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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue second



今日は久々の晴天。

いつも薄暗いイメージのあるラグの町も、ここ2週間で積もった雪のおかげで太陽の光と絶妙な輝きを生み出している。



朝からモナにたたき起こされたリオナとウィキは、
現実と夢の狭間をさまよいながらリビングのテーブルにつく。

今日の朝食は卵一個とキュウリ丸々一本。
今週で一番いい食事だ。

朝から筋トレをしていたダンが家に戻ってくる。
「おぉ起きたか。おはよう!!」
「「・・・・おはよー」」

「2人とも顔洗いなさいよ」
「「・・・・はぁい」」

頭ではわかっていても体が言うことをきかないのがヴァンズマン家の特徴。


朝からラジオ独特の雑音が耳につく。
ヴァンズマン家にはテレビが無いため、この真っ赤なラジオがヴァンズマン家と世の中をつなぐキーアイテムなのだ。


『えーただ今入ったニュースです!』

ラジオが急にうねりをあげる。

『昨晩未明、ゾディアック・ランドが壊滅したとの事です!帝国全体が焼け落ち、生存者はまだ確認できていないようです!犯人は未だ特定されていませんが警備連合共和国は引き続き犯人の捜索を行う模様です。繰り返しお伝えします!昨晩・・・・・』


「んなっ!?そんなわけあるか!!五大帝国の一つだぞ!?信じらんねぇ…!!」

ダンは食べていたキュウリを思わず床に落とす。

リオナとウィキには訳が分からないようだが、ダンの驚きように驚いて、やっと夢から抜け出したようだ。

「?どぉゆーこと?」
「・・そんなに大変なことなの?」

ダンは2人の呼びかけで我に返り、落としたキュウリを拾い上げる。

「そりゃ大変なことだ!あのな、世界には沢山の国があるけどその中でも国の大きさも軍事力もずば抜けてでかい国がある。それが五大帝国だ。」
「ああ俺らが住んでる国のこと?」
「そうそう。大魔帝国もその一つだな。そんな五大帝国の一つのゾディアック・ランド、まぁ時天大帝国っつぅんだけど、帝国が壊滅すること自体大変なんだけど、そこが壊滅するともっと大変なんだ!」

「例えば?」

まさかの質問でダンの目が泳ぐ。

「例えば!?そうだなぁ〜・・・・あ〜もぉわからねーやっ!わはは!」

たまにはまともなことも言うなと思ってたけど、所詮ダンはダンだな、と誰もが思った。

「そういえば二人は今日バルドの家に行くのよね?」

「うん」

「じゃあ行く前に野菜持ってってね」

「あーい」

「おっ!今日は何習うんだ!?」

2人は顔を見合わせる。

「まぁお父さんのわからないことかなっ」

ウィキの厳しい言葉にダンはまたキュウリを落とす。

「・・・あのさぁ前から思ってたけど、ウィキって天使に乗り移った悪魔だよな」
「?なにそれ??」
「見た目は天使のように可愛らしいんだが時々悪魔発言をするってことだ!わはは!」

「じゃあリオナは??」

「そうだなぁ〜・・・見た目と発言は小悪魔なんだけど、本当は天使なんだ!」
「・・・よくわかんないけど?」
「とにかく2人とも俺のかわいい息子だってことだよ!!」

笑いながら二人の頭をなでる。

「答えになってないし・・・。」






リオナとウィキは着替えるとすぐに、
サラから誕生日プレゼントとしてもらった本と野菜を持って
出発する。


外はサンサンと太陽が照りつけて、足下の雪が晴天を喜ぶかのようにキラキラと輝いている。

二人の足取りはいつになく軽やか。
なんと言っても今日はバルドの家に行くからである。
バルドとは町一番の物知り男のこと。
魔法のことと世界のことなら裏まで知り尽くしているという天才。
だが決して自分の知識を誰にも教えないという頑固オヤジでもある。

しかしそんなバルドの信念がおれる事件が起こる。それは三年前、バルドの家に泥棒が入った時のことである。
天才バルドは犯人はまだ家の中にいるだろうと考えて、自ら兼ね備えた自慢の頭脳と鍛え上げた肉体で捕まえてやろうと色々な魔法で試みた。しかし犯人を捕まえたのは二時間後。しかも犯人は双子の三歳児、そうリオナとウィキだった。

それをきっかけに彼は二人を気に入り、自分がもつ知識を二人だけに教えるようになったのだ。
リオナとウィキが魔法が好きになったのも得意になったのも元をたどればバルドが原点である。



バルドの家は歩いて15分ほどの所。
家は、昔空から落ちてきたというまん丸い形をしていて、色は黄色と赤というラグの町には珍しいくらい派手な作りである。


二人がドアのベルを鳴らすとものすごい勢いでドアが開き、その瞬間頭上から箒が振りかざされた。

「うわぁっ!!」

万事休すで二人は箒をよける。が思いっきり尻餅をつく。

「てめぇいい加減にしねぇと頭かち割る・・・・・ってリオナとウィキじゃねぇかっ!!」

60歳くらいの男が箒片手にすごい形相をしている。
そう、この男がバルドである。

「ちょっ・・・ちょっとバルドやめろよビックリしただろ!?」
「うんビックリしたっ!」

「わりぃな!なぁんかさっき変な奴が来てなぁ〜。二回も来たんだよ!だからまた来たかと思ってさっ!ほらよっ」

差し出されたバルドの手をつかむとそのまま軽々と持ち上げられる。

「さぁて今日は何をしようか。」
「あのねっ僕たち今日のニュースのことが知りたいなって!」
「あっ!?今日のニュース?」

「ゾディアック・ランド壊滅の!」

「ああ!あれか!別にいいが聞いて楽しいか??」

「うん!楽しいし!なっウィキ!」
「うん楽しい!」

「んじゃあ本日の議題は世界についてだ!!」




壁の色が紫のリビングには円卓があって、3人は周りに座る。

元々この家には円卓などなかったが、バルドは二人のために円卓といすをこしらえたらしい。
バルドにとって二人はかわいい孫のようであって、リオナとウィキにとってもバルドはよき師匠であり祖父のようでもあった。


何やらバルドが円卓の上に大きな地図を広げ始めた。

地図には海の上に三つの大陸が描かれていて。
さらにそれらの大陸にはたくさんの円が点々としている。
その円の下に文字が書かれていることからおそらく国だろうと想定できる。


「まずは大陸だ。上はノースアイランド、左下はウェストアイランド、んで右下がイーストアイランドだ。それで円がたくさんあるだろ??それが国だ。ざっと250ヶ国以上はあるか。」

「僕たちの住んでるとこは?」
「あった!!ノースアイランドだ!」

「そうだ。しかも他の国より大きいだろ!?」

「うん規模が違うね。」

「それは帝国だからだ。ノースアイランドにある帝国は大魔帝国だけ。ウェストアイランドには光妖大帝国と大武錬帝国があって、イーストアイランドには森羅大帝国と壊滅した時天大帝国だ。これが世に言う五大帝国だ。ところでお前らなんで五大帝国か知ってるか??」

二人は朝のダンの話を思い出す。

「デカいから!」
「ちがう!」
「だってお父さんが。」
「ダンはバカだから信用するな!まぁあながち間違ってはいないがな。お前等地図の中央を見てみろ。何かあるだろ?」

「??」

よくみると3大陸に囲まれるように海の中央に小さな島が浮かんでいる。

「あっ島だ!」

「でも名前が書いてないよ?」

「今は誰も住んでない。しかし何千年も前になるが、そこには神が住んでたそうだ。」

「神?」

「よくわからんが神は天地を操る力を持っていたそうだ。そのおかげか世界はとても平和だった。だが人々は神のおかげとは思わず、自分たちが世界の均衡を保ってると思ったんだろうな。しかしそんな人々に神は激怒した。そしたらある日突然、神が暴れ出したんだ。天地がひっくり返るほどの揺れだったらしい。」

2人の顔が強張る。

「常に人々の光であるはずの神は、すでに闇と化していた。でもなんとか神を止めようと立ち上がった五つの国があった。そいつ等は力を合わせて、神を五つの石に封じ込めた。それをローズソウルって言うんだ。んで神が二度と復活しないためにも、それぞれの国が一つずつ保管して、この五つの国が争わないように安全を保障した条約が結ばれた。これが五大帝国の成り立ちだ。」

「へぇ・・・!!すごいなっ!」
「じゃあこの国にもローズソウルがあるってこと?」

「まぁそうなるな。」

するとリオナが少し考え込む。

「でも今回の時天大帝国の壊滅とどう関係してるの?」

「今回の時天大帝国壊滅事件でな、実はローズソウルが奪われていたそうだ。とすると犯人は残りの帝国のどれかってことなんだ。」

「??なんで?他の国かもよ?」

「考えてみろ?帝国と国ではまず規模が違いすぎる。しかもローズソウルの事を知ってるのは大体帝国に住む人間くらいだ。」

「じゃあ犯人は帝国でローズソウルを集めて神を復活させる気か?」

「神は復活しなくても、そいつらは神の力を手に入れて、世界の脅威になろうと考えてるんだろうな。だが時天大帝国が壊滅したとは大変な事態だ・・・。」

バルドが短くため息をつく。

「例えば?」

「時天大帝国の人々には、時を操る力があるんだ。だから食品の輸入輸出の時なんか食べ物が腐んねぇ様に時を止めたり、あとは占いなんか無くなるだろうな。未来と過去はあいつらにしかわからなかったからな。あとは時の流れかな?四季がなくなったりするかもな。」

「なんか地味に大変になってきたな・・・。」

「・・・まさか犯人は僕たちの国じゃないよねっ!?」

不安げなウィキの頭を笑いながらバルドがくしゃくしゃとなでる。
「そりゃねぇよ!今の王子はへっぽこ王子だからな!がははは!」

するとバルドが急にまじめな顔になる。

「・・・・俺はなんとなぁくだが、光妖大帝国が怪しいと思うんだがな。」

「こうようだいていこく?」

「そう。あいつらは昔からどんな国でどういう力を操ってるか謎のままなんだ。しかも噂によれば、奴らは不老不死なんだとよ。絶対そんな訳ないがな!」

するとまたウィキの顔から笑顔が消えた。

「・・・ねぇバルド?僕たちの国は大丈夫かな?」

心配そうな二人の目はまっすぐで、バルドは少しだけ目を泳がせた後、いつものようにニカッと笑った。

「大丈夫だっ!俺たちは魔族だぞ!?負けるはずねぇよ!それともあれか?お前等は弱すぎてかなわないってか?」

2人は大きく首を横に振る。

「なめられちゃ困る!!」
「困る!」

「そうだっ!その息だ!じゃあ早速やるかっ!」

「「おー!!」」







時刻は午後四時。

サラは隣町までの花の配達を終え、少し時間が余ったため初めてきた街を探索することにした。


―やっぱりラグよりにぎやかだなぁ。


自分の町と大きく違いすぎて、サラはまるで違う国に来たような気分になり、胸が弾んだ。

するとサラの目にあるものがとまった。

アクセサリー屋のショーウィンドウに飾られているキラキラ輝く真っ赤なリボンの髪飾り。

サラは思わず見とれてショーウィンドウに張り付く。
しかしすぐに現実に引き戻される。

「よ・・・4500ベル・・・・。」

値段に呆然とするサラ。
普通の人には別になんてことない値段だろうが、ラグの町に住むサラにとってはとてつもなく高い値段だった。

「ねぇママ!!みてこれ!」
「あらかわいいリボンね」

横から小さい子供とその子の母親が入ってくる。

「ママこれ欲しい!」
「まぁそんなに高くないし・・、しょうがないわね」

そう言って親子は店に入っていく。

サラはショーウィンドウに映る自分の姿を見る。

―髪・・・ボサボサ・・・服もボロボロだし・・・。

短くため息をついてトボトボと歩き出す。

自分には届かないとわかっていても、憧れだけが先走る。

気づいたらサラは大きな屋敷の前にいた。

敷地はとても大きく、でも荒れ果てていた。
思わず足を踏み入れたくなり、気付いたら門をくぐっていた。

―ここの庭・・・手入れしたらきれいになるのにな。

なにもないただの屋敷だが不思議とサラを魅了する。

物思いにふけっていたが、はっとして時計をみる。

時刻はすでに5時を回っていた。

「あっ!ママに怒られる!」

急いで元来た道を戻る。
そして一度振り返って小さくなった屋敷をみつめた。

―いいとこ見つけちゃった!また行こっ!

さっきまで落ち込んで丸まっていた小さな背中は少しだけまっすぐになっていた。







「じゃあおやすみぃ」
「おやすみぃ」

今日もたくさんのことを学んだ双子の兄弟は二階に上がる。

部屋は二人部屋で、両端にベッドがあり、それぞれのベッドには2人の名前が刻まれている。

2人は布団に入る。
壁や天井には沢山の家族写真やサラやバルドとの写真が張ってあり、いつでも目に入る。


「ねぇリオナ?」
ウィキがリオナの方に体を向ける。

「ん〜?」
リオナは天井を見つめている。

少しウィキの顔が歪む。
「・・・僕怖い・・。」
「・・・・。」
リオナは天井を見つめたまま。

「ねぇリオナは怖くないの?国が無くなっちゃうんだよ?お父さんやお母さんも・・・サラもバルドも死んじゃうんだよ?もちろん自分だって・・・。」
ウィキの目が涙で一杯になっていく。

「・・・そりゃ怖いよ。・・・でも考えたって仕方なくない?それに人っていつか死ぬもんだし。だから俺たちは1日を精一杯生きていく。」

あっさりしたリオナの受け答えにウィキは頬を膨らます。
「なんでリオナはそう割り切れるかな・・・」

「別に好きで割り切ってるわけじゃないし。」
「・・・。なんで僕たちって顔はそっくりなのに性格は違うんだろう・・・?」

リオナは天井の写真から目を離し、ウィキの方を向く。

「顔も同じで性格も同じだったらさすがに気持ち悪いだろ?いいじゃん違くて。違うからこそ俺たち仲いいんじゃないの?」

そう言ってリオナは自分の枕をウィキに投げる。

「いたっ!やったなぁ!」

いつの間にか枕投げが始まる。

すると一階からダンの声が聞こえる。

「おいガキンチョ共!さっさと寝ろぉ!じゃねぇと俺が喰いに行くぞぉ!?グワァオォ!!」

隣でモナが近所迷惑だとなだめるのがわかる。

思わず笑い出す2人。


存分に笑うとウィキがすっきりした顔をして言った。
「僕リオナと双子でよかった!」

ウィキはいつものように笑いかける。
「俺も!ウィキしかいないよ。」

2人はまた笑う。

「じゃあおやすみっ!」
「おう!おやすみ。」



ウィキはすぐに眠りに落ちたようで、寝息が耳につく。

しかしリオナは天井の写真を見つめたまま。
顔は先ほどまでの笑顔が想像できないほど真剣なものである。


「・・・俺だって怖いよ・・・・。」



リオナはいつでも自分を強く造る。どんなに悲しく怖くても、ウィキに悲しい顔をさせないために。

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