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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story07 神の残した災い




天は輝き





地に埋め尽くされている花は






白と桃色で塗られ






甘い匂いを振りまいている






その中央には一人の少女が座っていた。


白に近い茶色の髪に
真っ白な肌



リオナは魔女と聞いてヨボヨボの老女をイメージしていたので、
まだ17、8歳の彼女は思わず見とれてしまうほど美しく思えた。


少女はどこか普通の人とは違う雰囲気をかもちだしている。


「ルナ=ローズ」

マーシャは少女へ近づき、
ひざを折って少女の手をそっと握った。


「久しぶりだな。だいぶ俺から逃げてたみたいだけど、もう後はないぞ。」


「・・・・マーシャ・・・・・・・・」


少女は今まで下を向いていた茶色の目をマーシャに向ける。


「・・・・そうみたいですね。」


少女は無表情でたんたんと答える。


まるで心がないかのように。


「まぁもう分かってると思うが、お前はダークホームが保護させてもらう。いいな?」



「・・あなた方がそれを望むなら・・・。」



―・・・・・意外とあっさりしてるなぁ・・・


リオナは少し離れたところか
様子をうかがう。



すると少女はリオナの方に顔を向けた。


「・・・そこにいるのは・・・・・?」


マーシャは少女の手をリオナの方へ差し出した。


「リオナ、こっちにきな。」


「・・・・うん。」


緊張した足取りで少女に近づく。


リオナが少女の前まで来ると、マーシャは少女の手をリオナに握らせた。


「ルナ、コイツはリオナだ。六歳のちょっとクールなオスだ。」


「・・・・・・リオナ・・・・・」


するとルナの手はリオナの顔をまさぐりはじめた。


「!?!?」


突然の行動に、
リオナはビックリして固まってしまう。


「あっわりぃまだリオナに言ってなかったな。」


「へっ!?」


「ルナは目が見えないんだ。」


「・・・・・そうなんだ・・・・」


リオナは自分の顔を触るルナの手を握る。


とても冷たい手をしている。

でも・・・・気持ちいい


するとルナもリオナの手を握り返し、
見えないリオナの顔をじっと見た。


「・・・ねぇ」


ルナはかなしげに目線を落とす。


「・・・・・・?」


「・・・何をそんなに怯えているの・・・・・・・・?」


「・・・・・・・・・・・え?」


リオナの心臓が大きく脈打つ。


「・・・・・・いつまで・・・・逃げ続けるの・・・・・?」


―・・・・なんなんだよ・・・・コイツもそんなこと言うのか・・・?



リオナの脳裏に、
夢の中の少年が浮かぶ


"・・・・リオナは何をそんなにおびえているの・・・?"


少年の声が頭に鳴り響く。


「・・・・・・俺は・・・別に・・・・・」
「・・・現実を見て・・・・・・・・現実はリオナを追いかけ続けるわ・・・・」


ルナはリオナの手を握る手に力を込めた。


しかしリオナは自分の手を握るルナの手を払いのけ、
低い声で笑い出す。


「ふ・・・・・ははっ・・・・・!現実?現実なら見てるよ?俺は光妖大帝国のヤツらに家族を殺された!そいつらを倒すために強くなるんだ!だから俺はここにいる!これ以上なにを見ればいい!?」


自分を失いかけているリオナを、
ルナは悲しそうに見つめる。


「・・・・・あなたは忘れていることがある・・・・ねぇ思い出して・・?・・・・・あなたにはお・・・」


しかしその時、マーシャが手をルナの口に押し当て、
言葉を遮った。


「はいストップゥ。お話はここまで。」


ルナはでかけた言葉を飲み込んで、
肩を落とした。


「・・・ゴメンナサイ・・・・言い過ぎたわ・・・・・・・・」


ルナの顔には一筋の涙が流れていった。


その涙でリオナも冷静になり、
服の袖でルナの涙を拭ってやる。


「・・・・・泣かないで・・・・。ごめんね・・・・・俺も悪かったよ・・・。」


マーシャはそっとリオナの頭をなでた。


「はいなーかなーおり。悪いな時間がないんだ。さぁてミッションコンプリートしたしさっさとホームに帰っぞぉ。リオナ。長老に挨拶してきてくれ。」


「エ゙ー・・・・」


「頼むってー。だって俺が行ったら絞め殺しちゃうよ?」


「・・・・もぉ・・・・・しょーがない・・・・」


しぶしぶリオナはその場をさっていった。


「行ってらっしゃーい。」


マーシャはリオナの後ろ姿が見えなくなったのを確認すると、

ルナに近づき、
突然ルナの髪を鷲掴み強く自分の方へ引っ張った。


「・・・・あっ・・・・・・・!」


そして痛みに顔をゆがませるルナに冷たい目を向ける。


「言っておくが俺はおまえを許した訳じゃない。」


マーシャはまるで悪魔のように、冷たい口調だ。


「・・まだ・・・・・・・・あの時のこと・・・・を・・・」


「ああ。忘れるわけないだろ?本当だったら今すぐにでもおまえを殺してやりたいくらいだ。まぁ今はホームがおまえを連れてこいっつぅから生かしてるだけだ。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「あともう一つ・・・・相手の心が見えるからってな、これ以上リオナに干渉すんな。もし・・・・・次にリオナの中に干渉したら・・・・」


マーシャはパッと手を離し、
地面に倒れ込むルナの顔をギュッと掴んだ。


「二度と口が利けねぇようにしてやるよ。」


そう冷たく言い放つと、
またいつもみたいにニッと笑う。


しかしその顔には拭っても拭いきれない怒りが含まれていた。


「・・・マーシャ・・・。」


するとルナはマーシャの足をつかんで引き止める。


「・・・・なに・・・・・。」


「・・・・私はあなたに恨まれて当たり前だと思ってる・・・・・いくら謝っても償いきれないわ・・・・」


「・・・・・・・・・・。」



「・・・ねぇ・・・あなたはどうしたら私を許してくれる・・・・?」


ルナは下を向いたまま、
握る手に力が入る。


そんなルナを冷たく見つめるマーシャは、
ルナの手から逃れて背を向けた。


「・・・・・・・・ははっ・・・・」


小さく笑う顔は、なぜか少しだけ悲しい。


「・・・・なぁ・・・ルナ・・・・・。」


「・・・・・・・?」


そのままマーシャはゆっくりと精霊達の森へ歩みを進める。


「・・・どうしたら・・・・・お前のこと許せるかな・・・・・・・・・」


「・・・・マーシャ・・・・・・」


神聖な領域は再び静けさを取り戻す。


それぞれの思いが渦巻いたまま。



















「なんじゃ、もう行ってしまうのか。お主等もワシらと一緒に暮らせばよかろうが。」


「「死んでもお断り」」


マーシャとリオナは長老を軽く弾き飛ばす。


よろめいた長老はふらふらと空中をさまよいながら、ルナの手のひらに乗っかった。


「おお・・・・ルナか。」


ルナは手のひらに乗る長老へそっとキスをする。


「今まで・・・・・・というか短い間でしたが・・・・・ありがとうございました・・・・。」


「うむ。もしこやつらにいじめられたらいつでも戻ってきなさい。」


ルナは優しく笑い、
ぺこりと頭を下げる。


「さてと。それじゃあ行きますか。」


マーシャは手に持っていた黒いコートをルナにかけてやる。


「ありがとう・・・・・。」


「じゃあね長老。」


「またな小僧。もう妖精なんて呼ぶんじゃないぞ。」


「・・・う・・・うん。」


すると突然後ろからやかましい声が聞こえた。


「えー!!ボクもう帰っちゃうのぉ!?」
「ヤダヤダ〜!!もっとあそぼーよ!」
「私たちが楽しませてあげるからぁ!」


三匹のうるさい精霊達がリオナの髪を引っ張り合う。


「・・・・・・・・」


リオナはあまりのしつこさにうつむいてしまっている。


「ははっ!!リオナどうする?お前は残るかぁ?」


「い・・・・・・イヤダイヤダイヤダァ〜!!!」


リオナは妖精達を振り払うように頭を振ると、そのまま森の外まで走り抜けていってしまった。


















森の外まで走り出ると、
すでに空は真っ赤に染まっていた。


「・・・・・うわぁ」


思わず感嘆の声を漏らす。


「おっキレーだなぁ。」


後ろからルナの手を引いたマーシャが現れた。


―あっ・・・・ルナには見えないんだっけ・・・・。


リオナはどうすればこの感動的な光景をルナに伝えられるかを考える。


「・・・・・・リオナ・・・・・・・・」


「え?」


「大丈夫・・・・・私にもあなたたちの感動が伝わっているから・・・・」


「?!?なんでわかったの!?」


まるで心を見透かされているような気がして、
リオナは胸に手を当てる。


「ふふっ・・・・・・私は魔女だから・・・・・」


「お・・・・俺だって魔法使いだよ?」


「あっ確かに。」


マーシャは笑いながら先を歩く。

リオナはルナの手を取って、マーシャの後を追う。


「ねぇルナはなんで魔女って呼ばれてるの?」


「それは・・・・私が不老だから・・・・・」


「え?」


「・・・・私は・・・・・年をとらないの・・・・」


リオナは目を丸くする。


「それって・・・・不老不死ってこと!?」



「半分正解半分ハズレ。」


「・・・・・年をとらないだけで・・・私も殺されれば死ぬわ・・・」


殺されれば死ぬ。


しかし、殺されなければ死ねない。

リオナは顔を歪ませる。


「・・・・・なんでそんなことになっちゃったの?」


ルナはリオナの問いかけに小さく首を振る。


「・・・わからない・・・・生まれた時からこの歳でこの状態・・・・・・・でも・・・ただ一つ言えるのは・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・私は・・神が残した最後の災い・・・・・・・・・・」


「・・神・・・・・?」


「・・・・そう・・・・神が・・ローズソウルに封じ込められる前・・・・神は私を造り・・・そして命じたの・・・・・"私の代わりに世界を見なさい"と・・・・・でも神はそういいながらも私から目を奪った・・・・・・・なぜだかわかる・・・・・・?」


「ううん・・・・。」


「・・・・・神は・・・人々の心が読めないばかりに・・・・あのような結末を迎えてしまった・・・・・だから私には人の形ではなく・・・中身を見ろと・・・・・外の目の代わりに・・・・・・心の目をくださった・・・・・・」


「でも・・・・・・・なんでルナが災いなの・・・?別に神みたいに暴れたりして人を傷つけたりしないでしょ・・・・!?」


「・・・・・・・それは・・・・・・」


ルナは言葉を濁す。


「ルナには心を読めるだけではなく、人を不老にする力があるんだ。」


今まで黙っていたマーシャが口を開く。


「ルナと契約を結んだものは、ルナが死なない限り、年をとることはない。」


「・・・・・・・・?だったらなおさら慕われるべきじゃないの?」


マーシャは小さく首を横に振る。


「人間にはな、リオナ・・・必ず二つの恐怖があるんだ。」


「・・・・・・・。」


「ひとつは他人が自分のことをどう思っているのかという恐怖。二つ目は・・・・必ず訪れる死への恐怖だ。」


「・・・・私は・・・・そんな人々の恐怖をすべて取り払うことのできる・・・・ただ唯一の存在・・・・」


「でも人々には恐怖がなくなる事への"恐怖"があった。だから人々にはルナの存在自体が"災い"であり、"恐怖"でもあった。」


「なんか・・・・・・・・・人間ってワガママだな・・。」


「そうだな。」




三人は暗く染まっていく空の下を歩いてゆく。


月も登り始めた頃

今まで歩いてきた草原と打って変り、
突然黒い大理石が現れた。


その大理石は円形をしていて、直径約10mくらい。



マーシャはブーツをカツカツと音を立てながら、中心へむかう。


「ねぇマーシャ。ここ何?」


「ここか?ここはダークホームに繋がってるんだ。」


「さらっとすごいこと言うね。」


「だろ?」


たしかに中央にはダークホームの紋章が描かれている。


「そもそもダークホームってどこにあるの?」


「そうだなぁ〜・・・"宿敵の島"かな?」


「あ・・わかった!神の島!」


そう、昔神が住んでいたと言われる、三つの大陸に囲まれた中央の海に浮かぶ島。


「よく知ってんな。あの島の存在はあんまり知られてないのに。」


「そうなの?」


「そうなの。」


「ふぅん。」


「ダークホームへ繋がってる場所はここ以外に4箇所ある。ウェストアイランドとサウスアイランドに二つずつ、ノースアイランドはここだけだ。いちいち船使って行ってたら時間がかかるからな。」


そう言ってマーシャは中央に描かれてたダークホームの紋章をなぞる。


すると急に中央が黒光りし始め、
地面が揺れ始めた。


気づけばマーシャの前には、巨大な真っ黒な扉があった。


「さてっと。」


マーシャは扉に手をかけ、
押し開ける。


「ようこそ。ダークホームへ。」


リオナはルナの手を引いて、扉をくぐった。


強い思いを胸に抱きながら、


まだ見ぬ世界へと足を踏み入れる。





第1章 悪魔と魔女

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