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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.4 愛する者たちの戦い

トラ婆に引き取られて2年がたち、
俺は12歳、ダンとモナは14歳になった。

あれから大分背も伸びたんだ。

ダンはどんどん大きくなっていくが、俺もなかなか負けてない。

モナよりも大きくなったしな!

相変わらずモナは可愛い。

いや、なんだか色気が出てきた気がする。

ますます好きになっていく一方だ。



ある日、
トラ婆のお使いで俺とモナとダンの三人で中央都市に出かけた。

中央都市にくるのは家族が死んだ以来。

こんな着飾った連中しかいない街なんて好きじゃない。

それはダンも同じだったようで。

『はやく終わらせて帰ろうな。』

「おう。」

しかし、モナはいつになく楽しそうだった。

まるで街が宝物で溢れかえっているかの様に。

「えー!少しゆっくりしていこうよ!せっかく来たのよ?ねっ!」

モナに頼まれたら断れるわけないじゃないか。

仕方なく、
お使いついでに街をみて回った。

どれもこれも高いったらありゃしない。

欲しくもないけど。

「昔、パパとママと旅してるとき、よくこういう街を見て回るの好きだったの。」

初めて聞かされるモナの過去に、
俺とダンは目を合わせた。

『モナはトラ婆の家にくるまで、旅してたのか?』

「うん!ママとパパは旅団の一員だったから。旅芸人っていうのかな?結構世界でも有名だったんだ。」

楽しそうに話すから、
ついつい聞いてしまった。

聞かない方が良かったのかもしれない。

「じゃあモナの両親って今も旅してるの?」

一瞬、モナの表情が曇った気がした。

でもすぐにいつものような笑顔になったんだ。

「ううん。パパとママ、いなくなっちゃったの。私をトラ婆に預けて・・・でも、きっと生きてるよね!」

俺はすぐに答えられなかった。

きっと、モナの両親に何かあったんだ。

モナを預けてからもう何年もたっているはず。

だから・・・

『生きてるか生きてないかはわからないけど、モナの両親はモナに幸せになって欲しかったんだろうな。』

ダンの口から自然に漏れた言葉に、
モナと一緒になって俺も聞き入ってしまう。

『だから、トラ婆の所へ来た。モナは今、幸せ?』

ダンは多分何も考えていない。

考えていないからこそ、よかったのだ。

そのおかげで、
少し落ち込んでいたモナも、楽しそうに笑い声を上げた。

「ふふっ!そうね!私、幸せだなぁ!」

そう言って、俺とダンの腕をとった。

「ね!幸せよ、私!」

本当に幸せそうだ。

俺とダンも一緒になって笑ってしまった。


「あ、見て!なんか人が集まってる!」

『見に行こう。』

「おう!」

道路沿いに人だかりができていた。

横に行列のように伸びていて、
それは王宮まで続いている。

『ああ、たしか国王のパレードがあるって聞いたな。』

「国王のパレード?なにそれ楽しいのかよ。」

「すごーい!ねぇ見ていきましょ!」

どんどん前に行ってしまうモナに、俺たちも慌てて付いて行く。

ちょうど始まったのか、
ファンファーレが鳴り響いた。

先頭は王族を守る帝国軍。

帝国軍と聞いて、俺は鎧を着た兵隊を想像していたが、
案外カッコいい制服を着ていて驚いたものだ。

その軍兵に守られるようにして、
国王が馬車に乗ってやってきた。

相変わらずバカそうな顔をしている。
なんて言ったら帝国軍に殺されるだろう。

「ねぇ、カッコいいよね。」

隣からモナのウットリとした声が聞こえ、
俺はどこが?と返事をした。

「帝国軍よ。いいなぁ、私もあんな人たちに守られたい。」

帝国軍、か。

そんなにカッコいいのかな・・・

「モナは・・・あーゆーのがタイプなのか?」

「うん!強くて頼りがいがあるじゃない!」

なるほど。

いいことを思いついてしまった。

これが俺の運命を変えた、
最大の出来事だろう。






『帝国軍に入りたいだって!?』

夜、ダンにコッソリ相談すると、
今までになく驚いた表情をしていた。

「しーっ!聞こえるだろ!」

『ごめんごめん・・・でもお前、学校はどうする。』

「俺も来年は13歳だ!ダンだって学校行ってなかったじゃん!」

『そう言われちゃうと何も言い返せないな・・・・・だからってなんでまた突然。』

「いいだろ、強くなりたいだけだよ。」

『お前はずっとそれだよな。そんなに強くなってどうする。それに帝国軍に万が一入れたとしても、お前はすぐ家を出なきゃいけないんだぞ?わかってるのか。』

「え!?そうなのか!?」

全然知らなかった。

家を出てしまえば
今までみたいにモナに会えなくなるし、
こうやってダンとも話せなくなる。

トラ婆の手作り料理も食べられなくなるし、
ガキどもと遊べなくなる。

初めてここへ来たときは、
早く出ていきたくてたまらなかったのに。

約束の三年目を目前にして、
初めて気がついた。

"俺はずっとここにいたい"と。

『俺は心配だよマーシャ。帝国軍はすごく厳しいと聞く。それでもお前は耐えられるのか?』

「それは・・・」

本当は残りたい・・・・・・

でも、いいのか本当に。

俺はここでこうやってダンやモナやトラ婆に甘えて。

このままじゃダメな気がするんだ。

モナに告白するためには、
もっと強くて頼りがいがある男にならなきゃいけないんだ。

離れるのは寂しいけど、
これが"自立"であり、
俺の"幸せな家庭"という夢が叶うのなら、
やるしかない。

「それでも、俺、やりたいんだ。挑戦してみたい。」

『マーシャ・・・』

「俺自信あるんだ!!ダンに鍛えてもらったし!なぁ、協力してくれよ、頼むっ!」

両手を合わせて懇願する。

ダンの表情は険しいものだった。

でも暫くして、
深い深いため息が聞こえた。

『はぁ、可愛い弟の頼みを断れるわけないだろ・・・』

「ありがとー!ダン!!」

『ただし、約束してくれ。』

「約束?」

『入隊試験は一発で合格しろ。それができないなら諦めろ。』

「一発って!」

『一回で受からないなら何回受けても同じだ。諦めも大切だしな。』

まぁ、確かに言わんことはわかるが。

「よしわかった!一発で受かってやる!見てろよダン!あ、いや協力しろよ!」

『まったく・・・世話の焼けるやつだな。』

それから俺は特訓を始めた。

とにかく体力をつけ、かつ戦闘力を上げたい。

毎晩遅くまでダンに稽古をつけてもらい、
泥だらけで帰宅した。

いつの間にか家族全員、俺が帝国軍を真剣に目指していると知ったようで、
バカにされると思ったが、
逆に応援までされた。

ちょっと嬉しい。

でも、1人だけいい顔をしていなかった。

「マーシャ・・・本気なの?」

夜、モナの皿洗いを手伝っていると、
モナが悲しそうな顔をして言ってきたんだ。

まさかモナがこんな顔をするとは思わなかった。

モナを喜ばせたくて、幸せにしたくて頑張ってるのに、
なんで?

「本気さ。男に二言はねぇ。」

「そっか・・・なら応援しなきゃね!」

無理に笑うこんな顔が見たいわけじゃない。

でも、
もう決めたことなんだ。

だから。

「モナ、あのな、」

「なに?」

「もし、俺が帝国軍に入隊できたら、聞いて欲しい話があるんだ。」

ずっと言いたかった俺の想いを伝えたい。

「今じゃだめなの?」

「だめ。」

「そうなの?じゃあ、待ってるね!」

「おう!」

とにかく今は、
進むしかない。

全てはモナのために。

俺はますます特訓にせいを出した。

自分で武器を作ってみたり、
色々した。

「ねぇ、何やってるの?」

「気になる?」

「別にぃ?どーせまたオモチャの武器とか作ってるんでしょ。」

「違ぇよ!オモチャ言うな!俺は真面目に作ってんだ!!!」

「はいはい。でもまだ目指してるの?兵隊さんを。」

「だーかーら兵隊さん言うな。軍人だ軍人!からかいに来たならあっち行けよ。」

「ふふっ!はーいはい。あ、トラ婆が夕飯にするから早く帰ってこいって。」

「わかったから先帰ってろって。」

「早く帰っておいでよ?皆待ってるからね、マーシャ。」









約1年休まずに、俺は特訓に特訓を重ねた。

そのお陰で、
俺は帝国軍に入隊することができた。

しかも、最年少として表彰もされて、トラ婆や家族に賞金を送ることもできた。

順調だった。

あとは、モナに想いを告げるだけ。

でもその前に、
入隊前の研修があった。

約2ヶ月、王宮に篭っての訓練が待ち構えている。

それを乗り越えたらようやく正式入隊だ。




「あんたも成長したねぇ。昔はあんなにワガママだったのに。」

家族と過ごす最後の夜。

トラ婆はしみじみと思い出に耽っていた。

「ワガママ?そんなことないし。なぁダン。」

『どうかな。俺には甘えん坊に見えたけど。』

「はぁ!?ヒドイな!」

「ふふっ!でも寂しくなるわね・・・マーシャ、ちゃんと帰ってきてね?」

「当たり前だろ、ここが俺の家なんだから。週末は絶対帰ってくる。」

そう言うと、
モナはすごく嬉そうに笑ったんだ。

ああ、後もう少しでその笑顔を独り占めできるんだ。


でも、この日が最後だった。

俺が幸せだと思っていた、確信していた日々は。

一気に、崩れ去ろうとしている。







それは二ヶ月の研修が終わった次の日のことだった。

入隊式を終えて寮に戻り、
俺はモナに想いを告げるために家に帰る準備をしていた。

プレゼントなんて何もないけど。

ドキドキした。

だって三年間ガマンしてきたのだから。



二ヶ月ぶりの我が家を目にして、
懐かしさでイッパイになった。

緊張しながらドアを開ける。

「た、ただいま!」

すると、真っ先に出てきたのがトラ婆だった。

なんだか少し痩せた気がする。

「来たねマーシャ!まぁた逞しくなって!」

なんだか恥ずかしかった。

でも、少しは恩返しが出来たかな。

「なぁ、モナは?」

「モナならさっき裏庭に行ったよ。」

俺は颯爽と裏庭に向かった。

早く伝えたくてウズウズしていた。

裏庭に続く扉を開けると、モナの背中が見えた。

けれどモナは1人じゃなかった。

彼女の前にはダンがいて。

少しガックリした。

でも、ダンにも会えてよかった。

色々話したいこともあるし。

告白なら後ででもいい。

俺は2人に駆け寄ろうとした。

けれど、少し様子が変なことに気がつく。

足を止めて、思わず木の影に隠れてしまった。

だって、モナの掠れた泣き声が聞こえてきたから。

『モナ・・泣くな。』

「でも、でも・・・・・なんで!」

『俺もハッキリとは知らない。あくまで噂だ。でも、何かあったらじゃ遅いと思ってモナに伝えた。モナを悲しませたいわけじゃないんだ・・・』

「わかってる・・・わかってるけど・・・・・・」

一体なんの話をしているのか、
わからなかった。

状況が知りたくて、俺はそっと2人をみた。

ああ、見なければよかった。

俺は一気に、
後悔のどん底に叩き落される。

ダンの腕がモナの背中に回り、
強く抱きしめていた。

そのまま2人は顔を近付けて、
まるでお互い愛し合っているような、
恋人のキスをしていた。

目が、離せなかった。

『泣き止んで・・・モナ・・』

「怖い・・・怖いよダン・・」

『大丈夫、俺がいる。俺がモナを守るから。それじゃ、ダメか?』

「ううん・・・ダンが居てくれるだけで、それでいいの。ねぇ・・・・・どこにもいかないで」

『どこにも行かないよ。愛してる』

「私も、愛してる・・・」

再び、唇が重なった。

いつから・・・?

いつから2人はこういう関係になっていたんだ?

俺に内緒で、
こんなことをしていたのか?

頭が混乱した。

悲しみよりも、
怒りがこみ上げてくる。

モナにも、ダンにも。

裏切られた。

そんな気がした。

怒りはとめどなく溢れてくる。

それは恐ろしいほどに。

気がつけば、
俺はダンとモナに向って駆け出していた。

俺に気がついた2人はすごい驚いた顔をしている。

見つかりたくなかったのか?

俺が邪魔だったのか?

もうそんなこともどうでもいい。

憎い、憎い。

2人が憎い。

きっと、俺は2人を殺そうとしていた。

それくらい、
2人が憎かった。

「マーシャ!?」
『モナ離れろ!』

俺の異変に気がついたダンが、
モナを庇うようにして俺の前に立ちはだかった。

だから俺は迷わずダンを殴りつけた。

「やめてマーシャ!!」

モナの泣き声、今でも覚えている。

ダンを何度も何度も殴りつけて、
気がついた時にはダンは意識を失っていた。

俺は一体何をしたんだ・・・?

わからなかった。

本当に。

グッタリとしたダンの姿に、俺は目を見開いた。

途端に怖くなって、
体が震えた。

「ダンッ・・・ダン!!ダンねぇ起きてぇ!!」

モナの悲鳴が頭に響く。

「何するのよマーシャ・・!!ヒドイわ!酷すぎるわよ!!」

何かが、一気に崩れ落ちてゆく。

俺はなんて事をしてしまったんだ。

「出て行って・・!!今すぐ出てって!!」

モナの目は恨みに満ち溢れていた。

初めて向けられた憎悪。

ショックなんてもんじゃない。

自分を殺してやりたいくらい、
悲しかった。

何かがバキバキと音を立てて壊れ出す。

俺は家を飛び出した。

何があったのかとトラ婆に呼び止められたが、
無視して駆け出す。

ああ、俺は最悪な人間だ。

強くなったのはダンを殴り倒すためじゃない。

傷つけるためじゃない。

モナを守るために、
強くなったのに。

全てが終わった。

家族も愛も、全部無くした。

残ったものは"後悔"。

もう、
俺には何もなかった。



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