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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story126 愛を捨てる人形


ここへやってきてから、
もう大分たった。

いつになったらリオナに会えるのか。

いつになったら、自由を手に入れられるのか。

それとも・・・・

僕は騙されているのかな・・・・


『はぁ・・・・』

部屋の窓から外を眺め、
ウィキは深いため息をついた。

毎日同じ部屋で同じ景色を見て同じ事ばかり考える。

フェイターの一員と言ったって、
何の仕事もしていない。

所詮自分は"人質"みたいなものなのだろう。

早くリオナに会いたい。

リオナに会ったら何を話そう。

また、笑ってくれるかな・・・・。

リオナの事を考えただけで、
顔が綻ぶ。

しかしそれと同時に、罪悪感が込み上げてくるのだ。

本当にこれでいいのか。

リオナを傷つけているのではないか、と。

リオナは僕が知らない"リオナ"になってしまっていて、リオナにはリオナの世界が出来上がってしまっているかもしれない。

僕はそれを壊してまでリオナと一緒になろうとしている。

でも、それって本当にいい事なのかな?

僕は、僕はただ・・・・もう一度リオナと暮らせればそれでいい。
けどそれってやっぱりワガママなのかな・・・

考えれば考えるほど、
悲しくなってくる。

でもね、わかってるんだ。

僕がやってることがリオナにとって最善ではないことくらい。

だけど、もう引き返せない。

もう1人になるのは嫌だ・・・・怖い。消えたくない。

こうやって、黒い自分が日に日に大きくなっていく。

そんな自分が嫌いで・・・・怖くて、
僕は泣く。

涙を流せば、
黒い自分も流せる気がして。

『ぅっ・・・・ぁぁぁ』

孤独が襲ってくる。

逃げても逃げても足を掬われる。

ああ、イヤだ・・・・

リオナ・・・助けて。

「ウィキ?!ウィキ目を覚ますんだ!」

その時、
名前を呼ばれながら身体を揺すられ、
ハッと目を覚ました。

目の前にはキッドがいた。

整った顔を歪ませ、
僕を見つめている。

「大丈夫?どこか、痛い?」

涙を流す僕に、キッドは優しく話しかけてくる。

彼はいつも僕を助けてくれる。

こんなに醜いココロを持った僕に、
まっすぐ向き合ってくれる。

『き・・・・きっど・・』

僕はキッドにギュッと抱きついた。

そうすればキッドも優しく抱きとめてくれて。

僕の瞳から再び涙が溢れ出す。

「キミの泣き声が聞こえたものだから、慌てて部屋に飛び込んじゃったよ。」

『ごめん、ね・・・・心配、かけちゃっ、て・・』

「いいんだよ。辛かったら泣けばいい。俺が全部受け止めるから。」

そう言って、頬に優しくキスをしてきた。

恥ずかしくて、
僕はキッドの肩に顔をうずめる。

「ウィキ、大丈夫だよ・・・君を1人にはしないからね。」

言葉にしなくとも、キッドは僕の気持ちをわかってくれる。

情けなく泣く僕を支えてくれる。

本当に、フェイターらしくない。

でも、そんな彼は好きだ。

『ありがとう・・・・もう、大丈夫。いつも・・ごめんなさい。』

「大丈夫だからね。何かあったら、すぐ俺に言って。どんなことでもいいから。遠慮なんかしちゃダメだよ。」

『うん、ありがとう。』

僕が笑いかけると、
キッドは素早く顔をそらしてしまった。

何か、まずかっただろうか。

「じゃ・・じゃあ、行くね☆」

そう言ってキッドはそそくさと部屋を出て行ってしまった。

『・・・・』

最近、キッドの態度が少しおかしい。

前まではチャキと同じように、
弟を可愛がるようなそんな扱いを受けていたが、最近は少し違う気がする。

まず、部屋に遊びに来てくれなくなった。

チャキを迎えにくる時と、今みたいな時以外は全く来なくなった。

「何かあったら、すぐ俺に言って」と言うのに、
会いにきてくれなければ言えない。

僕の行動範囲は限られているから・・・・。

あと、キッドのしゃべり方に、おちゃらけた感じが無くなった。

チャキや他の者には語尾に☆がつくのに、
僕の時はあまりつかない。

何か・・・キッドの気に障ることでもしてしまったのだろうか。

毎日のように泣く僕に愛想を尽かしたのかもしれない。

そう考えると、また悲しくなってきた。

唯一の心から話せる人だったのに・・・・。

ボロボロ零れる涙を抑えるように、
ウィキは枕に顔を押し当てた。

もういっそ、消えてしまったほうが楽なのかもしれない。

そう思ってしまうほど、
ココロは沈み切っていた。


















「はぁ・・・・参ったな」

キッドはウィキの部屋を出て、会議場に向かっていた。

今からフェイター率いる光妖大帝国軍隊の会議が開かれるのだ。

カイの付き添いとして、
キッドも参加することになっている。

しかし、頭の中はウィキでいっぱいだ。

何をしていても、ウィキが頭に浮かんできてしまう。

彼は大丈夫だろうか。
今、何をしているのかと。

まるで依存症だ。

この病名は、
わかりきっている。

だけど、ダメなんだ。

この病気を認めてしまえば、
俺は後戻りできなくなってしまう。

しかもカイにまで警告されてしまった。

"・・・・あまりウィキに肩入れをするようなら、お前にはもうウィキに会わせない。"と。

カイの信用を失ってまで、貫き通す想いではない。

ないはずなのに・・・・

「俺はどうかしてる・・・・」

だから最近は、
なるべくウィキに会わないようにしていたのに、今日は我慢できずに部屋に踏みこんでしまった。

毎日聞こえてくる彼の泣き声に胸が締め付けられる。

俺はついつい彼に「何かあったら、すぐ俺に言って」と言ってしまった。
彼を避けているくせに。

結局、どちらも捨てられていないんだ。

カイの信頼も、ウィキへの想いも。

「・・・・・・・・」

「おい、キッド。何をしている。」

「ええ、はい・・・・なにも・・・・ってカイさん!?」

キッドは驚いて飛びのいた。

悩みの渦中の1人が突然現れたからだ。

「時間だ。早く行くぞ。」

「は、はい」

カイは訝しげな表情を浮かべ、先を行く。

キッドも慌ててそれに続いた。

「・・・最近、ウィキの部屋に入り浸ることが無いようだな。」

ウィキという言葉に、
キッドは再び心臓を跳ね上げる。

「ええ、まぁ・・・・」

今、この話題は避けたかった。

ウィキへの想いを隠しきれない気がして。

「ほう・・・・どういう風の吹き回しだ?あれだけベッタリだったのにな。今度は距離をとるなんて。」

「俺はカイさんに・・・・いいえカイ様に俺の忠誠を信じていただきたく、貴方の忠告を受け入れただけです。」

「ああ、お前の忠誠心は俺が一番知っている。」

・・・・当たり前だ。

カイさんは・・・・いや、この男は俺のたった1つの"弱み"を握っているのだから。

「不満そうだな。」

「ま・・っさかぁ〜☆そんなことないですよぅ。」

ほんの一瞬、
カイの目の色が変わった。

しかしキッドは気づいていない。

「・・・・なぁキッド。お前には少し悪いことをしたようだな。」

「へ?何言ってるんですか☆寧ろ俺の方がカイさんに心配かけちゃってすみません。」

「違う。」

するとカイは足を止め、
キッドに向き直った。

「お前はいつでも俺を信頼してくれてるのに、俺はお前を疑ってしまった。お前が、俺を裏切るのでは、とな。」

"裏切る"

今まで、一度も言われたことがなかった。

だから余計にズシッとのしかかってくる。

自分が抱いたウィキへの想いがどれだけ浅はかだったか、
今になってよくわかった。

「すみません・・・・」

「謝るな。俺も悪かった。だからお前を信用して、一つ頼みたい事がある。」

何だろうか
この曖昧な、不安定な気分は。

何かあるような。

でもこれは信頼を取り戻すチャンスでもある、はず。

キッドは背筋を伸ばした。

「はっ、何でしょうか。」

「ウィキを連れてリオナに会いに行け。そして、3回目の満月の日までに、リオナを連れて来い。」

「!?」

キッドの唇が震える。

想定外の命令に、動揺を隠せなかった。

だって、

俺とウィキを引き離したのは・・・・貴方じゃないか。

なのに何で・・・

「何故だと言いたい顔だな。これはお前を信頼しているからこそ、頼むんだ。まぁ、無理にとは言わない。元はアシュールの仕事だったからな。」

「アシュールさんは・・・・行かれないのですか」

「あいつは"王"だ。王に容易く国を離れられては困る。」

だからと言って、なんで俺を・・・・。

"信頼している"からだって?

嘘に決まっている。

これは・・・・罠だ。

いや、試されている。

「カイさん・・・・折角のお心遣いなのですが、俺は出来ません。」

「ほう・・・なぜだ。」

「俺は・・・」

言うんだ。

言わないといけない。

俺に選択の余地なんてないんだ。

感情、欲望、自由
阻むものはすべて捨ててきた。

だって、俺は守らなければならない。

"約束"を・・・・そして、"チャキ"を。

「俺は、貴方の僕であって、アシュールさんのではない。俺が従うのは、貴方自身の言葉のみです。」

その瞬間、
全身から大切な何かが抜けていった気がした。

残ったものは・・・・なんだろう

「ふっ・・・・さすがは俺が見込んだ男だ。」

カイの顔に満面の笑みが浮かんだ。

これで・・・・よかったんだ。

・・・・これで

「この仕事は他の奴に頼む。では、いくぞ。」

「はい・・・・」

ケジメが付けられた筈なのに
大切なものを守れた筈なのに

心が晴れることは
なかった。














キッドは会議を終え、
重い足を引きずるように部屋に戻った。

なんだか今日はいつもより疲れた。

部屋に着くと、
そのままベッドに倒れこむ。

しばらくそのままでいると、
ふとチャキのことを思い出した。

そういえば今日は一度も会っていないが、
元気でいただろうか。

自分の部屋にちゃんと戻っただろうか。

いつもだったら様子を見に行くが、
今日は・・・・もういい、疲れた。

ああ、不思議だ。

フェイターになってからは、
一度も"本当の自分"を曝け出したことはないのに。

いつも明るく振舞って、
決してこんな姿は見せなかった。

今日は・・・・もう無理。

それもこれも、全部・・・・ウィキのせいだ

彼に会わなければ、
こんな事にならなかった。

でも、まだ間に合う。

まだ、フェイターとしての"自分"に戻れる。

「俺はフェイターだ・・・・フェイターなんだ。この国を・・・・故郷を潰した、フェイターなんだ。」

もっと悪を・・・・残酷さを・・・・




その時、
部屋の扉をノックする音が聞こえた。

キッドは顔を上げ、時計を見る。

すでに23時を過ぎている。

こんな時間に誰だ。

きっと、カイやアシュールではない。

2人なら勝手に上がり込んでくる筈だ。

もしかして、チャキか・・・・?

眠れないのだろうか。

キッドは体を起こし、
扉に向かった。

笑顔を作らなければ。

チャキのためなら・・・・

「・・・・よしっ☆」

いつもの様な笑顔を作り上げ、
扉を開けた。

「はぁ〜い☆どうしたぁ?チャ・・・・」

しかし、その笑顔も一気に固まってしまった。

「な・・・・ウィキ?」

目の前に居たのは、自分より頭2個分背が低いウィキだった。

驚くキッドに対し、ウィキ自身も何故か驚いている。

「ウィキ・・・・ここで何をしてるの」

キッドは笑みを消し、真剣な眼差しでウィキを見つめた。

今、一番会ってはいけない人物だ。

ケジメをつけたばかりだからこそ、
苛立ちが募る。

ノコノコと会いにくるウィキに対しても、
すぐに気持ちが揺らぎそうになる自分に対しても。

『え、えっとね・・・・キッドに・・・話が』

少し怯えるように、
ウィキは呟く。

そういえば、ウィキはこちら側の塔への立ち入りは禁止のはず。

危険を侵してでも来たっていうのか。

もしバレたら・・・・仕置き程度では済まない。

「・・・・帰りなさい。」

少しキツイ言い方かもしれないが、
こういうしかなかった。

これが、今、彼に与えられる最大の愛情だ。

『で、でも』

しかし、ウィキも引こうとしない。

その時、ウィキがふと俺の腕をつかんだ。

ドクンドクンと、一気に脈打つ。

『キッド・・・・僕、どうしても・・・』

ダメだ・・・・ダメだダメだダメだダメだダメだ

そして俺は全てを振り切るように、
ウィキの手を思い切り叩き払い、
怒鳴りつけてしまった。

「帰れって言ってんだ・・・・!」

『・・・・・・・・!!』

乱暴するつもりはなかったのに。

ああ・・・・イヤだ。

ウィキを傷つけてしまった。
自分が憎い・・・憎い

言ってから後悔するなんて・・・・

『・・・・』

ウィキは目を見開いたまま、立ち尽くしている。

俺が思い切り叩いてしまった手が真っ赤になっている。

今までに見たことがないくらい、
傷ついた顔をしていた。

泣くのか・・・・な。

泣いてウィキの気が済むなら、それで良かった。

でも、
ウィキは泣かなかった。


むしろ、笑ったんだ。

辛そうに・・・・笑みをこぼしたんだ。

『ごめんねキッド・・・・僕、本当はキッドに謝りたくて、ここに来たんだ・・・いつも、迷惑とか、心配かけちゃって、ごめんなさいって・・・・。』

迷惑・・・・だなんて、

違う・・・・違うよ・・・・ウィキ

『・・・・僕、馬鹿だから自分の悪いところとか分からなくて・・・・最近キッドが笑ってくれないから、キッドに嫌われちゃったかなって思って・・・直接キッドに、僕の嫌な所を聞いて直そうと思って来たんだけ、どね・・・・それで、ぁ、の・・・』

その時、
ウィキの瞳から、
一筋の涙が零れ落ちた。

笑っているのに、
瞳からは次から次へと静かに涙が流れ落ちていく。

彼がどれだけ俺を想って悩んでいたのか、初めて思い知らされた。

「ウィキ・・・・俺は・・・」

自然と、ウィキに手が伸びる。

違うんだよ、ウィキ・・・・俺は・・・君の事が・・・・

しかし、キッドのその手は届くことはなかった。

ウィキはビクッと体を跳ねさせ、
キッドの手を避けるように、一歩身を引いたのだ。

さっき・・思い切り叩いから・・・・

『ごめ、なさ・・・もう、迷惑、かけな、いよ・・・1人でも大丈夫、だょ・・・キッドに、イヤな思いも、させないから・・・・』

涙を拭い、ウィキは再び笑った。

胸が、締め付けられる。

『嫌な思いさせちゃって・・・・本当にごめんなさい。もう・・・・会いに、来ないね・・・・・・・』

そう言って、
ウィキは駆けて行った。

「待ってウィキ・・・・!!」

走り去って行くウィキに手をのばす。

届く筈が無いのに

キッドは、呆然とただ、
ウィキが消えて行った暗闇を見つめていた。

ああ・・・・傷つけた。ズタズタに・・・・

彼は、俺を、俺だけを信用してくれていたのに
・・・・それを、俺はぶち壊したんだ。

彼のココロと一緒に。

「何をやってるんだ・・・・俺は・・・!」

自分の本当の気持ちに背を向けて、
彼の気持ちからも目を背けて。

いつか本当に大切なものを、
失ってしまうのではないか。

でもきっと、本当に大切なものでさえ、
分からなくなってしまうのだろう。





















「あーあ。兄さんも悪い男だね。」

「何がだ。」

「キッドとウィキを無理矢理引き離すなんて。」

夜中の12時を迎えた頃

アシュールとカイは、
久々にカイの部屋で兄弟揃って酒を飲み交わしていた。

全てが上手く運んだことに
満足げにカイは笑った。

「キッドに愛なんて必要無い。あいつはただ、自身の姉と交わした"約束"という名の呪いに縛られ、チャキを守るために俺の奴隷でいればいいんだ。」

「相変わらず残酷。兄さんはキッドしか信用してないもんねー。」

「は、信用なんてしてない。アイツもただの駒さ。ただ、他の奴より従順で使いやすいだけだ。」

カイが命令すればなんでも従う。

だが、カイ以外の命令は一切聞かない。

従順な犬よ・・・・

「それにウィキとキッドが愛し合って一番困るのはアシュール、お前だろう?」

酒を飲み干し、
次々に酒を開けるアシュールは、
「まぁね」と口元を引きつらせた。

「ウィキを生き返らせたのは彼に新たな人生を謳歌して欲しかった訳じゃない。彼はリオナの心を破壊する、最高のオモチャだからね。」

「やはり、ウィキを殺すのか」

「当たり前でしょ。リオナの前でウィキをグッチャグチャに殺すんだよ。ウィキがウィキだって分からないくらいに。兄さんもヤる?」

「ふん・・・・気色悪い祭りに俺を巻き込むな。だが・・・・」

普段、カイは酒で酔うことはないが、
今日は気分が良いせいか酔いが回ってきたようだ。

「・・・・あの双子をとことんいたぶってやるのも悪くない」

「でしょー!兄さんもようやくわかってくれたんだね。」

飲んで飲んでとアシュールがカイのグラスに酒をつぐ。

「・・・とりあえず、俺がウィキを連れてリオナに会いに行く。」

「やっぱり俺が行っちゃだめなわけ?」

「ああ、ダメだ。」

「ケチー」

そう言って、頬を膨らませた。

全く可愛くない。

「ところで兄さん。もし、"ウィキを連れてリオナに会いに行く"っていう任務をキッドが引き受けてたら、キッドをどうするつもりだった?」

まるで子どものように目を輝かせるアシュールが、
本当に残酷に見える。

でもそんな彼の期待に答えてしまう自分が・・・

「もちろん・・・・殺処分だ。最高のシナリオを用意してな。」

一番残酷なのかもしれない。


第十三章 黄昏エンドロール

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