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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story124 溶ける、繋がる


元気に出て行くクロノスを見送り、
今更になって本当にクロノスに任せて大丈夫かと心配になってきた。

というか、
なんで俺が心配しなければいけないんだ。

まるで親だな・・・・

「はぁ・・・ガキはキライだよ。」

「・・・・じゃあ俺もキライ?」

すると、
突然後ろから首元に抱きつかれ、
少しくすぐったくなった。

ビックリして座ったまま顔を上げればリオナがいた。

「まさか。リオナはガキじゃないじゃん。」

「・・・・でも俺もガキだった」

「リオナは可愛い可愛いお子様だったよぉ」

「・・・・ふーん」

疑わしいといった目を向けるリオナを引き寄せ、
向き合うように自分の膝に座らせた。

「てかどこ行ってたの?」

「・・・」

「あ、もしかしてヤキモチ?クロノスが俺に抱きついてきたから」

「・・・・わかってるなら言うな」

「かーわいーリオナ。」

リオナをギューッと抱きしめる。

するとリオナは肩に顔を埋めてきて。

なんだかくすぐったい。

そのままリオナを抱えてソファーに移動し、
リオナを上に乗せたまま寝転がった。

本来ならリオナも19歳の青年だが、ルナの力でカラダは17歳のまま。

それでも、この体の軽さは異常だ。
そこらの女より軽い。

腰の細さなんてリオナの圧勝だ。

もうリオナのカラダは女の規格で作られてるんじゃないかと思ってしまう。

「・・・・ちょっと、どこ触ってんの」

「どこって、腰。色っぽい腰してんなぁ〜って痛!!殴るなよ!」

「・・・そんなことばっか考えてるから悪いんだ」

ふんっとそっぽを向いてしまうリオナに思わず苦笑を浮かべる。

透き通る銀色の髪に手を延ばし、
機嫌を直してと思いを込めて髪をすく。

その時ふと、
あることを思い出した。

ダンとモナ・・・・2人のことを。

「まさかリオナがダンとモナの息子だったなんてな・・・運命ってすごくないか?」

そう言うと、
リオナも顔をようやくこちらに向け、
小さく笑った。

「・・・そうだね。俺もビックリした。マーシャと両親が一緒に暮らしてたなんて。」

「まぁ、3年だけだけどな。」

「・・・長さなんて関係ない。マーシャと父さんと母さんは家族同然だよ。」

「そう言ってもらえるとは。なんか嬉しいな。なぁ、2人はどんな親だった?」

「・・・父さんも母さんも、すごくバカだった。」

「ウソだろ。え、ホントに?」

「・・・・本当だよ。母さんはすごい明るいけどドジで、父さんは変なことばっかりするし。いつまでも新婚気分だし。マーシャの過去で見た2人はまるで別人だった。いや、もしかしたら俺が見てた2人の方が別人なのかも。」

「意外だな。モナはともかく、ダンは俺が憧れたクールなイケメンだったのに。」

「・・・そんなにクールだった?」

「リオナとそっくりだよ。本当。」

「・・・・それよくトラ婆に言われた。俺は父さん、ウィキは母さんにそっくりだって。もしマーシャがウィキに会ったら惚れちゃうかもね。」

「あ〜、またヤキモチやいてる。これ以上可愛いこと言うと襲うぜ」

「・・・だって、そうでしょ」

「なに心配してんのさ。確かにモナのことは大好きだった。だけど、リオナはそれを上回るくらい好きだよ。もし、モナより先にリオナに出会ってたら、確実にリオナに惚れてた。」

「・・・どうかなぁ」

「あれ、信じてない。」

「・・・信じるよ。」

「本当に?」

「・・・うん。部屋に隠してるエロ本全部処分したらね。」

イタズラっぽく笑うリオナを、
思わず襲いたくなってしまう。

マーシャはガマンして出かけた手を引っ込めた。

「わ〜かったよ。そのかわり・・・・それなりにリオナを可愛がらせて、ね。」

耳元で囁けばリオナの顔はみるみる真っ赤になって。

あー・・・・ホント大好き。

「それにしても、リオナとウィキは正反対なんだな。一回だけ、あのバルドとかいうジィさんちで見たことあったけど、2人とも顔が同じだからどっちがどっちだか全然わからねぇ。」

「・・・・マーシャが最初に会ったのはウィキだよ。垂れ目だし、いつもニコニコしてるからすぐわかる。」

「ってことはよ、リオナがニコニコしてるってことか。」

「・・・・は?」

「だから、リオナがニコニコしたらウィキになるんだろ?顔一緒だし。」

「・・・・なにその期待の目は。言っとくけど、笑わないからな。」

「ぇえーケチ!」

「・・・・ケチで結構。」

マーシャがムスーッとしていると、
突然、リオナの表情が暗くなった。

「どうしたリオナ」

「・・・あのさ、聞いて欲しいことがあるんだ」

どうやらヤキモチでもなんでもないらしい。
なんだか深刻そうだ。

「話してごらん」

上半身を起こし、
リオナの頬に手を添える。

「・・・もしかしたら、俺の勘違いかもしれないんだけど」

ためらいながら、
リオナは言葉を選ぶように話す。

「ウィキが・・・・生きてるかもしれないんだ。」

一瞬、空気の流れが止まった気がした。

だって、
リオナの弟は

ウィキは
死んだはずだ。

俺自身もこの目で見た。

だが、
「リオナの勘違いだよ」
なんて簡単には言えない。

「なんでそう思うんだ?」

すると再びリオナは黙り込み、
しばらく沈黙が続いた。

言えないことなのか、
あるいは口止めされているのか・・・・

どちらにせよ、
俺は知りたい。

俺に頼って欲しい。

「リオナ、怖いのか?不安なのか?」

「・・・・わかんない」

「話してみな。大丈夫、俺がついてる。」

そっとリオナの額に自分の額をくっつけると、
リオナは少し安心したかのように、
目を伏せた。

「・・・昔よく、白い部屋にいる男の子の夢を見るって話したの覚えてる?」

「もちろん。顔がわからないってやつだろ?」

「・・・・そう。最近また見るようになったんだ。でも前とは違う。今はハッキリと見える。」

「どう、見えるんだ?」

なんとなくだが、
予想はできていた。

「・・・・ウィキだ。ウィキが、いるんだ。」

ああ、やっぱり。

もしかしたらこれは罠かもしれない。

以前、
フェイターのビンスが話していた。

フェイターのトップであるアシュールは、夢を操り人の心を壊す、と。

「・・・・日に日にウィキは夢から現実に近づいてきてる。ちゃんと成長もして俺と同じ歳だし・・・・アシュールに生き返らせてもらったと言っていた。それに、ウィキはもしかしたら、ダーク・ホームに・・・・俺のすぐそばにいたのかもしれない。」

どういうことだ?

ウィキが、ダーク・ホームにいたってことか?

「・・・・ダーク・ホームにフェイターたちが侵入してきたとき、アシュールが"実験体"を抱えていた。ベンがダーク・ホームでずっと実験してたっていう・・・・その時・・・・よくわからないけど、感じたんだ・・・ウィキを」

確かに、
あの時アシュールは、コートに身を隠しフードをかぶった"人間"を抱えていた。

化神の実験体にしては扱い方が丁寧で、妙な点がいくつもある。

「それで?」

それで、
リオナはどう思うんだ?

「リオナ自身は・・・・信じてる?」

「・・・・夢なのか現実なのか、わからないよ。だけど・・・もし、生きてるなら・・・・・・・」

リオナは真っ直ぐな目で、
ハッキリと言い放った。

「会いたい・・・・会って、ウィキを連れ戻したい。」

ああ、俺はなんて最低の人間なんだ。

リオナの今の言葉に、
「これは罠だ。罠に決まってる。」
と言いたくてたまらないなんて。

たとえこれが罠じゃなくとも・・・・

リオナにウィキを会わせたくない。

だってリオナは・・・・ウィキを愛している。

それが兄弟愛だとわかっていても、不安なんだ。

俺とウィキ、どちらかを選べと言われたら、リオナはどっちを選ぶのか。

俺を捨ててウィキの元へ行ってしまうのではないか。

そんなことまで考えてしまう。

リオナは俺のものであり、
俺もリオナのものでありたい。

これが俺の"独占欲"だ。

だけど・・・・ウィキは
リオナが本当に大切にしている弟だ。

悔しいけど・・・・

ここで俺のわがままを出してどうする。

それに俺はリオナを信じたい。

「リオナ、正直今の情報だけじゃなんともいえない。」

少しキツく言ってしまっただろうか。
リオナの表情が一気に暗くなった。

落ち込んだのがハッキリわかる。

「でも、リオナがそう言うなら俺は信じる。リオナの大事な弟は、俺の大事な弟でもあるからな。」

「マーシャ・・・」

「だから情報を集めよう。話はそこからだ。だけど、その前にお前の中に眠る狂気を押さえつけるのが最優先だからな。」

リオナは今にも泣きそうに顔を歪ませると、
ギュッと抱きついてきた。

リオナが今まで背負ってきた闇が、
なだれ込んでくる気がして。

それを受け止めるように俺もリオナを抱きしめた。

「不安だった・・・・マーシャが、信じてくれないんじゃないかって。」

そう言われて、
少し胸が痛んだ。

自分の欲が出て、
すぐに信じてやることができなかった自分が恥ずかしい。

「大丈夫だ。俺は絶対リオナを信じるよ。ただあんまりウィキのこと考えてると、俺ヤキモチ妬くからな」

「・・・・うん。大丈夫だよ。どんなこと考えてても、マーシャのことを真っ先に考えるようになっちゃったから」

たったその一言で、
俺の気持ちが高揚した。

だって、今の言葉って、
ウィキより俺を考えてるってことでしょ?

あのリオナが、
ずっと俺を考えてくれてる。

さっきまで自分は何を落ち込んでいたのか。

そもそも、
リオナがウィキと俺を天秤にかけるなんてことはしない。

どちらか選べと言われた時は・・・・きっとどちらかなんて選べないはず。

それがリオナだ。

なのに俺は・・・本当に恥ずかしい・・・・。

「リオナ嬉しい・・・・その言葉、信じていい?」

「・・・・だって本当のことだもん。おかしいね、俺病気になっちゃったみたい。」

「マーシャ病?」

「マーシャ病って・・・・なんかな」

「なんかなってなんだよっ」

「・・・さぁ」

「ふーん、まぁいいや。」

リオナをぎゅーっと抱きしめた。

体が折れてしまいそうなくらい強く。

「・・・そういえば、マーシャもそっくりだったね。」

「誰に?まさか、トラ婆なんて言わないよな・・・。」

「・・・ははっ!それ面白い」

久々に声を上げて笑うリオナを見て、
ドキッとした。

なんだか、昔のリオナみたいだ。

嬉しい。

「・・・確かにトラ婆にも似てるかも。」

「ひどい」

「・・・でもトラ婆より、お兄さんたちにそっくり。みんなお母さん似なのかな。」

「兄貴たちにか?もっとやめてくれよ」

1番言われたくない言葉だ・・・。

だって、俺は兄貴たちが嫌いだから。

好きになりたかったけど、
なれなかった。

少し不貞腐れる俺の頬に、
リオナの冷たい手が当てられた。

リオナの顔は、
困ったように笑っていて。

俺はわざと顔を背けた。

「・・・クレイ」

リオナの口から発せられた名前に、
俺は思わず反応してしまった。

いくら捨てたいと願っても、
"マーシャ"という名前を与えられても、

忘れることができなかった・・・俺の本当の名前。

それは呪いのように、俺にまとわりついている。

「リオナ、その名前はやめて。本当に。嫌なんだよ・・・リオナに呼ばれると尚更だ。」

愛する人に、
そんな名前で呼ばれたくない。

"英雄"の名前なんて・・・・

「・・・・なんで?いい名前じゃないか。」

「リオナは俺の記憶を見たからわかるだろ・・・・俺はこの名前が大キライなんだって。」

「知ってる。でも、俺は好きだよ。」

そう言ってリオナは優しく笑う。

「マーシャは知らないんだ。いや・・・・忘れてるだけだよ。」

「何を?」

「・・・・マーシャに"クレイ"って名前をつけたのは、お兄さんたちってこと。」

は・・・・え?

どういうことだ・・・・?

忘れてるだって?
忘れてるどころか俺は知らない。

「何それ、全然知らないんだけど。でもリオナが知ってるってことは、俺の頭のどっかにその記憶があるってことだろ?」

「・・・うん。でも、その記憶はマーシャがまだ生まれてすぐの記憶だから・・・・覚えてないかも。」

「そっか・・・」

なんだろう、この感情。

初めてだ。

家族のことを・・・・兄たちのことを、
こんなに知りたいと思えたのは。

「知りたい・・・・」

「・・・・本当に?」

「ああ。教えてくれ・・」

俺の知らない、リオナだけが知ってる、
"俺の過去"を。
 
するとリオナは小さく微笑み、
ゆっくりと口を開いた。

「・・・マーシャが生まれて、誰よりも喜んでたのはお兄さんたちだった。2人とも生まれたばかりのマーシャにベッタリで、本当に嬉しそうだったよ。マーシャのお父さんに、自分たちがマーシャに名前をつけたいって、どうしてもと何度もお願いしていたよ。」

「信じられねぇ・・・・だからって、あんな英雄の名前なんかつけやがって・・・・俺の身にもなれっての。」

「・・・確かに"クレイ"は英雄の名前だけど、お兄さんたちはマーシャに英雄になって欲しくて名前をつけたわけじゃないんだ。」

「じゃあ・・・・なんでだよ」

「・・・・知ってる?英雄の本当の名前は"ティーモ・ホルタナ"っていうんだ。"クレイ"というのは大魔帝国の人々が勝手に呼んでる愛称だ。そもそも"クレイ"って言葉は、昔使われていた魔術言葉で、"自由をつかむ者"という意味らしい。大魔帝国ができる前、魔族と鬼族の争いが絶えずに人々は常に指導者の管理下にあった。でもティーモ・ホルタナが魔族と鬼族を統率し、大魔帝国を築き上げたことで人々に多くの自由が与えられた。だから人々は自由をもたらしたティーモ・ホルタナを"クレイ"と呼んだんだ。」

「じゃあ兄貴たちは?なんで俺に"クレイ"って」

「・・・マーシャには自由に生きて欲しかったからだよ。後継ぎとして生まれてきたマーシャに、ご両親の意思に反してでもマーシャはマーシャの好きなように、思うままに生きて欲しかったんだ。」

なんでだよ・・・・なんで

俺は兄貴たちが大キライだ。

大キライなのに・・・・

なんでこんなに悲しいんだ

「・・・お兄さんたちが亡くなったあの日、マーシャはお兄さんたちに言われた言葉、覚えてる?」

ああ、
忘れるわけがない。

忘れられるわけが・・・・

だって、
あの言葉が
唯一の肉親の最後の言葉だったのだから。

「"クレイ、愛してる。"って・・・・」

ああ・・・・今更気がつくなんて・・・

俺はなんて愚かなんだ

「・・・お兄さんたちは知っていたんだ。あの日、自分たちが死ぬことを。きっと爆発の魔方陣を仕掛けたのも、お兄さんたちだ。」

「兄さんたちが・・・・親父たちを?なんで殺したんだ。自分たちの命まで捨てて・・・」

「それほど、2人はマーシャのことを愛していたんだよ・・・・2人はマーシャを無下にする両親が許せなかったんだ。だからマーシャをパーティに連れていかなかった。」

なんで、気がつかなかったんだ・・・・

兄貴たちはいつだって、
俺を1番に心配してくれていた。

あの時の俺は、
捻くれた考えしかできなくて・・・・

兄貴たちに守られていたなんて知りもしなかった。

両親から"自由"を勝ち得たのは自分の力じゃない・・・・兄貴たちのおかげだなんて

「自分が・・・・恨めしい。」

兄貴たちに・・・俺は何も伝えられなかった。

本当に、自分はなんて愚かなんだ。

思わず、涙が溢れ出る。

悲しみと、嬉しさの涙が。

「・・・泣かないでマーシャ」

「無理・・・とまんない」

「・・・ごめんね、泣かせるつもりなんて無かった。ただ、知って欲しかったんだ・・・マーシャにもちゃんと、"家族"がいたってことを」

そう言って、
リオナは俺を力強く抱きしめた。

それにすがりつくよう、
俺もリオナを抱きしめた。

「いい兄貴だったんだ・・・・わかってたのに、俺は捻くれてた。自分に腹が立つ」

「・・・・マーシャの想いは、ちゃんとお兄さんたちに伝わってる。大丈夫。」

過去のしがらみから、
一気に解放されていく。

改めて、
リオナを愛おしいと思う。

「ありがとう、リオナ。今は、お前が俺の"家族"だ・・・・愛してる。」

「・・・・俺もだよ。」

ようやく、2人の間から壁が消えた気がした。

お互いに抱えていた不安や過去

すべてが混ざり、溶けてゆく。

額をコツンと合わせ、
2人してクスクス笑った。

なにも可笑しいことは無いけれど、
この一瞬一瞬が何よりも幸せだったんだ。



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