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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story04 少年と母



二人は出会ったばかりの少年セスとその母親から夕食をご馳走になった上、
今晩一晩泊めてもらうことになった。(すべてはリオナの計画の内だが)


室内の電気はやはり消えたまま、すべてろうそくで照らされている。

だが家の中は外観の通り高級感漂う装飾ばかり。

テーブルも、王室にありそうな長机だ。

しかしどの窓も割られた痕があり、
テープで無理やり舗装されている。

二人はすぐに、例の事件によるクーデターのせいだとわかった。


リオナは夕食を食べ終えると、
広いリビングを見物し始めた。

「こらリオナ。ちゃんと席に着きなさい。・・・・すみませんねぇ。コイツ貧乏性でして、こーゆーお屋敷にくると好奇心が抑えられないで歩き回るんですよぉ〜。」

マーシャはからかうようにリオナに向けて舌を出す。

リオナはギロッとマーシャを睨むが、
すぐに何事もなかったかのように歩き回る。

「うふふっいいんですよ。今じゃ私とこの子だけで住んでいるのでちょうど寂しかったところなんですよ。今日は本当に楽しかったです。」

「ははは・・・コチラモデス。」

セスと母親と出会ってから何時間もたつのに、
未だに慣れないマーシャ。

一度医者に見せるべきだと本気で思った。


リオナは暖炉の前に来ると、
暖炉の上に飾られている5枚の写真に目を引かれる。

そこにはセスの赤ん坊の頃からの成長ぶりが映し出されていた。

しかし、一番右に置かれた写真だけは三人の姿が映っている。

左にセス、その隣にはセスの母親、そして後ろにはヒゲをたくわえた男。

―・・・この人・・・セスのお父さんかな・・・・。

リオナは写真の中で笑うセスの母親をじっと見る。

写真の中の母親はとてもキレイで若々しい。

今の彼女を見てみれば、ゲッソリと細くなってしまい、
この写真を撮ってから、20年以上はたっているよいに見えてしまうほどの老けようだ。

唯一美しいのは
空のように青く輝く目だけ。


するとセスの母親は立ち上がり、リオナの方へ歩み寄る。

そしてリオナの手にある写真を見て、少し寂しそうに笑った。


「この男の人はね、私の夫でセスの父親なの。今はもう死んでしまっていないんだけどね。」

「・・・・どういう人だったの?」

リオナはつい尋ねてしまう。

「そうね・・・仕事第一の人だったわ。でもね、休みがあると必ずセスと遊んでくれていたわ・・・。冷たそうだけどね、本当に優しい」
「優しくなんかない!!!」

突然、母親の声がセスの怒鳴り声にかき消される。

「あんなやつさえいなきゃ・・・・僕たちはこんな惨めな思いはしなかったんだ・・!!」

セスは母親と同じ色をした目にたくさんの涙をため、部屋を飛び出してしまった。

「セス・・・・」

母親は深くため息をつき、
イスに座る。

リオナもセスの母親の隣に座り、下から顔を見上げた。

悲しそうというより苦しそう。

そうリオナは思った。


リオナはマーシャに相づちを打つ。


―・・・・マーシャ・・・聞いてみなよ・・・。

―・・・??なにを?

―だからあの事故との関係だよ。

―・・・・はぁ?イヤだよ。だって傷口に塩塗るようなもんだぜ?


リオナの目に力が入る。

―・・・・仕事・・・でしょ。

―・・・・・・・。


リオナの押しに負け、
マーシャは仕方なくそっとセスの母親に尋ねた。

「あのぉー・・・。差し出がましいことを聞いてもイイッスか??」

「・・・・?」

セスの母親は暗い表情をした顔を上げる。

その顔を見たマーシャは、尋ねることにますます罪悪感を覚えた。

しかしこれは仕事。
仕方のないこと。

そう言い聞かせて、重い口を開く。

「二ヶ月前に起こった電力総合開発所の事故と何か関係あるんですか?」

セスの母親の目が少しだけ大きくなる。

少し手に力を入れているのもわかる。

しかし、すぐに脱力し、マーシャにむかって小さく頷いた。

「・・・私の夫、パーク・ラインは、電力総合開発所の会長を勤めていました。」

マーシャとリオナは顔を見合わせる。

「10月26日、電力総合開発所で起きた爆発は、会長である夫の責任でした。しかし夫は周りからの罵声に耐えられず、ずっと部屋に閉じこもっていたのです。それからというもの、毎晩毎晩従業員の方々からの苦情がたくさん押し寄せるようになりました。」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

「そして事故がおきた一週間後の11月2日。夫は部屋で首をつって死んでいました。そして同時に国中で電力の供給も止まり、人々はついにクーデターを起こし始めたんです。酷いときは家を燃やされかけました。」

「・・・・・・・。ねぇそこまでされて何で国を出ようとしないの?」

「・・・何度も・・・何度も国をでようと考えました。でもせめて息子だけには苦労をさせたくないと思い、私の叔父に世話を頼みました。けど・・・・・」

「少年が嫌がって叔父の家に行かない・・・・・・んで国も出られずにここに留まってるってわけか。」

母親は小さく頷く。

「今はとにかく早く電力の供給と研究を進めなくてはいけません。だから早く次の会長が決まればよいのですが・・・今は従業員不足で会長決めどころか運営さえできないんです・・・。」

「連続殺人ですか・・・・。」

「はい・・・・。あの事件以来、従業員ばかりが狙われて、人々は怖がって家から出ることもありません・・・。」

「・・・・・。」


すると突然、玄関のドアをノックする音がした。

しかしその音からは、怒りがにじみ出ているかのように、激しく強いものだ。


「ちょっと・・・・失礼しますね・・・。」

そういって母親は席を立ち、玄関へ向かっていく。


「・・・・。」

「おいリオナ。」

「なに?」

「ちょっと見てこい。」

「エ゙ー。マーシャ行ってきてよ。」

「俺が行ったら大人げないだろぉ?お前だったら見つかってもまだ許してもらえるじゃん。」

「・・・・・・たしかに。」

マーシャがひらひらと手を振る中、
リオナは足音をたてずに急いでセスの母親の後を追った。






玄関に着くと、
声が聞こえ、急いで棚の後ろに隠れ、様子をうかがう。


扉の前にはセスの母親、
そして外には目を真っ赤に腫らし、泣きじゃくる一人の女がいた。


リオナは耳をそばだてる。

「あんたらが出て行かないから・・・・!!私の夫が殺されちゃったじゃない!!今日!思いっきり引っかかれてね・・・!!なんで!?あれから二ヶ月よ!?呪いは終わらないの!?ねぇ早く出てってよ!!」


女はセスの母親の肩をつかむと、がしがしとゆさぶる。


「ご・・・ゴメンナサイ・・・・でも・・・!」


「あんたが出て行かないなら・・・・・・」

女は手をセスの母親の肩から首に移動させる。

「私が殺してやる!!」


―・・・!!まずい


リオナはポケットからトランプを取り出し、女に向けて三枚投げつけた。

「・・・・ア゙ァ゙!!」

女は小さな悲鳴を上げて、トランプで切られた腕を押さえている。

「おばさん!!早くドア締めて!!」

「・・・!!」

セスの母親はリオナの呼びかけで我に返り、
素早くドアを閉めて鍵をかけた。


外からは女の怒りに狂った泣き声が響きわたっている。


―・・・・・毎日こんな生活送ってるのかな・・・?

リオナはその場でうずくまる母親の肩に手をおこうとした。


しかし母親は訳も分からないことを話しだす。


「・・・・どうすれば・・・・・どうすればよいのですか・・・」


誰に尋ねているのかわからず、
リオナはただ、セスの母親を見つめる。


「・・・またですか・・・・?・・・もう彼・・・・イヤです・・・・」


まるで誰かと会話をしているかのように
母親は話し続ける。


「・・・・うぅ・・・・そうですよね・・・息子のためですよね・・・」


リオナはちょっとヤバいと思い、
思わず母親の背中を抱きしめた。

力強く、ギュッと抱きしめる。

「・・・・!・・リオナ・・・くん・・・?」

「・・・おばさん?大丈夫・・・?」

「・・私・・・なんでここに・・」


リオナは眉を寄せる。



―・・・覚えてないのかな??



「・・・・さっき女の人がきて・・・」

「・・・・あぁ・・・そうだったわ・・・・」

「・・・・。」


母親は何事もなかったかのように歩き出し、
リオナを振り返ってにっこり笑う。


「もう遅いわ。今日はお休みになられてください。」

そう言って暗闇に姿を消した。


「・・・・。」

「やっかいだなぁ」

「ぎゃっ!!!」

後ろからいきなり現れたマーシャに驚き、リオナは思わず悲鳴を上げた。

「脅かすなっての!!」

「ははぁん。これくらいで驚くとはまだまだ甘いな。さてはちびったな?」

「チビってないし。で、いつからいたのさ。」

「うーんと、お前が女をやっつける前。」

「・・・・結局最初からいんじゃん。」

「やっぱ気になるじゃーん。」

「・・・・・。」














とりあえず二人は寝室にあがった。

やはり窓は粉々にされていて、テープ張りのため、風の通りがよくなっている。


二人は疲れたーっと言ってベッドにゴロンと寝転がった。


「あれ・・・・誰との会話だったのかな?」

「さぁな。どうせもう一人の自分とかそんなもんだろ。」

「ねぇ結局化神と連続従業員殺人事件は関係あるのかな。」

「うーん・・・・。でもひっかき傷ってのが気になるな。化神には鋭い爪で攻撃する習性があるからなぁ。・・・でももし本当に化神が特定の人間を殺してたとなるとやっかいだなぁ。」

「なんで?」

「前にも言ったけどよぉ、化神は意志を持たず、人を無差別に襲う、そーゆーヤツラだ。だから化神が特定の人間を殺すイコール意志を持っているという事になる。」

「意志を持ってちゃいけないの?」

マーシャは静かに首を横に振る。

「別に化神が意志を持つことが問題なわけじゃねぇ。あのな、化神が意志を持つときは、必ず裏で化神を操る人間がいるってことなんだ。そうなるとどうなるかわかるか?」

「・・世界を牛耳るとか?」

「んまぁそんな感じだな。人間たちをどんどん化神にしていって、強い戦力を確保し始める。まぁあくまで予測にすぎないが」

「・・・でも・・・もし裏で操ってるとすれば・・・・」

「ああ・・・・確実に光妖大帝国だろうな。ローズソウルを二つも持つからな。」

「・・・・・いやな奴ら。」


すると突然部屋のドアが開いた。
そこから顔を出したのはセスだった。

「・・・・ちょっと・・・いいかな。」

「どうぞどうぞ。」

二人は体勢を整え、
セスを迎え入れる。

セスは遠慮がちにベッドに腰をかけた。


「・・・さっき来てた女の人・・・なんて言ってた・・?」

マーシャは言うべきかどうか迷った。

けれど隠しても仕方がない。

「・・・・・まぁ苦情だな。」

「・・・・・・・!」

セスはびっくりしたのか、
目をまるくする。

「??どうした?」

「・・・・・その人・・・・死ぬかも・・・」

「はぁ?もしかしてあれか?お前のオヤジの呪いってヤツか?」

「・・うん。ウチに文句を言ってきた奴らは、その日のウチに皆殺されてるんだ・・・。警察の人たちは僕と母様を疑ってる・・・。きっと今回もまた・・・・」

セスは目から涙を大量に流し始め、
マーシャは慌ててタオルを差し出すが泣きやむ様子はない。

「おい・・・・・!リオナこーゆーときはどうすんだぁ!?」

「し・・・知らないよ・・・!俺に人との接し方聞くなって!」


子供を嫌う男と人との関わりを嫌う子供。


これではどうすることもできない。


「僕・・・・・」

二人が言い争っているうちに、
セスが口を開いた。

「僕さ・・・・わかってる・・・・・おじさんの家に行かなきゃいけないことくらい・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「でも・・・・母様が心配だから・・・!あのまま母様を一人にしたら・・・母様はきっと死んじゃうから・・・!!」

「少年・・・・・。」

マーシャはそっと頭をなでてやる。

「・・・・母様は・・・僕が守ってやるんだぁ!!」

セスは顔全体を涙と鼻水で濡らす。

するとマーシャはセスの頭から手を離し、
セスのほっぺたをぎゅっとつねった。

「いたっ・・・!!」

「泣くな少年。いいかぁ?母ちゃんを守りたいならまずは泣くな。そんで弱音も吐くな。」

「・・・!!そんなのム」
「ムリじゃない。見てみろこいつを。」

そういってリオナをひっぱり
マーシャの膝の上に乗せる。

「リオナはお前と同じ歳だ。たぶん。」

適当だな、とリオナはため息をつく。

「こいつはなぁ、ワケあって家族と離ればなれになっちまったんだ。でもな、コイツは泣き言一つ言わないで強くなるために俺と旅をしてる。でもお前にはまだ母ちゃんがいる。なのにどうして無理だって言う?無理じゃねぇだろ。」


セスはリオナを見つめた。

見つめられたリオナはどうすればいいのかわからず、
目を泳がす。

そしてセスはマーシャのタオルで顔をぬぐい、
両手で頬を強くたたいた。

「僕・・・・もう泣かないよ!!弱音も吐かない!」


「へぇーやりゃできるじゃーん。その言葉忘れんなよ?まぁこれからどうなるかわからないが・・・・何が起きても逃げんなよ。」

「おう!こんなヤツに負けたくないし!」

そう言ってリオナを指差した。


―・・・・なぜ俺?

リオナは思いっきり顔をしかめる。


セスは二人にニッと笑いかけて部屋を出て行った。

リオナはマーシャの膝の上から顔を見上げ、
ニヤッと笑う。

「へぇ〜マーシャも、やればできるじゃん。」

マーシャは誇らしげに鼻をこする。

「まぁな。この本熟読したからなぁ。」

そういって差し出したのは、

"男の子育て必勝法"

「何これ!?いつ買ったの!?」

リオナは思わず噴き出した。

「う・・・・うるせぇ・・・!お前と初めてレストランに行った帰りに寄ったんだよ。」

「・・?あぁそういえば先に帰ってろって言われて・・・」

「そうそう、おまえが寄り道して死にかけた日だよ。

「・・・・・・。」

「俺子供とかわからねぇからさぁ。お前のためにわざわざ買ってやったんだぜ!?感謝しろっ!」

いつも適当で何事にも無関心なマーシャが、
まさか自分のためにそこまでしていたとは・・・・

リオナは初めてマーシャの優しさに触れた気がして
思わず目を潤ませる。

「・・・あ・・ありがとう・・・」

「・・・!?・・・・い・・・いや・・・どってことないっての!」

部屋の空気が少しだけ暖まった気がした。








しかしそれも束の間。


マーシャの目の色が一瞬にして真っ赤に染まった。

「・・・!!化神だ。」

「・・・!?」

「こっから南南東に1200m。いくぞ。」

「うん。」


2人は窓から飛び出し、
目標に向かって走りだした。




町は昼間より
さらに静けさを増している。


空気はぴんと張りつめ、
寒さが肌にしみた。













目的地にはすぐに到着した。


が、時すでに遅く、目の前には血まみれの女性が倒れていた。


「・・・・・・・・遅かったか。」

リオナは女性に近づき顔をのぞく。

「・・・・・!!ねぇマーシャ!この人・・・!」

マーシャも女ね体を起こし、
顔を確認する。

「・・・・!さっき家にきた女か・・・!」



2人の頭にこの町に来てからの色々な言葉が頭をよぎる。




"呪い"




"連続殺人"




「まさかと思ってたがな・・・・・ったく面倒なことになったぜ・・・。」

「やっぱり・・・・どう説明する?」

「正直に話すしかないだろ・・・・」


連続従業員殺人事件


この事件の真の事実に気づいたリオナとマーシャは、


真実の残酷さに頭を悩ませた。

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あきゅろす。
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