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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story150 愛してるよ、マーシャ
全て順調に行くなんて思っていない。
ただ、ここまで順調に行かないこともあるのかと少し焦っているだけだ。

「リオ兄・・・大丈夫?」

「・・・大丈夫。まだ魔力は残ってるよ。」

黒の屋敷を飛び出したリオナとクロノスは、
ダーク・ホーム北の扉に向かっていた。

周りにはまだ誰もいない。
気配は徐々に感じてはいるが。

入院中、毎日魔力を溜め込んではいたが、やはり限界がある。

先ほどの結界でかなり消耗してしまった。
それに体力も追いつかない。

ここまで体が弱ってしまったのかと改めて実感した。

「・・・・」

リオナの駆けるスピードが上がる。

このまま一気に駆け抜ける気かと思いきや、
その時、リオナの目の前に誰かが飛び出して来た。

「・・・・っ!!!!!」

リオナは急いで急停止したが、間に合わず、そのままその人物に突っ込んでしまった。

素早く体勢を立て直し、
地面に倒れている人物の首に鋭く尖った爪を当てた。

「・・・・なっ」

だが、その手はすぐに外された。

「・・シュナ!?」

リオナは驚いてシュナを抱き起こす。

思い切りぶつかってしまったため、
シュナも痛そうに顔を歪めていた。

「・・・なんでシュナが?」

するとシュナはハッと我に返り、リオナの腕を掴んだ。

「リオナ・・・!!駄目だよ!!絶対駄目だ!!!」

まさかシュナが一番に気がついたのか?
嫌な汗が流れ落ちる。

「ローズ・ソウルを持ってどこに行くの!?こんなことしたら・・・リオナはダーク・ホームに戻れなくなるよ!?」

今にも泣き出しそうなシュナをリオナは振り払い、距離を置いた。

「・・・わかってる。もうここに戻る気はない。」

「な、なんで!?ここはリオナの第二の故郷でしょう!!仲間だって・・・・俺たちは家族でしょ!?違うの!?」

シュナの言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。

ああ・・・・やめてくれ。
そんなこと、俺が一番分かってるんだから。

「一人で抱え込まないでよリオナ・・・・!!!脅されてるの!?更夜に?フェイターに?言ってよリオナ!!!だって俺たちは・・・・っ」

シュナの目から、涙がポロポロと零れ落ちる。

「俺たちは親友でしょ・・・・!?」

思わず手を伸ばしそうになったが、
すぐに引いた。

俺はまた・・・たくさんの人たちを傷つけた。

傷つけることしかできないなんて、
情けない・・・・。

「・・・・シュナ、俺は・・」

と、その時だった。

「リオナ、見つけたよ。」

突然背後から声がし、
リオナは振り返った。

だが、そのまま首を掴まれ、近くの木に押し付けられてしまった。

「・・・・くっ!!!」

呼吸ができず、
視界がぼやける。

「おやおや、もう体力の限界かい?」

意識が遠のく中、はっきりとビットウィックスの姿が見えた。

ビットウィックスの手が、リオナの首をさらに締め付ける。

まさかこんなに早く見つかるとは・・・・
想定外の出来事ばかりに、やはり神様などこの世には存在しないと改めて思った。

意識が途切れると思ったその瞬間、
突然ビットウィックスの手が首から離れ、リオナは地面に倒れこんだ。

シュナがビットウィックスに攻撃を仕掛けたのだ。

「・・・シュナ・・・・っ」

「まさかシュナにやられるなんてね。分かってるのかい?君は裏切り者に加担したんだよ?」

「リオナを裏切り者だと決めつけるには早すぎます!!!話を聞きましょう!!!」

シュナはいつになく強気で、リオナを庇うようにビットウィックスの前に立ちはだかった。

「話すのが遅すぎたよ。事実、彼はローズ・ソウルをすでに盗んだ。これは契約違反だ。死に値することだ。そこをどきなさい。」

「嫌です!!!」

「なぜだい?彼は君をも裏切ったんだよ?これ以上かばう理由なんて」

「俺はリオナの親友です・・!!!!!俺はリオナを信じてます!!!!彼がローズ・ソウルを盗んだのには理由があるはずです!!!!!」

はっきりと言い放ったシュナに、
リオナは顔を伏せた。

こんなにも信じてくれる仲間を・・・・俺は・・

悲しみと苦しみが一気に押し寄せる。

だが、もう決めたじゃないか。

これが俺の"宿命"だと。

するとその時だった。

「シュナ!?」

「シ・・・・シキさん!!!」

今度はシキとナツが現れた。

2人もシュナがいることに驚きを隠せないようだ。

そんな2人を気にも留めずに攻撃を仕掛けてこようとするビットウィックスに、再びシュナが声を上げた。

「や・・・やめてくださいマスター!!!!」

「・・何故だいシュナ?私が攻撃をやめたら、ローズ・ソウルは彼のものになってしまう。」

「話を聞きましょう!!!!!話を聞かないとわからないでしょう!?」

「・・・だが、彼らはもう話す気など無いようだが・・・・ねぇ、リオナ。」

その言葉に、シキとナツは唖然としていた。

裏切った者と裏切られた者・・・・
どちらが辛いだろうかとふとリオナは考えてしまうほど、気持ちはぐちゃぐちゃだった。

シキはすかさずビットウィックスの元に駆け寄り、
その場に跪く。

「マスター・・!!!攻撃をやめてください!!リオナにも何か理由があるはずです!!!!!シュナの言う通りまずは話を聞きましょう!!!」

「話なんて聞かなくてもわかる。リオナは我々を裏切ったんだ。違うかい?私にはお見通しだよ、リオナ。」

これ以上、庇われるわけにはいかない。

だって俺は・・・・裏切り者だから。


「・・・・シュナごめんね。」

シュナが庇ってくれたこと、すごくすごく、嬉しかった。

「リオナ・・・・?」

リオナは小さくシュナに謝ると、
ビットウィックスに向き合った。

「・・・悪いけど、話せない。」

「だったら、わかってるよね。」

「・・・俺を殺すんでしょう?」

「君は我々ダーク・ホームの全ての人々を裏切った。今までローズ・ソウルのために戦い、命を失ってきた者たちの魂をも冒涜する行為だ。これを見逃してしまえば、我々はおしまいだ。きみはとんだペテン師だったね。私は君を・・・・」

ビットウィックスは拳を握りしめた。

その拳から、血が流れ落ちる。

「・・・私は君を・・・心から信頼していたのに・・・・っ」

ビットウィックスの目から、涙が一筋流れ落ちた。

この時初めて、自分がどれだけの人を、仲間を裏切ったのかを改めて実感した。

やっぱり俺は最初から最後まで・・・・最低だ。

「私だって・・・・こんな決断はしたくない。だが、君がこのまま何も話さずここを去るのなら・・・掟通り、君を殺してでも止める。」

その瞬間、ビットウィックスの手からリオナに向けて赤黒い光が放たれた。

リオナは咄嗟に魔力でガードを作ったが、難なく破壊された。

こんなところで・・・・まさか終わるなんて。

リオナも思わず目をつむる。

だがその瞬間、赤黒い光も何かに遮られ、空に跳ね返った。

「・・・・これは」

目の前に現れたのは、ビットウィックスも声を漏らすほどの巨大な鎌だった。

「まさか・・・・」

その場にいた誰もが、目を疑った。

リオナの目の前には、
もう昔から知っているあの背中があった。

真っ赤な燃えるような髪は、彼しかいない。

「よう・・俺の大事なリオナに何してんだ貴様・・・・」

「・・・マーシャ」

リオナは驚きで目を見開いた。

なぜ、マーシャが俺を・・・?

きっと誰もがそう思ったはず。

するとマーシャは突然、リオナを肩に抱えた。

何をし始めるのかと思いきや、
地面を強く蹴り、宙に浮いた。

皆の唖然とした表情が見渡せる。

そしてマーシャはそのまま、呪文で空間を移動した。

気がつけば辺りには誰もおらず、どうやらあの場所から離れたダーク・ホームの森の奥に移動したようだ。

一体全体何を考えているのかと、
リオナは訝しげにマーシャを見る。

「リオナ・・・・」

するとマーシャは今にも泣き出しそうな顔でリオナを見つめた。

そのまま、強く抱きしめられる。

「ごめんリオナ・・・・ごめん、ごめん」

ただひたすら謝り続けるマーシャに、
リオナは戸惑う。

なぜ、謝るのか。
そしてなぜ、抱きしめるのか。

だが、マーシャの口から飛び出した言葉にリオナは耳を疑った。

「思い出した・・・全部。全部思い出した・・・なんで忘れてたかも、全部・・・・っ」

「・・・・っ」

心臓がぎゅっと締め付けられる。

なぜ、こんなタイミングで・・・・

更夜の仕業か?

そうだとしたら・・・・更夜はなんて、なんて残酷で卑劣な奴なんだろう。

「リオナ頼むから行かないでくれ・・・今すぐ俺と一緒に逃げよう?更夜もビットウィックスも誰も知らない俺たちだけの場所に行って、誰にも邪魔されずに2人だけで暮らそう・・・・な?」

「・・・・マーシャ」

だが、リオナはマーシャの胸にそっと両手を置くと、グッと力強くマーシャを突き放した。

あからさまに突き放されたマーシャは、ショックからか目を見開いている。

「・・・・無理だ。マーシャ。」

「無理じゃない・・・・!!!俺はお前を沢山傷つけた・・・!!!これ以上、リオナを傷つけたくない・・・・愛したいんだ。」

「・・・・もう、十分だよ。それにマーシャにはリジーがいる。駄目だよ今更・・」

「何が十分なんだ!?リジーとはもう終わった!!あいつの腹には俺の子供なんていない!!!俺がどれだけリオナを裏切って傷つけたかわかってる・・・・。なぁ・・・・頼むからもう一度・・・一度だけでいい!!チャンスをくれ・・・・」

マーシャの目に、涙が一杯溜まっていた。

「・・・・マーシャ」

「頼む・・・頼むからリオナ・・・・俺を、1人にしないでくれ・・・・」

リオナは思わず手を伸ばす。

マーシャ・・・俺は、まだ、マーシャを・・・・

だがその時、周囲で何かが動く音がした。

先に気がついたリオナが顔を上げた瞬間、

『死ね!!!マーシャ!!!』

いつからいたのだろうか。
リジーがマーシャ目掛けてナイフを投げたのだ。

リオナは咄嗟にマーシャを抱き寄せ、マーシャに覆いかぶさる。

「なッ・・・・リオナ!!!!!!!!」

一瞬だった。
リオナの背中に、ナイフが突き刺さったのは。

リオナの口から、大量の血が溢れ出す。

「ああ・・・・リオナ、リオナぁぁぁ!!!」

マーシャの目から、涙がボロボロと零れ落ちる。



だが、リオナは・・・笑った。

"大丈夫だよ、マーシャ"

と言って、涙を流しながら笑った。

リオナはふらつく足で立ち上がり、背中のナイフを引き抜いた。

その姿に、リジーはカタカタと震えながら後ずさる。

『ば・・・バケモノ!!!!こっちに来るな・・!!!!!』

「・・・・」

だが、リオナは何も言わずにナイフをその場に落とした。

『な、なによ!!なんなのよ!!!!!!この裏切り者が!!!!』

「・・・リジー、もし、俺があなたの心を乱したのなら謝るよ。ごめんなさい。だけど・・・・」

リオナの表情から笑みは消え、
マーシャには聞こえないよう、小さく呟いた。


「・・・もしマーシャを傷つけるなら、俺がアンタを殺す」

『・・・・ッ!!!』

その言葉とリオナの冷酷な表情に、
リジーの表情はみるみる青くなる。

そのまま舌打ちをして、リジーはその場から居なくなった。

「・・リオナ!!!!!」

マーシャは立ち上がり、リオナに近づこうとする。


だが、それに合わせてリオナはマーシャから離れる。

一歩一歩、離れてゆく。

「リオナ・・・・?」

マーシャの頭に悪い予感がよぎる。
虚しくもその予感は的中する。

「・・・やめよう、もう・・・・やめよう。」

リオナはそうつぶやくと、
マーシャを見た。

その瞳には、もう何も映っていない。

「リオナ・・・・っ、なんで・・・」

「マーシャ・・・ごめん。マーシャとは一緒に行けない。」

「なんでだよ・・!!!!なんでっ・・・・!!!!」

「・・・・もう・・無理だ。」

「何が無理なんだ・・・・っ?なぁ・・頼むから・・・・!!」

「・・・愛されるのも愛すのも憎まれるのも憎むのも全部・・・・全部全部!!嫌なんだもう!!!!」

声を荒げるリオナに、マーシャは何も言えなかった。

ただ、呆然と立ち尽くしてしまう。

ああ、言ってしまった。
言うつもりなんか無かったのに。
こんなこと、思ってもいないのに。

「・・・だからマーシャ・・・・もう、やめよう。」

声が、震えた。

心も震えた。

拒絶されることがどれだけの悲しみを生むか、自分が一番わかっているのに。

「リオナ・・・」

マーシャの手が小さく震えていた。

顔を下げ、一切こちらを見ない。

「リオナ・・・・・・いま、すごく苦しい・・・・」

マーシャの頬に涙が流れる。

「あはは・・・・ごめんな、リオナ。俺はやっぱり、お前には相応しくない・・。」

「・・・・っ、」

「今、後悔ばっかりしてる・・・・なんであの時・・・更夜に歯向かったのか・・・・そうすればリオナを忘れることなんかなかったし、リオナを傷つけることもなかった。・・・後悔を前向きには考えられない。苦しいばかりだっ・・・・。」

「マーシャ・・・・・・」

「・・リオナ、今までたくさん傷つけてごめん・・・・お前はもう、自由だ。俺は・・・俺は・・・・」

マーシャはリオナに背を向ける。

最後の最後まで、目を合わせずに。

「俺は・・・・リオナと居られた日々が、人生最高の幸せだった。」


















その瞬間、
全ての時が止まった。

風も雲も木も草も動物も人も、全ての時が止まった。

こんなことができるのは・・・・世界でただ1人。

「・・・・リオ兄。ごめんね、能力は使うなって言われてたけど・・・無理だった。」

「・・・クロノス」

いつから居たのだろうか。
クロノスの目には涙が溜まっていた。

リオナとクロノスだけが、止まった時の中を動く。

「あと5分で時は動き出すよ。背中の傷もそれまでは大丈夫だから、その間に・・・・。」

「・・・うん。」

リオナの虚ろな目が、ずっとマーシャの背中を見つめている。

そのことにクロノスはもちろん気がついていた。

だからこそ、時を止めたのだ。

「リオ兄・・・・僕は先に北の扉に行ってるよ。だから・・・」

クロノスはその先を言わなかった。

あとはリオナの思うままに。
最期に、思い残すことが無いように。

クロノスは静かにその場を離れた。

その場に取り残されたリオナは、ただジッとマーシャの背中を見つめていた。

きっと・・・・これが最期になる。

リオナはゆっくりとマーシャに近づいた。

「マーシャ・・・」

そっと、マーシャの背に触れる。

俺はずっと、
この背中に憧れてきた。

どんな時も俺の前に立って、俺を導いてくれた。

「マーシャ・・・・マーシャ・・マーシャ、マーシャ・・・・っ」

マーシャに触れれば、どんどん湧き出るように気持ちが溢れ出す。

隠しきれなかった感情が、雪崩のごとく押し寄せる。

「マーシャ・・・・っ」

涙が、溢れ出る。

呼んでも呼んでも呼び足りない。

リオナはマーシャにぎゅっと抱きついた。

「もっともっと一緒にいたかった・・・!!!好きって・・・愛してるってたくさん言いたかった・・・・!!もっと抱きしめたかった・・・誰も居ない2人だけの場所に逃げたかった・・・・!!!もっと俺に好きって言って・・・愛してるって言って・・・・マーシャ!!!」

あなたと一緒に、生きて行きたかった。

なんともないことで笑って、泣いて・・・・
それだけで良かった。

お金なんていらない。
なんにもいらない。

ただ、マーシャさえ居てくれれば、それだけで良かった。

「愛してるよ・・・・マーシャ」

俺はあなたを忘れることなんかできないよ。

気持ちを誤魔化すことはできても、愛することをやめることはできない。

たとえあなたに忘れられたとしても、この愛は止まらない。

俺の愛はね・・・マーシャ。
恋人でも家族でも親友でもない、

それ以上の・・・・愛なんだ。

「・・・・本当に、ありがとう。」

あなたに愛された事、
あなたを愛した事。

全てが、最高の幸せだった。

"リオナ、愛してるよ"

マーシャ・・・



























どうか、愛を忘れないで。

第十五章 忘却の彼方

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