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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-final 孤独への戦い

女が満足するまで抱いてやった。

吐き気がしたが、
今はそれどころじゃない。

モナに万が一のことがある前に、
なんとかこの事件を解決させたい。

女を抱いたあと、
早速変装をさせ、酒場に繰り出した。

時刻は夜中の0時。

ちょうどこの時刻の酒場は最高潮に盛り上がり、
多くの情報通が集まる時間帯でもある。

俺は少し離れた場所で女を見張る。

予想通り、
この女は見た目だけは最高だから、男どもがたかりにたかってきている。

女がLakire旅団を名乗ると、
何か芸をしろとせがむものまで出てきた。

そこまでくると、流石に面倒だ。

時期を見計らい、
次の酒場に移動する。

それの繰り返し。

朝方には10件以上も回っていた。

未だ犯人は姿を表さない。

一度寮に引き返し、仮眠をとって再度町に出ることにした。

女を1人帰すわけにもいかず、
とりあえず寮に連れて行く。

部屋にはいると、
女が俺の腕に抱きついてきた。

ゾッとする。

「ねぇ、マーシャ」

「なんだよ」

「私、あなたが好きよ?」

「はぁ?」

「本気。あなたを愛してる。連絡くれなくなったから捨てられたかと思った。」

「・・・だから、俺はもうお前とは二度と」

「マーシャの全てが欲しいの。ね、私、あなたの子供を生みたい。あなたは顔がとても整っているから、きっと可愛い子が生まれるわ。」

なんてやつだ。

子供だと?ふざけんな。

「言っとくけど、俺の嫌いなものは女と子供だ。悪いけど無理。」

「なによ、手伝ってやったじゃない!私を危険な目に合わせておいて!責任とりなさいよ!」

ああ、こいつは最初からこれが目的だったのか。

「さっき抱いてやった。それでいいって言ったのはお前だろ?俺は責任なんて取るつもりない。ただ、黙って俺の言うこと聞くなら犯人がつかまるまで全力で守ってやる。でも死にたきゃ今すぐここから出て行けばいい。」

「あっそう。わかったわよ。勝手にしなさい!アンタの利益のために使われてたまるもんですか!!」

女は近くにあった本を俺に向けて投げつけて、
部屋を出て行ってしまった。

まさか本当に出ていくとは思わなかった。

「・・・あいつわかってんのかよ。」

俺は女を追いかけようと寮を飛び出した。

しかしその時。

「おっ、ちょうどよかったマーシャ。」

ちょうど寮に戻ってきた上官に引きとめられてしまった。

今は朝の5時。

おそらく夜勤からの帰宅だろう。

「すみません。今、急いでて。」

「ダメだマーシャ。コッチが優先だ。」

「はい?」

「先ほど光妖大帝国からのお客様が到着なさった。その内のルナ・ローズ様とカイ様がお前に町案内を頼みたいとおっしゃっている。」

なんで俺・・・?

会ったことないよな。

「マーシャ、これは出世のチャンスだ。断ったら・・・どうなるかわかってるな?」

脅しだ。

なんて奴らだ。

どいつもこいつも自分のことしか考えていない。

いや、それは俺もか。

・・・しょうがない。

あの女もまさか町をフラフラ歩かないだろうし、
さっさと終わらせて行けばいい。

「・・・わかりましたよ。でも、なんで俺なんですか?」

「さぁ、知り合いじゃないのか?」

「知りませんよ。」

「まぁ名誉なことなんだから、行ってこい。」

また押し付けられたのか。
結局な。

俺は小走りで王宮に向かった。

王宮に着けば早速客間に案内され、
中に通された。

俺は大魔帝国から出たことがないから、
初めて"異国人"を見た。

1人は今にも透けて消えてしまいそうな、儚さのある少女。
ルナ・ローズとはこいつのことだろう。

これが噂の"神の娘"か。

思わず息を呑んでしまう。

もう1人は仏頂面で、
俺より遥かに身長が高い男だ。

カイとか言ってたっけ?

カイは俺を見るとスッと立ち上がり、
こちらに手を差し伸べてきた。

「君がマーシャだな。俺はカイだ。こちらがルナ。ルナは目が見えないから私が誘導する。案内はよろしく頼む。」

たんたんと述べられ、
反応がしばし遅れる。

「あ、は、いや、こちらこそよろしくお願いします。あの・・・1つ聞いても」

「なんだ。」

「なぜ、俺のことを?」

カイは黙って俺を見つめていた。

なんだか気まずい。

しかし
しばらくすると、
クスクスと笑いだした。

「そんなに警戒しないでくれ。君を選んだのにはワケがある。君は帝国軍では珍しく貴族出身ではないそうだな。今日我々が見たいのは都市から離れた町を見たい。君なら詳しいと思って。」

なるほど。

なんだそれだけのことか。

人を信用していなかったせいで、
疑わしくなってしまっていた。

「なんかすみません・・・それなら俺に任せてください。結構裏道とかも詳しいんですよ。」

「できたらラグの町も見てみたい。」

「了解です。早速行きましょう。」

カイはルナの手をとると、
俺の後ろをゆっくりついてきた。

散策は王宮周辺から始まり、
城下町、中央都市を抜け、
田舎の方にまできた。

すると、
ルナが立ち止まり、
カイに何かを言っていた。

「マーシャ、ルナがお前に手を引いて欲しいと言っている。」

「俺!?ですか?いいですけど・・・」

なんだか気恥ずかしい。

今まで付き合ってきた女は皆図々しいやつばかりだったから、
こんな物静かで可愛らしい子の手を握るなんて、どうすりゃいい。

少し緊張しながらルナの手を握り、
歩き出す。

「・・・・あの・・ありがとうございます・・・」

初めて言葉を発したルナに
マーシャは顔を赤くした。

恋とかそう言うのじゃなく、
純粋にお礼を言われたのが久々だったから、
嬉しかった。

しかし、ふと彼女を見た瞬間、
彼女の瞳から涙が零れ落ちていた。

なんで!?

「お、おいぃ!なんで!?俺なんか悪いことしたかな!?」

「・・・・いいえ・・・ただ、あなたの心が・・・あまりにも傷だらけで・・」

な、んだと?

コイツ・・・俺の何を・・

思わず手を払ってしまった。

「申し訳ない、マーシャ。」

「・・・なんなんだ一体」

「彼女には特殊な力があって、人の心をよむことができる。」

「ソンナマサカ」

「気を悪くしたなら謝る。」

「いや、大丈夫です。ビックリしただけですから。」

本当に見えてるのか・・?

だとしたら、
この子は人の何倍も苦しい思いをしているのかな・・・








朝から俺たちは色々なところを巡った。

最後にやってきたのが、
俺が暮らしていた町。

トラ婆やモナ、ダンたちと共に暮らしていた町だ。

「俺、ここに住んでたんですよ。」

「なかなかいい町だな。落ち着いていて俺は好きだ。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

そういえば、
モナは大丈夫だろうか。

急に心配が頭をよぎった。

その時だった。

"きゃぁぁぁ!"
という女の声が遠くからかすかに聞こえてきた。

この声は、
朝方まで一緒にいたあの女の声・・・

襲われた!

今すぐ現場に向かいたい。

でも、この客をなんとかしなければ・・・

しかし、頭がパンクする寸前に、
カイが俺の背中を押した。

「行け。俺たちは充分満足した。王に報告しておこう。さぁ、早く行きたまえ。」

なんていい人だろう。

この時、
俺は本気でそう思った。

「あ、ありがとうございます!」

俺は深く頭を下げて、
悲鳴がした方へ駆け出した。

どうか生きていてくれ。

ただそう願い、走る。

「マーシャ・・!」

その時、再び声がした。

俺を呼んでいる。

すぐ近くだ。

路地裏を抜け、
廃墟と化した屋敷の中に入る。

廊下をぬけ、
かつての居間へ続く扉を開けた。

そこには囮の女と、浮浪者のような男が2人いた。

あれが犯人か。

女はまだ殺されていない。

俺は瞬時に犯人2人の背後に回り込み、
急所をついてやる。

これでも暗殺部隊のトップ3だ。

生身の人間なら簡単に仕留められる。

結局、犯人もアッサリと捕まえることができた。

縛り上げてる途中、横でギャアギャアと女が騒ぎまくって、
あまりのうるささに気絶させた。

ちょっとやりすぎたかもしれないが、
まあいい。

犯人に目を向ければ、
2人とも完全に怯え切っている。

「おい、なんでこの女を殺そうとした。」

「だ、だだだだって・・!この女の目が黒いしLakire旅団って名乗ってたからぁぁ!!許してくれよぉ!!」

「なんでLakire旅団を狙うんだ。恨みか何かか?」

「ち、違うんだ違うんだよぉぉ!俺たちは雇われただけだ・・!Lakire旅団の黒い瞳の女を殺せって頼まれただけなんだ!」

「クソ・・・裏にまだいるのか。誰だ。誰に頼まれた。言わねぇと・・・」

思い切りナイフを押し当ててやれば、
犯人たちはものすごい勢いで涙を流し始めた。

「か、カイって男だよぉぉ!光妖大帝国の奴だよ!!」

一瞬、耳を疑った。

カイ・・・カイって・・・

「それ・・本当か・・・?」

「本当だっ・・・!!嘘じゃない!!」

全てのピースが、
集まり始めた。

抜け落ちていたピースも、
現れた。

「・・・んだよ!!!」

俺は元きた道を全力で駆け抜ける。

頭の中で、
全てのピースがハマってしまった。

最初から仕組まれていたんだ。

カイは初めから俺を利用していた。

俺とモナが知り合いだって知っていて、
わざわざ俺にあの町まで案内させたんだ。

なんで気がつかなかったんだ・・!!

なんで信用しちまったんだ!!!

はやくはやくはやくはやく!!

モナ・・・!!

家に着き、
玄関扉のノブを掴んだ。

・・・開かない!

鍵がかかっている

裏口に回っても、扉はしっかり施錠されている。

クソ!

窓ガラスを割り、
侵入を試みた。

なんとか窓ガラスは割れた。

だが、
残った破片が身体中に突き刺さる。

痛みに顔をしかめるが、
血が出ようが内臓がでようが、
関係ねぇ・・・

「っぁぁ・・!!」

小さく悲鳴をあげ、
床に転げ落ちた。

どうやらキッチンにいるらしい。

「モナぁ・・・」

痛む腹を抑えて、
立ち上がった。

しかし
この瞬間。

俺の中の時間が、
止まった。

リビングに、
ダンとトラ婆がいた。

だが2人とも、
床に倒れている。

そこには、
ルナ・ローズもいた。

彼女の両手は、
真っ白い喉を握っていて・・・

その首は・・・


「モナぁぁぁぁ!!!」

俺はルナ・ローズを叩き倒した。

モナを抱きしめ、
後ずさる。

「モナ・・!!モナぁ!!」

反応が無い・・・

脈が・・・


無いんだ

嘘だ・・嘘だ嘘だ嘘だ!!

俺は、

俺は、
守れなかったのか・・!?

愛するものたちを・・・


なんで、なんでなんで!!


怒りに拳が震える。

「なんで・・・なんでモナなんだよぉぉ!!」

俺はルナ・ローズに掴みかかっていた。

なぜか、この女の瞳から、
ボロボロと涙が零れている。

なんで、泣いてんだよ!

泣きたいのはおまえじゃねぇぇだろ!!

涙を流せば許されるとでも思ってるのかこの女は・・!!

「答えろよぉぉ!!なんでモナなんだ!!!殺すなら俺を殺せよぉ!!!」

殺してやる

殺す!

コロスコロスコロスコロス

ナイフを取り出し、
ルナの首に突き立てようとした。

しかし、
何者かの手に弾かれ、
俺の体ごと吹き飛んだ。

一瞬何が起きたのかわからなかった。

だが、
視界に映った男の姿に、
一気に怒りが溢れかえった。

「カイっ・・・!!なんでだよ!!なんでなんだよ!!」

カイの表情は異常なくらい冷め切った顔をしていた。

悪魔だ・・・こいつは・・!!

「マーシャ、お前は何も知らない。このモナという女は、我々の秘密を知ってしまったんだ。8年前、Lakire旅団が光妖大帝国を訪れた際、彼女は知ってしまった。これは死罪に値する罪だ。あれから8年たち、ようやく見つけたんだ。」

秘密・・・

後からわかったことは、
きっとモナは、
こいつらが光妖大帝国の王を殺し、
神を復活させようとする計画を知ってしまったんだ。

この時の俺にはわからなかった。

「だからって・・・許さねぇ・・・許さねぇよッ!!」

俺はカイに向かって剣を振り上げた。

しかし、
カイの速さは遥かに人の人智を超えていて・・・

簡単に俺の剣を吹き飛ばしてしまった。

そしてそのまま、
胸を貫かれる・・・

「ぐぁっ・・・」

結局、
俺は何も守れなかった。

愛する者も、
自分さえも。


「俺を恨め、マーシャ。恨んで妬んで、強くなれ。」

意識が遠ざかる中、
確かに聞こえた奴の声。

こんな所で・・・死んで、たまるか

「ルナ、お前にはガッカリだ。帰ったら仕置きを覚悟しておけ。」

「・・・はい・・・・・・」

2人の気配が一瞬で消え去った。

最後の最後に聞こえたのは、
ルナ・ローズの、
震えた謝罪だった。









意識が戻ったのはすぐだった。

トラ婆とダンは、
辛うじて息をしている。

でも・・・モナは・・・・・・

とにかく医者を呼んだ。

きっとすぐに来てくれるはず。

俺は、
剣をもち、
家を出た。

腹と胸から血が流れでている。

でも、
それ以上に、
俺の中で"無"が溢れていた。

よくわからない、
こんな気持ち。

絶望、怒り、憎しみ。
全てを折り重ねたら、
こんな気持ちになるのだろうか。


ああ、俺はどこで道を誤ったのか・・・

モナに恋なんかしてなければ、
こんなに苦しくなかったのか?

いや、いくら人生をやり直しても、
俺は、
モナに恋をしていた。

何も変わらない・・・

変わる事は無いんだ・・・


「ああああぁあぁあぁぁぁぁああ・・ッ!!!!」

涙が溢れ出る。

ルナ・ローズへの恨み、
モナの死、
自分の無力さに対して・・・

涙は止まる事は無い。

国を飛び出し、
無我夢中で荒野をかける。

この果てにあるものなんて興味ない。

そんなことより、
教えてくれ。

どうやったら、
この無限のように続く闇から抜けられるのかを。


第十二章 Prologue of Marcia

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