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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story137 狂気再来
ノースアイランドのとある小さな国

そこにシキたちはいた。

あの後すぐにサムライ・カウンティーを後にし、そこから近い国に一時的に留まっていた。

今すぐにでもダーク・ホームに帰りたいところだが、今帰るわけにはいかない。
世界政府との戦争が始まろうとしているからだ。

リオナは特に狙われているため、戦争が終わるまで帰らせるわけにはいかないのだ。
これが今回シキたちが一緒に来た目的でもある。

もちろん本人達に悟られてはいけない。

が、今はそれどころでは無くなってしまった。

マーシャがリオナの記憶を無くしたのだ。
今まで存在していなかったかの如く、リオナの記憶だけない。

この国に来るまで、リオナとマーシャは一切口をきかなかった。

マーシャは少し機嫌が悪く、リオナは何を考えているのかわからないくらい無表情で何も言わない。

2人を一緒にさせておくと状況が悪化する一方だったため、
宿泊先の部屋はマーシャとリオナを別々にした。

一度シュナにリオナを任せ、
シキは隣の部屋にいるマーシャの元に行く。

『マーシャ、入るぞ。』

「なんだよ・・・また説教か?」

マーシャの機嫌は未だに悪い。
普段ならリオナがいるそばでは絶対に吸わない煙草まで吸っている。

マーシャは椅子に座って足を組み、天井に向かって白い煙を吐き出した。

「あのガキの話をしに来たなら帰れ。俺は全く知らない。」

ハッキリと言い放つ彼が、いつものマーシャに見えない。

冷たく、心を閉ざした、まるでリオナに出会う前のマーシャに戻ってしまったみたいだ。

リオナがどれ程マーシャに影響を与えていたのか、今になって理解した。

『ガキと言うなマーシャ・・。別に俺はお前に説教をしに来たわけじゃない。ただ、本当に覚えていないのか?』

「しつこいな、何度も言わせんなよ。刺すぞ。」

マーシャの怒りが最高潮に達しようとしてきたのがわかる。

『なぁ・・・更夜と話したのは覚えているか?』

「ああ、覚えてる。」

『何か取引したか?』

「取引?してねぇよ。ただルナのこと話して、そのまま眠くなって気が付いたら外だ。」

・・・・やはりマーシャの記憶がいじられている。

全てを知っているのはリオナだけ、か。

だがリオナは絶対に話さないだろう。

それに、リオナ自身もこんな事になるとは思ってもいなかったようだ。
そんなリオナにあれこれ聞けない。

『・・・・参ったな。』

「おい。」

『なんだ・・?』

マーシャは何を思い立ったのか、
煙草の火を消して立ち上がった。

すると目の前にあった机に拳を叩きつけ、机を真っ二つに割ってしまった。

マーシャは鋭い目つきでシキを睨んだ。

「イライラする」

『・・・・だろうな。』

シキもこんな怒りに満ちたマーシャは久々に見た。

ヤバイ逃げたい、と思いながらも、背中を向けたら殺される気がして、動けない。

「あのガキ連れてこい・・・・」

『・・・は?』

「"リオナ"だっけか?連れてこいよ。」

『・・本人が会うって言ったらな。』

「来ないなら俺が行く。」

『なっ・・・、わかったからここで待ってろ。』

立ち上がろうとしたマーシャを押さえ付け、
シキは部屋を出た。

一体リオナと何を話す気なのかと不安を抱きながら、重い足取りでリオナの部屋に入った。

部屋は妙に静まり返っていた。
気のせいか、空気が張り詰めている。

そんな中、リオナはただソファに腰掛け、窓の外を眺めていた。

その瞳に光は無く、何も映し出されていない。

一方シュナは、どうしたらいいかと不安げな表情を浮かべ、リオナをじっと見つめていた。

『シュナ、大丈夫か?』

部屋に現れたシキの姿を見て、シュナは涙を目に浮かべた。

シキに駆け寄り、小声で助けを求めた。

『し、シキさん・・!!もう限界です・・・・っ』

『リオナの様子は?』

『それが・・・・わからないんです。ずーっとあの表情で一言も発しないから・・・』

リオナを見ると、悲しそうでも苦しそうでもなく、ただ無表情だった。

何を思っているのかさっぱりわからない。

シキはじっと外を見つめるリオナに近寄る。

するとリオナは今まで目を逸らす事なく見つめていた窓の外から目を離し、シキを見た。

『・・リオナ。マーシャがリオナと話したいと言ってる。どうする?』

その言葉に、リオナはようやく口を開く。

「・・・・何を話すの」

久々に聞いた声に覇気はない。

『わからないが、連れて来いと言われた。』

「・・これ以上話すことなんて何もないんじゃないかな。」

リオナの表情が一瞬翳る。

シキは見逃さなかった。

『リオナが話したくないならそう伝える。』

リオナが感情を押し殺していることくらいわかる。
苦しくて悲しくてたまらないに決まっている。
でも誰にも悟られないように、ただただ無表情を貫いているのだ。

それくらいシキにもわかる。

「・・・・・・・・あと何回」

『・・え?』

リオナが言葉を切る。

"あと何回"
その言葉に続く言葉は聞かずとも分かってしまった。

"あと何回傷つけばいいの"

「・・・・なんでもない。」

リオナの目は一点を見つめたまま。
その瞳には何も映っていない。

リオナの限界の悲鳴を聞いた気がした。











シキに言われたように、
リオナはマーシャの部屋に向かう。

『リオナ・・無理しなくていいんだよ?』

心配したシュナも一緒に付いて来た。

シュナはそわそわとしていて、今にも泣きそうな顔をしている。

「・・無理してないよ。無理なら来ない。」

『・・・リオナは強いね。』

・・・・強い?強くなんかないよ、シュナ。

怖くて怖くてたまらない。
これ以上傷つきたくない。
だから"無"という殻に俺は篭るんだ。

マーシャの部屋の扉をノックすると、マーシャが出てきた。

どうやら相当機嫌が悪いようだ。
雰囲気でわかる。

「なんでシュナも一緒なんだよ。」

『だ、ダメですか?』

「俺はコイツと2人で話したいの。あっち行ってろ。」

マーシャに追い出され、シュナは頬を若干膨らませながら隣の部屋に戻ってゆく。

マーシャは部屋の前にいたリオナを見ると、
入れと言って部屋に通した。

部屋に入ってまず目に入ったのは、無残にも真っ二つに叩き割られたテーブル。

思っていた以上に機嫌が悪そうだ。

「リオナ、だっけ?」

ベッドに腰掛けたマーシャがリオナに問いかける。

「・・・・そうだよ。」

「お前、俺の何?」

唐突な質問に、リオナは呆気にとられる。

何って言われても、ここに来るまでに散々シキが説明してきたじゃないか。

俺とマーシャの今までの関係を。

それを全否定したのはマーシャ自身だ。

「・・・・何って言われても。」

「さっきシキに言われた。俺はお前を愛してたって。本当か?」

どう答えるべきか。

ここで本当の事を言った所で、マーシャが信じるとは思えない。

「悪いが俺はお前の事は一切わからねぇ。シキやシュナはああ言うが、信じられない。」

「・・うん。」

「だが、お前の口からまだ聞いてない。どうなんだよ。」

リオナは無表情のまま立ち尽くす。

どうなんだ・・どうなんだろう。

自分自身、わからなくなってきた。

そもそもこんな事態を引き起こしたのは紛れもなく自分だ。

自分のせいでマーシャを巻き込んで、マーシャから記憶を奪ってしまった。

これからマーシャと俺は、どうすればいいのか。
ここに来るまでずっと考えてた。

でも答えはまだ、出せてない。

「・・・・マーシャ」

「ぁあ?」

「・・・・俺の事、好き?」

リオナの虚ろな目が、マーシャの瞳を捉える。

「何言ってんだよ、お前。」

リオナが今問いかけてるのは、目の前にいるマーシャじゃない。

今まで共に過ごし、愛した"マーシャ"にだ。

リオナはそっとマーシャに近づく。

ベッドに腰掛けるマーシャの両頬を包み、顔を引き寄せた。

「・・・・っ!?」

次の瞬間、
ガツンと鈍い音がした。

リオナの体が床に倒れこむ。

マーシャの拳がリオナの頭に命中したのだ。

マーシャは唇を拭い、
まるで汚らわしいものでも見るような目でリオナを睨んだ。

リオナ自身、何をして、何が起きたのかわかっていない。

しかし、だんだんと頭が理解をはじめる。

リオナは確かにマーシャにキスをした。
何か思い出してくれるかもしれないと淡い期待を込めて。

だが、所詮期待は裏切られる。

それも最悪なカタチで。

殴られた頭を押さえながら、リオナはマーシャを見上げた。

その蔑むような目が、リオナの僅かな心にひびを入れる。

そして、

「お前っ・・・・気色悪いんだよ!!!!」

マーシャが放った言葉が、トドメのごとく胸に突き刺さる。

パキン・・・・と音がした。

「・・・・・・・・」

・・・・もう、マーシャの中に"リオナ"はいない。
きっとこの先も、思い出すことはない。
分かってしまった。
彼の目が、言葉が、全てを理解させた。

"これからマーシャと俺は、どうすればいいのか。"
ようやく答えを出せそうだ。


リオナはふらつきながら立ち上がり、
無表情のままマーシャを見た。

「・・・・ごめんなさい。」

「俺にはそんな趣味ねぇんだよ・・!!!!」

「・・・そうだね。」

「お前俺をからかってんのか!?」

マーシャから怒号を浴びせられる。
だが、もう、何も感じない。
まるで全てが麻痺しているかのように。

お陰で頭は、不気味なくらい冷静になった。

マーシャは不安なんだ。
自分が間違っているのかと。
不安で怖くて苛ついて・・・・そうさせる俺が憎いのだろう。

「・・・・大丈夫。」

「ぁあ!?」

リオナはゆっくりと目を閉じる。

大丈夫、これ以上マーシャを困らせることはしないから・・・・

「・・・俺はマーシャの何者でもないよ。マーシャの記憶の通り、俺とマーシャに何の関係もない。」

言葉を発する度に、何かが剥がれ落ちてゆく。

「・・・・だから、何も気にしなくて大丈夫。」

たんたんと述べるリオナに、
マーシャは更に眉を寄せた。

「それは本当か・・・?じゃあ何でシキやシュナは俺がお前を愛してただのなんだの言うんだよっ」

「・・・・俺がそうさせたんだ。ごめん。」

「は!?意味がわかんねぇよ!!!」

マーシャは舌打ちをして、煙草に火をつけた。

「なんでそんなことしたんだよ・・・・!?記憶を弄ったのか!?」

「・・・マーシャを好きだったから・・・・仕方なかった。」

「ぁあ!?お前最低だな!!!そんなことしても俺はお前を好きにはならねぇからな!!」

「・・・わかってる。」

「もういい・・・・あっち行け!!!」

マーシャは背を向け、バルコニーに出て行った。

リオナはその背中をじっと見つめる。

まるで目に焼き付けるかのように。

そしてゆっくりと向きを変え、
部屋をあとにした。

扉を閉め、その場に座り込む。

これで・・・・良かったんだ。

これ以上、マーシャを巻き込むわけにはいかない。俺の記憶が無いマーシャに、無理矢理俺の愛を押し付けて苦しめるわけにはいかない。

それに、マーシャが俺を忘れてくれて、逆に良かったかもしれない。

だってようやく、死ぬことに決心がついたのだから。

元々、"人間"じゃない俺がこんなに愛されていたのが間違いだったんだ。
死ぬために生まれてきたこの俺が・・・・

リオナはゆっくりと息を吐き出す。

「・・・・愛なんて、もうこりごりだ」

心を捨てろ、リオナ
愛を捨てろ、リオナ
希望を捨てろ、リオナ

俺にはもう・・・・何も無い。

・・・ナニモ、ナイ・・・・

存在意義も
存在価値も
存在理由も

・・・・いや、ひとつだけある。

神と一緒に死ぬことで、俺はようやく、この世に存在する意義、価値、理由を得ることが出来るのだ。

「・・・・あと、2回」

2回目の満月まで・・・・あと2ヶ月半

数えるリオナの指が震える。

もう・・・・苦しいんだ
残されたココロが、壊れても壊れきれない。
傷だらけで痛いんだ。

苦しくて苦しくて・・・・
こんなに、"死にたい"なんて・・・・

早く・・・・早く。

早く・・・・消してくれ・・

早ク・・・・・・俺ニ死ヲ・・・

リオナの中の"狂気"が、溢れ出す。

ドクンドクンと、脈打つ。

真っ黒な闇が、壊れ切らないココロを包み込み、ガシャンガシャンと音を立ててココロを粉々にしてゆく。

"狂気"はリオナを覆い尽くし、リオナをコロす。

そしてボロボロのリオナが消えてゆく。

"モウ、ナニモ考エナクテイイ。"

無になる・・・・無になる・・

ココロがようやく、壊れ切った。
これで苦しみも、痛みも、全て無くなる。全てを手放せる。感情も、感覚も、思考も、全て。

"・・・・ごめんね、マーシャ。"

リオナが消える。
リオナのココロも、完全に消え去った。

そして新たな"リオナ"が姿を現す。

"絶望"から生まれた"狂気"、"狂気"がもたらした"無"。

真っ黒な"狂気"が、消え去った"ココロ"の代わりに動き出す。

「・・・・泣かないで、"リオナ"。大丈夫だよ。」

リオナの目から、真っ赤な涙が流れ落ちた。

サヨナラ・・・・リオナ

イコウ・・・・"リオナ"

「もうすぐ・・・・全てが終わるから。」

狂気の歯車が、音を立てて動き出した。















隣の部屋にいたシュナとシキは、リオナとマーシャが何を話しているのかと、そわそわしていた。

部屋を無駄に歩き回ったり、シュナは壁に耳を当てたりしている。

『シュナ・・何か聞こえたか?』

『いえ、何も・・・・』

2人はため息をついて、椅子に腰掛ける。

『一体何がどうなっているんでしょうか・・・・』

『さぁ・・・。ただ、更夜が関わっているのは間違いない。』

『リオナ・・・・何か隠してますよね。』

『ああ。でも、隠したくて隠しているようにも見えないな。もしかしたら、更夜に弱みを握られているのかもしれない。』

『賢者は必ず"取引"をすると言ってましたよね。あることをやる代わりに同等のモノをやる、いわゆる等価交換を・・・』

その時、部屋の扉が開いた。

2人は咄嗟に口を噤む。

入ってきたのはリオナだった。

先程と変わらず、表情がない。

『リオナおかえり・・!!ど、どうだっ・・・・』

だが、リオナはシュナの言葉を遮るように、部屋に入るなりシュナとシキの前を通り過ぎ、自分の荷物をまとめ始めた。

『え、リオナ・・・?何してるの?』

「ダーク・ホームに帰る。」

いつも以上にハッキリとした口調で、リオナは答えた。

その言葉に目を見開いたのはシキとシュナだ。

今、彼をダーク・ホームに帰すわけにはいかない。

『リオナ待ちなさい。何で突然帰るなんて言うんだ。マーシャに何か言われたか?』

「何も言われてない。あの人はもう俺の知ってるマーシャじゃないよ。」

『あ、諦めちゃうのリオナ!?』

「諦めるも何も、これ以上彼に"俺の記憶"を押し付けるのは良くない。良いんだ。俺なら大丈夫だから気にしないで。」

たんたんと答えるリオナに、シュナとシキは違和感を覚えた。

あんなにマーシャを愛していたのに、こうもアッサリと諦めるなんでリオナらしくない。

何かが、変わり始めてる。

『リオナ・・良いわけないだろう。お前はそうやってなんでも1人で抱え込む。俺たちは仲間だろう?』

「抱え込んでないよ。仕方がないんだ。記憶の戻し方なんて知らない。彼に無理矢理俺の記憶を吹き込んだって、記憶のない彼にとっては苦痛でしかない。ただでさえ今、彼は記憶に存在しない俺が目の前にいるだけで情緒不安定だ。だったらこのまま彼の記憶通りの方が、彼のためにも良いと思うんだ。」

恐ろしいくらい冷静なリオナに、シキは違和感を覚える。
しかし、リオナの言う事は間違っていない。
だから何も言い返せない。

『リオナは・・・・それでいいの?』

今にも泣きそうな声で、シュナが問いかける。

その問いかけに、リオナはゆっくりと頷いた。

「それでいい。」

それだけ言って、再びリオナは荷物をまとめ始めた。

シュナは耐え切れなかったのか、唇を噛み締め、部屋を出て行ってしまった。

この状況をどうしようかと、シキも珍しく焦りを見せる。

リオナの様子が変な上に、ダーク・ホームに戻るなんて・・・・

せめてダーク・ホームに帰る事だけは止めなければ。

それに、マーシャが記憶を無くしてたった数日だ。

希望はまだある。

『リオナ、もう少しだけ俺に時間をくれないか・・・?』

リオナの手がピタリと止まった。

『時間をくれ。頼む・・・』

すると、リオナは振り返り、シキを見た。

その顔に表情は無い。

何を感じ、何を想っているかなんてわからない。
いや・・・・何も感じていないのかもしれない。

それくらい、今のリオナには"無"が溢れていた。

「そんなにダーク・ホームに帰したくない?」

その言葉に、シキの心臓が跳ね上がった。

『そういうわけでは・・・・』

「シキ、戦争が始まったよ。」

『・・・・!?』

気づいていたのか・・・・?

驚きと動揺で、シキは手を握りしめる。

『どこでその情報を・・・?』

「どこでもない。自分自身だよ。悪魔達が騒ぎ始めた。」

そうか・・・・リオナ自体が"悪魔"となったため、以前よりハッキリと悪魔達の声を聞けるようになったのか・・。

盲点だった。

「シキ。俺はもう逃げないよ。」

『それは・・・・どういうことだ?』

「護られてばかりはもう嫌だよ。俺は戦う。だからダーク・ホームに戻るよ。」

荷物を持ち、リオナはそのまま部屋の出口に向かう。

『待て!!!』

咄嗟にリオナの腕を掴むが、
強い力で振り払われる。

その時一瞬、リオナの"表情"が見えた。

その表情に、シキはゾッとした。

口元に不気味な笑みを浮かべ、
真っ赤な瞳の瞳孔が開いていた。

まるで"狂気"に襲われた時のリオナのようで・・・・

シキが一歩後退ると、リオナが振り返ってきた。

一瞬ビクッとしたが、リオナのその表情は再び"無"と化していた。

「・・・・・・・・」

『リオ、ナ・・・・?』

リオナはそのまま何も言わず、部屋を後にした。

シキはその場でただ呆然としてしまう。

先程のリオナは、リオナじゃなかった。

今も、何か変だ。

嫌な予感がする・・・・

『・・・・すぐに追いかけなければっ』

シキは紙とペンを取ると、そこに何かを殴り書き、テーブルに置いた。

そして荷物を持って部屋を飛び出した。

リオナを追って、駆ける。

リオナ・・・・頼むから1人で背追い込まないでくれ・・・・

リオナが壊れる前に・・・















イライラする。

何にイライラしてるかわからなくなるくらい、イライラする。

原因はあの"リオナ"という奴なのはわかりきっているが。

でもなぜそこまでイライラするのか。

自分でもわからない。

「ちょっと・・・・言い過ぎたか。」

今になって頭が冷静になって、少しやりすぎたと後悔するなんて。

俺の方がガキじゃねーか。

マーシャは煙草の吸殻の山に、最後の一本を乗せた。

一体、何がどうしたのかさっぱりわからない。

目を覚ましてからシキやシュナが変なことを言うし、知らない少年がいるし・・・・

シキ曰く、おかしいのはどうやら俺の方らしいが。

「記憶喪失なんて・・・・ねぇよ」

だって今までの事はハッキリ覚えている。

ダーク・ホームに入って、ダッドと共に戦い、ダッドが死んで大魔帝国に戻り、壊滅して放浪してた所でルナを見つけて・・・ダーク・ホームに戻ってB.B.とかいうクソウサギと変わらない生活送って、ムジカと出会い、B.B.とルナとムジカとダーク・ホーム脱出して・・・・ジークやクロードやバカピエロと出会って・・・・・・・・

あれ・・・・?

何か、おかしい気がする。

俺ってこんなに・・・・誰かと関わりを持つような奴だったか?

それに、B.B.は俺の悪魔じゃないし、何かが・・・・・・・・抜け落ちているような。


「チッ・・・・・・・・んなわけねぇよ。」

マーシャは再びイライラし、
目の前の柱を蹴った。

と、その時、部屋の扉が開いた。

またシキか、と思いきや、
そこから顔を覗かせたのはシュナだった。

若干怯えながら顔を覗かせるシュナに、
マーシャは深いため息をついた。

「ったく・・・・誰も取って食いやしねーよ。」

『だ、だってぇぇ・・・・・・・・マーシャさん怖い!』

「ぁあ!?」

『ほらぁぁ怖い・・!!!!』

「殴るぞ!?」

『ほらぁぁぁぁ〜!!!!』

涙目のシュナにもパンチを喰らわせてやりたいなんて本当に自分はどうかしてる。

マーシャは怯えるシュナにも短気な自分にも呆れ、頭を抱えてベッドに腰掛けた。

黙っているとシュナが怯えながら部屋に入ってきた。

そしてマーシャの横にそっと腰掛ける。

『あ、あの・・・・マーシャ、さん』

「なんですかシュナくん・・・・」

また"リオナ"の話か?
マーシャはわざと殺気立たせる。

『っ!!い、いえ・・・・なんでもありません・・・・』

怯え切ったシュナにもう何も言えまい。
つーか言わせねぇ。

それほどにうんざりしていた。

「・・・・・・・・なぁ」

それでも、少し・・・・

「あいつ・・・・"リオナ"は、どうしてる?」

ほんっっっの少しだけ、気になる。

かなり酷い事を言った気がしなくもない。

これで自殺でもされたら後味が悪いからな。

『リオナ、ですか・・・・?』

「・・・・そうだよ。何度も言わせんな。」

『そ、それが・・・・』

シュナは口ごもる。

「なんなんだよ・・・ハッキリ言え!」

『・・・・帰りました。』

「・・・・は?」

『だから、ダーク・ホームに先に帰っちゃいました。シキさんも一緒に。』

そう言って、シュナはシキの書き置きのメモをマーシャに手渡した。

「はぁ!?」

なんて奴らだ!
あれだけ色々と引っ掻き回したくせに、なんの詫びもなく先に帰るなんて!

ついにマーシャの怒りが沸点に達した。

マーシャは勢い良く立ち上がり、
コートを羽織る。

『え、ちょ・・・・マーシャさん!?』

「あ?」

『どこ行くんですか!?』

「どこかって?そりゃあダーク・ホームだよ。俺も帰るんだ。」

その言葉にシュナの顔がみるみる真っ青になってゆく。

『だ、ダメです・・!!!!』

「なんでだよ。」

『ダメなものはダメですっ!!!』

「意味わかんねーよ。俺も帰る。ここには用はねぇ。」

『ちょっとマーシャさんてばっ!!!!』

シュナの静止を振り払ってマーシャは部屋を出た。

どいつもこいつも勝手なことばかり言いやがって・・・・

あんなガキ、2度と視界に入れてたまるかっ・・・

そんなことを思いながらも、ふと気がつくと"リオナ"の顔が頭に浮かんでいて。

さっき殴った後の、あの何とも言えない表情が頭から離れなかった。

「クソッ・・・・何なんだよ!!」

何が正しく、何が間違いなのか。
白黒つかない現実はマーシャを更に追い詰める。

"リオナ"

俺を苛立たせる原因を、
忘れたくても忘れられなかった。

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あきゅろす。
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