすらドキドキするなんて・・・・重症だ。
「さて、それでリオナは本当はどこに行きたいんだ?」
「え・・?」
「本当はあんなリゾート地行きたくないだろう。」
「・・・・。」
全てお見通しだったか。
「・・・マーシャと一緒ならどこでもいい。」
「本当かそれ〜?」
「・・・ほ、本当だよ!!!」
「あはは、冗談だよ。」
そう言ってマーシャは優しく笑った。
マーシャって大人なんだなって、
当たり前なんだけど、改めて認識した。
「・・・じゃあ、あそこに行きたい。」
「どこどこ?」
「ウェストアイランドにあるハルカナっていう町に行きたい。」
「よし、じゃあそこに行こう。」
「・・・いいの?」
「もちろんさ!」
マーシャはギュッとリオナを抱きしめ、頭を撫でる。
「あー本当楽しみだ。どんな町なんだろう。」
「・・・あのね、本当田舎町なんだけど、昔からの建築様式とか、芸術品がそのまま残された町なんだ。あと、歴史上で魔族と関係があったらしいんだ。だから興味があって。」
「へぇ。なんだかすごい俺好みなんだけど。今日からその町の歴史勉強する。」
「・・うん。一緒に勉強して、一緒に計画立てたいな。」
「そうだな。よし、今から図書館行こう。」
マーシャはやっぱり、いつだって突然だ。
だけどそれは、いつだって俺のことを考えてくれてるから。
だから俺も・・・・
「・・・愛してる、マーシャ」
「・・・・!?」
マーシャを一番に想う。
END
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