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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story116 開いて閉じて



光妖大帝国 -判決の間-


全てが純白であるフェイターの城では珍しく、
ここは酷く薄暗い。


多くの檻が並び、
獣たちの呻き声が聞こえてきそうだ。


そんな気味の悪い場所に、
似つかわしくない騒ぎ声が響き渡る。


≪はぁぁなぁぁぁせぇぇ!!はなすのだぁぁぁぁ!!!≫


子供のような甲高い声。


誰もが恐れおののくこの場所で、
一切の恐怖心をみせない。


それは、
彼が"悪魔"であるからだろうか。


しかも、ウサギ。


≪今すぐここから出すのだ!!リオナに会わせるのだッ!仕方ないからマーシャでもいいよ!!≫


そう、B.B.はモリン=クィーガに連れられ、
光妖大帝国にまできてしまった。

天敵のフェイターの巣に。




そんな彼を目前にして、フェイターでも温厚と言われるキッド☆は、
困ったように頭をかいた。


「う〜ん、どうしようかな☆」


キッド☆は、B.B.が落ち着いたらアシュールの元に連れてこいと言われていたが、この様子では当分無理そうだ。


悪魔のくせによくしゃべる。
その上ウサギときた・・。


・・・うーん、やっぱり可愛い!!


まさか、これはリオナの趣味!?


だとしたらリオナ可愛すぎるじゃないか☆


チャキと仲良くなれそう。


「ウサちゃーん、もし静かにしてくれるならココから出してあげるよ?」


≪じゃあダーク・ホームに帰せ!!≫


「それは無理☆ねぇ、静かにしてくれれば何もしない。これ本当。ただ、このままなら痛くするよ?」


キッド☆の目つきが珍しく鋭くなる。


温厚で戦闘とは遠くかけ離れた存在に思われるが、
実際は正反対だとか。


未だ彼の"本気"を見たものはいないというほど、彼の力は未知数なのだ。


「痛いのイヤでしょ?ウサちゃん☆」


≪オイラ痛いのなんて怖くないよーだ!≫


チャキのワガママに常に笑顔で付き合っているキッド☆も、
さすがにお手上げのようだ。


「・・・仕方ないねぇ。」


キッド☆は目を細め、
折の隙間から手を中に入れる。


B.B.の体に触れるか触れないかのところで、
電気のような光を発した。


≪痛ッ!!≫


「ごめんね☆」


≪あれ、チカラが、入らないのだぁ〜・・・≫


あれだけ騒いでいたB.B.の力が、
見る見る抜けていく。


ペタンと地面に座ってしまい、
耳も垂れてしまっている。


「たぶん2時間もすれば治るから☆それまで我慢してね〜!」


そう言うと、
檻の鍵を開けてB.B.を抱きかかえた。


≪はなすのだぁ〜・・≫


「ふふっ☆かーわいー!今アシュールさんに会わせてあげるからね。」


最近機嫌が悪かったアシュールさんも、
きっと元気になるはず。


そんなことを思いながら、アシュールの部屋に向かった矢先。


アシュールの部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。


しかし、怒鳴っているのはアシュールではない。


「ありゃ、カイさんの声だ。」


また"兄弟喧嘩"かなぁ〜


と思いきや、
どうやら第三者がいるようだ。


扉をほんの少し開け、
隙間から覗き見る。


するとそこには、
ダーク・ホームで捕まったと言われていたビンスの姿があった。


机に腰掛けるアシュールの前で跪いている。


アシュールの横にはカイがおり、
いつになく眉間にシワを寄せていて。


キッド☆は3人の会話に耳を傾けた。






「・・・ビンス、では貴様はランダーに庇われた上にのこのこ帰ってきたわけか。」


「申し訳ないッス・・・でも、ランダーの仇、必ず打って見せます!ですから、もう一度チャンスを・・・!」


「・・確か、お前らにはリオナとマーシャの仲を引き裂けと言っておいたはずだが。」


ビンスは唇を噛み締め、
拳を握りしめる。


確かにリオナをけしかけることはできたはず。


けれど、
リオナとマーシャ、あの2人の絆は、
そう容易く切れるようなものじゃない。


マーシャがリオナへ送る熱い想いと、
リオナがマーシャに向ける切ない視線。


あんなものを真近で見てしまったら、尚更不可能に思える。


「・・・力は、尽くしたッス。もしご満足いただけないなら、どうぞ俺を殺してください。」


逃げ道なんて無い。


逃げるつもりも毛頭ない。


「・・・どうする、アシュール。」


カイは困ったようにため息をこぼすと、
アシュールに判断を任せた。


一応、これでもアシュールがトップであるからだ。


「うーん、そうだねぇ」


アシュールは考え込むように首を傾げ、ビンスをじっと見つめている。


「まぁ、リオナとマーシャの仲をそう簡単に裂けるなんて思ってなかったから。それにこんなことしなくたって、本当はマーシャを殺しちゃえばいいんだけどねぇ。兄さんがいつまでもマーシャを殺さないから。」


「あいつはまだ殺すべきじゃない。」


「本当は兄さん、殺す気ないんじゃないの?早く殺さないと俺がヤっちゃうからね。」


爽やかに笑いながらアシュールは残酷な言葉を放った。


「あの・・・」


すると、
ビンスが恐れ多いと言わんばかりに深く頭を下げたまま口を開いた。


「悪魔達の噂で、マーシャ=ロゼッティは病に侵されていると聞いたっス。治すことができないのか、あえて治さないのかは知りませんが・・・・」


その言葉に、
カイとアシュールは意外というような顔をした。


「・・・信憑性はあるのか」


「はい。悪魔達は素直な生き物で悪く言えば単純です。嘘をつけるほど器用じゃないッス。」


「へぇ!じゃあ放っとけば死ぬんだ。」


あからさまに嬉しそうなアシュールに対し、
カイは眉間のシワが今までにないほど深くなっている。


「・・・あいつを殺すのは俺だ。病気ごときに奪われてたまるか。」


すると突然、
アシュールはさらに嬉しそうに手をポンと叩き、机から飛び降りた。


「イイコト思いついちゃった。」


アシュールがいやらしく笑う時は、大体厄介ごとが多いのだが。


「兄さん、まだマーシャのこと殺さなくていいよ。」


「・・・なぜだ。さっきまで殺せと言っていたくせに。」


「待って待って。3回目の満月の日まで。」


「3回目の満月・・・リオナとの約束の日か?」


「そう。ふふ・・・これで駒はそろったよ」


「一体何を企んでいる・・・」


「へ?ただの"囮"だよ。」


「囮?」


「うん。今までみたいに凝ったことやってもダメだってわかったから。だから今度は単純にいこうと思う。」


いつになく自信に満ちあふれるアシュールに、誰もが不安を抱く。


「たぶんこれで、リオナは自分からコッチにくるよ。ローズ・ソウルとローズ・スピリットを持ってね・・・」


「・・それで、ビンスの処分はどうするんだ。」


「ビンスの件はもういいよ。一週間俺の部屋で書類整理してくれればね。それに、好きなんだ。」


アシュールは屈みこむと、
俯くビンスの顎を掴み、クイッと上に向かせた。


「そう・・・恨みに満ちたこの目だ。最高だよビンス。」


クスクスと笑い声を上げるアシュールの方がよっぽど狂気に満ちている。


「ゆっくり休んで、ビンス。下がっていいよ。」


「はっ。ありがとうございます。」








「あっ☆ビンスがでてくる!」


キッド☆は覗いていた扉から離れ、
ビンスが出てくるであろう扉の横で今か今かと目を輝かして待っていた。


扉から出てきたビンスは、
少し驚いたのか目を丸くしている。


「キッド☆ッスか?」


「おっかっえっり〜☆ビンス!!ああ生きててよかった〜!」


ビンスを思い切り抱きしめると、
ビンスは少し照れたように笑った。


可愛いやつだぁぁ☆


「ありがとうッス。でも、恥ずかしいッスよ。」


「いいんだよ☆大切な仲間が帰ってきたんだから!」


「"仲間"ッスか・・・」


突然声音が暗くなったビンスに、少し違和感を感じる。


「どうした?」


「いや、俺たちって、いつから"仲間"だったのかなって。」


「ふんふん、なんでまた突然。」


「ランダーが・・ランダーが俺のこと、"後輩"だって・・・」


ああ、この若者はなんて可哀想なんだ。


"仲間"という概念がわからないのだ。


ランダーが最期に残した言葉に、
困惑している。


そして、"仲間"というものに恐怖を感じているのだ。


彼は知らぬ間に、
"仲間"を求め、"仲間"の素晴らしさを知り、"仲間"を失った時の哀しみの大きさを感じてしまったのだ。


「ああビンス・・大丈夫だよ。」


キッド☆は再びビンスを抱きしめた。


強く強く、
抱きしめる。


「僕たちは出会った時から"仲間"なんだ。だから、哀しみや苦しみは1人で背負うものじゃない。」


「重いッスね・・・・仲間っていうのは。」


「うん。だけど、それ以上に素晴らしいものだって、ビンスも気付いたんでしょ☆」


「それは・・・・」


ビンスは困ったように言葉を濁す。


すると、ビンスの視線がキッド☆の腕の中にいた黒ウサギに目がいった。


「これ・・・・リオナくんの・・・・」


「そうそう☆B.B.って言うんだっけ?可愛いよね!」


「・・・・どうッスかね。俺にはわかりませんよ。それじゃあ、俺先に戻るッス。」


「うん。お疲れ様☆」


あ、話そらされた。
と今更気がついたが、仕方が無い。


今はとにかくアシュールさんにB.B.を見せなければ。


キッド☆は扉をノックした。


「アシュールさ〜ん☆お届けものでーす!」


すると「どうぞ」というアシュールの声が聞こえ、
キッド☆は部屋に入った。


「やっときたね、キッド☆。」


いつになく上機嫌なアシュールに、
キッド☆は軽く頭を下げる。


「遅れてしまってすみません。元気がよくて困っちゃいました☆」


「キッド☆でも苦労するくらいなんだ。で、例の悪魔は?」


「はい☆」


キッド☆はサッとB.B.を差し出した。


B.B.はすっかり力が抜けてしまい、声すらでない。


そんなB.B.を見て、
アシュールは目を輝かせた。


「うわぁ、これがリオナの悪魔かぁ。まぁ今はリオナ自身が悪魔だから用無しみたいだけど。」


アシュールのクスクス笑う声が耳につく。


「それにしても柔らかいね。ウサギだからか。ねぇ、兄さんも触ってみなよ。」


今まで黙っていたカイに、
アシュールがB.B.を差し出す。


「いらん・・・・。悪魔など触れたくもない。」


こちらはいつになく機嫌が悪そうだ。


おそらく、ビンスだけが帰ってきて、ランダーが死んだことが気に食わないのだろう。


困ったな☆


「もう、兄さんも子供じゃないんだから。いじけるのやめなよ。」


「お前に言われたくない・・・・それにいじけてなんかいない。」


「だったらなにその仏頂面。」


「生まれつきだ悪かったな・・・・」


仲が悪そうに見えるが、いや実際に悪いんだけれど、でもなんやかんやで仲良しなんだなぁこの2人は☆


「アシュールさんどうします?また檻に繋いでおきますか☆」


「うーん、それじゃあ可哀想かな?」


悩むアシュールの横で、
カイが小声で「そんなウサギを放し飼いにされたらたまったもんじゃない。」と愚痴をこぼした。


「まぁ、兄さんがそう言うなら。放し飼いにしよう。」


「・・・・アシュール、お前は俺に殺されたいのか」


「まっさっか〜。ただ兄さんのイラつく顔が見たいだけ。」


再び火花を散らす2人に挟まれ、
どうしたもんかと頭を悩ませる。


「じゃあこうしませんか☆チャキに預けるとかは?」


チャキは動物好きだし可愛いものには目がないからね☆


万が一ウサギさんが暴れてもチャキなら簡単に取り押さえることができる能力がある。


「俺は賛成だけど、兄さんがねぇ・・・・」


カイは絶対反対する。
キッド☆もそう思ったが、
案外あっさりと引き下がった。


「・・・・はぁ、勝手にすればいい。どうせ俺が口出ししても無駄だろう。ただし、魔封石は付けておけよ。」


魔封石とは、悪魔の力と魔族特有の魔力を封じる石だ。


もちろん、リオナのために製作されたもの。


「カイさんッ!流石です☆」


妥協をするのは大体がいつもカイさん。


兄というのも大変だ。


「じゃあキッド☆、チャキに預けといて。ただし、殺したり逃がしたり使い物にならなくしたら許さないよ。」


アシュールの表情は笑ってはいるが目が本気だ。


いくら幼いチャキでも許さないのだろう。


「りょーかいです☆チャキは俺がちゃんと見張ってます。」


「頼んだよ。」



キッド☆は早速アシュールの部屋をあとにし、
チャキを探した。


最近のチャキはキッド☆の部屋にいない。


朝から晩まで、下手したら寝る時でさえウィキの部屋にいる。


よっぽど気に入ったのだろう。


だからキッド☆もなんだかんだウィキの部屋に居座っている。


予想通り、
チャキはウィキの部屋にいた。


今日は一緒に折り紙をやっているようだ。


初め来た頃はチャキに付き合わされてウィキが疲れないか心配ではあったが、
どうやらウィキもチャキと気が合うようで。


そう言えば、ウィキが死んだのは6歳だと聞く。


見た目は青年でも、精神面はまだまだ子供なのかもしれない。


「あっ!王子ぃ〜!」


キッド☆にいち早く気がついたチャキが勢いよく抱きついてきた。


ホント可愛いよね☆


すると、少し離れたところから、ウィキがチャキとキッド☆を見つめていた。


まるで羨ましいとでも言うように。


ウィキもホント可愛い!!


というか、
ウィキは女の子みたいだ☆


顔といい体格といい。


俺の好み☆


「ウィキ、おいで☆」


キッド☆が腕を広げると、
ウィキは反射的に目を輝かせて立ち上がったが、
一瞬にして顔を真っ赤にさせて座り込んでしまった。


この照れ屋が☆


仕方なく、キッド☆はウィキの背後に回り、ガバッと抱きついた。


『うあああ!』


ビックリしたのか、可愛らしい声をあげたことに、キッド☆は大満足。


「ウィキも甘えていいんだよ?ねっ。」


『で、でも・・・・』


「アシュールさんやカイさんは厳しいけど、俺は全然気にしてないから☆」


そう言ってニコッと笑いかけると、ウィキは顔をそらしてしまった。


しかしウィキの手は、彼を抱きしめているキッド☆の腕を掴み、キュッと握りしめていた。


「うんうん☆よろしい!あ、そーだそーだ。チャキにお土産だよ。」


「なになに!?」


それだけでチャキは嬉しそうだ。


キッド☆はもったいぶるように後ろに隠し、
勢いよくチャキの前に差し出した。


「じゃじゃーん!ウサギさーん!」


「王子大好きぃぃぃぃ!!!」


チャキは嬉しそうにB.B.を抱きしめている。


ああ、カメラもってくればよかった。


「これお人形?」


「ううん。実は悪魔なんだ☆」


「えっ、悪魔!?」


一瞬、チャキは嫌そうな顔をしたが、
やはりまだまだ子供、好奇心には勝てないようだ。


興奮で目がうるんでいる。


「悪魔さーん起きて!」


耳を引っ張ったり羽を引っ張ったりするが、起きる様子はない。


「こーらこらチャキ。優しくしなきゃ☆アシュールさんに怒られちゃうよ。」


「なんでー?これチャキのだよー?」


「あーゴメン、言い忘れてたけど、チャキにあげたんじゃなくて預けたんだ☆」


「えー!欲しいぃぃ!」


駄々を捏ねるチャキは手の付けなようがない。


だから可愛い。


「このウサギさんには飼い主さんがいるからだよ☆」


「誰!?」


「リオナだよ☆」


その言葉に誰よりも反応したのがウィキだった。


しかしウィキは、チャキがいるせいか、遠慮して俯いてしまった。


「ねぇねぇ王子!!リオナお兄ちゃんくるの!?」


「そうだねー。くるかもしれないね☆」


ワザと期待させるようなことを言えば、
ウィキの顔がますます見えなくなっていく。


本当は嬉しくて仕方なくて唇をかみしめているに違いない。


逆に、ウィキにそこまでさせる
リオナが憎い。


「チャキ、せっかくだからウサギさんとお散歩しておいで☆」


「うん!行ってきまーす!」


「逃がしちゃダメだよー☆」


ヒラヒラと手を振ってチャキを見送り、
ようやくウィキと2人っきりになった。


しかし、ウィキはいつまでたっても顔をあげてくれない。


困ったな。


キッド☆はそっとウィキに近寄ると、
フイッとあからさまに顔を背けられてしまった。


なんで!?


「え、ウィキ?どうしたの?」


手を延ばしてウィキの髪をすく。


サラサラしていて、銀色の髪に光が通ると美しく輝いた。


輝きに目がないキッド☆は夢中になって髪をすいた。


しかしその時。


『やめて・・・・!』


パシッと手を弾かれてしまった。


まさか怒られるとは思わなかった。


ああ、悪いことをしてしまったみたい。


急いで謝ろうとウィキの顔を覗き込んだ。


しかし


「ぁ・・・え、ウィキ?」


彼は、泣いていた。


頬や目を真っ赤にさせて、
泣いていたんだ。


静かに涙を流す様は、
本当に、本当に、美しい。


キッド☆は思わず息を呑む。


こんな感情を抱くのは、
フェイターとなってから初めてだから。


チャキとは違う、何か・・・・


少し、一緒に居すぎたのかもしれない。


キッド☆は珍しく真顔で、
ウィキをゆっくり抱きしめた。


もちろん、ウィキは嫌がって暴れたが、
強く抱きしめると、静かになった。


「ウィキ・・・・どうしたの?」


『・・・ぃ・・・・・だっ・・・』


静かに嗚咽を漏らすウィキの背中をさする。


「ごめんね、聞こえなかったから、もう一回ゆっくり言ってごらん。」


『ぼ・・・くはっ・・・・こんな、こんなやり方・・・・ヤダッ・・・・』


ウィキがここに来てから、初めて弱音を吐いた。


だからかな、
ココロが締め付けられる。


『ぼく・・・・リオナのっ、大事、な・・・・モノ・・とりあげちゃっ、て・・・・リオ、ナを傷つけてる・・・・!!ヤダよ!ヤダぁぁぁ・・・・』


まるで子供みたいに泣くウィキ。


よしよしと身体をさすってやる。


「うん・・・・辛いよね。ごめんね、ウィキ。でも、こうでもしないと、リオナが来てくれないんだ・・・・・・・・」


『わかっ・・・・てる・・・でも、ね・・・・嫌なの・・・・アイツにっ・・
アシュールに・・・・リオナを渡すのは・・・・』


ウィキは気がついている。


アシュールさんがリオナを欲しがっていることに・・・・


きっとまだ確信はしていないんだろうけど・・


『ぼくは・・・・っぼくはどうしたら・・・・・・』


ウィキのこんな姿を目にして、
辛いと思うと同時に、喜んでいる自分がいる。


彼はこんな顔もするのかと、
愛する者のためにこんなにも涙を流すのかと。


「ねぇウィキ・・・・」


君は、何のために生き返ったの?


リオナと一緒にいたいからだよね。


でも・・・・


そんなの、つまらないよ。


「リオナじゃなくても、いいじゃないか・・・・」


リオナじゃなくたって、きっと君を大切にしてくれる人はいるはず。


例えば・・・・


「俺・・・・とか」


『へ・・・・?』


「ううん!なんでもなーいよ☆ほら、泣き止んで?」


ウィキはコクッと頷くと、
ゴシゴシと目をこすった。


ありゃりゃ、
目が真っ赤☆


「聞いてウィキ。一応、俺からカイさんに頼んでみるよ。もうちょっとナチュラルにしてってさ☆」


『ほ、ほんと・・・・?』


「ダメかもしれないけど、やってみないとね☆」


『ありがとう・・・・』


そういうと、
ウィキはギュッと抱きついてきて。


まだまだこの子も子供だなと、
少しだけ安心した。


早速カイさんに話しに行こうと腰を上げ、部屋を出ようとすると、
ウィキに呼び止められた。


『キッド・・・・』


「なんだい?」


『キッドは、フェイターじゃないみたいだね・・・・ぼく、そんなキッドが、好き・・・・』


"フェイターじゃないみたい"


その言葉が、胸につっかかる。


「そうかな?俺もウィキが大好きだよ☆」


そう言って、笑顔を振りまいて部屋を出た。


部屋の扉を急いで閉め、
壁に身体を預ける。


「フェイターじゃない、か・・・・」


キッド☆の顔からは笑顔が消え、
拳を握りしめている。


「ダメだ・・・・」


これ以上、
ウィキに関わるのは良くないかもしれない。


彼は、誰よりも・・・俺よりも先に、
"キッド☆"を知ってしまう。


いや・・・・"俺"を知ってしまう。


「・・・・何をしている、キッド」


ふとカイの声が聞こえ、
慌てて笑顔を作り、顔を上げた。


「いえ☆ちょっと考えごとをしていて。」


「お前が?珍しいな・・・・」


そりゃそうだ。


仲間の前じゃ
いつも"王子"なんだから☆


「しっかり頼むぞ・・・・。お前を一番信用しているのだから。」


カイの言葉が重くのしかかる。


それでも俺は、
カイさんの期待に応えたい。


「もっちろんです☆あ、そうだカイさん。ちょっとお願いがあるんですけど。」


「ほう・・・本当に珍しいな。どうかしたのか?」


「どーもしてませんよぅ☆ただ、ちょっとリオナくんの件で・・・」


リオナという言葉1つで
カイの表情があからさまに歪んだ。


彼はウィキとリオナというワードが嫌いらしい。


「もうちょっと、お手柔らかにリオナくんを連れてくることはできないですかね。」


「・・・・どういうことだ。」


「えーと、その、」


カイの鋭い目つきが本当に怖い。


「今回、B.B.を人質のようにしたじゃないですか、そーゆーのはちょっとリオナくんが可哀想なのではと」
「お前はふざけてるのか?」


カイの怒りがこもった言葉に、
身体が震えた。


久々にカイの怒りが自分に向けられた。


「失望したぞキッド・・・そこまで落ちぶれたか。」


心がズキズキする。


カイの言葉1つで、
簡単に落ち込んでしまう自分がバカみたいだ。


「お前は甘い。チャキにもそうだ。フェイターとして何かが欠けている。それがわからなければ致命的だな。」


「・・・・はい」


「お前の主人は誰だ?」


「もちろん、カイ様です・・・・」


「当たり前だ。お前は俺の言うとおりにしていればいい。」


カイは投げ捨てるように言うと背中を向けて歩き出す。


しかしすぐに立ち止まり、
軽く振り返って小声で囁いた。


「・・・・あまりウィキに肩入れをするようなら、お前にはもうウィキに会わせない。あとチャキにもな。」


「・・・・はい」


カイの姿がなくなると、キッド☆は再び、
深い深いため息を吐く。


これが俺の宿命だ・・・・


昔から、そう何度も自分自身に言いきかせてきた。


抗うことはやめた。


抗った所で、何も変わらないと・・・・無駄だと知っているから。

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あきゅろす。
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