[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story118 儚い花々


"シキ、お前そんな顔してるとキスされるぞ。あはは。そんな怒るなってぇ。"

マーシャの第一印象はハッキリ言って最悪だった。

一言で表すと
"バカ"

俺より歳下のくせに生意気で。

こんな奴が、
なんで俺と同じ部屋なんだってマスターに訴えたくらいだ。

でも、
一緒に生活するにつれてわかったことがある。

マーシャは誰よりも真っ直ぐな愛を持っている。

周りはそうは思わないかもしれない。

なんてったって、
世界一の面倒臭がりだから。

でも、
マーシャは繊細だ。

感情に敏感で誰よりも情熱的。

それでいて、どこか儚げで。

常に何かを背負いこんでいるような・・・・

一緒にいなければわからないことだ。

俺はいつのまにかマーシャにのめり込んでいた。

たぶん、
マーシャは俺にとっての親友。
まぁ、手がかかる弟みたいなものだ。

とはいうものの、
マーシャは本来の姿を見せることは少ない。

普段の性格のほぼ大半が捻くれているからか、
他人を寄せ付けないし、
自身も寄り付かない。

気を許した相手は少ない。

ほら、
こーゆーところが繊細でもある。

そんな彼が、
幼い子供を連れて帰ってきた時は本当に驚いたものだ。

女と子供が大嫌いなのに、
どこぞの女と子供をこしらえたのかと噂が絶えなかった。

しかし、よく見れば顔が全然違う。

マーシャはマーシャで整った顔立ちをしているが、
その子供は白く、なんというか、美しかった。

"なんかさぁ、放っておけないんだよねぇ〜"

そう呟くマーシャ自身、
なぜ連れてきたのかわかっていなかった。

でも俺はすぐにわかった。

この子とマーシャは似ている。

人を拒絶するような雰囲気といい、
雪のようにすぐに消えてしまいそうなくらい儚げなところとか。

きっとマーシャは、
その子"リオナ"に自分自身を重ねていたのかもしれない。



リオナは素直な子だ。

素直で真っ直ぐで、
マーシャに似ているようでそうでもない。

まだ幼かったのに泣きもしないし駄々もこねない。

誰よりも大人びていた。

逆に、
それが怖かった。

子供らしくないのは、
きっとリオナ自身がどこかで自分自身を抑え込んでいたから。

辛くても、
苦しくても、
決して表に出そうとしない。

いつ、
リオナが壊れても不思議じゃなかった。

何を考えているのか、
今、どんな気持ちなのかとか、
全然わからない。

そう、
まるで感情がない人形のよう。

でも、
そんな彼の心を動かしたのが、
マーシャだった。

リオナはマーシャがいるだけで、
命が吹き込まれたかのように表情豊かになる。

マーシャはきっと、
優越感に浸っていたに違いない。

だってリオナの自慢話ばかりしていたから。

マーシャがリオナを好きなのはわかっていた。

ただ、それが恋愛感情ではないと思っていた。

恐らくマーシャ自身も。

"シキ、俺ね、本気でリオナが好きなんだ"

そう言い出したのは、
リオナが17歳になって、
ムジカと出会った頃。

きっと、
この頃から、
リオナに抱く特別な感情に気がつき始めたのかもしれない。

でも、
リオナにはムジカがいて。

マーシャだったら欲しいものは何がなんでも手にいれそうだが、このわけのわからない感情では、無理やりにでもリオナを引き寄せることができなかったのだろう。

この感情を消し去るように、
マーシャはリオナとムジカの幸せを願って応援した。

けれど、
ムジカが亡くなったことで、
全てが変わった。

リオナは精神的に弱くなった。
臆病というかなんというか・・・・

マーシャ自身も体を壊し、
以前よりも陰の部分が強くでてきている。

そして糸を引くのは互いの過去。

俺はマーシャの過去も、
リオナの過去も詳しくは知らない。

リオナはきっと、
未だに亡き弟に心を悩ませている。
マーシャにも決して口にすることはないが・・・・

マーシャに関しては、
ルナと昔何かがあったくらいしかわからない。

けれど、
マーシャが未だに過去を引きずっていることくらいは分かる。

こうなってしまった今、
リオナにはマーシャが、
マーシャにはリオナが必要だった。

お互いに何かを抑え込んでいたが、
ようやく壁が崩れ、
2人は素直にお互いを愛していることに気がつけたんだ。

しかし結局、
マーシャの過去が邪魔をした。

マーシャの過去は、マーシャを縛り付け、
今もなお深い傷、強い怨念としてマーシャの心に居座り続けている。

でもまさか、
マーシャの過去がリオナをここまで傷つけるとは思ってもいなかった。

"モナ・・・・愛してる"

その一言が、どれだけリオナを傷つけたことか。

リオナの涙を見て、
いても立ってもいられなかった。

マーシャを殴ったのは、
リオナの分の怒りを込めて・・・・

だけど本当は、
目を覚まさせたかったから。

お前が今愛しているのは、
リオナだろ?

だったら、早く来い・・・・マーシャ

でないとリオナは・・・・













「こんな所にいたのか・・・・リオナ」

走り去るリオナのあとを急いで追ったが、すぐに見失ってしまい、シキはダーク・ホーム中を探し回っていた。

もしかしたらダーク・ホームの外へ行ってしまったのではとも考えた。

ダーク・ホームと外界を繋ぐ扉を管理しているのはマスタールーム。

そこで、リオナがダーク・ホームを出て行ったか記録を確認するため、
マスタールームを訪れたのだが、
なんとリオナはビットウィックスのプライベートルームにいたのだ。

プライベートルームとは、マスター専用の部屋であり、使用人でさえなかなか入ることが許されない特別な場所である。

その部屋の主、
ビットウィックスが爽やかな笑顔で俺をプライベートルームに迎え入れた。

「シキ、静かにだよ。リオナを起こさないようにね。ようやく眠ったから。」

泣きつかれたのか、
リオナはビットウィックスのベットで小さく丸くなって眠っている。

目元は赤く腫れ、
見ているだけで心が引き裂かれそうだ。

「でもなぜ、あなたのプライベートルームに?」

しかもベットまで使わせるとは珍しいことこの上ない。

「たまたま会ったんだよ。宴会から帰る途中にリオナが走ってきてね。ぶつかりそうになって肩を軽くつかんだら泣いてるものだから。美人の涙は放っておけないよ。」

ビットウィックスの口調は冗談か本気かわからない。

たとえ本心だとしても許せてしまうのはなぜだろう。

「話を聞こうと思ってマスタールームに連れてきたんだけど、別に仕事の話じゃないからねぇ。オフだしプライベートルームで話そうと思ったんだけど、思ってた以上に静かに泣くものだから。どうすればいいかわからなくて。とりあえず背中を撫でていたら眠ってしまったよ。それにしても可愛い寝顔だね。」

悪魔のプリンスもなんら人間と変わりがない、ということが初めて証明された気がする。

シキは少し感動を覚えた。

「ところで、リオナを泣かせたのは君かい?」

「まさか。俺はそんなひどい男じゃないです。」

「じゃあマーシャか。」

「・・・・よくわかりましたね。」

「だって、リオナとマーシャは恋仲なのだろう?」

"恋仲"という言葉になんだか恥ずかしさを覚える。

2人は恋仲なのだろうか。
きっとはたからみればそうなのだろう。

けれどマーシャに言えば、
"そんなもんじゃねぇ!それ以上だ!"と言うに違いない。


「とにかく、リオナをこんなに泣かすなんてマーシャはひどい男なんだねぇ。ちなみに原因はなんだい?」

「原因はマーシャが過去に好きだった女の名前を・・・・ってさりげなく聞かないでくださいよ。俺もサラッと言っちゃったじゃないですか。」

「上手いだろう?これでも尋問のプロなんだ。」

サラリと言ってのけるビットウィックスが恐ろしい。

「でも、まぁ昔好きだった女性を今でも引きずるなんて、とても愛していたんだねぇ。」

「マスター・・・リオナの前ですよ。」

「わかってる。でも、忘れられないくらい、今でも好きってことだろう?」

「そうですけど・・・それじゃあリオナへの気持ちは偽りだったんですか?これではただの・・・・」

その後の言葉が、
どうしても出なかった。

頭でなんとなくわかっていても、
ダメだった。

こんなこと、
あってはならないのだから。

しかし、その言葉の続きは、
意外な人物の口から発せられた。

「・・・・ただの穴埋め、でしょ。」

「リ・・リオナ!」

いつから起きていたのだろうか。

リオナはベットに横になったまま、
虚ろな目でこちらを見て言った。

「やぁリオナ。おはよう。もう少し寝ていてもいいんだよ?」

「・・・・ありがとう。もう大丈夫。」

「何か飲むかい?」

「・・・・あったかいの」

「シキ、ココアをいれておくれ」

たんたんと繰り広げられる会話に、
シキはポカンとしてしまう。

ビットウィックスはすごい。

俺だったらなんて声をかければいいかわからない。

ココアをリオナに渡すと、
リオナは一口含み、
ゆっくりと飲み込んだ。

「・・・・おいしい」

「そうだろう。これはね、ある国からわざわざ取り寄せてる特別品なんだよ。どうだい、落ち着いたかい?」

「・・・・うん。」

「では、さっきの話を聞こうかな。なんでリオナが穴埋めなんだい?私には理解できない。こんなに可愛い子を代わりにする奴が本当にいるのかい?」

まさかこんな単刀直入に聞くとは。

シキは横でハラハラしながらリオナを見る。

しかし意外にもリオナは落ち着いていて。

小さく溜息を吐くと、
ゆっくりと話出した。

「・・・・マーシャの、過去を見た。」

「マーシャの過去?」

そう言うと、
リオナは腕につけられた真っ赤なブレスレットを見せた。

「・・・このブレスレット、マーシャの分身なんだって。うなされてるマーシャの額に触れた時、突然このブレスレットが、腕が焼け落ちるくらい熱くなって・・・・マーシャの過去が頭に流れ込んできたんだ。」

「そのブレスレット、見せてご覧。」

リオナは小さく頷いてビットウィックスにブレスレットを渡そうとする。

しかし、
ビットウィックスがブレスレットに触れようとした瞬間に、
バチッと電気が走った。

「シキ、これはあれだね。守護の呪文だ。」

「はい。魔族特有のまじないですね・・・・」

「・・・・そうなの?」

「ああ・・・・この呪文はリオナが言ったとおり自分の分身を作り出すもので、最愛の者に渡すものなんだ。何かあった時、このブレスレットがリオナを守る。だからブレスレットはリオナにしか触れない・・・・」

「リオナがマーシャの過去を見たのも、マーシャの分身を身につけていたからかもしれないね。それで、リオナはマーシャの過去を見て、何を感じたんだい?」

リオナはブレスレットをキュッと握り締める。

しばらく黙ったままだったが、
ためらうように再び口を開く。

「・・・・悲しかった。マーシャがこんなに辛い思いをしていたなんて・・もっと早くに気がついてあげていれば、変わったかもしれない。でも、知らない方が・・・・よかったかも・・・」

辛そうに話すリオナを見ていられず、
シキはリオナの横に座り、背中をゆっくりなでた。

「無理して話さなくていい・・・・。」

しかし、リオナは首を横に振った。

「・・・話しておきたい。俺のためじゃない・・・・マーシャと、ルナのために。ねぇ、マーシャ」

リオナが、
マーシャを呼んだ。

リオナは扉のある方を見つめている。

まさか・・・・

振り返れば、
扉にはマーシャがいた。

いつから・・・・?

「リオナ、みぃつけた・・・・」

口元は笑っているのに、
目が笑っていない。

息を切らし、
視線は真っ直ぐリオナを捉えている。

まるで、
獣のように鋭く。

シキはリオナを庇うように立ち上がった。

まだ、リオナの気持ちが整っていないかもしれない。

しかし、
リオナは怖じ気づくことなく、
シキの横を通り過ぎ、マーシャの元に行った。

今にも泣きそうな表情で。

それでも、先ほどとは違う、
真っ直ぐな意思を持って。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!