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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story145 おかえり
[なぁリオナ、俺と付き合おうぜ。]

夜になり、病室でうとうとしていたリオナはナツの突然の告白に目を覚ました。

ナツがリオナの病室に来たのは夕方頃。

ちょうどラードが帰った直後だ。

今日は珍しく来客が多い。

ナツは特に何をするわけでもなく、リオナが本を読む姿をただじっと見つめていた。

最近のナツは、ここへ来ても特になにも話さない。

ただじっとリオナを見て、何か考え事をしているような表情をし、特になにもしないで帰ってゆく。

今日は特に長い時間そうしている。

いつ帰るのかと思っていたら、突然こんなことを言い出すものだから、リオナ自身久々に困惑の表情を浮かべた。

[なぁ。聞いてるか?]

「・・・・聞いてるよ。」

[で、返事は?]

「・・・付き合うって、どういうこと?」

[わかってるくせに。恋人になろうって言ってんだよ。]

鋭い目つきで言われても怖いだけだ。

「・・・ナツ、俺は男だよ。」

[わかってるっての。]

「・・・・ナツは男に興味ないでしょ。」

[男に興味はない。だが、お前にはある。]

そう言って、ナツはリオナの顔に手を伸ばす。

頬を撫で、髪をすき、唇をなぞる。

[お前は女より綺麗だ。]

「・・・・は?」

[は?ってなんだよ。]

「・・・・いや、寝ぼけてるのかなって。」

[お前な・・・・なめてるだろ。]

するとナツはリオナのベッドに乗り上げ、リオナを押し倒した。

馬乗りになり、リオナの両手をベッドに押さえつける。

「ちょ・・・ナツやめ」
[無理矢理奪うってのも悪くねーな。]

服を脱がしにかかろうとするナツを、リオナは慌てて止める。

「ナツ・・・・っ、冗談でしょ・・本当にやめて」

やめてと言えば、ナツはやめてくれた。

意外とあっさりしている。

[じゃあ、返事は?]

「・・・・ごめん。」

[ここは"少し考えさせて"って言うところだろ・・・・。]

「・・・・無理だよ。だってナツは親友だ。」

[じゃああいつは?]

「・・・だれ?」

[マーシャだよ。]

マーシャという名前が出るとは思わなかった。
考えないようにしていたし、もう自分の中では全て終わっているからだ。

[お前、まだあいつのこと好きなんだろ?]

「・・好きだよ。でも愛してるとかそういうのじゃない。マーシャは命の恩人だ。ここまで育ててくれたのもマーシャだし、これは記憶が無くなっても変わらない。だけど、恋愛感情みたいなものはもうないよ。」

[嘘つけ。お前、なに気持ちを押し殺してんだよ。]

少しだけ、心臓が跳ね上がった。
ナツの鋭い視線が、リオナを捉える。

「・・・・押し殺してなんかいない。」

[いーや、お前は自分の気持ちを誤魔化してる。もしあいつのこと忘れてるなら俺と付き合えよ。]

「・・・それとこれとは話が違う。」

嫌な予感がする。

リオナの中の狂気が警報を鳴らす。

隠している"ココロ"が見つかるぞ、と。

[そうやって何も感じてない顔したって、俺には見え見えだ。お前はいつだって一人で抱え込む。誰にも苦しみを見せないで一人で全部背負って・・・・]

「・・やめてナツ」

やめてくれ・・・・聞きたくない

[お前の心が泣いてるのが見える。暗闇で一人で泣きじゃくって、孤独に震えてる。]

やめて・・・・やめて・・・俺は・・・これ以上・・・・っ

[助けてくれって叫んでる声が・・・]
「・・・・うるさい!!!!!!!」

リオナはナツを押し退け、
逆にナツを押し倒した。

馬乗りになり、ナツの首に両手をかける。

「・・・うるさいっ・・・・黙れ!!!!!!!」

[・・・・。]

ナツはただじっとリオナを見つめていた。

その目が、視線が、"本当のリオナ"を隠す狂気を更に苛立たせる。

「・・・そんな目で見るな!!!!!!」

[早くリオナを返せ・・・・クソ野郎]

「・・は?なにいってんの?俺がリオナだよ?」

[違う。お前はリオナじゃない。お前はリオナの"狂気"だ。お前は確かにリオナの一部だが、このカラダはお前が支配していいものじゃないんだ。]

「ははッ・・・何言ってるの?これは"リオナ"が望んだことだ!"リオナ"は全て手放したんだ!苦しみから逃れるためにね!」

[・・・・くッ・・・!!!]

ナツの首を絞める手に力が篭る。

「だから俺の邪魔をす・・」
[苦しいなら分けろよリオナッ・・・!!!!!!!!]
「・・・・!?」

ナツの言葉に、リオナの手から一瞬力が抜けた。

[苦しいんだろ!!悲しいんだろ!?怖いんだろ!?わかる・・・・わかるから!!!1人で抱えて・・・自分押し殺すなよ!!!!!]

ナツはリオナの両手を掴み、首から離してゆく。
そのまま体を起こし、リオナと向き合った。

[狂気なんかに身を任せるな!!!ココロを隠すな!!!!何のために俺たちがいるんだよッ・・・!!!!何のために命かけて一緒に戦って来た仲間がいるんだよ!!!!弱くたっていい!!毎日泣いたっていい!!!!俺が全部受け止める!!!苦しみや悲しみってのを分かち合うために俺たち仲間がいるんだよ!!!だからッ・・・・]

ナツはゆっくりとリオナを引き寄せ、
力強く抱きしめた。

[・・・戻ってこい。"リオナ"。大丈夫だ。俺が全部受け止めてやる。]

「・・・・ッ・・・・・・・・」

ああ・・・・引き戻される。

あれだけ避けて来たのに・・・・

"狂気"が・・・・消えていく。

代わりに、苦しみや悲しみが・・・・蘇ってくる。

ズキズキズキズキと・・・痛みが増してゆく。

更夜・・・・やっぱりあんたは残酷だ。

あの時全部、奪ってくれていれば・・・・

こんな思いはしなかったのに。

でも・・今は・・・・

今はちゃんと受け止めてくれる人がいる。

真っ直ぐに、しっかりと。

「・・・・な、つ・・・・」

リオナの体が、カタカタと震える。

同時に、リオナの細い手が、ナツをギュッと抱き返した。

「なつ・・・・なつ・・・、なつ・・・・」

ただただ、ナツを呼ぶ声に、
ナツも更に力強くリオナを抱きしめる。

[おかえり・・・・リオナ。]

「・・・・ごめ・・・なさ・・・っ」

涙を零すリオナに、ナツも一緒に涙を流す。

[謝るな・・・よく、頑張ったな。]

頭を撫でれば、リオナは声を殺して涙を溢れさせる。

「怖、かった・・・っ・・・・怖かったんだ・・・・全てを・・手放す事が・・・・っ」

ゆっくりと話し出すリオナに、ナツは何も言わずにただ背中をゆっくりさすってやる。

「・・・話したくても・・・っ話せない・・・だからマーシャにも、わかってもらえない・・・・辛かったんだ・・っ」

[・・・・お前が事情を話せないのは、何となくわかってる。大丈夫だ、知らなくたって、感じることくらいできるから。]

「なつ・・・・っ」

リオナは初めて、声をあげて泣いた。

今までの苦しみや悲しみが一気に溢れ出す。

だが、今は受け止めてくれる人がいる。

リオナは心の底から涙を流した。
















不思議だった。

あれだけココロが痛みで悲鳴をあげていたのに、
今は全く感じない。

真っ黒な汚れが綺麗に洗い流されて、真っ白になったかのように。

[リオナ、目が真っ赤。]

そう言って目の前にいるナツが、冷たいタオルを目に当ててきた。

熱い体には心地いい。

「・・・変な感じだ」

[何が?]

「・・・・今ね、すごくスッキリしてるんだ。今まで悩んでた事も、全部、なかったことみたいにスッキリしてる。」

確かにリオナの表情は今までに見たことがないくらい、スッキリとした表情をしている。

前を向いているような、そんな明るい表情だ。

[ははっ、良かったじゃねぇか!]

「うん・・・ナツのお陰だね。ありがとう。」

久々に、笑った気がする。

リオナの久々の笑みに、ナツは顔を赤らめた。

[あー・・・・マジで好きになりそう。]

「・・・・?」

[何だよっ、見んなコッチ!!!]

「・・・・ねぇ、さっきの告白は嘘?本当?」

[嘘に決まってんだろ!!!ふっかけたんだよ!!!だけど・・・・]

「だけど?」

[・・・・ちょっと・・・マジになりそうな気がした]

真っ赤になって顔を逸らすナツがなんだか可愛く思えて、リオナはクスクスと笑った。

「ナツ・・・・」

[あ?]

「俺はナツが親友で本当に良かった。ありがとう。」

[俺、今軽くフられたよな?]

「・・そうとも言う。」

[お前なぁぁ・・・]

そう言いながらも、クスクスと笑うリオナにナツは安堵していた。

[でもまぁ、良かったわ。]

「・・・・?」

[お前がここから居なくなるんじゃないかって思った時もあったが、もう平気だもんな。]

あのままだったら、リオナが消えてしまう気がしたからだ。

ここから、居なくなる気がした。

リオナが居ない毎日なんてつまらないし・・・・寂しい。

「・・・・・・・・」

しかしナツの言葉にリオナは何も言わなかった。

いや、言えなかった。

確かに残されたココロが再び顔を出し、今までの自分に戻った。

それどころか今までよりも頭もココロも落ち着いている。
真っさらになったように、スッキリしている。

だが、リオナの意思は・・・・変わらない。

変えることはできない。

以前は、ココロを殺して、無理矢理自分を納得させるしかなかった。
これが自分の運命なのだと、何度も言い聞かせてきた。

だが、今は違う。

ナツに恐怖や苦痛をぶつけたことによって、負の部分が無くなりつつある。
自分の運命を素直に受け入れられる気がした。
むしろ、自分ができるところまで、この命を使い果たしてでも成し遂げたいと思えた。
それはナツが自分にしてくれたように、自分も仲間を護りたいと思えたからだ。

だから・・・だから・・・・

「ナツ・・・・ごめんね。」

[何が?]

「・・・・ううん。なんでもない。」

でも、心配しないで・・・・ナツ。

俺は前に進むから。

もう、振り向かないよ。

過去はもう、見飽きたから。

[なぁ・・・あの変態のこと、本当にもう諦めるのか?取り戻すなら、力貸す。]

あからさまに嫌そうな顔で申し出るナツ。

嫌なら言わなきゃ良いのにと思うが、そこがナツの優しさなのだと気がついた。

「・・・ありがとう。でも、本当にもう良いんだ。強がってないよ?前に進もうとしてるマーシャを見たら、俺も感化されたよ。だから俺も前に進もうと思うんだ。」

[・・・そうか。]

ナツはそれ以上なにも言わずに、リオナの頭を撫でた。

リオナもそれが心地よく、ナツに身を任せる。

その時だった。

部屋の扉をノックする音が聞こえた。

こんな時間に誰だろうか。

ナツとリオナは顔を見合わせる。

しかも中々入ってこようとしない。
そのせいで、ついにナツのイライラが爆発した。

[誰だよこんな時間に!]

声を張り上げると、ゆっくりと扉が開いた。

どうせシュナだろうとくんでいたが、
予想は大きく外れた。

扉の向こうから姿を現した人物に、
ナツもリオナも目を丸くした。

「・・・マーシャ?」

「悪い・・・・取り込み中か?」

変な気を使ったマーシャはなぜか目線をそらしていて。

ナツはイライラしながらマーシャに近付き、胸ぐらを掴んだ。

[あいにく、お前と違って病室で変なことしねーから!]

「・・・・ぁあ?」

2人の間に火花が散る。

また始まったと、リオナは深いため息をついた。

[お前何の用だ。]

「てめぇには関係ねぇ。」

[はっ。お前はリオナとはもっと関係ねーだろ?そもそもここには立ち入り禁止のはずだ。帰れよ。]

「デヴィスとシキに許可をもらった。俺はリオナに話があるんだ。お前は引っ込んでろ。」

[何だと!?]

今にも殴り合いを始めそうなナツとマーシャ。

そんな2人を止めたのはリオナだった。

「・・・・やめてよ2人とも。」

怒鳴るわけでもなく、静かに言い放つリオナに、2人は上げかけた拳を下げる。

「・・・マーシャ、ナツにそんな言い方するなら、悪いけど帰って。」

「なっ・・・」

まさかナツの味方をするとは思わなかったのか、
マーシャが明らかにショックを受けているのが見てわかる。

ナツは逆に勝ち誇った表情をしていた。

「チッ・・・・わかったよ。悪かったから、ちょっとリオナと2人にしてくれ。」

[2人きりだと?無理だ。]

「なんもしねーよ。話がしたいだけだ。」

[無理だっての。]

頑ななナツに、マーシャの苛立ちもピークに近づく。

「お前・・・いい加減にしねぇとぶっ」
「・・ナツ、俺は大丈夫だから、ちょっと2人にしてくれないかな。」
[ぁあ!?]

リオナから放たれた言葉に、ナツは驚きと呆れの声が漏れる。

だが、いくら言ってもリオナは聞かないことくらいナツもわかっていた。

[あーあーそんな目で見るなよ。たく・・・好きにしろ!ただし、そこの変態。お前発言と行動には気をつけろよ。]

的確なアドバイスに、マーシャは「・・・・参ったな」と呟いて目線をそらす。

散々マーシャを睨みつけ、ナツは部屋をあとにした。







部屋を出ると、ナツはその場に座り込んだ。

はぁ、と深いため息が自然とこぼれる。

なぜこんな気持ちになるのか。

リオナが元に戻って嬉しいはずなのに・・・・

「きっとリオナを自分のものだけにできなかったからかな。」

[なるほどな・・・・・・・・って、]

顔を上げればなぜか目の前にビットウィックスがいた。
相変わらずニコニコと爽やかな笑顔が癇に障る。

[お前勝手に付け足してんじゃねーよ!!!!]

「おや?違ったかい?」

[違うわボケ!!!!]

なんでこいつまで居るんだよと舌打ちをする。

「君も大人になったね。」

[な、なんだよ急に・・・・]

「リオナを好きってフリしてマーシャとリオナにかまをかけるなんて凄いじゃないか。」

[なっ・・・・お前どこまで知って・・]

「そうだね、君が本気でリオナを好きになるあたりまでかな?」

[だから違うっての!!!!!!]

ナツはビットウィックスを押し退け、無視して歩き出す。

その後をビットウィックスは平然とついてゆく。

[ついてくんな!]

「君に話があって来たんだよ。」

そう言われながらもナツは振り向きもせず、ただただ来た道を戻る。

[ぁあ!?さっさと言えよ!!]

「そう?こんな状況で言っていいのかな?」

[大体いつもこんな感じだろーが!]

「確かにね。じゃあ言うけど、君にはダーク・ホームの次期マスターになってもらう。」

その瞬間、ナツはようやく足を止めた。

ゆっくりと振り返り、ビットウィックスを見た。

[今・・・・なんていった]

「だから、ナツには次期マスターになってもらうって言ったんだよ。」

[は!?今ここで言うことか!?]

「だから言ったじゃないか。こんな状況で言っていいのかなって。」

笑顔でそう言うビットウィックスに悪意は全くない。
全くないのだが、苛立ちは収まらない。

[お前がマスターだろ!?今もこれからも!!!]

「まさか。私はこの長い長い戦いが終われば、天上界へ戻る。ここは人間たちのものだ。」

[人間たちのものなら、俺だって無理だ。あんたと同じ悪魔だからな。]

「ははっ、君は面白いことを言うんだね。」

[ぁあ?]

「君は人間だよ、ナツ。」

そう言うビットウィックスの表情は少し暗かった。

まるで羨んでいるかのように。

[・・・無理だ。悪いが他を当たってくれ。]

「君が無理なら良いんだ。このダーク・ホームは君に託すのが一番だと思っただけだから。すまなかったね。今の話は忘れてくれ。」

それだけ言って、ビットウィックスはナツを追い越し、そのまま姿を消した。

[・・・・なんなんだよ、あいつ。]

中途半端に人の気持ちを荒らして行きやがって・・。

ナツは地面を軽く蹴り、
モヤモヤした気分のまま部屋に戻った。

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あきゅろす。
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