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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story152 動き出すボクらのセカイ
もし、神様がいるのなら。

もし、願い事を叶えてくれるのなら。

どうか聞いて欲しい。

僕の大切な人を、どうか幸せにして欲しい。
僕の愛する人を、どうか奪わないで欲しい。

僕の世界は狭い。

そんな世界に、彼は光を与えてくれた。

僕の大好きなリオナのように。

リオナ・・・・僕ね、恋をしたんだ。

最初で最後の、恋を・・・・









小さなベッドで、抱き合う2人。

真っ暗な部屋に月の光が差し込む。

「ウィキ・・・・寒くない?」

「・・・うん、大丈夫。」

キッドの腕の中で、ウィキはそっと頷く。

今宵は満月。

辺りは奇妙なほど静まり返っていた。

「キッド・・・、本当に、いいの?」

「もちろんだよ・・・・ウィキと一緒にいられるなら。」

「でもチャキは、キッドの・・・・」

言葉を遮るように、キッドはウィキの唇に口づけをする。

「・・・チャキは姉さんとカイさんの子供だけど、俺はもう関係ない。」

「キッド・・・」

「ウィキ、今度こそ一緒に自由を・・・・掴もう。」

「・・・・うん。」

2人はもう一度口づけを交わす。

愛を確かめ合うように。

唇が離れると、キッドはいつものようにニコッと笑った。

「さぁ、行こうか。B.B.も連れてね。」

その言葉に、ウィキの表情が一気に明るくなる。

「・・・!!うんっ!!」

ウィキの柔らかい笑みが、キッドの唯一の救いだった。

2人は手を取り合い、部屋を出ていった。















光妖大帝国

神の墓

中央に置かれた3つのローズ・ソウルを取り囲むように、フェイターたちが集まっていた。

アシュール、カイ、エルミナ、ビンス、チャキ・・・・

キッドを除き、5人が集まった。

かつて13人いたフェイターも数を減らし、
ダーク・ホーム同様、戦力はかなり低下した。

だが、アシュールの野望は止まることはない。

『かなり予定は狂ったけど、そろそろ俺たちも動き出す時が来たよ。』

アシュールは中央のローズ・ソウルに手を置く。

時は満ちた。

『俺たちは"リオナ"という神の器を迎え入れ、ローズ・ソウルを手に入れる。そのために、ウィキを利用する時が来た。』

いつも以上に上機嫌なアシュールに、
カイは眉間にシワを寄せる。

『・・本当にリオナはこちらに寝返るのか?あいつにはマーシャ・ロゼッティがいる。』

『あんなクズ男より、ウィキを大事にするよリオナは。絶対。だってこっちにはウィキだけじゃない、B.B.だっている。』

『もしリオナが来ないと拒んだらどうする。』

『ウィキを目の前で殺すのみだよ。そして力づくでも連れてくる。今度は見逃さないよ。』

『ほう・・・・』

アシュールの発言に、カイは珍しく納得したようだ。

というのも、これ以上手をこまねいていられるほど、フェイターも余裕があるわけではないからだ。

『・・・・ダーク・ホームの戦力は、先日の世界政府戦で急激に衰えた。全ては計画通りに進んでいる。あとはこのチャンスを逃さないことだ。』

『兄さんの言う通りだ。すぐにでもダーク・ホームに・・・・』

その時、
部屋の扉が強く開かれた。

何事かとフェイターたちは皆振り返る。

そこには1人のフェイターの手下と思われる男がいた。

息を切らし、顔は真っ青だ。

『・・・何事だ。』

『す、すみません・・・!!!キッドとウィキ・ヴァンズマンと黒兎が逃亡しました・・・・!!!!』

その言葉に、一番に反応したのはビンスだった。

驚きで目を丸くしている。

『え、ちょ、どういうことッスか?ぇえ?』

何も知らないのはどうやら彼だけで。

他のものはただ無表情だった。

ただ1人を除いては。

『クスクス・・・・なんて愚かなんだろうね、キッドは。』

ただ1人、アシュールだけは愉快に笑っていた。

『さぁて、ダーク・ホームに向かう前に始末しようか。裏切り者を。』

その言葉を合図に、その場からフェイターたちは姿を消した。

ビンスとカイを残して。

『えー・・・・っと、カイさん、俺だけですか?状況把握ができていないのは。』

『そのようだな。』

『そのようだなって・・・・チャキは、どうするッスか。キッドが裏切るということは、チャキは・・・』

『チャキを殺すより、もっと面白い展開があるんだ。』

そう言って口元を引きつらせるカイに、
ビンスは背筋を凍らせる。

『チャキ自身にキッドを始末させる。キッドにとって、これ以上ない屈辱だろう。』

『チャキは本当にそれを?』

『もちろんだ。チャキはアシュールの番犬だ。アシュールに似てチャキの頭は相当イかれてる。キッドが肉親だろうが命の恩人だろうが、アシュールに逆らうものは誰だって殺せるのさ。我が息子ながら、本当に気味が悪い。』

そう言いながらも、カイは黒い笑みを浮かべたまま姿を消した。

『ちょっとカイさん、俺はどうすればいいっすか?良いかな、行かなくても。』

ビンスが1人取り残されている頃、
すでにフェイターの城の中では凄まじい戦闘が始まっていた。












「ウィキ!!B.B.!!掴まって!!!!」

≪ぎゃぁぁぁ!!!なんか追いかけて来てるのだぁぁぁぁ!!!!!!≫

キッド、ウィキ、B.B.は城内を駆け回っていた。

出口に向かい、走り続けているが辿り着かない。

まるで夢の中を駆けているような・・・・

「くそ・・・・っ、アシュールか。」

「これがアシュールのチカラ・・・・?」

「そうだよ。ウィキ、目をつむってて。」

ギュッとウィキを抱き上げたまま、キッドは階段を一気に駆け下りる。

さっきから後を追いかけてくる黒い煙のような物体。

どんどんスピードを上げてくる。

あの物体は恐らく、アシュールの能力ではない。

あれは・・・・

その時だった。

目の前に突然人影が現れた。

キッドは勢い良く止まるが、
後ろから来ている黒い影を思い出し、
地面を蹴って飛び上がった。

その人影の背後に回り込み、
光の剣を取り出す。

『王子・・・・ひどいよ』

ああ、この声は・・・

「チャキ・・・」

追いかけて来た黒い影は、
目の前に現れたチャキの手に吸い込まれた。

チャキは今にも泣き出しそうな顔をしている。

『王子は・・・僕を捨てるの!?ウィキと一緒に僕を1人にするの!?ぼく・・・ぼくっ・・・・』

しゃがみこむチャキに、
ウィキは心を締め付けられる。

チャキに近づこうとするが、
キッドに止められた。

「キッド・・・・チャキは、やっぱり・・・」

「ウィキは下がって。」

キッドの声が、聞いたことがないくらい低く暗かった。

だが、口元は笑っていた。

「ははは☆チャキはやっぱりおバカさんだなぁ〜」

そう言って、キッドはチャキに近づいてゆく。

そのまま剣を振り上げ、
ピタッとチャキの首筋に当てた。

「そんな猿以下の演技に騙されると思うなよクソガキが。」

「き、キッド・・!?」

黒いキッドに、ウィキは動揺を隠せない。

一体どういう・・・・

『へぇ、キッドもただのバカじゃなかったんだねぇ。』

すると、しゃがみこんでいたチャキがゆっくりと立ち上がる。

口元を引きつらせて。

見たことがないくらい不気味な笑みを浮かべたチャキが、
キッドの剣を素手で掴んだ。

『言ったよね、キッド?僕はキッドを殺せるんだ。』

バキバキと音を立てて剣が崩れてゆく。

『たとえ、僕のママがキッドのお姉ちゃんでも・・・・ね。』

「・・・・。そっか。知ってたんだ。」

キッドは再び光の剣を作り出す。

「だったら話は早い。チャキ・・・・俺はね」

『僕を殺せるの?』

「いいや、殺せない。だけど、愛する人を護ることはできる。」

その瞬間、
チャキとキッドは同時に攻撃を始めた。

どちらも光を放ち、激戦を繰り広げる。

「キッド・・!!どうしようB.B.・・・・!!!」

≪オイラのこの首輪が外れれば力を発揮できるのにぃぃ!!!!≫

「首輪?」

ウィキはB.B.の首元を見る。

確かに、真っ白な首輪がつけられていた。

≪この首輪のせいでオイラの悪魔の力が使えないのだぁぁ〜!!!≫

暴れだすB.B.をおさえつけ、
ウィキはなんとか首輪がはずれないかと引っ張る。

だが、やはりそう簡単にははずれない。

『あははは!!キッドももうオジさんだねぇ!!!動きがおそーい!』

「口の減らない餓鬼だな。」

両者一歩も譲らない。

ウィキの焦りが募る。

するとその時だった。

いくつもの黒い影がキッド達を取り囲む様に現れた。

完全に逃げ場を失ったキッドは、ウィキとB.B.を庇うように後退る。

黒い影は徐々に形を成し、
本来の姿を現した。

『クスクス・・・・全く。なんて愚かなんだ。まぁそんな愚かさが君たちの首を絞めつけてるんだろうけどね。』

「アシュール・・・・!」

キッド達の周りに現れたのは、アシュールをはじめとするフェイター達だった。

ウィキの体がカタカタ震える。

『おや、ウィキじゃないか。』

ウィキがアシュールに会うのはあの日以来。

そんなウィキをアシュールは目を細めて笑った。

『そんなに怖がらなくたって良いじゃないか。カラダを繋げた仲だろう?』

「・・・・ゃ、めて・・」

『君を子供から大人にしてあげたんだよ?気持ち良さそうに声を上げていたじゃないか。』
「やめろアシュール・・・!!!!!」

キッドが声を荒げる。

『へぇ・・・・キッド。そんな口の利き方するんだ。』

「もう俺はあんたのオモチャじゃない!!ウィキもだ!!!」

『そう。それじゃあ仕方がないね。』

その瞬間、フェイター達の手から黒い蔓のようなものがキッドに向けて飛んできた。

身体中に巻きついてゆく。

「・・・・ッ!!!」
「キッド・・!!!!!」

キッドは黒い蔓で捕縛され、身動きが取れなくなった。

ウィキはなんとか助けようと近づこうとするが、四方八方から伸びる蔓は行く手を阻む。

『キッド・・・・本当に残念だよ。君には期待をしていたのに。ねぇチャキ?』

アシュールの言葉に、チャキは満面の笑みで頷いた。

『本当残念だね〜!』

チャキは手に凶器を持ち、近づいてくる。

『キッドぉ〜バイバイだねぇ☆』

「・・・っ、」

『安心して?ウィキも用が済んだらすーぐ殺してあげるから!きゃははは!』

チャキが腕を振り上げる。

「やだっ・・・・キッド!!!いや!!!!!!」

ウィキの悲鳴が、キッドの耳に残る。
こちらに近づこうと必死になるウィキが見えた。

「ウィキ・・・・こっちへ来たら駄目だ!!!!」

チャキの凶器がキッドの胸を貫こうとした瞬間。

『・・!?』

キッドの周りが眩い光で満ち溢れた。

キッドを縛り付けていた黒い蔓も解かれ、その隙にウィキが駆け寄り、抱きかかえる。

「キッド大丈夫・・・・!?」

涙目のウィキに、キッドは優しく笑いかけた。
もう離さないように、ウィキの手をぎゅっと握りしめる。

「ああ、大丈夫だよ。それよりこれは・・・・」

こんな綺麗な光は見たことがない。

これは一体・・・・

その時、光の中心から1人の男が姿を現した。

青く長い髪を一つに結い、和装に長い杖。

誰もが驚きで目を見開く。

ただ一人、アシュールを除いて。

「ギリギリ間に合ったみたいで良かったよ。」

キッドは目を疑った。

目の前に、賢者が現れたのだ。

『なんであんたがここにいる。更夜。』

アシュールのドスのきいた声に怯むことなく、賢者である更夜はニコリと笑った。

「ちょっと取引をしに、ね。」

『取引?今はそれどころじゃないんだ。邪魔な賢者サマは下がってくれないかな。』

「そんなに焦らないで話を聞いてくれよ。君たちにとっても悪い話じゃないはずさ。むしろ、良い話だ。」

そう言って、更夜は筒状の紙を取り出した。

「君たちが一番欲しがっているものをあげに来たんだよ。」

『は?頭大丈夫?リオナでもくれようっていうの?』

「ああ、そうだよ。」

『・・・・!?』

冗談で言ったつもりだったのに。
アシュールは驚きで思わず笑ってしまう。

『冗談でしょ賢者サマ。』

「これが証拠だよ。ほら。」

更夜がアシュールに筒状の紙を渡した。

アシュールはそっと開く。

『・・・・。へぇ。何て言うか・・・・』

アシュールの手に力がこもる。

そのままぐしゃりと紙を握りつぶした。

『リオナがこうもアッサリとアンタと契約したのがムカつく。』

「ははっ。君って本当にリオナが好きなんだね。」

『そもそも、こんな契約したって賢者さまには何の利益も無いじゃないか。』

「ははっ、忘れたのかい?僕が神の遣いであることを。神を復活させたいと思っているのは君たちだけではないんだよ。」

『あっそ。なんだか嘘くさいけどね。』

2人の会話を聞いても、キッドとウィキは一体何が起きているのか全く状況が掴めなかった。

ただ、ウィキは"リオナ"という名前が出ていることに不安を抱いてるようだ。

『まぁ・・・・確かに悪い条件ではない。ただし、本当にリオナは来るんだろうね。そこの役立たずのクズと馬鹿兎を逃がしてやっても良いけど、こっちにも保証が無いと。』

「そう言うと思ったよ。もちろん用意してるさ。」

そう言って、更夜は手にしていた長い杖をアシュールに渡した。

「この杖は僕の本当に大切な杖だ。・・・・って、言わなくても君ならわかるだろう?」

この杖は更夜の分身のようなもの。
これを差し出したということは、フェイターに命を預けるのと同じことだ。

『・・・・ふぅん。これを俺に預けるなんて正気?』

「もちろんだよ。これは僕の命だから。だから、必ずリオナを君たちの元へ連れてくる。」

その言葉に、ついにウィキが声を上げた。

「ちょ・・・ちょっと待って!!!リオナは何をしたの!?」

ウィキの不安は大きくなる。
まさか、さっきから契約がどうとか話しているのは・・・・

「もしかして・・・・リオナは、僕たちを助けるために、何かしたの?」

『クスクス・・・ああ、良かったねウィキ。君の大好きなリオナが君と違って物わかりが良いお兄ちゃんで。』

アシュールは先ほど更夜から受け取った紙を、そのままウィキに投げつけた。

ウィキはそっと紙を開く。

そこには"契約書"と書かれ、つらつらと文字が書き連なっていた。

そして下の方に契約内容が書かれていた。

"契約内容"
壱,身体を差し出す
弐,命を差し出す
参,ローズ・ソウルおよびローズ・スピリットをフェイターに譲渡する
四,ダーク・ホームからの離脱
伍,本契約内容の他言厳禁

"対価"
壱,マーシャ・ロゼッティの病を完治
弐,ウィキ・ヴァンズマンおよびB.B.の奪還

「なんで・・・・っ」

ウィキの手がカタカタと震える。

自分たちを助けるために、リオナが犠牲になるなんて・・・・

ウィキは更夜に駆け寄り、更夜の服を掴んだ。

「お、お願いです・・・・!!!リオナを助けて下さい・・!!!僕の命なんていいですから!!!!」

「ウィキ!?何言ってるんだ!!!」

キッドもそうだが、言われた更夜も目を見開いて驚く。

「ウィキ、悪いけど一度結ばれた契約は破棄できない。たとえ君がリオナの代わりに命を差し出すと言っても無駄だ。」

「そ、そんな・・・・っ」

ウィキの懇願を無視して、更夜は再びアシュールに向き合う。

「ちなみに言うと、リオナはもうダーク・ホームにはいないよ。」

『はい?』

その言葉に、アシュールの表情が引きつる。

「彼はもうダーク・ホームから脱け出した。ローズ・ソウルとローズ・スピリットを奪ってね。もちろん、マーシャという男も捨てて。」

これでどう?
と、更夜はニコリと笑ってみせた。

こんな笑顔でさらりと言ったが、やってることは賢者のくせに最低だ。とアシュールでさえ思う。

彼は悪魔なのか天使なのか。
まぁどちらでもなく賢者なのだが。

こんなに翻弄されるアシュールもなかなか珍しい。

そんな彼を珍しく笑って見ていたのが、たった今現れたばかりのカイだった。

『・・・・って兄さん。何笑ってるの。』

『いや?お前がここまでペースを乱されるとは中々面白いと思ってな。』

『兄さんはどう思う?賢者の申し出は。』

『そうだな・・・・悪くはない。だが・・・・』

カイはウィキから契約書を奪い、契約内容を指差した。

『確かにリオナとの契約では、黒兎とウィキを助けるとあるが・・・・キッドは違う。キッドは俺たちが頂く。』

『あー確かに。さすが兄さん。』

その言葉に、ウィキの顔が青ざめた。

必死にキッドの手を握り締め、離れないようにきつく抱き寄せる。

「キッドは・・・キッドはダメ!!!」

『はっ!!何がダメなんだいウィキ?どの口がそう言ってるのかなぁ?』

アシュールの機嫌が益々悪くなってゆく。

『ねぇ更夜、どうなのキッドは。キッドは契約には関係ないんでしょう?』

「まぁ関係はないけどね。」

更夜のアッサリとした返答に、ウィキは愕然とした。

味方かと思えば、どうやらそうでもないらしい。

立ち尽くすウィキをよそに、更夜は無理矢理ウィキとB.B.の腕を掴む。

「さて、僕も時間がないんだ。とりあえずウィキとB.B.を連れて行くよ。」

普段傲慢なアシュールも、どうやら更夜には逆らえないようだ。

『なんだか色々いただけないとこもあるけど・・・・まぁ、俺たちも選んでいるほど状況が良いわけでもないからね。ただし、わかってるよね?』

そう言って更夜の杖を見せつけるようにくるりと回す。

そんなアシュールに、更夜はわざとらしくニコリと笑った。

「もちろんだよ。次の満月の夜、月の谷で・・・・ね。」

そう言うと、更夜は再び大きな光の塊を生み出した。

ウィキとB.B.を抱え、光に向かう。

「ま、待って・・・・!!!キッド・・・!!!嫌だキッド!!!」

「ウィキ・・・・っ」

2人の距離が離れてゆく。

その時だった。

ウィキの目に、1つの影がキッドに向かって動くのが見えた。

・・・・チャキだ。

チャキは今までに見たことのない笑みを浮かべ、手に持つ凶器を振り上げた。

「・・・・キッド!!!!下ろして!!!」

ウィキは思い切り体を捻り、更夜の腕から逃れた。

そしてキッドの体に飛び込み、チャキの凶器から間一髪逃れる。

『キャハハハ!馬鹿なウィキ。せっかく逃げられたのに戻るなんて。キッドと一緒に死ねよ。』

「・・・・っ」

再び凶器が振り上げられる。

2人は抱き合い、目をつむった。

















「・・・・、・・・?」

痛みも何もなかった。
むしろ温かさだけが体を包みこんでいる。

死んだのかな・・・・と、ゆっくりと目を開ければ、目の前にキッドの顔があった。

「ウィキ・・・・っ!よかった・・!!!」

そう言って、ギュッと抱きしめられる。

「キッド・・・・?僕たちは・・・どうなって・・・・」

「逃げられたんだ・・・」

「え・・・・?」

キッドの表情が柔らかい笑みで溢れる。

「逃げられたんだ・・・・ウィキ」

「ほ、本当に・・・?」

信じられない。

だってさっき、チャキに殺されそうになっていたのに・・・・

ウィキはゆっくりと辺りを見渡す。

確かに、さっきまでいた部屋とは違い、緑豊かな森にいた。

虫や花々が生き生きとしている姿に、初めて解放されたことを実感する。

「おや、ようやく目覚めたようだね。」

その声に、ウィキは驚いてキッドにしがみついた。

だが、キッドは大丈夫だよと言って、優しく笑いかけてくる。

そこに居たのは、賢者である更夜と、彼の肩に捕まるB.B.だった。

その姿に、ウィキは少しだけ安堵のため息をつく。

「ウィキ・・・・俺たちを助けてくれたのは、更夜だよ。」

「そ、うなの・・・・?」

味方なのか敵なのか全くわからない彼が助けてくれたなんて・・・・

ウィキは更夜に向かい、頭を下げた。

「更夜さん・・・・本当に、本当にありがとうございます・・・っ」

涙が、溢れ出た。

自分だけじゃない。
B.B.と・・・・キッドもちゃんとここにいる。

その現実が今でも信じられなくて、嬉しさのあまり、涙を次々とこぼした。

「よしてよ。まぁ、キッドに関しては予定外だったけど、あの状況じゃ仕方ないよね。それにこれはあくまでリオナとの契約だから。」

そう言ってニコリと笑う更夜は、やはりウィキには少しだけ苦手なようだ。

「さて、もう君たちは自由だ。あとは好きにしなよ。僕には関係ないからね。」

「え、あの・・・・」

「なんだい?自由だって言ってもフェイターたちが追いかけてくる可能性はあるんだから、早く安全な場所に逃げた方が良いよ。悪いけど僕は仕事があるからこれ以上は付き添えない。」

「あの・・!!リオナはどこにいますか!?」

ウィキの声が森に響き渡る。

力の篭った声が、ハッキリと耳まで届いた。

「リオナの居場所を・・・・教えてください。」

更夜はゆっくりと振り返る。

「リオナを助けてっていうお願いならさっきも言ったけど無理だよ。これは彼自身の意思でもあるから。」

「わかってます。助けてなんて言いません。けれど・・・・せめて居場所だけでも教えてください。」

「知ってどうするの?」

「会いたいんです・・・・どうしても。あなたが助けてくれないのなら、僕自身でリオナを救います。」

「・・・・。無駄なことを・・・。君が思い描く理想の"リオナ"ではないかもよ?」

「やってみないとわからないじゃないですか。そもそも理想なんてありません。リオナはリオナですから。」

ハッキリとした物言いに、更夜とキッドも少し呆気に取られる。

それくらい、ウィキの意思はハッキリしていた。

「・・・・仕方ない。今回だけは特別だよ。」

そう言って、更夜は左手をあげ、ウィキの後ろを指差した。

「ここから北へ真っ直ぐ行きなさい。そこにリオナも向かうはず。」

「・・・・はず?」

「うん。悪いけど、今いる場所は僕にもわからない。ただ、彼は絶対にそこを訪れるはずだから。」

それだけ言って、更夜は姿を消した。

肩に乗っていたB.B.を落として。

≪ぐぴゃ!!!≫

「ウィキ・・・どうする?」

ここが何処なのか。
フェイターたちから、どれくらい離れているのか。
全くわからない。

だが、一つだけわかることがある。

「ごめんねキッド・・・・僕、リオナに会わないと。」

会って、話さないといけない。

今までリオナにしてきたことを、謝らなければ。
そして、リオナを止めないと・・・・

「ウィキ・・・・」

すると、キッドはそっとウィキの手を握り、キスをした。

今までにないくらい優しく、温かいキスを。

「俺も一緒に行くよ。ウィキの使命は、俺の使命だから。」

「キッド・・・っ」

ウィキはギュッとキッドに抱きついた。

やっぱり、僕にはキッドがいないと駄目だ・・・・
改めて実感させられる。

≪ま、待って!オイラも行くのだ!!!≫

置いて行かれると思ったのか、慌ててウィキの頭にしがみつくB.B.。

そんなB.B.に、ウィキとキッドはクスリと笑った。

「大丈夫だよB.B.。一緒に行こう。」

≪よ、よかったのだぁぁ!!!≫

そしてウィキはキッドの手を取り、向かい合った。

「ウィキ?」

「キッド・・・大丈夫。きっと未来は明るいから。」

キッドにとって、あそこは彼の故郷でもある。
そんな故郷をこんな形で去ることになったのは、紛れもなく僕の責任だ。

だからこそ、彼の未来を明るくしたい・・・・僕の手で。

そんな思いを感じ取ったのか、
キッドは困ったように笑い、
ウィキの頬を撫でた。

「参ったな・・・これ以上惚れさせないでくれよ。」

「え?」

「ウィキ、大丈夫だよ。俺は今、とても幸せだ。自由を手にしたんだから。」

「・・・・本当?」

「ああ。ウィキが俺にとっての"自由"だ。」

そう言って、キッドはウィキの手を引いた。

「行こうウィキ。リオナに会いに。」

「・・・・うん!!」

≪あのー、オイラのこと忘れないでね≫

2人と1匹は歩き出す。
輝く未来に向けて、一歩ずつ。
自由を手にして、前へ、前へ。




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