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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story06 精霊の森



「ねぇさっきの手紙には何が書いてあったの?」


「ん?魔女の居場所。」


「・・・魔女狩りって?」


「だぁかぁらぁ魔女を狩りに行くの。」



リオナとマーシャはサンダーカウンティーをあとにし、
月のない夜空の下を再び歩いていた。


「・・・・それって・・・殺すってこと・・?」


リオナは眉を寄せる。



「あははっ。違う違う。なんつぅかなぁー・・・どっちかって言うと"捕獲"かな?」


「捕獲?」


「実はな、その魔女っていうのは光妖大帝国の捕虜だったんだ。でも二ヶ月前に光妖大帝国から逃げ出したって情報が入ってな。んで今問題ありすぎの光妖大帝国に渡すわけにはいかないから、俺たちが先に捕まえちまえってハナシ。」


「ふぅん。」


―・・・・なぁんだ・・・大したこと・・・


「お前今大したことないとか思ったっしょ。」


「・・・・・!!」


マーシャはいやらしく笑う。


「チッチッチ。甘いな。俺はなぁこのその魔女の捕獲の為にずっと世界を走り回ってたんだぜ!?しかも途中で化神退治やら何やらやらされてよぉ・・。ホームにも帰れてないってのぉ・・・・。」


マーシャは苦労を思い出し、
目を潤ませる。


「・・・・・・・てかなんでそんなに苦労してんだし。」


「うーん・・・・逃げ足が速いっていうか隠れるのがうまいっていうか。俺が近づくと怖がって逃げちまうんだよ。まぁ今はリオナもいるしやっと魔女の居場所がわかったから結果オーライってことよ。」


―・・・俺使うのかよ。


リオナ思わず心でため息をついた。








二人は道に沿って歩いていたが、
マーシャは突然道からはずれて草むらを歩き出す。


「ちょっと・・・どこ行くの?」


リオナは足を止め、マーシャに呼びかけた。


「どこって、こっち。」


マーシャはキョトンとした表情で答える。


「だって・・・道はこっちだよ?」


「お前知らないのか?」


「・・・・?」


マーシャは髪をかきあげ、
腰に手をやり、ポーズを決める。

「男は自分で道を切り開く生き物さっ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。あっそ。」


リオナはマーシャを置いて、
さっさと草むらを歩いていく。


「ちょっとぉリオナくーん。今俺メッチャ体張ったんですけど。って聞いてるぅ?あっリオナ君。そっちじゃなくて右ね右。」


リオナはクルッと振り返った。


何でもっと早くに言わない・・・・


と目で訴える。

というか睨みつける。


「・・・あのさぁ何を根拠に歩いてるの・・。」


「ん??ああ星だよ。」


「星?」


リオナは空を見上げる。

今日の空にはたくさんの星が輝いていて、
時間がたつのを忘れてしまいそうなくらい綺麗だった。


「あそこに青く輝く星。わかる?」

「うーん・・・」

リオナは目を細めて、
マーシャが指差す方向を見た。


確かに小さくだが、
一際青く輝いている。


「すごく小さい・・・。」


「実はあれは星じゃないんだ。」


「えぇ?じゃあなに?」


「あれは"精霊痕"っていって、精霊たちの住む森の位置を示してるんだ。精霊たちはみんなちょくちょく移動するんだ。しかも森ごとね。」


「・・・・大胆だね」


「そうなんだよ。しかも精霊たちもさ、移動しすぎて自分たちの森の位置が分からなくなるんだ。だから移動するたびに空に痕跡を残すんだ。それが"精霊痕"。」


「・・・面倒だね」


「俺なんてさぁ、昔砂漠を歩いていたわけよ。そしたら突然周りに木や草が生えだしてな。なんと精霊の森になってたんだよ。アレにはビックリした。」


―・・・き・・・気まぐれすぎる上、迷惑だ・・・


「・・・・・で、精霊の森と魔女狩りとどう関係あるの?」


「実は魔女は精霊の森に隠れてるんだ。」


「・・・!じゃあ精霊たちが移動するたびに魔女も移動してたってこと?」


「そーゆーこと。俺の苦労わかった?」


「うん。お疲れ。」


「どーも。」


二人は青く輝く小さな星を目指してひたすら歩く。


マーシャによると、
精霊の森はここからそんなに遠くないらしい。


そこで(マーシャの独断で)
"徹夜で歩いて、そのまま魔女を捕まえて、さっさとホームへ帰ろう大作戦"を決行中。


絶対ムリといっても、
マーシャはひとりで突っ走る。


まぁいつものことだが。


だんだんと辺りも明るくなり始め、
リオナはたった一夜が一生のように長く思え、
サンダーカウンティーの出来事が遠い昔のように感じるほど長く歩いた。


すでにリオナの目も半分閉じかけている。


しかしマーシャはピンピンしていた。
むしろどんどん元気になっていっている。


「・・・そんなにダークホームに帰りたいの?」


「そりゃ帰りたいさ。あそこが俺の家だからな。」


「・・・・・そっか」


「・・・いっとくけどこれからはお前の家でもあるからな。あそこはいいぞ?何でもそろってるし皆いいヤツばっかだし。・・・・・・・たまにイヤな奴もいるけど。」


リオナは未知の世界に目を輝かせる。


「へぇー楽しみだなぁ・・・」


「おう楽しみにしとけ。あと風呂は気持ちいいぞぉ?あそこのお湯はだなぁ・・・・ってあれ?リオナ!?」


今までマーシャの横を歩いていたリオナが一瞬でいなくなった。


マーシャは驚いて周りを見渡す。


しかし、少し道を戻ってみると、
リオナは草村の中で寝息をたてて眠ってしまっていた。


「ははっ・・・こんなとこで寝やがって。」


マーシャはリオナを起こさないように
そっと体を持ち上げて背中に乗せる。


リオナの体の軽さに驚き、思わず口を開けた。

「・・・・お前はまだこんなに小さいのにな・・・色んなもんを抱えすぎなんだよ・・・・。」


マーシャは血に染められたあのクリスマスの夜を思い出す。




リオナが冷たくなった弟を



熱い炎の中



血塗れの手で必死に抱きしめている光景を・・・




―・・・俺は・・・お前に何をしてやれるのかな・・・。



マーシャは背中にいるリオナの頭をそっと撫でて、
再び歩き出した。



















あれ・・・・ここどこだ・・・?

目の前には・・・・

あっマーシャだ。


しかしマーシャはエプロンをし、右手にはフライパン、
左手には卵を持っている。


"マーシャ"


"リオナ!!俺・・・・突然だけどダークホームやめるわっ!"


"はっ!?なんで!?"


"俺は世界一を目指すんだ・・・!!"


"エ゙ッ・・・な・・・何の・・・?"


"それは・・・世界一のオムライス職人だぁぁぁぁぁ!!"










「オ・・・・・・・オムライスぅ!?!?!?」


リオナはビックリして飛び起きた。
しかしすぐに違和感を覚える。


あたりは木に囲まれていて、
日光が木の葉で緑色をしている。


草むらには花がいっぱい咲いていて、甘い匂いが鼻についた。


どうやら森で寝ていたようだ。


「・・・・あれ・・?・・・夢・・・?ってうわぁ!!なんだこれ!!!」


目の前には何人・・・いや何匹もの妖精が飛び交っていた。


小さい人間がパタパタと羽を動かしている。


「・・・・よ・・・・妖精・・・・」


まさか想像上の生き物が
こんなにいるなんて・・・・。


リオナは開いた口がふさがらない。


すると一匹の妖精がリオナに近づいてきた。


「お主!!目を覚ましおったか!!」


羽の生えた小さな老人。


しかも話す。


「しゃ・・・・・・・しゃべったぁぁぁぁ!!!!!!!!!」



リオナは驚きのあまり、
妖精をかき分けながら森を走り抜ける。


―・・・なんなんだあいつらはぁぁぁ!?!?


リオナは無我夢中で走りすぎて、
何かにぶつかって尻餅をついた。


「いっったぁぁ・・・」


「おっと悪かった・・・・・ってリオナじゃん。おはぁ。」


ぶつかったのはマーシャだった。


すると彼は黒いエプロンをして、
右手にはフライパン、左手には卵を握っている。


その姿から、リオナはさっきみた夢を思い出した。


「ま・・・・マーシャ!!」


リオナは思わずマーシャの膝に抱きついた。


「!?お・・・・おい。どうしたよ。」


リオナは抱きついたまま、
潤んだ目をマーシャに向ける。


「マーシャ・・・・!もしかしてオムライス職人になるつもり!?」


マーシャはキョトンとした顔をしてリオナを見る。


「はぁ?何言ってやがる。俺はスーパーヒーローだぜ?なんでオムライスに一生を捧げなきゃなんねぇのさぁ。」


「・・・じゃ・・・じゃあなんでそんなカッコしてんのさぁ・・!!」


リオナはいっそう目を潤ませながら、
マーシャの着ている黒エプロンをつよく引っ張った。


「あぁこれ?これは今から精霊の皆さんにごちそうを作ろうと思ってさ。」


そういってすでに出来上がったオムライスをリオナに見せる。


「・・・精霊?・・・・あっ!そうだマーシャ!!あっちにたくさんの妖精がいたんだ!!しかもしゃべるんだ!!」


「妖精?」


「妖精じゃない。わしらは精霊じゃ!」


すると突然マーシャの肩に、
先ほどの小さな老人が現れた。


「で・・・・でたぁぁぁ!!!!!」


リオナはマーシャの後ろに隠れる。


「しっ・・・失敬な小僧だな!!」


「すいませんねぇ。アイツ小さい人との接し方をまだ知らないんですよぉー。」


「・・・・お主もバカにしとるのか・・?」


「いやいや。むしろあなた方の移動の回数とかすごく尊敬してますよぉ?」


「・・・・・・・・。」


二人の間に火花が散る。


「・・・ねぇ・・・」


リオナはマーシャの陰から呼びかけた。


「あっわりぃわりぃ。こちら精霊の森の長老様。」


「よろしく小僧。」


「・・よ・・・よろしく・・。」


「言っておくが妖精じゃないからのう。」


「・・・・?どう違うの・・・・?」


「妖精は想像上の生き物じゃ!」


―いや・・・・あんたらもだろ・・


するといきなり、
リオナの周りを三匹の精霊が取り囲んできた。


「・・・!?」


精霊は三匹とも女の子。


キャーキャー言いながらリオナの頭に乗ってくる。


「カワイイ〜!!」


「なにこの子メッチャいいや〜ん!」


「やだ私のよ!」


三匹がリオナの頭の上で暴れ出す。


「コラコラやめんかい!!ったく・・・相変わらず面食いじゃのう。いい加減離れんかい。」


長老が言うなら仕方がないと、三匹は頬を膨らまし、
リオナから離れた。


解放されたリオナはホッとして、
深いため息をついた。


「だってぇ〜そこのコックさんは相手してくれないんですものぉ〜!」
「むしろ除け者扱いするしぃ!」
「このクソコック!」


「はぁ?俺コックじゃないし。クソでもないし。俺は女が嫌いなだけだし。リオナ、これ運んで。」


「うん。」


「ほらそこの奴らも。」


「女の子を使うなんて」
「サイテー」
「最悪!」


「はいはい。なんとでも言え。」


全く見向きもしないマーシャにますます頬を膨らませながら、
三匹の精霊達はしぶしぶマーシャの手伝いをする。


「・・・リオナ・・・基本的に精霊はワガママだから気をつけろよ・・・」


「うん・・・」


二人は心に刻みつけた。













「ん〜うまいのう!!お主精霊の森の専属コックにならんか?」


「だぁかぁらぁ〜俺はコックじゃないの。」


精霊達との食事は、
なんとも異色。


一皿を何十人で食べたりする。


しかしリオナはあることが引っかかっていた。


それは、どうしてマーシャが明らかに相性の合わない精霊達に、料理を振る舞っているのか。


少なくともマーシャはそこまでお人好しではない。


「ねぇマーシャ。もしかして、これは取引?」


「・・・よく気付いたな・・・・。魔女の居場所が知りたければ料理を振る舞えって言ってきてな・・・。ったくやなヤツラだぜ・・・。」


「・・・・まったくだね」


しばらくすると精霊達は、お腹いっぱいになったせいか、
木の上で眠り始めた。


長老も大きな欠伸をすると、
眠そうに木に登ろうとする。


しかしマーシャの手が長老を捕まえ、
長老は顔の前まで連れてこられた。


「おいジジイ・・・てめぇ約束はどうした・・・?」


普段あまり怒らないマーシャが髪を逆立てている。


相当な怒りと疲れがたまっているようだ。


「・・・・!?はて・・・なんじゃったかのぅ?」


とぼける長老にマーシャは握る手に力を込める。


「へぇ・・・・そうやってとぼけられるのも今のうちだぞ・・・・」


マーシャが自身の黄色の目を真っ赤に染めた。


これはマーシャの中の悪魔が出てきた証拠。


「はうっ・・・!!わかった!!わかったから放してくれ!!」


「・・・・早く言え・・・」


長老は苦しそうに指を東に向けた。


「こ・・・・この先じゃ・・・・!」


マーシャは悪魔を引っ込め、
長老を解放した。


解放された長老は苦しそうに喉を抑えてマーシャを睨みつける。


「最初からそうすりゃいいんだよ。長〜老。」


「あ・・・・悪魔め・・・・!!」


「否定はできないな。行くぞリオナ。」


スタスタと歩いていくマーシャの後をリオナは追う。


マーシャは軽く舌打ちをし、
ため息をついた。


「ったくよぉ・・・危うく絞め殺すとこだったぜ。」


「確かに。あのまま長老が話さなかったら取り返しのつかないことになってたよ。マーシャの目、ヤバかったもん。」


「ははっちょっとビビらせただけだよ。ったく手間とらせやがって。さっさと魔女連れて帰るぞ。」


―・・・マーシャ・・・すっごい機嫌悪・・・・。


一瞬だけ、マーシャの悪魔が見えた気がしたリオナだった。






二人は森を東へ進んでいく。

進むにつれて、地面に花が増えていく。


空気もピンと張り詰め、
まるで神聖な領域に足を踏み入れたかのようだ。


すると急に視界が明るくなり、


中央の方には花畑が見えてきた。


そしてそこに座る一人の人影。


マーシャはやっとの思いで辿り着いた"獲物"を前にして、
口元をニヤつかせた。


「リオナ。気ぃ引き締めていけよ。こんな機会めったにないからなぁ。」


「うん。」


二人は深呼吸をする。


そして光がさんさんと降り注ぐ領域へと足を踏み入れていった。


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