[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.5 戦うことをやめた少年の戦い

あれから1年がたった。

14歳になった俺は、
一度たりとも家に戻っていない。

戻れるわけがない。

もちろん戻りたいとも思わない。

俺は最悪な人間だから。

寮に何度かトラ婆とダンが会いに来たらしいが、面会は全部断っている。

合わせられる顔なんてない。

もう、関わりたくないんだ。

俺は人を信じることをやめた。

愛することも、やめた。

ただ毎日訓練や仕事に明け暮れ、
夜は仲間と飲みに行く。

14歳だろうが関係ない。

周りも俺を大人扱いしてくれる。

特に良くしてくれるのが、
19歳のフルミール。

イケメンでモテモテで俺の仲で一番仲がいい奴。

信用してないけど。

「おーいマーシャ、お前、女と寝たことあるか?」

「ない。女なんてキライだよ。」

笑顔振りまいて媚売って。

香水とか臭いし。

気持ち悪い。

「へぇ、イイ顔しといてお前まだ童貞なんだ。」

「っるせぇなぁ。いいだろ別に。」

「いいぞぉ女は。胸はやわらけぇし喘ぎ声はたまんねぇ。お前だって興味くらいあるだろ?」

無いわけない。

これでも思春期なんだ。

でも、
忘れられない。

恋い焦がれたあの想いを。

「興味ない。」

「なぁ、お前さ、好きな女いんの?」

「いない。」

「だったらさ、ぱぁっと一発ヤッちまおうぜ?嫌なこともぜーんぶ忘れられるからよ!新しい出会いもあるかもしれないしさ!俺イイ女知ってんだよ!紹介してやるからさ!」

全部忘れられる?

本当に、忘れられるのか?

心が揺らいだ。

いいんじゃないか。

試しに遊んでみても。

どうせ、守るものなんてなにもない。

捨てたいものしかないんだから。

「・・・わかった。紹介してよ。だけど俺、そーゆーの初めてなんだけど。」

「大丈夫大丈夫!その女にお前の写真見せたらモロタイプだって言ってたからさ!そうと決まったらさっそく連絡いれるかな!」

フルミールの仲介で、
俺は初めて会う女を抱くことになった。

名前はブレア。

年上の女でかなりナイスバディ。

モナとはまったく違うタイプだ。

そいつは童貞好きなようで、
会って数分も立たないうちに俺はベッドに押し倒された。

俺も気持ち良くって、
何度も何度もヤリまくった。

だけど、
スッキリしない。

カラダは軽くなったのに、
ココロが重たい。

なんだろう。

わからない。

俺は全てを捨て去りたい。

俺は答えを求めるかのように、
とにかく女を抱きまくった。

週末は一日中女を抱いている。

毎回違う女だ。

年齢は12歳から28歳まで幅広かった。

それでも、何も変わらない。

むしろますます苦しくなる。

最近じゃ、
女の喘ぎを聞くだけで萎える。

だからヤる時は女の口を塞いでヤったり、
喘ぎすら出来ないくらいに腰を激しく振り立てたりした。


俺は一体何をやってるんだ?

もう何百回も問いかけたけど
答えは見つからない。

女を抱いて仕事して訓練してまた女を抱いて仕事にいく。

もう"人間"なんかじゃない。

俺なんて人間のクズだ。





そんな生活を繰り返して、
また1年が過ぎた。

今日は週末だから、
一日中女を抱いていられる。

今日の女はとびっきりの美人。

胸もまぁまぁで結構好み。

沢山イジメてやりたい。

「優しくしてね、マーシャ。」

女の甘い囁きに、
酷く吐き気がしたが、
俺も笑顔で甘い言葉を囁く。

「ああ、最高に気持ち良くさせてやるよ。」

「ふふ!マーシャったらエッチな」
『マーシャ・・!!』

ホテルに足を踏み入れようとした時だった。

酷く懐かしい声に、足を止めた。

どうしよう、
無視しようか。

もう・・・
あの頃の"俺"じゃないんだ。

俺は無視して足を進める。

しかし、右腕を掴まれてしまった。

力強い。

振り払おうと思えばできたのに、
俺は振り返ってしまった。

振り返れば、ダンがいた。

それにモナも・・・

2人は買い物袋をぶら下げている。

買い出しの帰りにたまたま見かけたのだろう。

二年ぶりの再会に、
俺は何も思わなかった。

いや、思わないようにしていただけ。

肩を抱いていた女は"知り合い?"と聞いてきた。

だから俺は"ただの知り合い"と答えた。

「先に部屋行ってシャワー浴びてて。」

そう言って女を先に行かせた。

俺は無表情のまま、
2人をみる。

きっと、あの時の仕返しをされるのだろう。

『マーシャ・・・お前、あの子と付き合ってるのか?』

しかし、
飛び出してきた言葉は恨み妬みではなかった。

まるで心配でもしているようなそんな口ぶり。

「付き合ってないよ。ただの遊び友だち。」

そう言うと、
2人の顔が歪むのがわかった。

ああ、軽蔑しているのか。

この俺を。

いいさ好きに思ってくれて。

俺を罵りたきゃそうすればいい。

『なぁ・・・帰ってこいよ。』

なのに、
こいつらの口から出てきたのは、
聞きたくもない言葉ばかり。

『・・・マーシャ、言い訳に聞こえるかもしれないけど、俺はお前の気持ちを知らなかったんだ。例え知っていても、俺はモナを好きになっていたし、想いを告げていたと思う。でも、知っていたら、俺はお前を傷つけなくて済んだかもしれない・・・俺はお前の事を一番知っていると勝手に思い込んでいた。なぁ・・・俺が憎いだろう?』

憎い?

ああ憎いさ。

でももう、やめたんだ。

どうでもいい。

『俺は、真剣にモナを愛してる・・・ちゃんとモナを守る。約束する。だから、昔みたいに、また、お前とちゃんと話がしたいんだ・・・』

今まで黙っていたモナも、口を開く。

「ごめんなさい・・・マーシャ、私、マーシャにひどい事言って・・・」

今にも泣き出しそうな声をしている。

やめろよ、
もう聞きたくない。

「私、またマーシャと昔みたいな関係にもどりたい・・・ワガママだってわかってる。だけど・・」

そんなこと言われたら、
おれは、俺の想いは・・・

何度も想いを捨て去って、
それでもまだココロに残るこの想い。

どんなにイイ女を抱いても満たされなかった。

結局、俺は、
まだモナが好きなんだ・・・

好きで好きでたまらない。

本当は戻りたがっている自分がいる。

昔みたいなあの関係に。

許されることなら。

でも

「俺は・・・ダンを半殺しにしたんだぞ?本当は・・・本当は殺してやりたいとも思ってたんだ。」

そんな俺を、
本当に受け入れられるのか?

そんなわけない。

例え戻ったとしても、
モナにはダンがいる。

俺が入る隙間なんて、最初から存在しない。

『悪いのはマーシャじゃない・・・俺だよ。お前が戻ってくるのを、みんな待ってる。トラ婆も心配して、だいぶ弱ってるんだ・・・』

トラ婆・・・
結局俺は、
迷惑をかけることしかできないんだな。

でも、もうダメなんだ。

この想いは、
捨てるしかないんだ。

それがモナにとっても、
ダンにとっても、
最良の道。

「2人が謝るのは間違ってる。悪かったのは俺だよ。何も知らなかった俺のせい。それに、俺は2人を傷つけた。謝るのは俺だ。悪かった・・・」

2人の視線が嫌だ。

ああ、早く終わりにしたい。

「2人の気持ちはすごく嬉しいけど、俺にはもう無理だ。だけど、2人にはちゃんと幸せになって欲しい。」

これは本心だ。

そう自分に言い聞かせる。

「もう会いにこないで。俺も会いに行かない。これで、お別れにしよう。ダン、モナを幸せにしてよ。モナ・・・」

ずっと言いたかった言葉を、
ようやく口にできる。

ああ、俺は、
確かに幸せだったよ。

「・・・本当に、本当に大好きだった。ありがとう。」

心がスッとした気がする。

モナは、
ただ泣いていた。

なんで泣くのさ。

ダンがいるじゃないか。

『マーシャ!俺は』
「元気でね。ばいばい」

俺は言葉を遮って2人に背中を向けた。

結局、
逃げたんだ。

でも、これでいい。

ずっとココロにあったのは、
ダンにした仕打ちへの罪悪感と、
心の底からモナの幸せを喜んでやれなかった自分への怒り、
そして、想いを伝えられなかった事への後悔だった。

ようやく、
答えが見つかった。

だいぶ、気持ちがラクになった。

これでようやく、前へ進める。

まだまだココロにわだかまりはあるけれど、
これは一生消える事なんてないんだ。

俺が背負っていく。

全部。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!