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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story135 もう一度名前を
"ココロ"とは、一体何だろうか。

カタチもなければ、イロもない。

感触すらない。

だけど、今、実感した。

ココロを無くしたカラダは、
こんなにも冷たいものなのだと。

このまま俺は、冷たさの中に消えていくのだろうか。

だんだんと、感情が薄れてゆくのがわかる。

更夜の瞳に吸い込まれるように、
ココロが抜け出していく。

・・・・俺の全てが、ウィキの所に、帰って・・・・







リオナの中の"ココロ"が、更夜によって全て吸収されようとした時だった。

更夜の手がピタリと止まる。

どうしたのだろうか・・・・

薄らぐ意識の中で、リオナは更夜の目線の先を追った。

その時、リオナの中に残された僅かな"ココロ"が、涙を流した。

「・・・マー、シャ・・・・」

声に出せば、それは止まらない。

ボロボロと、零れ落ちる。

目線の先には、マーシャがいた。
息を切らし、真っ赤な瞳を更夜に向けている。

「はぁ、礼儀知らずにも程があるよ、マーシャ。」

更夜はリオナを抱き寄せ、
マーシャから距離を取る。

「礼儀知らずだって?はっ、それはお互い様だろうがクソ賢者。」

「言葉遣いには気をつけて。用が無いなら出て行け。」

「用ならあるさ・・・・手元の可愛い子ちゃんを返してもらう。」

マーシャの体からは、今までに感じたことがない位の殺気で満ち溢れる。

「リオナを離せって言ってんだよ・・・・てめぇぶっ殺すぞ」

「何で?」

「お前の目的はもう分かってんだよ。リオナの心は誰にも渡さねぇ。俺のもんだ。」

「・・・ルナのやつ、全部話したのか。」

「お前も残酷だよな。ルナを巻き込むなんて。」

更夜の舌打ちが聞こえた。

「でももう手遅れだよ、マーシャ。リオナのココロはほぼ全てウィキに帰った。もう彼は抜け殻も同然。」

「ッ・・・・クソ野郎が」

その瞬間、マーシャの姿が消えた。
かと思うと更夜の後ろから現れ、ナイフを更夜の喉元に突きつけた。

素早い動きに、流石の更夜も手を上げる。

「はは、さすがはダーク・ホームのエース。」

「・・・今すぐリオナの心を返せ。」

「無理だよ」

「やらねーと殺すぞ・・・・!!!」

「言っておくが、これはリオナの意志だよ?」

「は!?」

更夜は、マーシャの目の前に先ほど交わされた契約書を突きつける。

「等価交換だよ。リオナがココロを失い、神となって死ぬ代わりに、ウィキやB.B.、マーシャを助けるって約束をしたんだ。」

「・・・・嘘つけ!!!!お前が無理矢理書かせたんだろ!?」

「嘘じゃないさ。ほら、君の病気ももう治ったんじゃない?悪魔の力を使っても、頭痛がしないだろう?」

マーシャはハッとし、思わず頭を押さえる。
こんなに力を使っても、痛みどころか違和感すらない。

マーシャの表情がみるみる怒りで満ち溢れる。

「・・・馬鹿かてめぇは!!!!」

「命を救ってやった恩人に馬鹿とは何だ。」

マーシャは更夜からリオナを無理矢理奪うと、ナイフを更夜に向けたまま距離を取る。

・・・マーシャが怒るのは当然だ。

俺が勝手に契約して、勝手に病気を治して・・・マーシャが喜ぶはずがないのに。

それでも助けに来てくれたことに、残された心が喜びの涙を流していた。

リオナは力の入らない声を絞りだす。

「マーシャ・・・・勝手に・・・ごめんな、さい・・・・」

そんなリオナを見て、マーシャは深くため息をつくと、いつものように笑って見せた。

「お前の考えてることは筒抜けなんだよバーカ。あとでたっぷりお仕置きしてやるから覚悟しとけ。」

そう言ってマーシャはリオナを部屋の隅に横たえ、再び更夜に向き合った。

「確かに、命の恩人に馬鹿は失礼だったようだな、更夜。」

「わかってくれればいいよ。」

「なぁ更夜、どうすればリオナの心を返してくれる?」

金か?命か?
と、喧嘩を売るように問いかける。

「無理だよ、ごめん。」

さらっと言いのける更夜に、更に苛立ちが募る。

「俺の病気治さなくていいって言ってもか?」

「治した病気を今更戻せないよ。」

うんともすんとも言わない更夜に、
マーシャの苛立ちが遂に爆発を迎えようとしていた。

「なら・・・・力ずくでも取り戻すしかねぇようだな」

「へぇ、君が僕に勝てるとでも?」

ニコリと笑う更夜の手の上に、刀が現れた。

それと同時に、マーシャも巨大な鎌を作り出す。

「俺の病気治しちまった事を後悔させてやる。」

その瞬間、
マーシャと更夜の刃がぶつかり合った。

お互いのスピードが徐々に上がり、肉眼では見えないほど激しい。

体調全快のマーシャが久々の戦闘に興奮してるのがリオナにはわかった。
圧倒的にマーシャが優勢である。

だが、それが逆にリオナの不安を煽った。

賢者である更夜がこうもアッサリとやられる訳が無い。

それに、更夜に同意し、契約書にサインをしたのは紛れもない俺自身だ・・・。

今更もう・・・・引き返せない。

リオナは残った力を振り絞り、立ち上がった。

「マーシャ・・・っ!!!やめて!!」

声を上げるが、マーシャには届かない。

戦闘に夢中になるといつもこうだ。

マーシャの目はすでに更夜を殺す気だ。

止めないと・・・・

「頼むから・・・マーシャ!!!」

その瞬間、マーシャの鎌が勢い良く更夜の刀を破壊した。

そのまま更夜を押し倒し、刃を更夜の喉に押し付ける。

マーシャの口端が吊りあがった。

「あはは、俺の圧勝。」

「君は本当に、何もわかってないんだね。」

「リオナのことだけ分かってりゃ十分。」

「リオナのことすら何も分かってないのにそんな事良く言えるものだ。」

「ぁあ?」

更夜の挑発に、マーシャの顔から笑みが消えた。

「君はリオナの気持ちなんて何もわかってない。なぜ、リオナが僕と契約をしたか、リオナがどんな思いで自らの心を手放したか、君は全くわかってない。リオナの気持ちをわかっているなら、今、邪魔なんかに入ったりしない筈だ。」

「じゃあお前は愛してる奴が抜け殻になるのを黙って見てられるのか!?悪いが俺は世界がどうなろうと知ったこっちゃない!!世界よりリオナなんだよ!!!」

「生憎愛してる人間なんて居ないから分からないよ。君は本当に自分勝手だな。」

「てめぇ言わせておけば・・・!!!」

鎌の刃を更夜の首に押し付けようとした瞬間、
マーシャの身体がピタリと止まった。

マーシャ自身も何が起きたのかと目を見開く。

「力が・・・入らね・・ッ!!」

そのまま鎌が手から滑り落ちる。

気がつけば更夜の瞳が黄金に輝いていて、
その瞳に力が吸い取られていくようだ。

力を吸い取られ、
膝から倒れこんだマーシャに、リオナが駆け寄る。

「マーシャ・・・!!」

「リオナ・・・離れてろっ・・・・」

「でも・・・・!!!!」

ゆっくりと更夜は立ち上がり、マーシャとリオナに近づく。

しかしマーシャは意地でもリオナを渡さんと、
リオナをかばうように背にリオナを隠した。

「マーシャ、君には呆れたよ。こんなに僕の邪魔をしてくれるなんてね。君が言う通り、病気なんて治してやるんじゃなかった。」

「はっ、ようやくわかったか。だったらこれ以上リオナに近づくな・・・・」

「悪いけど、そういう訳にはいかないんだ。わかるだろう、リオナ?」

更夜の作り笑いがリオナに向けられ、リオナの心臓がバクンバクンと飛び跳ねる。

「リオナ、君も契約違反だ。一度、ココロを渡すと誓った筈なのに、マーシャが来た途端に助けを請うなんてね。」

「・・・・っ」

・・・更夜には全てが見透かされていた。
口に出さずとも、残ったココロが必死にマーシャを求めていた事を。
リオナの身体から体温が奪われて行く。

「君がなるべく辛くないように身体からココロを引き離してあげようとしたけど、そんな気分じゃなくなった。リオナにはペナルティだよ。」

そう言うと、更夜の瞳が黄金からまるで悪魔の様な赤い瞳に変わった。

今にも屋敷が崩れ落ちそうなくらい、地面が音を立てて揺れ始める。

更夜の殺気を感じた瞬間、
リオナは咄嗟にマーシャの前に出た。

しかし次の瞬間、
更夜の右腕がリオナの脇を通り過ぎ、
マーシャの胸を貫いた。

「マーシャ・・!!!!!!!!」

「・・・・!?」

マーシャは悲鳴すらあげず、
目を見開いたまま更夜を見る。

更夜はすぐに手を引いたが、
手には血などは全く付いていない。

マーシャの貫かれたはずの胸も、
傷一つない。

一体、何が起きたのか。

「マーシャ・・・!?」

マーシャはそのまま床に倒れてしまった。

リオナは混乱する頭でマーシャを抱き寄せ、呼びかける。

が、マーシャは目を閉じたまま全く反応がない。

「そんなに慌てないで、リオナ。大丈夫、マーシャを殺したりなんかしないよ。」

更夜は冷めた目でリオナを見つめる。

「だったら何を・・・・」

「マーシャの大切なモノを奪っただけ。」

「大切なモノ・・・・?」

「だからそんな不安そうな顔はしないで。命に関わることはしてないから。これは君へのペナルティだ。」

そう言いながら、更夜はいつの間に用意したのかわからない上着を羽織り、ふぅ、っとため息をついた。

「ちょっと予定が狂ったけど、まぁ良い。リオナ、勘違いしないでおくれよ。君のペナルティはまだ始まったばかりだからね。」

「・・・・ペナルティって、何なんだよ!」

「それはマーシャが目覚めてからのお楽しみだ。あと、君の中に残っている僅かな"ココロ"は、今日から2回目の満月の夜に取りにくるよ・・・・いや、君から来てくれるだろうね。」

不気味に笑う更夜に、リオナは身震いが止まらない。

「それまで人間としての残りの時間を楽しむといいよ。ああ、あとリオナにプレゼントだ。」

そう言うと、更夜はリオナの手のひらに巾着袋を手渡した。

小さいのに、重みがある。

この感触には覚えがある。

だけど・・・・いや、まさか・・・

「・・・・ローズ・ソウル?」

なんで更夜が・・・

「それはUWから奪ってきたものだ。君たちが一生懸命探してる間にね。」

「なっ・・・・」

以前、UWでフェイターと奪い合いになった武錬大帝国のローズ・ソウル・・・・
まさか更夜に奪われていたなんて。

「そのローズ・ソウルはリオナに預ける。だから約束の日に、リオナが持っているローズ・ソウルと、ダーク・ホームが隠しているローズ・スピリット。それを全て持って、月の谷に来るんだよ。」

「月の谷・・・・?・・・・っ!!!!」

リオナは、以前にもフェイターやウィキに言われた「約束の日」を思い出した。

"3回目の満月の日に、月の谷で待つ"と。

約束の日まであと2回・・・

「・・・更夜、あんたやっぱりフェイターの仲間なのか!?」

「違うよ。あんな下等な奴らと一緒にしないでくれないかな。」

更夜の表情が一気に不機嫌になる。

「ただ、君には悪いけど、フェイターの力が無ければ神を復活させて殺すことができないからね。だから、フェイターたちとの約束の日までに、その中身を空っぽにしてきてね。その前に僕が迎えに行くけど。」

拒否権はないよと言わんばかりに、更夜はリオナに背を向けた。

そしてマントを被り、リオナの横を通り過ぎる。

「あとの詳しいことは、君のココロが完全に失くなったら話すよ。とにかくリオナが今やるべき事は、約束の日まで生き抜くこと。」

死ねと言ったり、生きろと言ったり・・・・最終的には死ねと言うのだろうけど。

「それじゃあ残りの"人生"を・・・いや、"ペナルティ"を楽しんでね、リオナ。」

「・・・・どこに行くの?」

この場からいなくなろうとする更夜を、リオナは思わず止める。

「やだな、リオナとの契約を果たしに行くんだよ。ウィキとB.B.を助けにね。忘れないで。それじゃあ、"約束の日"に会おう。ああそれと、この契約について他言は許さないからね。」

そう言って、更夜は姿を消した。

それと同時に、リオナの体から力が抜け、倒れそうになる。

緊張が解けたせいか、力が入らない。

「・・・・、・・・・マーシャ・・・マーシャ起きてよ・・・っ」

揺さぶっても、マーシャは眠ったまま。

悲しみが込み上げる。

もし、このままマーシャが眠ったままだったら・・・・

その時、部屋の襖が勢い良く開いた。

『リオナ・・・!!!大丈夫か!?』

「・・・シキ!!」

シキはリオナの姿を見つけると、ホッとしたのか少し笑みを見せた。

しかし、倒れているマーシャを見て、すぐに表情を変えた。

マーシャに駆け寄り、体を揺さぶる。

『マーシャ!?おい!!・・・リオナ何があったんだ!?すごい音がして地面が揺れ始めたから何事かと思って来てみたんだが・・・・っ』

リオナは一瞬言葉が詰まる。

本当の事・・・話せない。

俺が更夜と取引したなんて、絶対に言えるわけがない。

「・・・・・・・わかん、ない」

『・・・・リオナ?』

小さく震えるリオナにシキはどこか違和感を感じる。

『更夜の姿が見えないが・・・どうなってるんだ?』

「・・・・」

全く答えようとしないリオナに、シキは若干の苛立ちを覚えたが、今はそれどころじゃない。
それよりも先にこの屋敷からの脱出が優先だと判断した。

『・・マーシャは俺が運ぶ。リオナ1人で歩けるか?』

「・・・・うん。」

『この屋敷何かおかしい。早く出るぞ。』

「・・・・シュナは?」

『シュナはルナを探してる。先に行くぞ。』

シキはそう告げると、マーシャの肩を担ぎ屋敷の外に向かう。

屋敷の揺れは止まったが、空間が歪んでいるかのように、視界がグニャリと曲がっている。

今にも崩れるのではと、足を早めた。

『シキさん!!!』

すると後ろからシュナの声が聞こえ、2人は振り返った。

シュナが走ってこちらまでやってきたが、ルナの姿が見えない。

『シュナ!ルナはどうした!?』

『ど、どこにもいないんです・・・・!!!!』

『・・・更夜と一緒にいなくなったということか』

更夜からまだ何も話を聞けていないのに・・・・っ

と、シキにしては珍しく、舌打ちをした。

3人は屋敷を飛び出し、門を抜けた所で足を止めた。

リオナはそっと自分達が走ってきた道を振り返る。

「・・・・ない」

『え・・・?』

リオナの言葉に、シキとシュナも振り返る。

『な・・・・っ』

言葉を失った。

更夜の屋敷が無くなっていたのだ。

まるで最初から屋敷などなかったかのごとく、そこには緑生い茂る森があった。

『化かされたか。』

シキは深いため息をつき、近くの草原にマーシャを横たえた。

マーシャの状態にようやく気がついたシュナは、驚いてシキの顔を見た。

『え・・・!?マーシャさんどうしたんですか!?』

『さぁな・・・リオナが何か話してくれれば分かるんだが』

明らかに怒りを含んだシキが、嫌味のごとくつぶやく。

『り、リオナ?何があったの?』

「・・・・・・・・わからない」

『リオナ、本当に分からないのか?俺にはそうは見えないが。』

『し、シキさん・・・リオナも今混乱して・・・・』

『・・・・いつまでも甘えるんじゃないリオナ!!!!』

いつになく厳しくリオナを責めるシキに、
シュナは恐怖からか何も言えなくなる。

リオナも眉を寄せ、俯きながらこぶしを握りしめていた。

「・・・・更夜と、契約・・・した」

『契約?何を?』

「・・・・マーシャの病気を治して欲しいと」

シキは目を見開いた。
驚きと、呆れと、怒りが入り混ざった複雑な表情をしている。
その契約に伴うリスクを、シキは知っているからだ。

『なんてことを・・・・!!!病気を治す代償はなんなんだ・・・!!』

「それは・・・・」

"自分の心"という言葉が出てこない。

本当の事を全部話したいのに、声が出ない。

更夜が言った"他言は許さない"とはこのことか。
契約で話せないようになっているということか・・・・

リオナは再び黙り込み、苦い表情を浮かべる。

『リオナ話してくれ・・・!!!更夜が何の見返りもなくマーシャの病気を治すことはない!!何かを引き換えにしたんだろ!?何をしたんだ・・・!!!』

「・・・・ごめんシキ、話せないんだ」

『俺たちは仲間だろう!?なぜ話せないんだ!!!それにマーシャはどうしたんだよ!!!!』

今にもリオナに飛びかからんとするシキを、シュナは必死に押さえる。

『し、シキさん落ち着いて下さい・・!!!!』

『離せシュナ!!!リオナは何もわかってない・・・!!!お前が犠牲になって病気を治されたってマーシャが喜ばないことくらいわかってるだろう!?』

「わかってるよ・・・!!!!わかってるけどどうしようもないんだ・・・・!!!!!全部話したくても話せないんだよ・・・!!!!シキこそなんでわかってくれないんだ・・・・!!!!!」

『わからないさ!!!!お前もマーシャも大切だからわからない!!!!!』

シキがリオナの肩を掴んだ瞬間、
地面に横たわっていたマーシャがピクリと動いた。

『マーシャさん・・・・!!』
『マーシャ!!』

言い合いは一度中断し、
3人はマーシャに駆け寄る。

「ん・・・・っ、イテェ・・・・」

「マーシャ・・!!」

リオナはマーシャが無事目覚めた事に安堵すると、気が緩んだのか涙を目に浮かべた。

マーシャはゆっくり体を起こすと、周りを見渡していた。

「あれ・・・・?俺なんでここに・・・シキもシュナも、何て顔してやがる。」

『馬鹿者が・・・・!心配させるな!』

『マーシャさんよかったです・・!!!!』

見たところ、マーシャに特に異常は無いようだ。

リオナはギュッとマーシャに抱きつく。

「良かったマーシャ・・・!怪我はない?どこか変な所は?」

「・・・・!?」

しかしリオナの問いかけに、マーシャから返答がない。

リオナはふと顔を上げると、
マーシャはリオナを見て目を丸くしていた。
口をポカンと開けたまま、固まっている。

「マーシャ・・・・?」

「・・・・お前、誰だ?」

マーシャの口から飛び出した言葉に、リオナは固まる。

「だ、れって・・・・」

「いやいや、誰だよお前。」

いつもの冗談?
最初はそう思った。でも、明らかに様子が変だ。

『やだなぁマーシャさん!こんな時に冗談はよして下さいよ〜!ね、リオナ!』

「は?リオナ?お前らはこいつ知ってんのか?」

"こいつ"・・・・

「つーかいつまで引っ付いてんだよ。離れろガキンチョ。」

「・・・・っ、ごめ、ん」

急いで体を離すリオナ。

マーシャの言葉一つ一つが残された心に突き刺さる。

『マーシャ・・・お前、記憶喪失か?』

「シキ、お前こそ大丈夫かよ。」

『リオナを忘れたのか!?』

「リオナってそこのガキか?忘れたも何も元々知らねぇよ。」

"ガキ"か・・・・
参ったな。

リオナは理解してしまった。

更夜が言っていたあの言葉を。
"ペナルティ"の意味を。

マーシャの中に、今、俺は全く存在していない。

だって更夜が、
マーシャの中から、"リオナ"という記憶事態を消去してしまったのだから。

「シキもシュナもおかしいぞ?」

『おかしいのはマーシャさんです・・・!!!ここに来たのもリオナのためでしょう!?』

「違うだろ。ローズ・ソウルを破壊する方法を更夜に聞きに来たんだろ?」

『そ、それはそうですけど・・・・』

シュナは必死に言葉を紡ごうとするが、中々出てこない。

そこにシキが苦い表情を浮かべて、マーシャの肩を掴んだ。
まっすぐにマーシャの瞳を見つめて。

『マーシャ・・・お前、リオナを今度こそ胸張って愛するために、ケリをつけにここに来たんだろう?!』

そんな真剣なシキをバカにするかのように、マーシャは鼻で笑った。

「はっ!お前らが大丈夫かよ!誰が誰を愛すって?俺がこのガキンチョをか?ないない!だってそもそもこいつ男じゃん。俺女苦手だけど、さすがに男を抱く趣味ねーよ!抱くなら女だ。」

その言葉で、恐らくシキもシュナも確信しただろう。

マーシャの中で、"リオナ"が存在していないという事に。

「・・・・マーシャ」

いくら呼んでも、もう、彼は帰ってこない。

"リオナ"を愛してくれたマーシャは、もういない・・・・。

これが・・・・ペナルティ、か。

心を全て、奪ってくれていたら・・・・
こんな苦しまなくて済んだのに。

自分はなんて・・・・愚かなのだろう。

「・・・・はは」

リオナの口から、小さな笑いが零れでる。

いっそ自分で、心を壊してしまいたい。
二度と悲しみを感じずに済むように。


第十四章 Replica Doll


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