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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.6 名誉をかけた戦い


まず言いたい事は、
女遊びをやめたこと。

あれから一度も女を抱いたことはない。

案外平気だった。

むしろ、
女を拒絶するようになった。

なんだか苦手なんだよな。

これをキッカケにフルミールとも縁を切ったよ。

アイツと一緒にいたらダメだ。
本能がそう告げていた。

今は帝国軍として胸をはれるよう、
毎日仕事や訓練に勤しんでいる。


帝国軍は"総統"をトップとし、軍全体は"武力部隊"と"魔力部隊"の大きく2つに分かれている。

名前の通り、"武力部隊"は武器を使用した戦闘部隊で、"魔力部隊"は魔法を使用して戦う部隊。

もちろん俺は"武力部隊"。

本当は"魔力部隊"に憧れたけど、
俺には魔法のセンスがないみたい。

"武力部隊"は上から隊長、副隊長、指揮官がおり、その下に3つのチーム"炎鬼"、"暁鬼"、"夜鬼"がある。

"炎鬼"と"暁鬼"は基本的に帝国や国王を守る部隊だが、俺が所属していた"夜鬼"は、少人数であり、しかも帝国内唯一の暗殺部隊だった。

俊敏さを買われたわけだが、
15歳で"鬼月"という上から三番目の役職に就いた。

名誉なことだ。

暗殺部隊と言っても、
暗殺が主なわけではない。

例えば隣国からお忍びできた貴族または国王の護衛や、裏で動き回る仕事が主で、暗殺はまだ数度しか行われていない。

しかし気が抜けない仕事ばかりだ。

だから仕事は真面目にこなしている。


休日は、図書館に行って本を読んでいるんだ。

今まで不真面目に生きてきたせいで、本の面白さを最近初めて知った。

夢中で読みあさって、
今じゃ図書館のほぼ全部を制覇したくらいだ。

これはあまり良くないが、
タバコと酒がやめられなくなった。

タバコは毎日吸うし、
酒は次の日に仕事がなければガバガバ飲む。

結局、ストレスと性欲のはけ口がコッチに回ってきたのだ。

まぁかなり体に悪い生活ではあるが、
結構充実した毎日を送っているのは確かだ。






「マーシャ、ちょっと来い。」

朝礼が終わった後、
夜鬼のチームリーダーに呼ばれた。

俺はリーダーの後を付いて行く。

連れてこられたのは王宮の西塔。

普段俺たち帝国軍がいるのは東塔で、西塔には帝国随一の頭脳集団がいると聞く。

帝国軍の指揮官達は、西塔で頭脳集団と話し合いをした上で、俺たちに指示を出してくる。

そんなところになぜ俺が連れてこられているのか、わからない。

ある部屋の前までくると、
部屋の中から王宮内では滅多に聞くことのない怒鳴り声が聞こえてきた。

扉を開けて中に入れば、
1人のじぃさんが机を叩いて中にいた頭脳集団に怒鳴り散らしているではないか。

しかも見るからに一般人。

なんでこんな奴を王宮にいれてしまったのだろうか。

「マーシャ、お前の初1人仕事だ。」

突然リーダーが俺に小声で囁き、
親指を立ててきた。

「え、ちょっと、どういうことですか。」

「あの方は昔王宮で学士を務めていらっしゃった優秀なお方だ。仕事を依頼しにきたからお前が担当しろ。」

あのじぃさんが学士だと!?

見るからに厄介そうなあのじぃさんが!?

「押し付けじゃないですか!」

「まぁまぁ、頼むよ。」

上司の命令は絶対だ。

結局、部屋に俺1人取り残されてしまった。

仕方なく、
じぃさんに向かい合うように席に座る。

「武力部隊、夜鬼の"鬼月"のマーシャ・ロゼッティです。今回のご依頼は私が担当させて頂きます。よろしくお願いします。」

入隊前に教え込まれた敬語をフル活用する。

じぃさんは俺を品定めするようにジロジロと見てくる。

「・・・お前、今いくつだ。」

「15になります。」

「やっぱりガキじゃないか!クソ!」

よく言うぜ。

俺だって好きでアンタの前に座ってるわけじゃないっつーの。

「今、貴方の仕事を受けられるのが私しかいないもので。それがご不満であればどうぞ他の機関を当たられてはどうでしょうか。」

めいいっぱいの嫌味を言ってやれば、
じぃさんは仕方ないとでも言いたげに盛大なため息をついた。

「・・・俺はバルド・ガーディンという。お前には少し頼みたいことがある。」

バルド・ガーディン?
このじじぃが!?

バルド・ガーディンは帝国一の魔法使いであり、世界一の頭脳を持つと言われる大変有名な男だ。

この間読んだ本にも出ていた。

急にドキドキしてきた。

俺は姿勢を正す。

「そ、それで、ご依頼内容は。」

「近頃、巷で"通り魔"が流行っているんだ。その犯人が複数犯のようで、お前にその犯人たちを捕まえて欲しい。」

「通り魔・・・ああ、昨日も確か中央都市近郊で女性が1人殺害された・・・」

「そう。すでに十数件までに増えている。住人たちはすっかり怯えてしまってな。どうにかしてくれんか。」

暗殺部隊である俺の仕事か?

と疑問を抱いたが、
せっかくバルド・ガーディンと知り合えたのだから、
断るわけがない。

「わかりました。私でよければお引き受けしましょう。」

「お前、年齢のわりにその口調、似合わんぞ。」

「・・・。じゃあ汚ぇ言葉使ってやろうか。」

「バハハ!!そっちの方がまだいい。」

やり辛ぇ。

「これが事件の詳細だ。参考にしなさい。」

「アンタ・・・どこでコレ手に入れたんだよ。」

「まぁほんのコネだよ。何かわかったら連絡くれよ。報酬は後払いだ。」

そう言ってバルド・ガーディンは部屋を出て行った。

なんとも面倒な仕事を引き受けてしまったものだ。

とりあえず事件の詳細を知らなければ始まらない。

俺は一度部屋に戻り、
バルドからもらった資料に目を通した。

事件は一ヶ月前に遡る。
被害者は全員女性。
事件が起きた場所は全部バラバラ。
大魔帝国全域に渡っている。

今のところ被害者全員が殺害されており、生存者がいないため犯人像がさっぱりわからない。

バルドが複数犯と言っていたのは、
同じ時刻に違う場所で同じ事件が起きていたからだろう。

バルドから受け取った資料の中には、写真も入っていた。

全て死体の写真。

「うーわぁ・・・酷いな。」

思わず顔をしかめてしまうほど酷い。

殺害方法は様々だ。

刺殺、銃殺、絞殺......

ここであることに気がついた。

被害者の瞳が、
全員漆黒である。

漆黒の瞳は珍しい。

漆黒の女性ばかりが狙われるのには、
何か理由があるはず。

「しゃーない・・・図書館行って調べるか」

それから俺は上官に許可を取り、
毎日図書館に通いつめた。

一週間ずっと本に埋れ、
わかったことはほんの少し。

まず、
大魔帝国には黒い瞳の魔族と、黄色い瞳の鬼族がいたということ。
魔族も鬼族も魔術を使うが、鬼族に比べて魔族の方が強力な魔力を持っていた。
今は混血ばかりで漆黒の瞳を持つ者は数少ない。

あと、わかったことは被害者全員が、旅団であったこと。
しかも全員同じ旅団に所属していた。

旅団名は「Lakire」

旅団とは世界中を飛び回り、
魔術を使って芸を見せる旅芸人のこと。

ちょうど帰国していた時に殺害されたようだ。

なぜこの旅団の、しかも漆黒の瞳を持った女性が狙われているのか。

とりあえず、
帝国軍情報部に、この旅団の情報と、旅団内に条件の当てはまる女性がまだいるのかを今調べてもらっている。

情報部に3日は待て、と言われた。

どうやら近日中に、
光妖大帝国から王族関係の者が来訪するようで、
今とても忙しいらしい。

それまではいったん休憩だ。

俺は大きく伸びをして、図書館をあとにした。

外はすっかり日が落ちていて、
子供たちは元気に家へかけていく。

今夜の晩飯の話を楽しげにしながら。

いいなぁ。羨ましい。

俺なんか毎日三食インスタントものばかりで飽きてきた。

まぁ仕方がないんだけど。




三日後、
宣言通り情報部から連絡があった。

急いで情報部に向かい、
資料を受け取る。

旅団「Lakire」は、世界でもかなり有名な旅団らしい。
総勢300人、うち32人が漆黒の瞳を持つ女性が所属している。
そのうち、すでに23人が殺害されてしまっている。

しかし、話を聞けば、
この殺害事件はここ最近の話ではないらしい。
すでに2年前から大魔帝国外でもあったという。

この旅団が辿ってきた旅路を見てみても、なんら問題は無いように見える。

内部犯か、あるいは恨みを持った第三者の犯行か。

「なぁ、旅団の全員の名簿って出せない?」

ちょっと尋ねただけなのに、
情報部のガリ勉メガネはすごく嫌そうな顔をする。

「・・・今忙しいんですよ。」

「そこをなんとかできないか?」

「・・・。わかりました。じゃああと2日待ってください。」

2日!?

1日でやれよ!
なんて言えるはずもなく。

仕方なくその条件をのんだ。

名簿さえ分かれば事件を未然に防げ、
危険を伴うが囮作戦で犯人を捉えられるかもしれない。

その時、
ふとモナの顔が浮かんだ。

なぜなら、
モナも漆黒の瞳であるから。

しかも、かつて両親は旅団に所属しており、モナも一緒に旅をしていたという。

・・・心配だ。

何かあったらでは遅い。

でも、今更・・・

もう会わないと言った手前、
行き辛い。

けれど、
足は自然とかつての"我が家"に向かっていた。

幸せの象徴であったあの我が家に。



近くまできて、
少し離れた所から我が家を見ていた。

相変わらず、子供だらけ。

知らないガキもいる。

トラ婆の声も聞こえてきた。

元気そうで何より。

でもそれ以上、近寄れなかった。

無理だ。

これ以上は。

俺は仕方なく、
引き返そうと我が家に背中を向けた。

その時。

「あ・・・」

振り返った瞬間、
目の前にダンがいた。

驚いた。

こんなこともあるのか。

ダンも驚きで目を丸くしている。

『マーシャ・・・』

「よ、う」

ぎこちない挨拶しかできなかった。

だって、俺、どうすればいいか・・・

『マーシャ・・・!!』

その瞬間、
ダンが俺を強く抱きしめてきた。

何が起きたかわからなかったが、
嫌な気はしなかった。

泣きたくなった。

無性に。

『心配してたんだ・・・マーシャっ』

ダンの今にも消えそうな声に、
俺の心が揺れ動く。

やっぱり、伝えなくては。

ここに来た意味がない。

「話があるんだ・・・少し、いい?」

そう言えば、
ダンは嬉しそうに頷いた。

久々に2人きりで話すから、
すごく緊張した。

でも、なんだか懐かしくって、
ワクワクもした。

『マーシャ、逞しくなったな。ちゃんと元気にやってるのか?』

ダンの口から出るのは、やっぱり心配ごとばかり。

可笑しくって、思わず笑ってしまう。

「大丈夫だよ。皆も、元気・・・?」

『ああ、皆元気だ。新しい子達も増えたんだ。また賑やかになったよ。』

その言葉を聞いて、
本当に安心した。

本当は直接会って確かめたいけど。

あまり長居はできない。
仕事もあるし。

俺は早速話をきりだした。

「今日、話があってここに来た。」

『話?』

「うん。今、殺人事件が多発してるのは知ってるだろ?」

『ああ。この間も近くで女性が亡くなったらしいよな。』

「犯人は、特定の条件を満たした者を殺害している。漆黒の瞳を持った女性で、Lakireっていう旅団に所属している者だ。だからモナにも気をつけてって・・・」

その瞬間、
ダンの表情が一気に凍りついた。

目を見開き、
少し動揺しているように見える。

嫌な予感が、
頭をよぎる。

「なにか、心当たりとか?」

『・・・・・・いや』

しばらく、
沈黙が続いた。

とにかく伝える事は伝えた。

「じゃあ、俺そろそろ・・・」
『・・・モナの』

腰を上げた時、
ダンの口が開いた。

『モナの両親が・・・2年前に殺害されたんだ。帝国外で。ちょうど、お前が研修から帰ってきた時だ・・・・・・』

ダンは震える声で、
一言一言、丁寧に紡ぎ出す。

『確かな情報じゃなかった・・・でも、あの頃から、モナの両親が所属していた旅団が何者かに狙われていると噂で聞いていた。だから、モナにも念のため気をつけるようには言ってあった・・・』

「それ、ホントか?」

『ああ、だがなぜ狙われていたかは分からない。モナもわからないと言っていた。でもよく考えれば、モナがトラ婆に預けられた時から、その旅団は狙われていたんじゃないか?』

という事は、
モナの両親は前々から危機を感じていてモナをトラ婆に預けた。

そして、そのさらに前に決定的な事件か何かがあったんだ。

「俺ちょっと情報部行ってくる!」

『マーシャ?』

「モナから目を離すなよ!じゃあまた!」

『ちょ、おいマーシャ!』

俺は急いで情報部に引き返す。

欲しい情報は旅団が巡ってきた国々の詳しい資料。

年月日も詳しく載ったものだ。

「おい!そこのメガネ!」

「またあなたですか・・・」

「旅団が今までに行った国と年月日が知りたいんだけど!」

「だから、今は忙しいんです!あなた分かってますか!?明日には光妖大帝国からお客様がやってくるんですよ!?しかもその中に"神の娘"と言われるルナ・ローズもいるらしいじゃないですか!コッチは護衛やら何やらでもう手一杯です!出直してきてください!!」

完全にシャットアウトされてしまった。

なんて奴らだ。

国民なんかより外からの客が大事ってか。

こんな腐った国・・・潰れちまえばいい!!

「あークソッ!!」

答えは目の前にあるのに!

こうなったら・・・

俺はある女に連絡をした。

少し前までの遊び相手だった女だ。

他の女と違い、何度か関係を持った相手。

カラダの相性がよかったのかもしれない。

あれから連絡を断ち切っていたが。

「久々ねぇ、マーシャ。」

「よう。」

「で、また抱きたくなった?」

「そうじゃない。頼みがある。」

「頼みってなによ。」

「囮になってほしい。」

彼女に黒いコンタクトをしてもらい、
Lakire旅団に所属していたと言いふらしてもらう。

それが広まれば、
きっと彼女を殺しにくるにちがいない。

そこを待ち構えて犯人を捕まえる。

一刻も早く捕まえるにはそれしかない。

モナのためだ・・・


「嫌よ。なんで私が。」

「頼むよ。お前が一番綺麗だし男たちもたかりやすい。なんでもする。金なら沢山やる。」

「何でも、ねぇ〜」

女は含み笑いをする。

「じゃあ、もう一度抱いて。」

「・・・それは無理だ。もうやめたんだ。」

「抱いてくれなきゃ、いくら金を積まれてもやらないわ。」

なんて女だ。

こんな女なんて二度と相手にしないと決めていたのに・・・

・・・クソ。

愛する女のためなら・・・俺は・・・

「わかった・・・いいだろう。ただし、今すぐ抱く。時間がないんだ。」

「いいわ。交渉成立ね。」

愛するもののためなら、
自分がいくら汚れても構わない。

もう、充分に汚れ切っているのだから。



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