【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story125 それぞれの使命
[はぁぁあ!?俺がマスター代理だと!?ふざけんな!]
夜中の3時頃。
静まり返るダーク・ホーム内マスタールームから、
突如ナツの怒声が響き渡った
。
同じ部屋にいたビットウィックス、シキ、シュナは3人揃って両手で耳を塞いでいる。
[意味わかんねぇ!断固拒否だ馬鹿野郎!ちゃんと説明しやがれクソビットウィックス!]
「だからね、私は今から魔界に帰るんだよ。しばらくは帰ってこれない。あとシキとシュナも数日後から留守にするから君にこのダーク・ホームを任せたいんだよ。」
ニコニコと笑うビットウィックスに対し、
ナツはまさに鬼の形相だ。
[だったらリオナの方が適任じゃん!ダーク・ホームで今一番強いのはアイツだ!]
「ほぅ、認めるんだね。」
[うっせぇ!]
「でもリオナはまだダメだよ。彼はまだ調整中。ふふっ、彼が完全復帰するのが今から待ち遠しいよ。」
気持ち悪いやつだと、
ナツは呆れてため息をついた。
話にならないと思ったのか、
今度はシキに訴えかけてきた。
[じゃあ、あの変態でもいい!]
「マーシャのことか・・・?残念だけど無理だ。マーシャはドクターストップが出てる。戦闘が起きたら指揮をとれない。」
[そんなに・・・・体調悪いのかよ。]
「ああ・・・。」
ナツは何か考えるように黙り込んだ。
おそらく、
何がなんでもマスター代理をやりたくないのだろう。
「クスクス・・・・ナツも悪あがきはやめたらどうだい。ちなみにラードやユリスもダメだからね。」
[はぁ!?なんでだよっ!]
「彼らはまだ長期任務から帰ってないし、帰ってきても少し休ませてあげないと。」
[んだよ・・・!はぁぁぁぁぁぁやりたくねぇぇえ!!]
ナツの盛大なやりたくない宣言に、
三人は再び耳を塞ぐ。
[大体なんでこんな時にお前ら留守にするんだよ!!意味わかんねぇ!]
「私は父上に話があってね。」
[ふん!なぁ〜にが話があるだ!どうせサタンを殺しに行くんだろ!]
「おやおや。バレてしまったか。」
[おやおや。じゃねぇえよ!何やらかすつもりだっ!]
「それは私のモノマネかい?似てるね。」
[そこはいいんだよそーこーは!!]
「まぁ、父上の力を手にするにはこの方法しかないからね。そんなに代理が嫌なら君も一緒にくるかい?」
[バカ言うな!]
ナツはもちろん、
ビットウィックスも一歩も譲る気はない。
だからいつまでたっても埒があかないのだ。
[じゃあこうしようぜ。俺がシキとシュナの仕事を引き受ける。だからてめぇらが代わりに残れ。]
ビットウィックスが無理だとわかれば今度はシキとシュナが標的になる。
やれやれ・・・・とシキは肩をあげた。
「ナツ、俺たちの仕事をお前に任せる訳にはいかない。」
[どうゆーことだよ]
「俺とシュナの仕事は・・・護衛だ。リオナとマーシャのな。」
[だったら尚更俺が・・・・ってアイツらどこ行くんだよ!?]
「大事な用事なんだ。悪いがナツでも他言できない。だがあの2人はただ用事があるから出かけるわけじゃない。」
シキは眼鏡を外し、
胸ポケットにしまう。
「話は少し逸れるが、近日中に世界政府からの奇襲がある。」
[はぁ!?ダーク・ホームにか!?]
「ああ。いつかはわからん。だがこれは初めから仕組まれていた罠だ。世界政府がダーク・ホームに攻め入ることで我々の戦力を落とすだけではなく、フェイターの侵入を可能にしてしまう。もちろんフェイターが侵入する目的はローズ・ソウルとローズ・スピリットの略奪。それだけではなく、リオナもだ。」
[リオナ・・・・?]
「彼らはリオナを神の器にするつもりなんだ。」
[なんだよ・・・・それ!]
「だから、リオナをダーク・ホームにいさせる訳にはいかない。マーシャもフェイターから命を狙われているからな。そのため2人を一時避難させなければならないんだ。これは2人には黙っておいてくれよ。知ればここに残ると騒ぐだろうから。・・・・まぁそうは言うもののフェイターの侵入は許せない。その為にマスターはお父上の力を手にするために・・・・手を打ちに行くんだ。そしてそれまでの間、ダーク・ホームを守るためにナツに力を貸して欲しいんだよ。」
シキの真剣な眼差しに、
先程まで怒鳴り散らしていたナツも不機嫌そうではあるが、
小さく頷いた。
すると、
今まで黙っていたシュナが口を開いた。
「ナツはリオナをダーク・ホーム1だと言うけれど・・・・今の状況ではリオナよりもナツが一番だ。ナツがマスター代理を嫌がる気持ちもわかるよ。荷が重いし・・・・。でもね、さっきも言ったように、今、このダーク・ホームを守れるのはナツだけなんだ。俺たち使用人じゃ無理なんだ・・・守りたくても、無理があるんだよ。」
シュナの想いが、
ナツの心に染み込んでゆく。
偽りのない言葉がナツの心を締め付ける。
「それにね、リオナとマーシャさんの護衛って言っても、ただの護衛じゃない。万が一、敵に襲撃された時は、命を捨ててでも2人を守らなければならないんだ。ナツは大事なダーク・ホームのエースだからこそ、この仕事を任せられないんだよ。」
"ナツに身代わりとして死なれては困る"
その想いは伝わったが、
今度はやりきれない気持ちも込み上げてくる。
万が一の時はシキとシュナが身代わりになるわけで・・・・
きっとリオナとマーシャには知らされていない真実だろう。
リオナとマーシャはこんなことを望んではいない。
知れば間違いなくダーク・ホームに残ると言い出すだろう。
「だからナツ・・・・お願いだよ。俺たちにできないことを、ナツがやり遂げて。」
優しく諭すシュナに、
ビットウィックスは小さく拍手を送る。
シュナの説得のかいあってか、
ナツは最後に盛大なため息をつき、
わかったよ。とつぶやいた。
[・・・・やりゃいいんだろ。まぁ、俺不死身だし。]
「ナツ〜!」
嬉しさのあまり、
シュナはナツに抱きついた。
[ったくよ〜・・・・その代わり、全員ちゃんと・・・・ちゃ、ちゃんと・・・・]
ナツは顔を真っ赤にさせ、
再び大きな声を発する。
[ちゃんと帰って来いよ!?言っとくけど別に淋しいとかそんなんじゃねぇからな!俺にダーク・ホーム守ってやった礼を言いに戻って来いってんだ!!と・・・・特にシュナぁ!てめぇ偉そうに指図しやがって!お前弱いくせに何が護衛だ!!死んだら腹抱えて笑ってやるからな!だからぜってぇ帰って来い!リオナと変態もちゃんと連れて帰って来いよ!?アイツらには倍にして返してもらうからな!!]
フンッ!!
と鼻息荒く顔を背けるナツに、
3人はポカンと口を開けてしまう。
しかし、
しばらくしてクスクスと笑い声が漏れ出した。
「ははっ!ナツ、ちゃんと帰ってくるからねっ!」
[つーかテメェはいつまでくっついてんだ!離れろ!]
「ふふっ。ツンデレってやつかな。ナツは何のお土産がいいんだい?サタンの首?」
[んなもんいらねぇよッ!!しかもツンデレってなんだよ!]
「マスター、ナツには休暇をやるのが一番かと。」
[ほー、シキわかってるじゃん。終わったらたっぷり休ませてもらうからな!!]
なんだかんだ言って、
ナツは引き受けてくれる。
それが彼の良い所だ。
[で、マスター代理って何をするんだ?]
「何にもしなくていいよ。」
[はぁ?なんだよそれ。]
「君には何か問題があった時に対処してもらうくらいだよ。だって下手に仕事されて後で困るのは私だしね。」
仕事を任せたいのかそうでないのか、いまいちわからない。
「とりあえず、ナツには世界政府戦に備えてもらいたい。この勝負がダーク・ホームの命運を分けるからね。」
[もちろんテメェもサタンの力を手に入れてちゃんと間に合うように戻ってくるんだろうな?]
「予定では、ね。まぁもし私が戻らなかった時は死んだと思ってもらって構わないよ。その代わりに父上がここにいらっしゃるだろうけど。そうなったらフェイター対悪魔対人類っていう血みどろの争いの幕開けになるだろうね。」
笑顔でサラリと言いのけるビットウィックスに、
さすがのナツも呆れてなにも言い返せなかった。
「ま、そうならないようにはしとくから安心してよ。世界政府との戦闘体制は何パターンか用意しといたから帰り際にでもシュナから受け取って。では、私はそろそろ出発するよ。」
そう言ってビットウィックスは立ち上がった。
シキがすかさずコートを羽織らせ、
さらに武器と思われる剣を2本差し出した。
ビットウィックスの表情はいつになく穏やかで、
今から実の父親を殺しに行くとは思えない。
まるでそれが義務であるかのようだ。
以前、
ビットウィックスは実の母親であるディズを自らの手で殺めている。
彼は一切感情を出さなかったが、
一体何を思い、何を感じているのだろうか。
[おい・・・・ビットウィックス]
「なんだい?」
[お前は、なんでそんなに・・・・]
途中まで言いかけ、
ナツは言葉を飲み込んだ。
"なんでそんなに辛い選択をするんだ"
悪魔なら悪魔らしく、
サタンのごとく貪欲に、
人間界を支配してしまえば楽なのに。
でもきっと、
彼はこう言うだろう。
"これが自分の運命だから"と。
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